再度地下牢へ
更に次のメル。
ベルステンさんがお城へ行くのは昼前からとなっていた為、それに合わせて先に昼食を済ませてから、現在馬車でお城に移動中です。
「あぁ、そうだ。すまないが、他の円卓が完全に姿を見せ無くなった事もあり、多忙を極め君達を直接手伝う余裕が無くなってしまいそうだ」
馬車に揺られていると、ベルステンさんがそう会話を切り出します。
「いえ、むしろ他国の者である私達に比較的自由な行動を許可下さっていて、寛大なお心に十分感謝しております」
僕は素直に思っている事を伝えました。
城の中を他国の者がウロウロしているのは、割と問題の筈ですからね。
その上で公子には見つからない様に、と念を押されていますけど。
ベルステンさんは現状にかなり参っている様子で、続けてぼやいています。
「公子も不可解が過ぎて理解が及ばぬ。昼までに行うべき責務は放り出し、何処かへ消えたかと思えば書類の判は全て押してある。他の円卓の事を聞いても素知らぬ顔、公爵に目通り願うも、あらゆる理由で回避され、しつこく問い詰めると逆賊扱いだ……」
話を聞くだけでも胃にきそうな感じです。
僕はこういうお仕事はしたく無いと思います。
ベルステンさんは、こめかみに指を当てつつ「そういえば……」と付け足し。
「兵士からの伝言を聞いたのだが。地下牢に囚われていた奴隷を自己判断で保護したそうだが、どういう意味かね?」
此方から話すつもりの話題を振られました。
では、交渉と参りましょうか。
目標は買い取らずに済ます事です!
僕は何度か視線を泳がせ、言っても良いものか決めあぐねている、という雰囲気を出しながら。
「……ベルステン様は地下牢で奴隷を飼っておられる、という事はご存知ですよね?」
「何?城に奴隷など入れる訳が無い。何か重罪でも犯し、地下牢に入れられていたのでは無いのか?」
「重罪でしたら、ベルステン様のお耳に入らない事などありますでしょうか」
「確かにそうだが、状況にも寄る。職務の都合上話を聞くのは数メル経った後という事もある」
そこで、僕は口元に手を当て、恥ずかしそうに斜め方向に俯き。
「奴隷達から聞いたのです……。 夜な夜な公爵が自分達を求めてくる、と」
「……は?」
「なんと……奴隷達は全て子供。中には男の子もいました……」
「……まてまて何だそれは。そんな話まったく聞いた事は無いぞ!」
「それはそうでしょう。このような事を誰にお話になりますか」
「いや……しかし。 まさか、公爵が地下に下りていたのはこの為か、ぐ……なんという事だ……」
真面目なベルステンさんが公爵の意外な一面に驚きを隠せない様子。
それもその筈、嘘ですから!
「他国にこのような事が知れてしまっては、何かと問題になりましょう。奴隷は私達で処理して置きますので、お互いの今後の関係も踏まえて「何も見なかった」事に致しませんか」
「……。 解った。奴隷は脱走を企て、兵に襲い掛かった罪でその場で始末した事とする」
「まぁ、怖いですわ」
くすくすと笑う僕。
「地下へ下りる許可を出したのはわたしだが……。ミズファ嬢も中々に食えぬな」
「お褒めの言葉と受け取って置きます」
ミルリアちゃん達の事は誰一人として素性も知らされていませんから、これで完全に自由の身です。
何がツボに入ったのか解りませんけど、隣でエリーナがプルプルと震えながら吹きそうになっています。
ツバキさんが首根っこ掴んでぎりぎり耐えてますが。
程なく城に到着し、城内に入るとベルステンさんは忙しそうに高官と話しながら奥へと去っていきます。
さて、ここからは私達だけで別行動になります。
目的は勿論城の地下です。
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「相変わらず誰もいないねぇ」
「逆に気味が悪いのう……」
相も変わらず番兵のいない地下。
不気味さは残したままですが、まだ危険を感じません。
「牢屋には特に問題は無さそうです」
「あるとすればミズファちゃんが壊した牢屋だねぇ」
