04
ダイヤを粉にして空に散らしたような煌めく星々と、手持ちの星座標
そして望遠鏡に目を当てる作業を交互に繰り返しながら、
近所に住む小学6年生のヤミオはいつもの様に忙しなくノートに文字と絵を書き込んでいる。
これも、昇子が持ち込んできたボランティアのひとつ、子どもの天体観測の付き添いだ。
「おいショーマ、これ何て読むんだよ」
夜道は危ないと諭されて、でも星の勉強をしたいというロマンティックな少年のご両親の相談を受けて
なら高校生のうちの子を派遣しましょうと送り込まれたのはいいものの、
学校に行っていないと耳にすると突然、ヤミオは翔馬のことを完全にナメ腐った態度で接するようになり、まるでケライかのように扱った。
「はいはい。」
翔馬も翔馬で、そんな無礼も気にせず対応するので
週一で一カ月近く、この天体観測は行われているが2人の関係性は改善されることがなかった。
「ここ、ガラ…?形の。」
図鑑を遠慮なく顔に押し付けられ、指さされた箇所の説明文を確認する。
「ああ、柄杓、だよ。ヒシャク。射手座のここが北斗七星と同じ、水を掬う道具の形に似てるだろ。」
教えられてヤミオは感心したように図を眺め、再び空を仰ぎ見る。
勿論感謝の言葉は無い。
翔馬は溜息を一つつき、自分が持ってきたリュックサックからファンシーな包みを取り出す。
それは毎回昇子が持たせてくれる手製の菓子で、一応ヤミオの分もあるのだが、本人が食べたことは一度もない。
何でも、「食べてる時間が勿体ない」らしく、小学生とは思えないストイックさで勉学に打ち込んでいる姿勢に翔馬は毎回感心している。
ストイックと言えば、ヤミオにはもう一つ、普通の人間とは違う習慣がある。
「あのさー、前から聞こうと思ってたんだけど、その仮面って何なの。」
翔馬はそれを尋ねた。
初対面の頃から、何故かヤミオの顏、上半分にはマスクが被されているのだ。
西洋の騎士が装着するようなデザインをしていて、鉄の質感を模した銀色のプラスチックで作られたそれは、目の部分が開閉できるようになってはいるが、翔馬が知る限り望遠鏡を覗く時にしか上げられたことが無い。
「今更、それを聞くかよ。」
ヤミオが翔馬に背中を向けたまま、望遠鏡を覗いた格好で言い放つ。
「えー、いや、親御さんに陰で聞くのもルール違反な気がするな、と思って。」
翔馬もそれを真似て、幼い頃に母親から与えられた望遠鏡を覗く。
「何かの事情があるなら教えといてよ。」
「はあ、テメーにカンケイねーし。」
降ろされた仮面のスリットから、ヤミオの視線を感じる。
「言いたくないなら良いけどー。
オレだってこの場所秘密にしてたのに教えたんだよ。」
そう言って翔馬が手を広げた此の場所は、昼間することが無くぶらついていた際に偶然見つけた山腹に位置する、
開けた野原。
星が近くに見え、天体観測には申し分ない環境、だけど誰も近寄らない隠れた名所で、
ここを紹介したのも、いつも自転車の前籠に図鑑やら望遠鏡等、重い荷物を詰め込んで二人乗りで連れてくるのも翔馬なのだ。
「それ、言うのハンソクだろっ……」
義理を重んじるオトナのルールを知りはじめた年頃の少年は、
痛い所を直に突かれたのが応えたらしくモゴモゴと口籠る。
しかし覚悟を決めたのか、翔馬に背を向けたまま話し始めた。