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公国への旅立ち

 都を出る直前に帝さんに要請してあった衛兵へと刺客を差し出しつつ、市場で購入した飴を美味しそうに頬張る僕。

 兵の詰め所の椅子に座って待っていると、程なくエリーナとツバキさんが戻ってきます。

 その後ろには、縄です巻きのようにされた男二名がズルズルと引きずられてきました。


「エリーナ、ツバキさんお帰りなさい」

「ん、今戻ったよぉ」

「はぁ、氷漬けにしたいのぉ……」


 なにやら約一名ぶっそうな事を呟いていますが、まぁ仕方ないでしょうか。

 二人には男たちへの尋問、という名目で殺すのを止めて欲しいとお願いしてあります。

 難色を示されましたが、渋々と承諾して貰えました。

 男二人はどうやらまだ息はあるようです。


「妾、刺客に襲われてからというもの、まったく力を振るう機会が無かったのじゃ……」

「でもツバキちゃん、さっき水精霊の小手で思いっきりぶん殴ってたよねぇ」

「あんな付け焼刃では怒りの発散にもならんわ!!」


 相手は氷に完全耐性を持っていましたからね。

 その魔法具は証拠品として国で没収となります。


 本来は完全な耐性の魔法具なんて、国宝級にしてもいいくらいの希少価値の高い物のはずです。

 公国の宝石の加工技術緩和は本当なのかもしれませんね。


 因みに男たちが見せた魔法具の内もう一つは、完全な耐性ではありませんでした。

 それでもツバキさんからすれば脅威に感じる程の耐性を得られるようでしたけど。


 そんな価値の高い魔法具を持たせる程の信頼と実力がこの男たちにはあった訳ですが。

 実際油断せず粛々と暗殺だけに特化していたら、ツバキさんは既に林で死んでいたはずです。


 男たちの頭の中が女の子畑だったお陰で襲撃は生き延びれた、とも言えますね……。

 その油断の分、今回の囮作戦は、僕をただの子供と思わせていたからこその成功ではありました。


「それにしても、ミズファ強くなったねぇ。最初、作戦聞かされた際には賛成できなかったもん」

「はい、それでも僕を信じてくれたエリーナに感謝です」


 そう言って笑って見せると、エリーナに頭を撫で回されました。


 初めは「やだやだミズファと一緒じゃなきゃやだー」って駄々をこねられました。

 エリーナも男たちの実力がそれなりにある事を認めていた訳です。

 まぁ、心配してくれて僕も嬉しいですけどね。


「して、ミズファよ。余り悠長にもしておられぬのじゃろう?」

「はい、次のメルで直ぐ船に乗り公国へ行きます」


 シラハ元帥さんに頂いた公国の資料。

 流石に国が調べただけあって、公国の情勢、公国の実力者、公爵という人物等について詳細に記されています。


 それを見る限りでは、実力者連中から接触を図った方が良さそうに感じました。

 どうも、公爵という人物……正気ではない「予感」がします。


 ----------------------------------


「炎姫よ。お主なら公国を実際に見ているのであろう?」

「んー……まー確かに行った事はあるねぇ。魔法具の研究にご熱心な国だから、その関係上魔法学院の要請で二回程ねぇ」


 公国へ向けて出発し、現在は海の上です。

 船に乗ってから4メル程。

 公国まであと数メルで着く辺りで、公国についての情報整理と会議をしています。


「エリーナから見て、公国はどんな感じですか?」

「良くも悪くも貴族主体の国かなぁ。あたしは魔法具研究施設以外は余り詳しくはないんだけどねぇ。貧富がはっきりしているのは見て解るような国って印象だったかなぁ。まぁ概ね元帥さんがくれた資料通りだねぇ」


 エリーナによれば、公国は裕福層と貧民層が大きく分かれており、スラム街のような場所で暮らす人が他国に比べて非常に多いそうです。


 そんな状況でよく国として成り立ってるなぁと素人な僕は思うのですけど。

 どうやら国自体が奴隷の売買を公認しており、相当に益をなしているようです。

 スラム街を少し漁れば、売れそうな原石はその辺に沢山落ちており、一つの例として、親にお金を渡して子供を奴隷商が買ったりする訳です。

 我が例えながら吐き気がします……。


 それともう一つ。この国の要となっている物、魔法具の制作です。

 先ず魔法具の土台となる、希少性ある精度の高い宝石を作り出せた場合、それ一個でお屋敷が建てられます。

 襲撃してきた男たちが持っていた魔法具は、作成成功率でいえば小数点以下とも言える程の確率だと思われます。


 少し魔法具作成の行程を整理したいと思います。


 まず大きな原石から宝石へと加工します。

 この加工は何十クオルダも修業した専属の職人が行います。熟練の業でも五割ほど失敗します。

 次に、宝石として完成した物を魔力がある者数十名で審査します。


 この審査で黒い渦がどれ程の大きさかを識別するわけです。

 渦が無い場合は装飾用として市場に流されます。

 渦がある確率自体も割と低めで、三割程度のようです。

 因みに職人には渦が見えません。魔力のある職人は過去一人もいなかったようです。


 そして審査に合格した宝石を土台にして魔法具を製作します。

 何を作りたいかを明確にイメージしながら魔力を注ぎ、ニメルダ程この作業に集中します。


 耐性の魔法具を作りたいなら、それをしっかりとイメージして作成します。

 レイシアが「生活に役立つ魔法具を作りたい」と言っていましたが、魔法効果以外のイメージで作成しても中々成功はしないようです。


 レイシアのお手伝いをしていたのが懐かしいです……。レイシア何してるかなぁ、会いたいなぁ。


 ……と、まぁそんな感じで魔法具として完成すれば瞬時に財を成しますが、それでもコストが割に合いません。

 宝石に加工する際に失敗したらその時点でお金の無駄ですからね。


 こうした観点から。

 どうも僕のイメージというか、公国の印象は行き当たりばったりのギャンブルの国、という感じです。

 実力者とされる貴族さん達、まともな人達だといいなぁ……。


「結局の所、実際に見てみるしか無いようじゃの」

「なんか話を聞けば聞くほど、暗いイメージばかりの国ですね」

「陰気臭いのは嫌だよねぇ」


 女三人そろってため息です。


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 それから数メル程。

 公国の港町に到着しました。

 丁度暮れ始めて、間もなく夜になる頃です。


 港の街並みを見る限りはベルドア王国とそれほど引けは取らないようです。

 先ずは船旅の疲れを癒す為に宿を取ります。

 何かムラクモの生活に慣れてしまったせいか、洋風な作りに違和感を感じてしまいます。


「むぅ……。ベッドとやらは性に合わんのじゃが」


 3部屋を借りて皆で僕の部屋へと集まると、ツバキさんが早速不満を漏らしています。


「その内になれますよ。とはいえ僕も数えるほどしか宿に泊まったこと無いんですけどね」


 泊ったのはベルドア王国内で港町に着くまでに二回ほど。

 お金は全部エリーナが出してくれました。今でも感謝感謝です。


「ねぇねぇお腹すいたよぉ。公国の情報収集の為にも先ずは酒場でご飯にしない?」

「炎姫に同意するのは不本意じゃが、腹が減っては戦はできぬと言うからの」

「そうですね。美味しいものを食べて、次のメルから頑張りましょう」


 三人で意気投合し、今後の英気を養うのでした。

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