「じゃが、あれから誰もここを訪れた様子は無いようじゃ」
そうなのです。
切り裂いた檻がそのままになっています。
地下は兵士達の意識から切り離されているかの様です。
でも、階段の松明は灯すんですね……。
ふと、ミルリアちゃん達の居た牢屋の地面を見ると。
血痕が残っています。
保護した際には周りを見る余裕がなかった為、気づきませんでしたが……。
牢屋を出て、地下の突き当りの壁に手を当てながら歩きます。
なんとなくですが……壁際に何かあるような予感がしたからです。
僕は身長がそれほど高くは無いので、つま先立ちで手を伸ばしたりしつつ壁を調べます。
暫く手を当てていると突然、ガコンッ、という音と共に、身長より少し上にある石壁の一つが奥に引っ込みました。
「きゃ、び、びっくりした……」
自分でやって置いて何ですけど僕、小心者なので……。
音に気付いてエリーナとツバキさんが寄ってきます。
「からくりが見つかったようじゃの」
「流石ミズファちゃんだねぇ」
程なくすると、地面の一部が窪んでいき、階段が現れました。
「更に地下への階段ですか……」
「これ、多分明かりが必要だよねぇ。あたしライトウィスプ使えないんだよぉ」
「すまぬが、妾も光属性は扱えぬ」
僕も試した事は無いですが、風属性とかも割とすぐ使えたので試してみる事にします。
手のひらを前に出して。
「ライトウィスプ!」
直ぐに手のひらの上に光る球体が出現しました。
どうやら成功したみたいです。
「ミズファちゃん、もしかして全ての属性扱えたりするの?」
「……多分使える気がします」
「まったく、化け物じゃの」
え、ツバキさんが言いますかそれ。
納得いかないんですけど!
あとエリーナも回復魔法とか使えますよね、それ凄いと思うんですけど。
あ、でも多分僕も使える気がします……。
自分が化け物のような気がしてきましたが、一先ずそれは考えるだけにして。
「じゃあ下りてみましょうか」
僕が先頭になりつつ、狭い階段を下りていきます。
階段は途中まで急な角度でしたが、次第に緩やかになり、通路っぽくなってきました。
ほぼ通路に近い階段を下りきる当たりで明かりが見えたので少し警戒します。
すると。
「何……ここ」
記憶の断片に「学校の教室と廊下」があります。
今僕の目の前には、その光景に近い通路がかなり奥まで真っすぐ続いていて、途中教室の入り口みたいな部屋が点々としています。
「んーなんか、魔法学院に似てる作りだねぇ」
「妾も思った所じゃ、不気味な雰囲気すら感じる」
二人は見覚えがあるらしく、学院のような作りらしいです。
なんでこんな場所に……。
「まさか、学院が黒幕なんて事は無いですよね?」
「あーそれは無いよぉ。学長はねぇ、あたしの数倍お人よしだからねぇ」
「炎姫に同意じゃ。学長は聖女でも名乗った方が良かろう」
良かった。
二人の学ぶ場所が黒なんて絶対嫌ですから!
「それを聞いて安心しました。じゃあ気を取り直して行きましょう」
「ミズファちゃん、術式の準備しておかなくて平気?」
「あ、そうですね。流石に警戒はした方が良さそうです」
「うむ。では妾も準備をしておこうかの」
先に進んだら何があるか解らない以上、ここからは念を押したほうがいいですからね。
通路の途中にある部屋を時折覗いてみたりしますが。
暫くは部屋の中には何もありませんでした。
ですが、途中から何故か机と椅子が置かれる部屋が出てきます。
「エリーナ、ツバキさん、いつでも戦えるようにはして置いて下さい」
「おっけーだよぉ」
「うむ」
椅子と机のある部屋を覗いたのがきっかけになったように。
僕の中の「直感」が「危険」な部屋だと教えてくれます。
恐らく、このまま見ていくといずれ「危険」に辿り着くでしょう。
未だ現れぬ黒服の男達の存在も気がかりです。
そして、机と椅子が確認された部屋から数えて4,5番目。
その「危険」とは、意外な光景と共に遭遇しました。
「……レイシア?」
僕が見たのは……地面に倒れるレイシアと、不敵な笑みを浮かべる公子の姿でした。




