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姫達の休息

 もう街の人々は寝静まっていてもおかしく無い頃でしょうか、体感で深夜2時くらいです。

 今はライトトゥルーオールを解除し、普通のライトウィスプで辺りを照らしています。

 さっきまで昼のように明るかったので、街の人々はとっても寝ずらかった事でしょう。

 ごめんなさい……。


 レイスを倒した僕とプリシラは、南街道から街が見える辺りで休憩中です。

 この場所は以前僕がレイスの森から脱出した時に、疲れて座り込んだ場所でもあります。


 プリシラが蝙蝠で皆に集合場所を教えてくれたので、ここで到着を待っている所でした。

 そんな中で、僕は今まで戦っていた森を見つめています。

 レイスの森と呼ばれ忌み嫌われていたこの森は、今はただ静寂に包まれる普通の森です。

 そして、僕の生まれた場所、僕の始まりの場所です。


「さて、ミズファ。積もる話は沢山あるのだけれど。先ずは、無事にレイスを討伐した事で公国の国境と、ベルドア王国の北方領南側の警戒を解除するわ」

「あ、はい」

「王国は暫くの間、今回のレイス討伐成功で大きな歓声が湧き起こるでしょう。公国も助力した事で、多少は他国の評価も上がるかもしれないわ」

「プリシラ大活躍でしたから!」

「その事なのだけれど。仮にも公爵という立場で他国の問題に大きく関与したとあっては、何かと政治的に問題があるのよ」

「え、面倒くさいですねそれ……」

「仕方ないわ。今回レイス討伐まで円滑に進んだのは、立場と能力を有効に活用した結果なのだし。そのツケは払わなければならないわ」


 今回はプリシラの立場と姫の称号を持つ皆の立場を借りられなければ、絶対にレイス討伐の許可は下りませんでした。

 なので倒して終わり、という訳にもいかないんですよね。

 またプリシラに面倒事を処理して貰う事になりそうです。


「そこで、私以外に姫達を纏め上げた人物を誰か立てなければならないのだけれど。その役目は、当事者であるレイシアにはまだ荷が重すぎると思うわ。炎姫は面倒くさがるし、私と同じような理由で他国の姫が率先して前に立つ事もできない」


 他国のお偉いさんが代表になったら、確かにおかしな話です。

 姫の皆さんも、ツバキさんみたいに国に関わる重要なお仕事とかしてる人もいますからね。

 エリーナは僕と旅に出るまで、学院のお仕事を引き受けていたようですし。

 まぁ、プリシラの言うように、エリーナは性格上絶対代表にはなってくれませんね。


「そこで。姫を纏めてレイス討伐を成し遂げたのは貴女よ、ミズファ」

「……は?」

「実を言うとね、貴女の馬鹿げた能力はとっくに魔法学院にバレているの。レイシアやあの兄妹から筒抜けだもの、当然よね?極め付けはあの光の玉。姫だろうと大魔法使いだろうと魔王だろうと、あんな物は誰にも作り出せないわよ。だから、貴女が中心となって成し遂げた事にせざるを得ないわ」

