ここはどこ?
ちらちらと粉雪が舞い落ちている。
雪は僕を少しずつ白に変えていく。
薄れていく意識の中、視界はボヤけて景色はおぼろげだ。
間も無く意識が途切れるその時、ようやく終われる、そう思った。
この日、僕「水間佑都」は自殺した。
流れていく血だけが、白を赤色に染め上げていた。
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チュンチュン、と鳴く声が聞こえる。
その鳴き声に徐々に重たい意識が浮かび上がってくる。
ふと、目を開ける。
目を開けると広大な空が映った。
「……」
暫く放心したように、その場で空を見ながら考えた。
まず思った事は、あぁ、死ねなかったのか、だった。
「……?」
あれ? 僕は何故死ねなかったと考えたのだろう。
死のうとした理由が思い出せない。
ただ、死ねなかったという事だけは直感的に理解できた。
妙な違和感だ。
何か釈然としないまま取りあえず身を起こす。
ふと、目を周囲に向けてみる。
花畑だ。
とても綺麗な花が咲き乱れている。
その花畑の周囲を木々が生い茂っていた。
森をかき分けて進んだら、開けた場所に花が沢山咲いていた、ようなきっとそんな感じの場所。
「……」
……あれ? ここどこ?
おかしい。こんな場所は知らない。
更に視界を巡らせる。
花畑と木々以外はこれといって、建物らしき物や目立った建造物は見受けられない。
ここで僕は何をしていたの?
死のうとしていた、のはなんとなくだけど理解はできた。
死のうとしていたそれ以前の事が思い出せない。
……もしかして、これ軽く記憶喪失なんじゃ?
けれど、自分が誰なのかは解る。「水間佑都」15才になったばかりの中学生だ。
それ以外は記憶が色々と断片過ぎて、理解が追い付いてこない。
今の状況に若干の焦りを覚えて、不意に立ち上がろうとした。
急に立ったせいか、立ち眩みのような感覚でよろめき倒れそうになる。
「……んぅ」
……ん?
唐突に澄んだ女性の呻きが聞こえた。
子供の女の子のような声。
どう考えても倒れそうになった時、僕自身が出した声だ。
「あー……あー」
もう一度声を出す。やはり女の子の声だ。
視界を自分の体に落とす。
見慣れない布のような、けどどうみても奴隷のような格好だ。
そこにほんの少し膨らんだ胸がある。
逆に「本来ある物」が下部にはない。
「どうなってるの……?」
記憶が曖昧な上に、僕は女の子になっていた。
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「ええと」
状況を整理しよう。
何故花畑にいるのか。
何故記憶が曖昧なのか。
何故女の子になっているのか。
うん。
全然解らない。整理のしようもない。
僕はあまり頭が良く無いみたい。
けれど、最後の女の子になっていた事。
これに関しては何故かあまり違和感を感じなくなっていた。
最初は女性になっているという驚きがあったのに、今はすんなり受け入れている。
不思議な感覚。
元々男だった事に間違いは無いのに、下心とか「そういう気持ち」はかなり薄い。ちょっと気になる程度の物。
ふと、髪に触れてみた。
髪は長く腰まで伸びていて、銀色だ。
みすぼらしい服装に相まって妙に綺麗な髪だなぁと思った。
と、今はそれ所じゃない。
「何時までもここでこうしていても仕方ない……よね」
僕は理解の追いつかない思考を巡らしても無駄だと悟り、森の方へとあてもなく無く歩き出した。