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不穏な影

 僕たちが居候しているツバキさんのお屋敷は、【帝】のいる都から僅か二日ほどの山間の村にあります。

 平野部はいたって平和で、村から都までの街道はまずモンスターに襲われる事はありません。

 比較的、国全体がこのような感じなので、他国からの行商も大変盛んです。


 その代わり、国内のあちこちにある山は全て立ち入りを禁止されています。

 この国特有のモンスター【鬼】を始めとした、レイス級がちらほら巣食っているそうです。

 そして「霊峰」と呼ばれるムラクモ最大の山には、【火の鳥】がいるとも言われています。


 この火の鳥は「国家指定級モンスター」と呼ばれていて、世界共通の最大危険モンスターを意味します。

 この「国家指定級モンスター」は他に【魔王】と呼ばれる人物と、海を統べるとされる【海龍】がいて、これに火の鳥を入れた三件のみがそれにあたります。


 そんな危険なモンスターがいる国ですが。


 倭国“ムラクモ”は完全に統一された島国です。

 国内紛争は無くとても平和で、帝と呼ばれる王様の王政国家になります。

 その昔、颯爽と現れた謎の男が天下統一を果たし、後に隠れるように歴史から消えたそうです。

 代々の帝さんはその男の血筋を引いてはいないとか、“ムラクモ”の初帝は伝記の御仁だとか色々説がありますが、どれも確たる証拠もなく、今に至ります。


 氷姫であるツバキさんは、帝さんから直々の命令で、お抱えの武将達では歯が立たないモンスター討伐をたまに行っているようです。

 実のところ、今回の僕の日課への同行もそのついでだとか。

 余計な労働を嫌う人なのです。


「ここより先は道なき道を進む事になる故、ミズファよ。妾を背におぶるのじゃ」

「え、嫌です」

「なんじゃ、ケチじゃのぅ……。一宿一飯どころでない程の大恩が妾にある筈なのにのぅ……」

「……」


 エリーナみたいな事言い出しました。

 年下の子供捕まえて何言ってるんですか貴女は…。

 確かに感謝の気持ちでいっぱいですけど!

 それとこれとは別です!


 -----------------------------------


 僕たちは今、一番ツバキさんのお屋敷から近い山の中間にいます。

 目的の敵は「山猿」です。

 名前だけを聞くと凄く弱そうですが、この世界に弱いモンスターはいません。


 因みに山といってもそれなりに大きい裏山、と言える程度で大した山では無いです。

 それでも、山は山です。いつ死んでもおかしくない場所なのです。


「……ん。ちょっと風が出てきましたね」

「うむ。じゃが、林に入ればそこまで気にもなるまい」


 僕とツバキさんはそう言いながら、ヒラヒラとなびくスカートをちょっと気にしつつ歩きます。

 そうそう。

 僕の今の服なのですが。


 エリーナが買ってくれたとっても可愛い服です。

 黒を基調としたワンピースの上に白のコルセット、さらに魔術師風の上着を重ね着しています。

 ひざ上のスカートなので風になびくと見えそうなのがちょっとアレなんだけど。

 記憶の断片にある魔法少女ってこんな感じなのかなぁとか思ったりします。


「そういえばツバキさん。私用のモンスター討伐の方へは行かなくていいんですか?」

「よい。今回は近隣の見回りをせよとのお達しじゃ。この山も近隣には変わらぬ」

「物は言いようですね」


 とはいえ、本当にここでツバキさんに離れられると困ります。

 実力試しとはいえ、不測の事態は常に考えないといけません。

 一人になるという事は、生きる事を放棄したも同然だから。


 でも、ツバキさんっていつも一人でモンスターを倒してるんだよね。

「姫」とつく人たちってほんと規格外です。

 そういえば…いつのまにか、四人のうち三人には出会ったんだ。

 いつか風姫と呼ばれる人も会ってみたいです。


「ミズファ」

「はい。近くに居ますね」


 林の中に入り、景色は森の中と余り変わらない場所。

 レイスの森を思い出して若干トラウマだけど、集中し、察知魔法で周囲を警戒します。

 どうやら木の上に何かがいるようです。

 でも、気配がなんか変です。


「ふむ。これは驚いたのぅ」


 ツバキさんはその気配が何か解ったようで、何か別の意味で警戒しているようです。


「ツバキさん、察知だけでどんな相手なのか解るのですか?」

「戯け。まだまだお主も経験不足じゃの。周囲にいるのは人間じゃ」

「え?」


 言われてから再度周囲を魔力で調べます。

 魔力で察知できた生物反応は四つ。

 モンスターの場合、察知した反応の「揺らぎ」がとても大きいのですが、この四つはそうでもありません。

 この「揺らぎ」ですが、人魂の炎が一番イメージに近いと思います。

 そういえば人間の生物反応を調べる機会はなかったので、ツバキさんから言われて納得しました。

 因みにどんなに重ね掛けしても自分を中心に20メートルが察知範囲の限界のようです。


 人間だと解ったのはいいけど、別の問題が。ここ山だよ?


