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生徒たちの帰還

 次のメル。

 レイシア達、学院のお嬢様がベルドア王国に向けて帰還となります。

 先生の代わりだった公子もいない為、プリシラがしっかりと帰還前の挨拶と研修終了の証となる証書の授与を行いました。

 馬車数台がお屋敷の門前に用意されており、出立の準備も間もなく終わりそうです。


 帰りは公国の兵士中隊と魔術師数名が送り届ける事になっています。

 魔術師さんは突然出現した凍土の大地を超える為の、耐性魔法要員との事。

 元々魔法が使える一行なので、ヴェイルの街に向かう際は学生達で凌いだそうです。


 港町方面に向かう訳では無いので、凍土はそれほど問題にはなら無いようですけど。

 僕は明後日の方向を見ながら学院の皆さんに深く謝りました……。

 別に僕のせいじゃ無いですけど!


「ミズファ……大変名残惜しいですが、しばしのお別れです」

「レイシア。帰りも十分気を付けて下さいね。……それと元気出して下さい、直ぐにまた会えますから!」


 俯きつつ僕にお別れの挨拶の為、近づいて来たレイシア。

 僕はこれ以上無いくらいの笑顔をそんなにレイシア贈ります。


「もう、そんな顔をされたら悲しい気持ちに浸るなんて無粋な真似、出来なくなります」


 少し涙ぐんでいたレイシアですが、次第に笑顔が戻ります。


 エリーナとツバキさんも続けてレイシアに話しかけています。

 自己紹介の後、レイシアは直ぐにツバキさんとも仲良くなりました。

 そんな誰とでも直ぐに仲良くなれるレイシアだからこそ、僕もベルゼナウの街で救われたのです。


「レイシア。私の蝙蝠を一匹上空に監視させて置くわね。何かあればすぐに蝙蝠を呼んで血を与えて頂戴。私が直々に出向くわ」

「お気遣い有難うございます。常にプリシラ様がご一緒なのと変わらないと言う事ですね。大変心強いです」


 プリシラがレイシアを抱きしめています。

 夜の間はちょっと険悪でしたけど、やっぱりとっても仲がいいんですね。


「それではミズファ、皆様、お元気で」


 レイシアが深々とお辞儀をします。

 そして馬車へと歩いて行こうとした所。


「あ……あの、ま、待って……下さい!!」


 声の方を見ると、思いもよらぬ子達がそこにいました。

 ミルリアちゃん、シルフィちゃん、ウェイル君です。

 ミルリアちゃんとシルフィちゃんは可愛らしいワンピース型の服と、ウェイル君は年相応の動きやすさを重視したような少年らしい服を着ています。


 途中から走ってきたのか、全員息を切らしているようです。

 僕は直ぐに三人に駆け寄りしゃがみます。


「皆そんなに急いでどうしたんですか? どうしてここに?」

「此方に……魔法学院の、皆様がいらっしゃると……聞いて来ました。お願い、します。シルフィとウェイルを……魔法学院に、連れて行って下さい」

「……え?」

「お金なら……ここにありますから」


 金貨袋を差し出してきました。

 恐らく、奴隷商人のお金を使わずに全て持ってきたのだろうと思います。


「ミルリアちゃん達、魔法学院に入りたいの?」


 エリーナが疲れているシルフィちゃんとウェイル君の頭を良しよしと撫でながら。


「あの……入らせて、頂きたいのは……シルフィとウェイルだけです」

「ふむ。確かに魔力を持って居る故、魔法学院に入る事は可能じゃろうが……。まだ歳がのぅ」


 僕は余り学院には詳しくは無いですけど、確かに二人は幼い印象があります。

 何より、まだ親に甘えていても良い頃では無いでしょうか?

