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ヴェイルの街と三人娘

 港町から出発し、公国の【首都ヴェイル】へと向かう最中。


 現在、大陸内ではよく見かける部類のモンスター「ワイルドウルフ」に遭遇しています。

 珍しく数が多いです。4匹もいます。これは中級冒険者でも10人位で挑まないと無理でしょうね。

 その上で何人かは絶対に死にます。


 まだ警戒して唸り声をあげている所なので、先ずは……


「“凍れ、全て。吐息すら許さぬ。そこに在るのは只の静寂のみ。凍てつく世界のみ。”氷術「完全世界」」


 ……あ、終わりました。


 ツバキさんを中心に、地平線の先まで。

 何もかもが氷に閉ざされました。

 街道だった場所、近隣の森全てが氷壁の中へと。


「あの……ツバキさん。やりすぎだと思います」

「ふん、どれだけの間、妾は蚊帳の外で指をくわえていたと思うとる。まだぬるいわ!」


 遠くに誰も人がいない事を祈ります。

 居たら死んでます……。


「……みずふぁちゃん……しんじゃう。あたししんじゃうよぉ。たすけてぇ……」


 氷山で見つかった生存者のような形で倒れているエリーナ。


「あぁ、すまんすまん。妾とした事が炎姫を対象からほんの少し外し忘れておったわ」

「……」


 え、エリーナ今自力で生存してるんですか!?

 なんですかそれ、どういう理屈ですか。

 ……まぁ、とっさに高速で炎術式組んで、自分を温めていたんでしょうけど。


「対象指定二重冷気遮断、二重魔法耐性強化」


 エリーナに補助魔法をかけます。


「……はー危なかったよぉ。なんかねぇ、変な川が見えてねぇ、見た事ある人が向こう岸からおいでおいでって」

「ほんとに死ぬ直前じゃないですかそれ!」

「長く生きておれば、そういう事もあるのぅ」


 いや……。

 うん、いいです。

 姫と付く人たちに突っ込みいれてると僕が持ちません。


 暫く氷の大地を歩いていると、ようやく氷結区域が途切れ、本来の街道が姿を現しました。

 途中に氷漬けの人はいませんでした。正直、何か凍ってるのを見るたびに心臓に悪かったです。


「ツバキさん、あの氷どれ程で消えるんですか?」

「妾は魔力が高すぎるからのぅ。ざっと1クオル位かの」

「……は?」


 あの。

 街道通る人、耐性無いと寒すぎて凍死するんですけど!

 一クオルって。

 ……僕しーらないっと。


「さぁ、間もなくヴェイルですね。気を取り直して行きましょう」

「うむ、女子は細かい事を気にしていては婚期を逃すのじゃ」

「あうー……風邪ひきそうだよぉ」


 ……何このカオス。


 -----------------------------


 公国の首都ヴェイル。

 街全体が円のように城壁で守られており、ベルゼナウのような作りに近い街です。

 北側と南側で大きく市街の風景が違っており、中央が商業区のようです。


 北側と中央部の境には、何か研究棟のような建物が沢山立っています。

 あの建物群で魔法具を作成しているようですね。


 なを南側の貧民街に一般の民、北側に裕福層と貴族が住んでいます。

 そして北側の高台には城が立っており、そこに公爵が居るものと思われます。


 中央の商業区を三人で歩き。

 周りには美味しそうな食べ物を出している露店があり、目を奪われながら。


「先ずは拠点になる宿が必要ですね」

「帝殿のお陰で路銀には困らずに助かるのぅ。とは言え、これはムラクモの民の血と肉の塊じゃがの」


 う……無駄遣いできない空気になりました。


「おじちゃーん、この串焼き一本ねぇ」


 言ってる傍からエリーナはエリーナでした。


「暫くお金には十分な余裕がありますけど、いつまで滞在するか解からないので、成るべく安めの宿にしておきましょう」

「うむ。贅沢は身を亡ぼす。妾に依存は無いのじゃ。あ、じゃが……風呂は有りで頼む」

「勿論お風呂は絶対です、譲れません」


 公国にさっさと戦争する気を無くさせるか、僕たちのお金が尽きるか。

 その意味でも戦いですね。


「見たところ、街の人たちには戦争って雰囲気は感じないねぇ」


 串焼きを頬張りながらしっかりと周囲を観察しているエリーナ。


「まだ機密段階じゃろ。妾を暗殺したからと、直ぐにどうこう出来る訳でもあるまい」

「あの、そういえば」


 二人が僕の顔を見ています。


「ツバキさん、顔見られたら駄目じゃないですか!」

「ぬ? 何故じゃ?」

「ツバキさんが生存してる情報はまだこの国には来ていない筈ですので、ここにツバキさんが居る事が解ったら直ぐに次の刺客が来るじゃないですか」


 その言葉にツバキさんはふふん、と得意げに。


「あの忌々しい氷耐性の魔法具が無い以上、刺客なぞなんの障害にもならん。完全な耐性でも用意せん限り、妾と炎姫の魔力にはなんの意味も成さぬ」


 今、宝石が量産状態にあるこの国だと余り悠長な事も言ってられないと思うのですが。

 いつ炎耐性と、もう一個氷耐性が作成されるか解らない訳です。


 僕は自分の「こういう魔法があればいいな」というイメージがそのまま魔法になるので、属性の縛りはありませんけど。


 流石に範囲魔法は魔力の関係上何回も使えませんし、即死魔法みたいなのは使えません。

 即死魔法をやろうとすると全ての魔力が一瞬で無くなりました。

 魔力の底上げをすれば使えない事も無いのかもしれませんが。


「一度警戒を怠って危険な目に合っていますから……せめてフードだけでもお願いします。僕のお願い聞いてくれます、よね?」


 少し上目遣いにツバキさんを見上げる僕。


「し、仕方ないのぅ。元々妾はミズファのもの、じゃし……聞いてやらん事も、ない」

「有難うございます。では、予備の僕のフード付きローブを渡しておきますね」


 荷物から取り出し、ツバキさんに渡します。


「うむ、ミズファの物か」


 なぜか僕に背中を向けてローブに顔を埋めています。

 何をしてるんですか?


「そういえば、エリーナの顔もあの男たちは知ってる風でしたね?」


 串焼きを食べて幸せそうなエリーナに問いかけます。


「んー。まー知ってる人は知ってると思うよぉ。流石に調べられたら隠しようも無いからねぇ」


 にこにこしながら僕はエリーナにローブを無理やり着せました。


 はぁ、これはお偉いさんには僕一人で会うしかないですね。


「エリーナとツバキさんには主に、商業地区から貧民街で情報収集をして貰っていいですか?」

「構わぬが、ミズファはどうするのじゃ」

「僕は裕福層の地区でちょっと聞き込みしてきます」

「えー、ミズファちゃん一人になんてできないよぉ」


 その恰好のまま北側区域で何をするつもりですか。


「大丈夫です。むしろ僕からしたら二人の方が心配です」


 街が壊滅しないか。


「大丈夫だよぉ。お母さんに任せなさい」

「妾を誰じゃと思うておる。何の問題もない」

「じゃあ、宿を見つけたら直ぐに行動に移りましょう」


 先ずは実力者さん達の顔の確認と、その知り合いへのコンタクトです。

 いきなり本人を尋ねても、ただの怪しい人ですからね。


 ただ場合によっては早期の解決の為、城へ殴り込む事も考えないといけないかもしれません。

 まぁそれは最終手段ですけど。

 いっそその時は僕がマインドで洗脳しちゃう?


 ……凄い悪者臭と小物臭がするのでやりませんけど!

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