「そこな四人組。姿を見せよ!それで隠れているつもりかの?」


 ツバキさんが周囲に向かって話しかけると。


 少し間を置いてから、四人組の男の人が飛び降りてきました。


「へぇ。流石は氷姫ってとこか。」


 四人組のうちの一人がそう喋ります。


「貴様ら、他国の者じゃな?こんな辺鄙な場所で何をしておる?」

「喋ると思うのか?」

「……ふむ。気配から察するに相当の手練れと見えるな。周囲に魔物の気配も感じぬ」


 この四人組は明らかに“ムラクモ”の人間ではない風貌です。

 装備や服装もこの国独特の物ではありません。

 こんな林の中で、しかも他国の人が何をしていたんだろう?


「もう少しで上から襲って、そのまんま押し倒す予定だったんだけどなぁ」

「お前、鬼畜だな」

「別に目的さえ達成すりゃあ、その前に楽しんでもいいじゃねぇか」


 残りの三人の会話でベルゼナウの正門の記憶が蘇り、とっさに自分の肩を抱いて僕は震えました。


「見込み違いじゃったか。どうやらただの下種のようじゃの」


 つまらない物を見たようにそう相手に吐き捨てるツバキさん。


「その下種に自分から腰振るようになるぜぇ」


 そう言うと嫌な声で笑い出す男達。


 ツバキさんはその笑いを意に介さず。


「目的は妾の暗殺、と言った所かの。大方【セイルヴァル公国】の差し金じゃろうな」

「察しがいいねぇ」

「戦争をけしかける前に先に邪魔者を排除する。まぁ、理に適ってはおるの」

「どうも依頼を受けるタイミングが悪かったみたいでなぁ。炎姫から離れるこの機会をずっと待ってたっつー訳だ」


 そういうと男の一人はニヤリっと笑い。


「きゃ!?」


 トラウマで少し自失していた僕は、いつの間にか四人組の一人に羽交い絞めにされました。


「このガキについては報告が無かったが、こうもあっさり捕まえられるなら大したことねぇな」


 ツバキさんはチラリ、と僕を見据えます。


「まぁそういう事だ、氷姫さんよ。妙な真似はすんなよ」


 そう言うと、恐らくリーダー格の男がパチン、と指を鳴らします。

 その合図で二人の男が魔法具を見せます。


「……氷耐性の魔法具じゃな」

「なんの準備も無しに氷姫とやり合う馬鹿はいねぇよ」


 残りの一人がもう我慢できないと言わんばかりに。


「おい、もう頂ちまおうぜぇ。これで完全に氷姫は何もできねぇんだからよ」

「ほんと鬼畜だなお前」

「俺、この銀髪でいいわ」


 その会話の瞬間、胸を弄られる嫌な感触を感じました。


「やっ……!? 嫌、止めてください!」


 嫌悪感と気持ち悪さと違和感と。

 自然と涙が滲んできました。


「やめよ!!目的は妾であろう!その娘はなんの関係も無い!」

「いや、勿論氷姫ちゃんにも頑張って貰うから」


 笑い出す男たち。


「く……っ!!」


 苦々しい形相で男たちを睨むツバキさん。

 そこにはいつもの余裕はありません。


「そんじゃ、お楽しみと行きますかぁ」


 男が僕の服に手をかけた。

 その瞬間。


「……あ!!!?」


 僕に乱暴していた「男だけが炎に包まれました」。


「ぎゃあああああ!!!」


 男は悶え苦しむとすぐにピクリとも動かなくなり、黒い何かに変貌しました。


「何!?」

「ちっ。炎姫だな。気づきやがったか……」


 残りの男たちの焦りは一瞬のみ。

 直ぐに状況を理解したようです。


 木の隙間から、静かに近づいてくる炎姫。


「君ら。あたしの大事な愛娘によくも好き勝手やってくれたね」


 いつもの気怠そうな雰囲気はなく、表情は一切笑っておらず。

 本来の炎姫がそこにいました。


「だから一人見張りに付けようぜって言ったのによぉ」

「ふざけろ。氷姫程のいい女を前にして指加えてられるか。まぁ、炎姫もかなりの上玉だけどよ」

「お前ら黙れ。撤退するぞ」


 リーダー格の合図に、すぐにその場から男たちは散っていきました。


「……」

「ミズファ、大丈夫?」


 優しく撫でてくれるエリーナ。


「……う、えりーなぁぁぁぁ」


 僕は一気に涙が溢れ、泣きながらエリーナに抱きつきました。

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