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東の国と伝記

挿絵(By みてみん)

「疾風!」

「“祖は語る、万物を阻まんとするは灼熱の息吹”フレイムブレス」


 先読みしたかのような速さで術式が組まれ、僕の風の刃は炎に絡み取られて消滅します。


「三重疾風!」


 僕は走りながら更に連続で三つ風の刃を出します。

 これには流石に対応できず、相手は回避行動に出たようです。


「水精霊の小手!」


 透き通った水が形を成し、右手に収束しつつガントレットの形状になります。

 そのまま相手を射程に捕らえ、高密度の水の魔力を撃ち込む瞬間、すでに相手は術式を組み始めていました。


「”祖は語る、原初たる蒼の炎は泡沫の如き眼前の灯火を灰塵へと還す”」


 あ、まずいです。

 相手は炎属性の最高位の魔法を使ってきました。

 水精霊の小手を解除して、直ぐに防御魔法を展開します。


「耐熱防壁!、熱波遮断!、炎耐性強化!、魔法耐性強化!」


「炎術「蒼炎」」


 僕が自己強化をかけ終えるのを待っていたタイミングで相手はその魔法を発動します。

 僕を中心とした範囲のみ、この世界から切り取られたように蒼い炎に包まれました。


「……ぅ……ぐ……」


 耐熱防壁が物凄い勢いで削れていきます。

 両手で壁を維持して、蒼い炎が消えるまで耐えます。

 防御魔法を重ねてかけていなければ、一瞬で防壁は消えていたでしょう。


 ちなみに僕以外に魔術の重ね掛けが出来る人はいません。

 それが解っていて相手はこの魔法を使ってきました。


 炎は徐々に消えていき、僕はとっさに自己強化魔法をかけます。


「速度強化!、魔法威力向上!、魔法耐性強化!、炎耐防……」


「“祖は語る、幾重にも重なる獄炎の龍牙を眼前に穿てと”フレイムドラゴン」


 凄い速さで術式を組まれた僕は自己強化を炎の竜に阻まれます。


「きゃあ!?」


 炎の龍に噛み付かれそうになるギリギリで、その魔法はパチンっと消えました。

 既に攻撃魔法への耐性を上げていたので、噛まれても死ぬ事はないけど相手が悪いです。

 二、三日は治らない傷を受ける事でしょう、僕の負けです。


「予感」に頼らずに戦うと、僕は自己強化に頼る癖があります。

 相手はこちらの行動が解ったように、術式省略に対応して先を読んできます。

 流石は魔術の講師をしている程の使い手なので舌を巻きます……。

 うー悔しい。


「あのねぇ……。そんな自己強化ずっとやってたら、ただの的なんだけど」

「エリーナの術式が早すぎるだけです!あと、魔法具反則です!」

「それ言ったら君の存在自体が反則なんだよねぇ……」


 魔術の練度向上も兼ねた戦闘訓練の最中。

 エリーナにいちゃもんを付ける僕。


「……お主等、まだ続ける気かの?」


 それを面白くもなさそうに見ている【ツバキ】さん。


「そうだねぇ。そろそろ一休みしようか。あたしも汗びっしょりだしねぇ」

「お主の場合、けったいな炎で常時熱を帯びているせいであろう?【炎姫】」

「ん。丁度冷たいもの発見ー」


 エリーナは思いっきりツバキさんに抱きつきます。


「ひゃ!?な、何をする止めるのじゃ!あ、妙な場所に触るでない!」


 そんな二人の掛け合いを微笑ましく思いながら空を見上げます。

 旅に出てから間もなく7クオルが経過しようとしていました。


 -----------------------------------


 ここはベルドア王国から東にある国【倭国“ムラクモ”】です。

 僕は今、ベルゼナウを離れてこの国に来ています。

 伝記が気になり、エリーナにお願いして連れて来て貰いました。


 僕みたいに術式を組まずに魔法を扱ったとされる人物を調べる事で、今後の魔法修行の助けになればと思ったのです。

 記憶の断片にある、元々住んでいた世界の遥か昔の時代のような国で伝記を訪ね歩くと、一人の人物に辿りつきました。


 現在の伝記の所有者は、【氷姫】と呼ばれるツバキ・シラユリさんだったのです。


 彼女は紫を基調とした丈の短い和服を着ていて、記憶の断片では和ゴスと呼ばれるような服。

 髪は白色のロングストレートで、エリーナと同じくらいの16歳前後の少女です。


 エリーナとは面識があるらしく、その縁で現在はツバキさんの家に滞在しています。


「んー冷たくて気持ちいい気がするー」

「妾は今魔術の展開などしておらんわ戯け!…まったくこれじゃから炎姫は」


 ツバキさんはエリーナを引きはがし、身嗜みを正しながらぶつぶつと呟いています。


 初めてツバキさんに会った時、事あるごとに炎姫と言うので誰の事かと思いきや、まさかのエリーナの事でした。

 旅を始めた頃から規格外の強さでモンスターを消し炭にしていたので納得はしますけど、なんで黙ってるかな。

 レイシアや屋敷の人達が炎姫だと知らなかったのは、そもそも炎姫の正体がエリーナだと知っている人が少ないからだそうです。

 せめてレイシアくらいには名乗ってあげてよ…。


「して、ミズファよ」


 ツバキさんが空を見上げていた僕に語りかけます。


「はい。なんでしょう?」

「随分と【重魔法】が馴染んできたようじゃの」

「はい、ツバキさんと伝記のおかげです」


 重魔法は連続で魔法を使用し、魔法の効果に更に上乗せして重複させる技能です。

 ツバキさんが所有していた伝記にそのやり方が書いてあり、大分習得できた実感がありました。

 最初は二重が限界で、徐々にコツを掴み四重まで出来るようになりました。

 この重魔法は大前提として、術式省略が出来なければなりません。


 本来は術式を組んで発動するという一定の縛りがある以上、重複出来る程の速さで次の術式を組む事は不可能です。

 なので、この伝記が異端扱いされるのは当然の事でした。

 ツバキさんは僕が術式省略が出来る事については少し驚いた程度で、その後は特に珍しくも無いように僕の修行を見ています。

 その方が僕としてはかえってやりやすいです。


「お主は確か、その力でベルゼナウのレイスを倒すと言うておったか」

「はい、そのつもりです。戦闘の経験が全然足りないので、まだ先になりそうですけど」

「ふむ。あやつが結界に隔離され三百クオルダは経っておる。…が、隔離されておると言うても、森の中であれば力を制限される事は無いのじゃ。これがどういう意味か解るかの?」


 しばし、考えます。

 森の中から出てこれないなら特に問題はないように思うけど。


「解りません。どうなるんですか?」

「眷属を増やし続けられるのじゃ」


 それを聞いて顔から血の気が引きました。


「妾は三百クオルダ、と言うたな?」

「はい……」

「せめて伝記の御仁が生きておる世ならば、斯様な森に等なら無かったであろうに。もはや、あの森の中にはどれだけの眷属がおるか妾でも解らぬ。レイスを倒すつもりでおるならば、その上でよく判断するのじゃな」


 レイスだけなら倒せる確信はあります。

 けど、事はそんなに簡単では無いようでした。

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