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公爵の屋敷と少女達

 夕暮れ。

 僕達は金色の髪の少女に言われた通りに公爵のお屋敷に来ています。

 やはり一国の王ともなると、お家のスケールが違い過ぎます。


 庭はベルステンさんの所程広くはありませんが、お屋敷自体がお城みたいに大きいです。

 あ、ベルステンさんに報告しないといけないのにそのまま帰って来てしまいました。


 まぁ……次のメルでもいいですよね?


「……私に聞いているのかしら。私の能力はお城にも及んでいるから平気よ」


 敷地中に入ると、地下で意識を失っていた学生さん達が沢山います。

 どうやら談笑しつつ庭を散歩しているようです。


 地下に居なかった学生達もこの公爵のお屋敷に多く居ます。

 順番待ちで地下に居なかった班の学生達は研究施設で大分長く待機させられていた様ですが、金色の髪の少女の誤認させる特殊能力により、何の疑問も抱かずに公爵のお屋敷へと帰還しています。

 ある意味最強の能力だと思います……。


 例えるなら、目の前に売られているキャンディーをその場で口の中に頬張ったら普通はお金を要求されますが、金色の髪の少女の誤認能力で食べても何も言われ無くなるのです。

 酷いと言う他ない能力です。


「……先ほどから言いたい放題なのは結構だけれど。この能力は異常事態等の限定的な状況でのみ、使用しているわ。それに誰にでも効果がある訳でも無いのよ? 私とて完全耐性の魔法具には抗え無いし、耐性が高いと効き目が薄く、直ぐ効果が切れる場合もあるわ」


 脳内に説明台詞ありがとうございます。


「訳の解らない事を言っていないで早く来なさい!」


 はい……。


 僕、どれ位金色の髪の少女から距離を取ればプライバシーを守る事ができるんでしょうか。

 記憶の断片にある、その一方的な「携帯」の電源OFFにできないんですかね。


 ともあれ。

 エリーナとツバキさんは学生達を特に気にする事なく着いて来ています。

 たまにエリーナを知っている学生が話しかけて来ますけど、それとは別に妙な視線を感じます。

 視線に対し、耳を澄ますと「見目麗しい三人」とか「お人形さんみたい」とか「妹にしたい」とか屋敷に近づく度、段々怪しい話題が混じってきています。


「大体がミズファちゃんの話題だねぇ」

「妾としては、仕える者への好評は悪い気はせんの」

「僕には二人がキャーキャー言われてるように見えますけど」


 僕からしたらエリーナとツバキさんはどう見ても窓の上の高嶺の花です。

 自覚を持った方がいいと思います。


 敷地内はずっと赤煉瓦の道がお屋敷まで続いており、道に沿って歩いていると大きな噴水がありました。

 噴水がある通りは広場のようになっており、その噴水を囲うように、バラ園があります。

 バラ園の茨は大人の腰あたりで綺麗に揃えられています。


 噴水を迂回するように進むと、その向こうに屋敷の入り口があります。

 ようやくお屋敷に到着しました。

 間もなく夕暮れから夜へと移り変わる頃なので、外にいた学生達もお屋敷に戻っていきます。


「はぁ……あたしお腹ぺこぺこだよぉ血も足りないしー歩き疲れたしー」

「まったく、公子殿に良いようにあっさり負けて、役に立っておらん奴が何を言っておる」

「あれは流石のあたしにも無理だよぉ。斬撃は一瞬見えたけど術式組みながらじゃ、ろくに回避行動取れないもん。ツバキちゃんだって素っ裸にされてたよねぇ?」

「な、あれは……。妾、目にゴミが入ったのじゃ。うむ、公子殿は運がよかったのぅ」

「……」


 まぁ、でもエリーナの事ですから、次同じ攻撃されたら絶対回避します。

 ただで転ぶような人物では無いのです、ツバキさんもね。


「お待ちしておりました。お客様方」


 そんなやり取りをしていると、お屋敷から沢山のメイドさんが出て来てお出迎えしてくれます。


「我らが主、プリシラお嬢様がお待ちです。大広間までお越し下さい」


 プリシラって金色の髪の少女の名前かな?

 そういえば公子もしきりにプリシラって連呼してましたっけ。

 ていうか。


 ここ公爵のお家ですよね?

 完全に乗っ取られています!


