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茶会と公子

「まぁ、レイシア様はまた新たな魔法具の研究に着手なされたのですか?」

「ええ、まだまだ私の力量及ばず、具体的な形には出来ておりませんけれど」

「レイシア様ならきっと上手くいきますわ!」


 魔法学院の午後。

 恒例となっている、学院主催のお茶会。

 入学から一クオルダが経過しようかという所、私は名だたる貴族のご令嬢の皆様と茶会の席を囲んでおります。


 魔法学院に入学して直ぐに、ライトウィスプの応用で作成した、夜になると明かりを灯す魔法具が高く評価されました。

 魔法具は沢山のご支持を頂き、その縁が重なってお友達も出来ました。

 その上、僭越ながら現在初等部の代表という立場を預からせて頂いています。


 このような形で過行くメルの中、慌ただしくも充実とした学院生活を送っております。


 そんな中、入学して約一クオルが経過した辺りからでしょうか。

 とある殿方が私にお会いに来るようになりました。


 お相手の名前はカイル・ウィル・ナイトハルト様、セイルヴァル公国の公子様です。

 最近はお茶の席になりますと、熱心に私の席へと足を運んで下さいます。


 ……噂をすれば早速いらしたようです。


「お話の所失礼するよ。僕もこの美しい花々への同席を願っても構わないかな?」


 そうカイル様が仰ると、ご令嬢方の黄色い声が響き渡ります。


「どうぞ、カイル様。此方のお席へ」


 立ち上がり、初めからこの方の為に用意されていた空席へと手を差し伸べます。

 周囲を囲むご令嬢の皆様の中にはカイル様がお目当ての方もおり、その為このテーブル席は茶会の度に大きな輪となります。

 このお方の目に留まるよう、皆様は熾烈な戦いを繰り広げております。


「有難うレイシア嬢」


 優雅な動作で席へと座ると、一部のご令嬢がそれだけで卒倒しかけています。

 カイル様は整った顔立ちに金色の髪、公子としてそつのない服装、魔法学院の中等部代表の証となる腕章を付けており、世の花々が欲して止まない殿方の最もたるお姿といって差し支え御座いません。


「新たな魔法具のイメージが固まりそうだと聞き及んでね。レイシア嬢の研究熱心な姿には、本国でも大変話題になっていたよ」

「勿体ないお言葉ですわ。まだまだ未熟な身、試行錯誤を繰り返している所で御座います」


 カイル様は私の魔法具研究に大変興味を抱いた様子で、お会いに来る度魔法具に関するお話でもちきりとなります。


「そういえばつい最近、本国で大々的に宝石加工技術が進展してね、上々な宝石が作れる事が増えたんだ」

「まぁ、それは歴史的に見ても大変な功績ですわ。やはり、魔法具制作の国として名高い公国は、技術の先を進んでいらっしゃいますわね」


 宝石の加工精度が上がる事は、私にとっても喜ばしい出来事です。

 研究を推し進めるにあたり、魔法具に使用できる宝石が枯渇する事が少なくありません。


「現在、その件に合わせて学院へお願いして、ある企画を進めているんだ」

「どのような企画でしょう?」

「今度、全学院生で修学研修があるだろう?その行き先が我が本国セイルヴァル公国に決まったんだ」


 若干急なお話に感じますが、加工技術進展に合わせたとあれば研修先としては良い機会だとも思えます。


「と言う事は、魔法具研究施設を見学させて頂ける、という事でしょうか」

「そうだね。ただそれだけでは研修にはならないから、充実しつつある上等な宝石を一人一つ用いて、魔法具を作成して貰う予定なんだ」


 黒い渦が大きめの宝石は、いくら上流階級の身であろうと早々に入手できる物では御座いません。

 上等な宝石を使用しての魔法具作成は一種の名誉とも言えます。

 それを周りのご令嬢方もよく知っていらっしゃるので、すぐさま歓喜のざわめきが起こります。


「それと、成功失敗に関わらず宝石は返還の必要は無く、全員に差し上げる予定だよ」


 これにはひと際大歓声が沸き起こります。

 大きな宝石というだけで大変な価値が御座いますが、魔法具に使用可能で更に上等な宝石ともなると。

 王族ですら喉から手が出る程の家宝にすらなり得ます。


「素晴らしいお話です。そして公国の寛大さには驚きのあまりお言葉も御座いませんわ」


 その私の言葉に満足して頂けたのか、カイル様は大変ご満悦の様子です。


「ではこの後、研修内容の詰めを話し合う予定なので、この辺りで失礼するよ」


 そう言ってカイル様は席を立ち周囲に優雅に一礼すると、学院執行部のある方向へと歩いていきました。

 周りのご令嬢方は恍惚の表情でまだ余韻に浸っていらっしゃいます。


「……」


 正直に申しますと、今のお話は流石に寛大等という言葉では説明できません。

 世界中の宝石を扱う市場全体に、大きな影響が出るともしれぬ過ぎた内容です。


「何か御座いますね……」


 私の不安な気持ちはミズファの家出を境に、割とよく当たるような気がします。

 もう、ミズファったら変な置き土産をしていって。

 ……今、貴女は何をしていますか。まだ淑女とは言えぬ半端な身のままなれど。


 ……会いたいです。


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【魔都ブラドイリア】


「ふぅん。刺客の失敗ね」


 とある広大な城の謁見の間。

 そこに独り言のように喋る人物がいた。

 真紅のドレスに身を包んだ金色の長い髪を持つ10歳前後の少女。

 禍々しい玉座に座り、手にはグラスを持ち、ゆらゆらと中身を揺らしている。


「で? 氷姫と炎姫は今どこにいるの?」


 少女は肩に止まっている蝙蝠に向かってそう話しかけると。


「……そう。 ……もう一人いる? へぇ、引き続き監視して頂戴」


 その言葉が終わると同時に、蝙蝠はボンっと煙のように消え去った。


「もう一人の子、興味があるわ。少し楽しくなりそうね?」


 そう言うと、「赤い」グラスを小さな口に含んだ。


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