「え……」


 そういえば僕、誰にも能力の事黙っていてなんて一言も言ってませんでした……。


「元々貴女が言い出した事なのだから、諦めなさいね」

「……」


 こんな状態になるなんて考えもしませんでした。

 なんですかこれ、なんの罰ゲームですか。


 あ、そうだ逃げましょう。

 今ならまだ花畑で体育座りが間に合うかもしれません。


「ミズファ!!」


 南街道沿いから声がかかります。

 そして、声の主は勢いよく走りだし、僕に抱き着いてきました。


「レ、レイシア」

「ミズファ、捕らわれたとお聞きしましたが、ご無事で何よりです!」


 いえ、今まさに捕まってしまいました。

 もう逃げられません……。


「残念だったわね。でも何よ体育座りって……意味が解らないわ」


 プリシラさん、頭の中勝手に覗き込んで知らない単語に怒らないで下さい。


「レイシア、夜遅くまでお疲れさまです!そして街の解放おめでとうございます!」

「ええ、ミズファ貴女のお陰です。百万の言葉で感謝を述べても、まだ足りません。このメルは、街の歴史に大きく残る事でしょう。本当に、有難うございます」


 深々とお辞儀するレイシア。

 その隣からぴょんと飛び出す小さな子。


「ミズファ姉ちゃん、僕も頑張ったよ!」


 さらにウェイル君に捕まりました。

 僕、子うさぎみたいにぴょんぴょんとまとわりつかれています。

 やだ……可愛い。


「ウェイル君もお手伝い有難うございました。この短期間で本当に強くなったみたいですね。僕もとっても嬉しいです!」


 実の弟のように、僕はウェイル君の頭を撫でまくります。


「だって、僕がここにいるのはミズファ姉ちゃんのお陰だから!僕まだまだ強くなるよ、ミズファ姉ちゃんを守れるくらいに!」

「うん、有難うございます。でも気負ったりしないで、ウェイル君のペースで頑張って下さいね」

「はい!」


 素直で可愛くて強いの三拍子。

 この世界ってイケメン確定君しかいないんでしょうか。


「レイシア、貴女なら解っていると思うけれど、事後処理大変よ。しっかり付き合いなさいね」

「勿論です、プリシラ様。休学はまだ暫く可能ですから、精一杯街のために尽力致します」

「レイシア、きっとこの街に沢山人が集まってきますよ。エルフィスさんも忙しくなると思いますけど、力になれる事があれば僕もお手伝いしますね!」

「有難うございます、ミズファ」


 満面の笑顔で答えるレイシア。

 僕は早々に逃げるのを諦めました。

 ていうか身勝手すぎて無理です。


「ミズファ、貴女は先ず王都に顔を出すのが先よ。私も一緒だから安心して頂戴」

「あぅ、はい……」

「けれど、少しは休息も必要だわ。私が手配して置くから、暫くは皆でゆっくりしましょ」

「本当ですか!!」

「ええ」


 プリシラの計らいに僕が万歳して喜んでいると、西側からエリーナ達も到着し、同じくらいにツバキさんも合流しました。


「みーずふぁちゃーーん!」

「きゃあ!!」


 エリーナに後ろからおもいっきり抱きしめられました。


「エリーナちょっと、どこ触ってるんですか!!」

「ミズファちゃんパワーを補充しないといけないからねぇ」

「なんの力ですかそれ!!」

「もう余りにミズファちゃんと離れてたからこれじゃまだ足りないくら、きゃん!?」


 ツバキさんのチョップがエリーナに炸裂しました。


「やめよ、うつけ者が」

「うぅ、有難うございますツバキさん」


 涙目になりながら頭をさすっているエリーナ。

 自業自得です! それに引きかえ、ツバキさんのこの大人な対応。


「いたいよぉ、ツバキちゃん」

「ミズファは貴様のものだけでは無いわ痴れ者め!妾にも愛でさせよ!」


 あ、前言撤回します。

 二人ともいつもの二人でした。


 そんなやりとりの中、二人の姉妹が僕へと近づいてきます。


「ミズファお姉さま、お久しぶりですわ!」

「わが主……ご無事で何より、です」

「シルフィちゃん、お久しぶりです!そしてミルリアちゃんもお疲れ様です!二人とも怪我も無いようでよかったです」

「その代わりに、エリーナ様が……大きな怪我をなされて。私の不甲斐なさに……申し訳ございません」

「エリーナが!?」


 僕が心配そうな顔でエリーナを見つめると、満面の笑みで見つめ返されます。


「大丈夫だよぉ。ほら、この通りもう治ってるからねぇ」


 銃で受けた傷なら、魔法具で回復力を上げておかないと厳しいかもしれません。

 そして、エリーナはその魔法具を持っていません。

 無理はしていないようですけど、完璧とは言えないようです。


「エリーナ、余り無理しないで下さい。体のどこかに穴が開いたんじゃないですか?なら、欠損を治すのと同じくらいの回復力が必要の筈です」

「正直言えば鈍い違和感はあるけどねぇ。でも痛みがある訳でも無いから平気だよぉ。それにねぇ、もし痛くてもミズファちゃんが笑ってくれてさえいれば、直ぐに回復しちゃうから」

「なんですかそれ、まったくもう……」


 程なくしてシルフィちゃんとウェイル君が大きなあくびをしています。

 それもそうですよね、この二人には本当に無理をさせてしまいました。

 早く休ませてあげないといけないですね。


「皆さん、そろそろ街に帰りましょう」

「そうね。私ももう眠くて仕方ないわ」

「今宵も私のお屋敷でゆっくりお休み下さいね。ウェイル君もシルフィちゃんも、ふかふかのベッドをご用意しますから」

「レイシアお姉さま、私達のような下々の者までお屋敷に入れて頂けて、本当に感謝致しますわ。ほら、ウェイルもお辞儀なさい」

「はーい」


 眠い目をこすりながらも、律儀にお辞儀する二人。

 本当によく出来た子たちです。


「レイシア、様。私からも……お礼、申し上げます。姉弟達を、お屋敷へと入れて下さり……有難う、ございます」


 続けてミルリアちゃんもぺこりとお辞儀。


「三人とも、どうか頭を上げて下さい。私はこれからもっと三人と仲良くして行きたいのです。お友達をお屋敷に招くのは当然の事ですよ」


 僕が初めてレイシアのお屋敷に行った時も、レイシアは身分なんてまったく気にしてはいませんでした。

 なんだか嬉しくなってきます。


「流石に妾も眠気に負けそうじゃ……。光姫、妾も屋敷の寝床を借り受けるぞ」

「ええ、勿論です。ツバキさんもゆっくりお休み下さいね」

「それにしても、本当に大所帯になったねぇ。最初はあたしとミズファちゃんの水入らず道中記だったのに」

「水入らず、とは聞きづてなりませんね、講師。元々誰よりも早く出会ったのは私ですよ?」

「誰のおかげでミズファがここまで強くなれたと思うておる。出会いの速さなど物の数にならぬ」

「はい、みんなその辺にして置きなさい。まったく……いずれこうなるとは思っていたのだけれど。これからミズファは大変ね」

「ふぇ?」


 僕の素っ頓狂な声に一同が深いため息をついています。

 なんで?


 頭にクエスチョンマークを出しつつ、レイシアに手を引かれながら街へと戻っていく僕なのでした。

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