 そんな僕の心配をよそに。


「お姉さま方。その節は、私たちを助けてくれて、ありがとうございました」


 まだ幼さの残る喋り方ですが、ミルリアちゃんと違って快活に喋るシルフィちゃん。


「改めて、僕達を助けてくださって有難うございました」


 血を吸われたショックが大きかったのか、ずっと無言だったウェイル君が初めて喋りました。


 二人は揃ってお辞儀をします。


「あの、まだ……妹達は幼いですが、この通り最低限の、礼儀は教えてあります。どうか、どうか……妹達の願いをお聞き届けください」


 ミルリアちゃんは改めて深くお辞儀をします。

 それを見る僕はどうしていいか困惑気味です。

 誰がこの子達へ入学の許可を出せるのでしょうか。

 先生もいませんし、歳の事もあります。


「どうしたの貴女達、そろそろ馬車を……。あら……?」


 少し遠くにいたプリシラが騒ぎに気付き近づいてきたようです。


「あ、プリシラ。御免なさい、お知り合いが来ていまして」

「……」


 シルフィちゃんとウェイル君をジッと見つめてしばし無言のプリシラ。


「……プリシラ?」


 何やら自問自答を繰り返しているようですが、答えが出たようです。


「ミズファ、聞いて頂戴。この子達……氷姫を超える魔力を持っているわ」


 ……。

 え。


「えええええ!?」


 ツバキさんを超えるって、それもう人じゃ無いですって。


「何かの間違いでは?」


 プリシラがシルフィちゃんとウェイル君の前に立つと。


「私を誰だと思っているのかしら。嘘など言っていないわ。それとこの女の子と男の子、【ハーフエルフ】よ」


 これにはレイシアを含めた皆が驚いています。

 エルフって僕の勝手なイメージですけど、耳が長くて細い体で、弓とか魔法が得意で幻想的な種族っていうあれですか?

 ハーフだからなのか、シルフィちゃんとウェイル君の耳は別に長くは無いです。

 あれ、ミルリアちゃんは?


「そっちの茶色の髪の貴女。貴女だけは父親が違うようね。そうでしょう?」

「あ、あの。そうです……」

「父親は違えど、貴女も中々の魔力を持っているわね」


 プリシラが小さくなっているミルリアちゃんを見て舌なめずりしています。

 怖いのでやめてください。


 実を言うと、ミルリアちゃん達を保護し、姉弟だと解った後「シルフィちゃんとウェイル君だけは金色の髪」だった事に疑問を持っていたのです。

 けれど病み上がりでしたし、直ぐに親元に帰した事もあり、その疑問は内に留めていました。

 ミルリアちゃんの父親が違う、という事実を知ってようやく内に秘める疑問が解けました。


「して、どうするのじゃ。妾の魔力を超えるとなると、捨て置けぬ巨大な原石ではあるが、厄災にもなり得るであろう?」

「そうね。このまま放置して中途半端に魔法を齧ったりなんかされたら、、内に秘める魔力を抑えきれず、魔法を大暴発させる危険性もあるわ」

「それでは、保護という名目で私が魔法学院までお送り致しましょうか」


 レイシアが近づいてきて、シルフィちゃんとウェイル君の頭を撫で始めます。

 保護という逃げ道がありました。

 さすがレイシアです!


「レイシアの案が一番いいわね。それじゃあ頼めるかしら? 必要な経費は私が出すわ。この二人は学ぶべき場所で己を磨けば、直ぐにその名を世界に轟かせる事になるでしょう」

「それは頼もしいお話です。それにこのお二人とはなんだか仲良くしていけそうですし」


 早くもシルフィちゃんがレイシアに懐いているようです。

 ウェイル君は何か空に向かって「俺はやるぜ」みたいな雰囲気を出しています。


「シルフィとウェイル、と言ったわね。公国の名に置いて、あなた達の魔法学院への入学を推薦します。頑張りなさい」

「プリシラ様、ありがとうございます。この御恩は、お姉さま方同様、必ずお返しいたします」

「僕、頑張ってきます。ママにお返しできるように、お姉さんたちに恩返しが出来るように!」


 ミルリアちゃんがシルフィちゃんとウェイル君に金貨袋を渡しています。

 そして、三人一緒に笑顔で抱きしめ合っていました。


 こうして。

 シルフィちゃんとウェイル君を連れた魔法学院の学生達はベルドア王国へと帰っていきました。


 ---------------------------


「シルフィちゃんと、ウェイル君いっちゃったねぇ」

「まだまだ親に甘えたいでしょうに、ほんとに良くできた子達ですね」


 僕は素直に感心します。


「あの……み、ミズファ、様……」

「はい?」


 馬車を見送った僕達にミルリアちゃんが語りかけてきます。

 凄くもじもじしていて可愛いです。


「あの、私は……その。私はミズファ様方に仕える為に、ここに……参りました」

「僕たちに仕える?」

「はい、ミズファ様達の身の回りのお世話を……どうか、私に……させて頂きたいのです」

「え、でもお母さんは? 折角お家に帰れたのですよ? 姉弟皆家から居なくなってしまっては、お母さんが悲しみませんか?」

「ママは、私たちを……とっても愛してくれました。奴隷に売ってしまった罪を……すべて愛情で返してくれました。だから、ママに……お返しをしたいのです。ママはそんな私達を、笑顔で……見送ってくれました」


