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形勢

【第二区域】


「ミズファ!!ミズファ、返事をしなさい!!嫌よ……貴女まで急に居なくなるなんて、絶対に認めないわ!!」


 花畑に足を踏み入れた私の横には、居る筈のミズファの姿が無かった。

 ずっと一緒だと信じて疑わなかったシズカが脳裏を過り、私は焦る。

 ええ、とてもみっとも無いわ。


 これが本来の私、寂しがり屋の小娘だもの。

 けれど、シズカを失った以前の私とまったく同じ、という訳でも無いわ。

 泣き喚くのは後でも出来る。


 考えなさい、何故こうなったのか。

 私は振り返り、辺りを探る。

 シズカとは違う、意図的な力が働いたような消え方だわ。


 ミズファが消えたのは、花畑に入ってから。

 強制転移が発動する魔法トラップかしら?


 そんな高度な技術がある場所は、超古代ダンジョン【海底神殿】以外私は知らない。

 そのような魔法トラップがこんな場所にあるとは考えにくいわ。

 なら、何が理由か。


 答えは一つしか無いわね。

 レイスが何らかの力でミズファを連れ去った。

 私の血術空間ブラッドスペースのような力ならば、一時的に連れ去る事も可能。

 けれど、それは別の問題が浮上する。

 この私に一切気付かせる事無く、ミズファを連れ去るなんて出来るかしら?


「ミズファが消えてから、レイスの存在も確認できないわね……」


 結界から出る事が出来ないレイスがミズファを連れ去るにしても、一体何処に。

 森の全域に意識を巡らせても、レイスの存在が確認できない。


「となれば、私の知らない特殊能力という事になるわね」

「―――然り」


 森と花畑の境界を調べていた私の後ろから声がかかる。


「あら、探す手間が省けたわね」


 私はいつでも古代血術を撃てるようにして。


「今直ぐミズファを返して頂戴」

「―――あの銀色の人間にはまだ聞く事がある。それは出来んな」

「そう、まぁいいわ。貴方を倒せばミズファも開放されるでしょう」


 低い声で気持ち悪く嗤うレイス。


「―――余に背中を向けたままとは、流石ブラドイリアと言った所か。余程の自信と見える」

「貴方程の存在なら、絶対に勝てない相手の認識くらい出来て当たり前では無くて?封印され続けたせいで、その認識さえも出来なくなったのかしら」

「―――そうだな。勝てぬ相手に挑む愚か者等「ここにはいない」」


 その言葉と共に。

 パァンッ!!と言う聞きなれない、かん高い音が森に響く。

 それと同時に。


「きゃぅっ……!?」


 急な痛みを訴え顔をしかめると、私の肩から血が出ていた。


「……何これは。何処から攻撃が。私に気づかせる事も無く?」


 私は焦る。

 どれほど離れていようと、私に対しての魔法攻撃なら絶対に位置が解るわ。

 なら、これは何?


 傷を探ると肩を丸い何かが貫通していった形跡。


「……物理攻撃?」

「―――左様。貴様には知りえぬ物だ。訳も分からず死んでいくがいい。後に、貴様の魂は結界の破壊に使ってやろう」


 それだけを言うとレイスは存在を消していく。


「ま、待ちなさい!!まだ」


 続けてパァン!!という音が森に響く。


「あぅ……!!」


 今度はお腹。

 流石に痛みで膝をつく。

 普通の人間なら、この時点で死んでもおかしく無いわね……。


「物理型の遠距離攻撃なのは、ほぼ間違いない……かしら」


 私は痛みを堪えながら、直ぐ近くの木へと寄りかかり、傷に意識を向け古代血術で治す。

 お腹の傷が塞がると同時に、銀色の玉のような物が地面に落ちた。

 こんな小さな物を投げて来ていると言うの?

 投石ではこんな傷にはならない……解らないわ、そもそも石ですら無いし……。

 何より、私の意識外からとてつもない速さで遠距離攻撃できる武器なんてあり得ない。


 一先ずそれより周りに気を配る方が先ね。

 不可解な攻撃を二度も許したわ、油断出来る相手では無いと認めてあげる。


「眷属らしき者が数人。けれど、変ね。知能なんてまるで無い筈の眷属達が木に隠れるように私を警戒している……それと何か所持してるわね」


 ミズファの作り出した光の玉が維持されていて助かったわ。

 視認する上で何の問題もないし。

 ……見慣れない服装をした者が沢山いるわね。


「……街道沿いにいた眷属と明らかに違うわ。中には倭国のような服装をした者もいるけれど」


 ふいに、木から様子を伺っていた私の方へ何かが投げられた。

 私は当然のようにその投げられた物をすぐさま破壊しようと、古代血術を使おうとする。


 その瞬間。


「だめぇぇぇ!!!」

「……!!」


 ミズファ!ミズファなの?

 間違いなく彼女の声だわ。


 頭の中に響いた声で壊すのを中断した為、投げ込まれた何かが私の近くに転がる。


 解らない、解らないけれど。

 直ぐにそれが危険物であると認識し、とっさに私は防御型の古代血術を使用。


 ドォォォォォン!!という音と共に大爆発。

 地面が大きくえぐれ、周囲の木々は吹き飛んだ。

 私も木々のように、古代血術を使用しているにも関わらず、爆風で吹き飛ばされた。


「ぐ、これは……」


 こんな攻撃技術、この世界には無いわ。

 古代技術でも不可能ね。


 今投げ込まれた物、私が古代血術で迎撃していたら、その場で爆発していたのではないかしら?

 そして、破壊していたら恐らく私の体は粉々に吹き飛んでいたでしょう。


 ミズファ、貴女ならこの攻撃の正体が解るの?


