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本来の街

 ベルゼナウの街が夜の監獄から解放され2メルダ、いえ二週間経ちました。

 街から賑やかな声がお屋敷まで聞こえてきます。

 活気づいている理由の一つとして、気の早い商人達が我先にと商いをしにベルゼナウを訪れ、他の国や街から冒険者も沢山訪れるようになりました。


 今までは街の近くを通っても、ベルゼナウ方面の街道は通らず、迂回するのが普通でした。

 それが一切無くなり、公国や神都などへのルートも最短で、しかも街に一泊できる上様々な窓口となったベルゼナウで商売も出来るのですから、行商の利便性は格段に上がったと思われます。


 そして冒険者はギルドから請け負う仕事を安全に行える場所になったとして、周囲の利便性、モンスターの危険度の低さを考慮して、ベルゼナウの街を拠点にしようと考えているパーティーも沢山います。

 一度解体されたギルドの建物も、ベルゼナウの街へ再度建て直しがされるそうです。


 今この街を例えて言うなら、塞き止められていたダムが解放された、きっとそんな感じだと僕は思っています。

 そして。


 レイスが倒された次の日、朝から大歓声が街中から響いていました。

 ベルドア史に名を遺す大きな出来事であるとして、領主が全面的にその日の仕事を辞めさせ、領民総出でお祭りの準備が始まりました。


 準備は僅か三日で終わり、無礼講となった街中は歓楽街や市場から料理が提供され、エルフィスさんが急遽取り寄せたお酒を兵士達に振舞い、領民は街の中心に沢山集められた料理を楽しみ、夜になると僕とレイシアが魔法を使い、街を全域に渡って明るく灯し、お祭りを更に沸かせました。