 屋敷の中へ入るとエントランスのような広間があり、すぐに二階へと上がる二重階段があります。

 その階段下の中央を真っすぐ抜ける様にメイドさんについて歩いて行くと、とても大きな部屋へと通されました。


 中へ入ると、沢山の丸いテーブルが設置されており、その上には美味しそうな料理が所狭しと並べられていて、僕達に少し遅れるように学生達も別の入り口から大広間へと集まって来ました。

 どうやら、ここでご飯を頂けるようです。


 やがて学生達で賑わう大広間。

 程なく、大広間の二階から金色の髪の少女、プリシラさんが顔を出します。

 学生達から「きゃープリシラ様ー今宵もお美しいですわー」と黄色い声がかかっています。


「栄誉ある魔法学院の皆さん、就学研修お疲れ様。我が国の魔法具研究が少しでも皆さんの魔法学への意欲向上、しいては未来の魔術師への一翼になり、糧となれる事を願っているわ。さぁ、堅苦しい前置きはこの辺にして、今宵もディナーを心行くまで楽しんで頂戴」


 大歓声と拍手が沸き起こります。

 学生達は料理に舌鼓を打ちつつ、ディナーを各々楽しんでいるようです。

 プリシラさんは二階から下りてくると、学生達を縫うように僕達の所へとやってきます。


「御機嫌よう、お三方」

「あ、あのええと」


 僕は何て言えばいいのか解らず戸惑っていると。


「ここでは落ち着いてお話もできないでしょう? 私に着いてきて頂戴」


 そう言うとプリシラさんは再び二階へと戻っていきます。

 その後ろに着いて二階へ上がると、吹き抜けの大広間を中心に北、東、西に向かって通路が続いているようです。

 階段を上って直ぐの北側通路をしばらく進むと。


「この部屋よ。さぁ、入って頂戴」


 部屋へと入りながら見回しつつ視界を奥へと移すと、それに合わせて誰かが僕に向かって突っ込んできました。

 あ、ダメ。

 これ僕にぶつかる。


「ミズファ!!」


 その誰かは強く僕を抱きしめます。

 赤く綺麗な長い髪に仄かな甘い女の子特有の香り。

 それは紛れもなく、地下で再会したレイシアの姿でした。


 --------------------


「少しだけ待っていて頂戴。ミズファ達を連れてくるわ」

「本当にお手数をおかけしてしまい、申し訳ございません」

「いいのよ。レイシア、貴女は私からすればもう他人では無いの。大切なお友達よ」

「お友達と言って頂けて、とっても嬉しいです。私で宜しければ、此方こそお願い致します」


 プリシラ様に会えた事も、私にとっての転機の一つだったのでしょう。

 まだ達観出来るほど生きてはおりませんけれど、波乱に満ちた人生もきっと悪いものばかりではない、と今なら思えます。

 そう言えばミズファに出会えたのも、一つの混乱のさなかでしたものね。


 ふと、大広間の方で賑わいを見せているようです。

 プリシラ様は私も含めてミズファとお話がしたいと言う事で、自分だけはここで待機しています。


 次第に胸が高鳴ってきます。

 胸に手を当て、落ち着くようにと。

 そして。

 その瞬間はやってきました。


 コンコンと、ノックをする音。


「この部屋よ。さぁ、入って頂戴」


 プリシラ様の声と共に入ってきたのは……紛れもなくミズファでした。

 まだ此方には気付いていません。


「……っ」


 直ぐに私の涙腺が決壊しました。

 やっと……やっと会えました。

 ずっと会いたかった。

 貴女に。


「ミズファ!!」


 私は初めて会った場所と同じように、走り寄ってぶつかるように抱きつきました。

 もう離れたく無いのです、離したく無いのです。


「レイシア!」

「ミズファ……! 酷いです、ずっと……ずっと心配していたのですよ!」

「ご、御免なさい。レイシア……やっぱり怒っていますか?」

「ええ、とっても、とっても怒っていました。けれど……今は会えた事がとっても、とっても嬉しいのです」


 ミズファも私を抱き返してくれます。

 一クオルダと少し経ってから再会したミズファは、更に可愛らしい女の子に成長しています。

 けれど、ミズファの甘い香りは以前のままで……それが私を落ち着かせてくれました。


「レイシア。僕は一杯レイシアに謝らないといけません。でも、一つだけ聞いて欲しいのです」

「なんでしょう?」

「僕は、レイスを倒します」


 彼女は出会うなり、唐突にそんな事を言い出しました。


「レイスを倒す?」

「はい、勿論僕だけじゃ駄目です……。今回、お話があるのはプリシラさんだけじゃないんです」

「焦っていては、事を仕損じるわ。積もる話は食事の後にしましょう。それと、炎姫の体力が0よ」

「あうー……」


 感動の再開中、講師は謎の奇声をあげています。


「講師も相変わらずの様で、むしろ安心致しました」

「やーレイシアちゃん久しぶりだねー……ぱたり」

「エリーナってばせっかく感動の再会なのに……」

「炎姫がおると話の腰が折れる。屋敷の外にでも放り出そうかの」


 見慣れない方もいらっしゃいます。

 見た所衣装から倭国の方と見受けられます。

 それと、炎姫?


 きっと、ミズファはベルゼナウの屋敷を出てから、沢山の出会いと経験をしてきたのでしょう。

 私もその中に入りたい、けれど学院にはあと最低二クオルダは在籍せねばなりません……。

 先ずは皆様のお話を聞かせて頂く事から、ですね。


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