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ミズファ

 暗い空間。

 脱出を何度試みるも、どんな方法を試しても駄目。


「皆の所に戻らないといけないのに……」


 僕はペタンと座り込む。

 暗い空間に浮いているような感覚なのに、座る事はできる。

 一体ここは何なんだろう。


 次にレイスが戻ってきた所を倒せば出られるかもしれないけど。

 それでは遅い、今すぐ皆を助けに行きたい。

 でもどうやっても、独自魔法でも、合成をしてもこの空間にはまるで干渉できません。


「皆、無事でいてください。神様が居るなら皆を助けて下さい……必要なら僕の命でもなんでもあげます」


 今の僕にはもう祈るしか無いです。

 僕の為に、僕の為だけにあの森に皆は集まりました。

 本来であれば皆戦う理由なんて無いんです。

 皆に何かあったら、僕……。


「皆さんなら大丈夫ですよ」


 ……?

 辺りをキョロキョロ見回しても誰もいません。

 今、女の子の声が聞こえたような。


「あ、そうでした。ちょっと待って下さいね」


 唐突に僕の胸が光り出し。

 見慣れない女の子が目の前に現れました。


 歳は多分17,8位。

 髪は黒色で凄く長く、何より目を引くのが服装が巫女服という点。

 女の子はにこっと笑うと。


「一応初めまして。私の名前はニジョウ・シズカです」


 そう言うとペコリとお辞儀します。


「……え。ニジョウ・シズカさん?」

「はい」


 何からつっこみを入れれば。

 じゃなくて。

 先ず何から聞くのが筋なんでしょうか。


「ええと、ニジョウ・シズカさんって、倭国で伝記を書いた方で、プリシラのお友達の方ですか?」

「はい、そうです。大正解です」


 にこーと笑うシズカさん。


「あの、つかぬ事を更にお聞きしますけど」

「はい、何でしょうか」

「何処から出てきたのですか?」

「貴女の中からです」


 ……。

 頭が痛いです、理解ってなんだっけ。


「ミズファさんは顔に出やすいタイプですね。今、何この子すごく可愛いどうやって口説こう。って考えてませんか」

「考えてません」


 なにこの人……。


「まぁ、冗談は置いておきましょうか。この空間じゃないと、私は貴女から出てこれなかったのです」

「え?」

「レイスは必ずここに貴女を連れてくるって思ってたんですよ。これでようやく私の目的も達成できます」

「目的?」

「はい、貴女に力を渡すために」

「力?」


 全然話が見えません。


「混乱しているみたいですから追って話します。 レイスが戻ってくるまであまり時間も無いですし。貴女が何故あの花畑で目覚めたのかもそれで解ります」


 シズカさんは手のひらを僕の額に当て、目を閉じました。

 すると。

 何処かの映像が僕の頭の中に流れてきました。


 雪が降る中、街を歩いている男の人が映っています。

 直ぐにその男の人は僕自身だという事を思い出します。

 何かプレゼントを持って歩いているようです。


 交差点で信号待ちをしているようでした。

 信号は赤なのに、突然、男の僕は車道に飛び出していきます。


 ここで映像がストップしました。


「ここの記憶はありますか?」

「……ありません」

「そうですか。この時、貴女はレイスに自殺するように暗示をかけられたのです」

「え!?」


 映像に移る男の僕。

 顔を見ると無表情で、まるで生気がありませんでした。


「レイスは異世界で死を操る事が面白かったのか、無差別に力を使ったみたいですね。結果、貴女が犠牲になった」

「そんな……」

「少々話が逸れますけど。私、あの世界に突然転移させられた経緯があります。しかも貴女のいる時代より300年くらい前に。色々ありまして、プリシラちゃんと暮らしていた辺りでレイスの暗躍に気づき、討伐に出向きました」

「え、プリシラの前から居なくなったのってそれが理由だったんですか?何故プリシラを置いていったんですか?」

「実は私も直ぐ戻るつもりだったんです。可愛いプリシラちゃんから離れるのは私も嫌ですから。ですが……レイスの想定外の能力「狭間」に、力を使う間もなく隔離されちゃいました」


 てへ、みたいな顔をするシズカさん。

 案外この人エリーナみたいな人かもしれません。

 そういえば、プリシラが母親みたいな存在だと言っていましたっけ。


「……そこまでは解りました。それで、どうして僕の中にいて、僕の死とどう関係があるんですか?」

「はい、それでですね。私が隔離された時に、能力無効化の力を使ってこの空間の外に出たんですが、その先も無限の空間が続いていて、元の世界に戻れなくて。長い事空間をさ迷っていたら、魂が一杯ある場所を見つけました。その場所に、貴女の魂が丁度混ざろうとしていたんです。元の世界に戻るには貴女と融合するしかないと思って、貴女の中にお邪魔しちゃいました」