 ……返事は、無いわね。

 でも、貴女は今無事なのね。

 それだけ解れば十分だわ。

 見ていて……ミズファ。


 私が誰なのか。

 誰を攻撃しているのか。

 下等な死せる者に解らせてやる。

 不可解な攻撃?構うものか。


「その前に……この不可解な攻撃を炎姫達にも教えてあげるべきね」


 上空に予め待機させていた蝙蝠を各区域へと飛ばす。


 私は立ち上がり、赤い魔法陣を出現させる。


 さぁ、いいわ。

 貴方達の不可解な能力と私の古代血術、どちらが勝っているか勝負と行きましょう。


 -----------------------------


【第三区域】


「はー……まさか一気に逆転されるとはねぇ」


 今のあたしは全身がボロボロで左腕が使えない。

 右足にも謎の攻撃を受けて歩く事もままならない。

 あたしが調子に乗ったせいもあるんだけど。


 せめて隙を見て回復魔法が使えればいいんだけどねぇ。

 このままだとあたしまずいかもしれない。


 ついさっきまでは枯渇気味に眷属が消滅していた。

 この分なら、ミズファちゃん達がレイスを倒すのもそれほどかからないだろうと思ってた。


 急におかしくなったのは、見慣れない服装の眷属が周囲に現れてから。

 かなり遠くで警戒するように木々に隠れていた。

 余り遠くにいられると重ね焔が反応しないので、あたしは余裕をもってゆっくりと近づくと。


 パァンパァン!!という変な音と共に左腕と右足から血が流れた。

 余りに唐突で、何をされたのかさっぱり解らない。


 ただし、遠距離から攻撃されたという認識はあるので木に隠れながら眷属に近づいていく。

 痛みに耐えながら、重ね焔が反応したので一気に殲滅しようと前に出ると。


 倭国風の眷属が、重ね焔を何個か受け持ったまま紙一重で避け始めた。


「何よそれぇ」


 すると、あたしの前に何かが投げ込まれた。

 こんなひょろひょろな投石で何をするつもりなのか。


 不可解な行動に疑問を持ちながらも、重ね焔でそれを壊そうとした。

 ……のだけど。

 突然、ミズファちゃんが私を後ろから抱きしめてくれてるような感覚。

 その後、逃げなければいけないという危険な状態にある気がした。


 あたしは痛む足を引きずりながら全力でその場から逃げる。

 すると後ろから大爆発が起き、爆風と共に吹き飛び木に強打して現在に至る。


 眷属が組織立って近づいてくるのが解る。

 何か戦い方を学んだような動きをしていて、何れも重ね焔の射程内に入らない。


 しくじったかなぁ。

 まさかこんな形で深手を負うなんて、想定外もいいとこだよ。


 威嚇のつもりか、パァン!!という音と共に、隠れていた木に何かが当たる。

 あたしの意識もそろそろ持たない。


「ここまでかなぁ……。ミズファちゃんごめんね」


 あたしは半ば生きる事を諦めだすと。

 肩に蝙蝠が現れる。


「これ、プリシラちゃんの」


 頭の中に直接プリシラちゃんの声が響く。


「成程……ね。プリシラちゃんありがとね」


 あたしは木に隠れながら街道側へと移動する。

 その場にいるとあたしまで「巻き添え」になるから。


 謎の攻撃を警戒しながら満身創痍で少しの間、移動すると。

 大きな風の刃が、横なぎで木を数本切り飛ばす。

 そしてそれは眷属側に倒れて数人が下敷きになった。


「エリーナお姉さま!!」

「エリーナ、様!!」


 可愛い姉妹があたしの名前を呼んでる。


「やー、ミルリアちゃん、シルフィちゃん。ごめんねぇしくじったよぉ」

「よくも……よくも私の命の恩人であられる、エリーナお姉さまを……。絶対許しませんわ!!!」

「エリーナ様……酷い傷。私が周囲を警戒しますので……早く傷をお治し、下さい」

「ん、ありがとぉ」


 あたしは直ぐに傷を治し始める。

 あと一歩遅かったら、意識飛んでそのまま目覚めなかった所だよ。

 その横でシルフィちゃんが無防備に眷属達へと歩いていく。

 あたしは別に止めない、理由は分かっているから。


 眷属達は救援が来た事で本気を出したのか、ダダダダダダッ!!という連続的な音が響いた。

 そして謎の攻撃はシルフィちゃんの前で止まる。


「無駄ですわよ。貴方がたの攻撃は物理だと、プリシラ様から既にお聞きしてますの。その程度では、私の魔力を込めた防風壁を破壊する事など不可能ですわ」


 シルフィちゃんの前で止まった玉のような何かが沢山、地面にバラバラと落ちていく。

 そんな物にはまったく興味ない様に進むシルフィちゃん。

 そして、一定の距離まで眷属との差を詰めると立ち止まり。


「私の名は【風姫】シルフィ。エリーナお姉さまに傷を負わせた罪、万死に値します!!」


 爆発する何かを投げられても、風で大きく方向がズレて遠くで爆発し、謎の遠距離攻撃も効かない。

 倭国っぽい眷属が刀で近づいて来たけど、竜巻に拘束されて上空に打ち上げられて落下。

 その隙をついたつもりか、一人の眷属が何か筒のようなものを構えて、それを飛ばしてくるも、高速で術式を組み風の刃で迎撃、眷属達が爆発で吹っ飛び、シルフィちゃんは無傷。

 その後もシルフィちゃんの攻撃に一切の加減は無く、辺り一面に血が舞っていた。


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