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宝石

「……ん」


 大分疲れていたのか、すぐ眠ってしまったようです。

 仮眠のつもりが少し眠り過ぎたかも……。

 すっかり外は暗くなっていました。


 ふと、頭に手を添えられている感覚に気づきました。

 目線を向けると、僕を起こさないようにゆっくりと頭を撫でるエリーナがいました。


「あ、起きた?」

「帰っていたんですね」

「大分前にの。ミズファが起きるまで待っておったのじゃ」


 椅子に座っているツバキさんが答えます。


「すみません、少しだけ寝るつもりだったんですけど」

「いいよぉ。可愛い娘の寝顔を見てるのも楽しいからねぇ」

「ふん、次は妾が撫でる番じゃったのに……」


 記憶の断片に「ゆるきゃら」という単語がありました。

 僕、もしかしてこれですか?


「実力者さんとのお話は上手くいった?」

「完全に信用して貰えたとは思って無いですけど、取り合えずお城に入れるようにはなりました」

「うん、ミズファちゃんよく頑張ったねぇ。よしよし」


 美少女スマイルで引き続き僕の頭を撫でるエリーナ。

 そのうち本当にお母さんって呼びそう……。


 一先ず……。

 相手は王の一番身近にいる人物の一人です。

 この国に異常が起きていなければ、倭国の使者だろうと早々には取り合ってくれないでしょう。

 それだけ現状に焦りを感じていた訳です。


「実力者を打ち負かすとは、流石ミズファじゃの。それでこそ仕えがいがあるというもの」


 ツバキさんは何か勘違いしているのではと言う感じに僕を褒めてくれています。


「取り合えず、1メル程間を置いたら早速お城に行きたいと思います。あ、二人の同行許可も貰ってありますので」

「あたし達が行っても大丈夫なの?」

「敵の真っただ中に飛び込んで行く訳ですので、油断は禁物かと思いまして」


 ベルステンさんが公爵のしかけた罠という事だってあり得た訳です。

 絶対無いと確信はしていますけど。


「では、妾達も城に行く事になるのじゃな」

「これで戦争休止のお話が通ればいいんですが」

「まー、あんまり期待できなさそうだよねぇ」


 倭国の使者と名乗った瞬間、公爵は僕たちを亡き者にしたいでしょうから、聞く耳持たずなのは濃厚です。

 まぁ、まだ会ってもいない内からあれこれ考えても仕方ないですね。

 それよりも……。


「お腹すきました……」

「あたしもー」

「うむ。早速夕餉に参るとするかの」


 食事の事となると、途端に行動が早くなるエリーナは、もう入口に立って「はやくはやく」と手招きしています。

 やっぱりエリーナはエリーナでした。

 僕たちは軽いガールズトークを交えながら食事に向かうのでした。


 ---------------------------------------


 公国の首都ヴェイルに到着して三メル程。

 各班に別れて、私達は様々な魔法具や研究施設を見学しています。

 中々見ることが出来ない、効果が大き目の魔法具が施設の通路などに展示されていたりします。


 魔法具作成には本来、必要な道具などは御座いません。

 ですが魔法具研究施設は、魔法具を作成補助する不思議な効果をもった【古代魔法具】と呼ばれるものが存在します。


 これは非常に大掛かりな造りで、現在の技術では作成不可能な謎の魔法具です。

 見た目は宙に浮遊する四角い黒い箱、のような物です。

 この時点で、現在の魔法具とは完全な別物です。


 これが研究施設内に等間隔で浮いています。

 この浮いている等間隔が一種の魔法を生んでおり、その魔法効果が及ぶ範囲では様々な恩恵を受けられる、というものです。


 数十クオルダ程前、公国はとあるダンジョン攻略に出資し、探索で発見されたこの古代魔法具を入手したとされています。


 そして私のいる班と他数班は現在、見学の目玉とされる場所にいます。


「まぁこの宝石、とても素敵ですわ」

「此方の宝石を埋め込んだ首飾りも細部まで装飾が行き届いていて、大変素晴らしいですわよ」


 周囲のお嬢様方は、魔法具研究施設が運営する、来客用の宝石展示室で大変ご満悦です。


「レイシア様、此方の青空のように青い宝石、素晴らしいですわよねぇ……」


 ご友人の一人がうっとりとした表情で飾られている宝石を見つめています。


「そうですわね。透き通る空に吸い込まれそうな魅力を感じます」


 私もやはり、淑女を目指す身としては綺麗な宝石には目を奪われてしまいます。


 普段から魔法具作成で宝石を見ているのに?と思われるかもしれません。

 しかし、ここに展示されている宝石は、魔力問わずひたすら美を追求した物ばかりなのです。


 宝石にも様々な形や色が御座いますし、加工の技術次第で輝きは数段変わってきます。

 ここに展示されている宝石はどれも一級品の品物ばかりなのです。