 そして駆け付けた行商人が加わり、お祭りは更に盛り上がりを見せ、連日に渡って人々の喜びに満ちた歓声が続いています。


 レイシアとプリシラはずっと街へ駆り出されて大変そうでした。

 でもレイシアは凄く嬉しそうで、なんの苦も感じていないのが僕にも解ります。

 その合間を縫ってはレイシアとプリシラと皆で合流して食べ歩いたり、夜の街を散歩したりしてお祭りを楽しみました。


 いずれ、この街は更に領民が増えると思います。

 街のシンボルである、ウィスプの街灯を見た行商人たちが絶賛しており、その情報は瞬く間に広がっていますので、沢山の人が街を行き交う事でしょう。


 全ての意味でベルゼナウの街は生まれ変わったのです。


 そんな訳で二週間経った今、お祭り気分も終わり始めた頃。

 僕は以前から考えていた時計を作っている所でした。

 こういう時だからこそ、「時間」の概念を早めに作っておきたいと思ったのです。

 僕の様子を物珍しそうにミルリアちゃんが見ていました。


「あの、主様……その針とにらめっこして……何をなさって、居られるのですか?」

「これは、そうですね……新しい生活向けの魔法具の開発みたいな物です」

「生活向けの、魔法具……! やはり、主様は……凄いお方です。本来は……魔法学院で学ばねば、術式向上以外の魔法具を……作るなんて、不可能です」

「レイシアも学院に通う前からウィスプの街灯を作り出していたんですよ!」

「そ、そうだったの、ですか!流石は……瞬く間に、光姫と称された方、ですね」


 実際に、魔法に関わる物以外を作ろうとしても全然上手くいきません。

 重魔法を使える僕ですら苦戦している位です。

 レイシアがどれ程の才女であるか、推して知るべしです。


 程なくして部屋をノックする音が響き、ミルリアちゃんがドアを開けるとレイシアが中に入ってきました。


「お早うございます、ミズファ。魔法具の制作進捗は如何ですか?」

「あ、レイシアお早うございます! えっと、取り合えず試作品の完成は目途が立ちそうです。そろそろ組み立ててみて、分針と時針が正確に作動するか検証ですね」

「まだ私にはミズファの仰る時計という物が少々、理解できていなくて。余りお力になれなく心苦しいばかりです……」

「いえ、理解できなくて多分当然というか、本来なくてもいいような物なので!」

「そうなのですか?」

「あ、ええと、あれば便利かな……位には」

「でしたら、素晴らしい魔法具に違いありません」


 両の手のひらをポン、と合わせながら笑顔でレイシアが言います。

 妙なプレッシャーがかかります。


「我が主は……素晴らしい、お方ですから、完成した時計が……楽しみです」

「ええ、そうですね。私もとってもとっても楽しみです」

「あんまり期待しないで下さい……」


 どうしよう、時間の檻に世界を捕えようとする異端の考えとか言われたら。

 自分で言っておいて何ですけど、実際的を得ているような気がしますし。


「さ、ミズファ。お父様が仰る様に、根を詰めすぎても良い結果は生まれ辛いです。先ずは朝食を頂きましょう」

「あ、賛成です!毎日お屋敷のご飯が美味しくて、いつも楽しみなんです!」


 僕の言葉に不思議そうにするレイシア。


「そういえば、ミズファは最近、「日」という言葉を使われますが、どのような意味ですか?」

「あ、ええと。これはメルの事です。遠い国の呼び方なので余り気にしないで下さい」

「それは大変興味がございます。後でお教え下さいね」

「主様、私も……知りたい、です」

「んー……面白い話でも無いですけど、解りました」


 シズカさんから伝えられた真実を境に、元々いた世界の習性を取り入れるようになった僕。

 記憶の断片は相変わらずですが、この記憶を少しでも残して、覚えたままでいたいんです。

 覚えたままにするには、実際に日々の生活で使う方がいいですからね。


 僕とミルリアちゃんとレイシアは朝食を取る為部屋を出ると、丁度プリシラと会いました。

 プリシラは既に僕の頭の中を読んで知っているので、特に時計については触れません。


「ミズファとミルリアにちょっと伝える事があるわ」

「なんでしょう?」

「はい、プリシラ様」

「蝙蝠を王都に置いているのだけれど、魔法学院の学長が貴女達二人に出向いて欲しいみたいよ。その内容を認めた手紙を此方へと送ってくるようだわ」

「えぇ……」


 また面倒そうな事が増えそうです。


「わ、私を……魔法学院の学長様が、ですか」

「大体察しはつくわね。入学を薦めるつもりなのでしょう」

「素晴らしいです!私は是非お二人の入学を強く推します!」


 物凄く嬉しそうにレイシアが後押ししてきます。

 僕は逆にとっても気乗りがしません。


「僕は遠慮したいので、ミルリアちゃんが行って来て下さい。どちらにしても、ミルリアちゃんは土姫称号の授与があるので、いずれ行かなければいけませんよね?」

「主様が、遠慮なされるのでしたら……私も入学はお断りさせて、頂きます。主様の居る所が、私の居場所……です。称号につきましては、いずれ学院へお伺い、しますけど」

「そんな……ミズファお考え直し下さい。きっと学院は貴女にとっても大変有益な場所になると思います!」

「単に、お主がミズファと一緒に学院に通いたいだけじゃろう光姫」


 近くの部屋から出てきたツバキさんにそう言われて、レイシアの顔が真っ赤になります。


「ち、違います。いえ、違わないです……。いえそ、そうではなくて。あの、ミ、ミズファ程の魔法を使われる方が、基礎をしっかり学ばないのは、危険ですから。そう、危険だからです!」


 しどろもどろで答えるレイシア。


「今更何を言っておるか……。危険じゃったらとっくに魔力を暴発させ、この周辺は何もない土くれに変わっておるわ」

「で、ですけど。うぅ……」


 ツバキさんに正され涙目になるレイシア。

 可愛いです。


「諦めよ。ミズファはこの街を救った英雄じゃ。その英雄を早速捕まえて学院に閉じ込めようなど、お主は何とも思わぬのか?」

「と、閉じ込めるなどとは思っておりません!私はただミズファの為を思って!」

「はぁ……。貴女達、朝から口論するのは勝手だけれど、食事が冷めるわよ」


 心底頭が痛そうに言うプリシラ。


「ええと、プリシラの言う通りです。学院については手紙が来てから、という事で。先ずはご飯を食べましょう!」


 にこーっと笑う僕。

 僕の顔を見た二人は頬赤らめて何故か俯き、歩き出した一行の後ろを着いてきています。

 食卓の席へと移動すると、既にエリーナ、シルフィちゃん、ウェイル君がお腹をすかせて待っていました。


「皆遅いよぉ。あたしお腹ぺこぺこー」


 ぐったりとしているエリーナの横で元気よく立ち上がる姉弟。


「皆様、お早うございますわ」

「おはようございます!」

「お早うございます!今日もシルフィちゃんとウェイル君は良い子ですね」


 僕は早速二人の頭をなでなでします。割とこれが最近の日課だったりします。

 二人とも小動物のようで可愛くて仕方ないです。


「あら? 今朝はレイシアお姉さまとツバキお姉さまのご機嫌がななめですわね」

「シルフィ、そう言う事は……口に出しては、いけません」


 シルフィちゃんを軽くぽか、と叩くミルリアちゃん。


「あぅ、御免なさい、ミルリア姉さまぁ」

「シルフィ姉ちゃんは場のくーきを読んだ方がいいよ!」

「ウェイルにまでダメ姉認定されましたわ……」

「ミルリアちゃんウェイル君、いいのですよ。私が悪いのです。ツバキさんもお気を悪くさせてしまい、大変申し訳ございません」


 そう言いながら頭を下げるレイシア。


「……よい。なんじゃ、その……妾もお主の気持ちは解らぬでも無いからの。妾も言い過ぎた、すまぬ」

「まぁ、喧嘩をしても直ぐ仲直りするのがこの集団の良い所かしらね」


 微笑ましそうな顔で二人を見つめるプリシラ。


「最近皆、誰かしらと喧嘩してるのをたまに見ますけど、何が原因なんですか?」


 僕の言葉に場が凍り付き、一定の間を置いてから何事もなかったように。


「さぁ、今朝も我が屋敷専属の料理人が腕によりを振るっておりますから、早速頂きましょう!」

「うむ。ここの世話になってからというもの、妾に合わせて倭国料理まで出してくれるからのぅ。ありがたい事じゃ!」

「あたしは食べられればなんでもいいよぉ!」

「私にとっては……大変なご馳走です。一介のメイドが、皆様と席を一緒にするなど……失礼の極み、ですが」


 なんか僕、蚊帳の外にいます?


「さぁ、ミズファも席についてください」

「あ、はい」


 席へと座ると、エルフィスさんの席に食器が並んでいないようなのでレイシアに質問した所、活気づいている街を期に、城壁の外へ新たに市街を作る計画らしく、その話し合いの為忙しいのだとか。

 公国のような都市になったら、王都の次くらいに大きな街になりそうですね!

 元々の立地条件がこれ以上無く良かったんですよね。

 初めからレイスがいなければ、下手したら王都がここだった可能性すら……。

 流石に言い過ぎでしょうか。


 今日も美味しい朝ご飯に、大好きな皆と一緒に舌鼓を打ちつつ。

 食べ終えたら早速、時計試作型の完成を目指しましょう。

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