 片言な言葉とは裏腹に、ミルリアちゃんからはとても強い意思を感じます。

 レイシアのような強い意志を目に宿しています。


「ミズファちゃん、あたしは別に構わないよぉ。決定はミズファちゃんに任せる」

「妾も無論、ミズファに委ねるが、この娘は魔力を有しておる故、ミズファの護衛としては育てやすいじゃろうと思う」

「ミズファの物になるなら、私の物でもあるわね。ふふ、私は大いにこの子を歓迎するわ。一人くらいメイドを傍に置いておくのもいいと思うわよ?」


 メイドさん、なんて甘美な響きなんでしょう。

 色んなお屋敷で見てきたメイドさんですが、まさか僕が所有できるのですか!?

 って、ミルリアちゃんは物じゃないです!


「あの……ミルリアちゃん、本当に僕なんかでいいんですか?」

「はい、私の命は……もとより、ミズファ様達の、ものです。ここに居られるのは、ミズファ様のお陰です。どうか……私を貴女のお傍に」


 深々とミルリアちゃんはお辞儀します。

 うー可愛いです。


「うん。ミルリアちゃんが居てくれるなら、普段の生活がもっと楽しくなります!僕からも是非お願いします、一緒に僕と来てくれますか?」

「仰せのままに……我が主」


 その後、可愛すぎて抱きしめた所、皆でミルリアちゃんを取り合いになりました。


 -----------------------------------


 学院のお嬢様達が帰還してから、1クオル半経ちました。

 そして現在、公国はと言うと。


 プリシラが国内の安定を引き続き図っていますが、表向きの公国の王となっているのはベルステンさんです。

 彼には公子と公爵の件は、僕の嘘と矛盾しない範囲内で話しています。

 その際には、当然のようにプリシラに難色を示していました。

 けれど、溜まりに溜まっている円卓の仕事も全て一人でやっている為、プリシラの協力が必要になり、怪しげな誤認能力については不問となりました。


 今はプリシラと共に国の安定に努めています。

 そして、誤認能力や使い魔達からの洗脳のような力がベルステンさんに効果が無かった理由ですが。

 どうも、肌身離さず持っている用途不明の形見の魔法具にあるようでした。

 恐らくそれが精神攻撃に耐性をもっていると推測するプリシラ。


 精神に働きかける魔法は存在しないのに、魔法具の効果として精神耐性があるのはおかしいのでは、と僕は思うのですが、プリシラが言うには遥か昔に精神に働きかける魔法が存在し、魔法具は特殊能力に分類されていても似た系統なら耐性が有効だそうです。

やはり魔法具はデタラメ性能ですね。


 ツバキさんは今回の公国の騒動に決着がついた為、その報告をしに倭国へと一度帰国しています。

 帝さんと元帥さんの力があったからこそ、事態は大きくならず収束しましたからね。


 そして僕は来るべきレイスの森での戦いの為、独自魔法の研究、重魔法の向上、エリーナと魂喰らいへの対応策を練ったり、ミルリアちゃんの魔法を見てあげたりしています。

 ミルリアちゃんは元々が天性の才能に恵まれていたようで、特に土属性はかなり特出した才能を見せています。

 エリーナに「長期不在の土姫の称号が復活するかもしれないねぇ」、と言わしめる程です。


 因みにプリシラに余裕がある際には、模擬戦の相手をお願いしたりしています。

 古代血術の真の力を一度見せられた際には絶対勝てないのではと思いました。


 公子の血術結界ブラッドフォースは五重で破壊できたのに、プリシラが相手だと、五重では結界に傷一つ付ける事は出来ませんでした。

 暴走していた僕が使おうとしていた「七重」。

 これが使えれば或いは、という所です。


 レイシアとの合流まであと1クオル半。

 僕は今よりも強くならねばなりません。



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