「お嬢様方。展示室はお気に召して頂けたかな?」


 関係者用の通路からカイル様がいらっしゃいました。

 途端にお嬢様方が黄色い声と共にカイル様を囲んでいきます。


「カイル様、このような素敵な研修を企画して下さって、有難う御座いますわ!」

「わたくし、以前よりこの展示室には是非足を運びたいと思っておりましたの。カイル様、大変感謝致しますわ」


 次々に感謝の声が響きます。


「この国に名だたるご令嬢方を招く以上、公子としては当然の事だよ」


 その言葉を爽やかな笑顔で語られました。

 大歓声で「きゃーカイル様ー!」の声。


「やぁ、レイシア嬢。君も楽しんでくれているかい?」


 カイル様は私を見つけると爽やかな笑顔と共に近づいて参りました。


「大変楽しく見学させて頂いておりますわ。何れも一級の品々で、心が躍るばかりです」

「それは良かった。魔法具用ばかりに目を向けられがちだけど、こうした装飾に特化している宝石も乙な物だからね」


 そんな言葉とは裏腹に、カイル様は展示室の宝石など、まるで気にも留めていない気がします。

 程なく、カイル様の元へ黒服の男性が近づき、何やら小声でお話をしています。


「さて、お嬢様方。たった今、魔法具作成研修の用意が出来たようだ。一度班ごとに集まってから移動を開始してほしい」


 本来、こういった場は学院の先生方が引率すべきものですが、カイル様自らが施設案内を行って下さる、という事でお嬢様方からの満場一致で、案内はカイル様だけが行っています。


 引率するカイル様の誘導に着いていきますと。

 一度地下に下りるようで、若干長めの階段を下りていきます。

 すると、かなり遠くまで続く一直線の通路に出ました。


 その通路の途中にはいくつも扉があり、解りやすいイメージで言いますと、学院の教室の入口と通路が長く続いている、ような感じです。


 何か言いえぬ不気味な雰囲気が漂っています。

 流石のお嬢様方もその気配を感じたのか、歩きながらもざわめきが起こり始めています。


「さぁ、ここが研修の為に用意した部屋だよ」


 カイル様が立ち止まり、左手の部屋に手を差し向けています。

 中を伺うと、学院の教室を模したように机が並んでおり、その上に大きな宝石が一つずつ置かれています。


 それを確認したお嬢様方は先ほどの不気味さはどこかに吹き飛んだのか、宝石に目を奪われたようです。


「さぁ、中に入って席について欲しい。僕の合図までは宝石に触らずにね」


 班ごとに固まった形で席につきます。

 目の前にある宝石は、カイル様の言っていたように確かに魔法具作成に用いる上では上質な宝石です。

 かなり大きめの渦が回っています。


 これは間違いなく、早々に作れる代物ではありません。

 周囲を見ますと、完全に宝石に魅了されてしまったのか、些細な疑いなど一切持つ者はおりませんでした。


「さて、皆席に着いたようだね。では合図をするからそれに合わせて魔力を込めてほしい。イメージはなんでも構わない。自由に作成してみてほしい」


 それを聞いて部屋中から歓声が上がります。

 作成に失敗しても、この大きく上質な宝石が頂ける約束があり、その為完全にお嬢様方は浮ついてしまっています。


「では、いくよ。作成開始!」


 暫く魔力を込める為、室内が完全に沈黙しています。

 魔力を込めるには集中しなければならない為、必然的にそうなります。


 私は、開始しても魔力を込める事をしませんでした。

 俯いたまま、魔力を込めるように見せかけているだけです。

 ふと、横に目を向けると。


 隣のお嬢様と目があいました。

 ただし目には焦点は無く、机にうつ伏せになって顔だけがこちらを向けています。

 そのお嬢様の宝石は「完全に赤く染まっていました」。


 直ぐに周囲を見回します。


 誰も。

 誰も動ていません。


「レイシア嬢」


 声がかかります。


「何をしている?早く魔力を込めたまえ」

「カイル様、これは一体どういう事でしょうか?」

「言っただろう? 研修だよ」

「答えてください。周りの皆様に何をなさったのですか!?」


 カイル様は心底失望したような目で私に近寄ってきます。 


「別に死んではいないさ。まぁ、今はまだ、と言った所だけどね。」


 皆が無事である事に安堵した私に、更にカイル様は続けます。


「レイシア嬢。君は他の者とは違って非常に類まれな魔力を持っている。それは「血」にも表れていてね。とても上質で濃厚になるんだ」


 言っている意味が解りません。

 血?

 魔法具と血に何の関係が。

 ふと、目の前の宝石を改めて見ると。


 渦だと思っていたのは「目」でした。


 私は身の危険をこれ以上無く感じ、その場から逃げようと。


 そこで私の意識は途切れました。


 瞬間的に、ミズファの笑顔が脳裏に浮かびながら……。

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