 お話のスケールが大き過ぎて頭痛がします。


「その魂が沢山ある空間は順に眷属化する為の工場のような所でした。貴女の魂が眷属になられると困るので、レイスに気づかれないように私が眷属化の能力を無効化して、元の世界に戻ったという訳です」

「……そしてあの花畑、という事だったんですね」

「あ、そこでひとつ謝っておかないといけない事があります。私が融合する事で、女の子になっちゃったみたいで」

「あ……これってシズカさんの影響だったんですか」

「もうどうにもなりませんけど、怒ってます?」


 僕は自分の体に視線を落として。

 今までの出会いや楽しかった出来事を思い出します。


「いいえ、怒ってなんていないです。むしろシズカさんに感謝しています。僕を救ってくれたのはシズカさんだったんですね」

「もっとしっかり救えれば良かったのですが、眷属から逸れた反動で記憶も断片的になってしまったようですね」


 僕が花畑で目覚めた理由、記憶がおかしい理由、元々が男だった理由。

 ようやく僕の中の霧が晴れていきました。

 ですけど、もう一つだけ、いえこれが一番重要です。


「あの、いまの話で一番重要な事を聞きたいのですけど」

「なんでしょう?」

「なんで僕、奴隷みたいな恰好だったんですか」

「本来、元居た世界の服がそのまま反映されるみたいですけど、私と融合した弊害で服がめちゃくちゃになってしまったみたいですね」

「あぅ、そうだったんですか……」


 あの服が僕の人生躓きの原因だったんですよね……。

 ともあれ。


「一先ずお話は解りました。それで、僕はどうすればいいんでしょうか」

「はい、では貴女に私の魔力と封印の力を継承します」

「え、そんな事をしてシズカさんは大丈夫なんですか?」

「私は元の世界に戻る事に成功はしました。けれどもう、自由に出歩く事は出来ないんです。なら、今の機会を使い、貴女に私の力をあげた方が理に適っていると思ったんです」


 そんなの……。

 そんなのおかしいです。

 貴女は僕の命の恩人で、貴女は何も悪い事なんてしていないのに。


「プリシラが凄く会いたがっていました!何か自由になる方法があるはずです!」

「あるかもしれませんけど、この空間から出るには貴女がレイスの力を直接無効化しなければいけません」

「え……」

「どっちにせよ、もう選択肢は無いんです」

「……」

「さぁ、時間もありません。貴女には沢山のお友達と、これからも過ごしていく義務があります。そして今後もどうか、プリシラちゃんもその輪に入れてあげて下さい」


 僕の目から涙が溢れます。


「そんな、シズカさんも一緒じゃなきゃ嫌です!」

「我がまま言わないでください。ですが、一つだけ可能性がない訳ではありません」

「それは何ですか!!」

「海底にあるダンジョンに、過去の技術が残された神殿があるそうです。そこには自身の中にある本性を投影する古代魔法具が眠るとか。それならば、私を可視化する事も可能かもしれません」


 可視化する魔法具……。


「シズカさん自身を復活させる事はできないんですか……」

「私の肉体は実質的に存在していませんから」

「僕のせいで……」

「いいえ、貴女がいてくれたから私はプリシラちゃんにまた会えました。お話は出来ませんけど、貴女の中にいればあの子といつでも会えますから」

「……」


 何か、何かシズカさんが幸せになれる方法は無いんでしょうか。

 彼女が犠牲になるなんて絶対におかしいです。何か復活……復活?


「あの、投影機に移ったシズカさんは魂その物ですよね?」

「はい、肉体はなくても魂として貴女の中に生き続けています」

「解りました。僕、シズカさんを現世に戻してあげます!」

「え、どうやって」

「僕の中で楽しみにしていて下さい!」


 僕はシズカさんに満面の笑みで答えます。


「……解りました。それじゃあプリシラちゃんをもう一度この手に抱きしめられる事を楽しみにして置きましょう」

「はい!」

「さて、お話も終わりにして、そろそろいきますよ」


 彼女はもう一度僕の額に手のひらを当てます。

 そして、温かい何かが流れ込んでくるのが判りました。

 それと同時に、あふれ出るような「確信」。


 今なら解ります。

 以前から感じていたレイスを倒せる確信は、僕の中にいたシズカさんが送ってくれていたメッセージだったんですね。

 確かに、受け取りました。


「これで貴女に継承が終わりました。疲れてしまったのでそろそろ私も貴女の中に戻ります」

「はい、ゆっくり休んでください。そして、今まで本当に有難うございました。そしてこれからもよろしくお願いします!」

「此方こそ。それでは……後の事はお願いしますね」


 こうして、彼女は笑顔のまま、僕の中に消えていきました。

 シズカさんがくれたこの命、この力、この世界での人生。

 全てが感謝すべき事で、一生を使ってもお返しできない御恩です。


 レイス等で躓いている場合ではありません。

 僕の次の目標が決まったんですから!


 だから今は、僕の為に集まってくれた皆を信じます。

 今の僕には不安な気持ちなど微塵もありませんでした。

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