19
「べ、弁償します……ほんと、いつになるか解んないっすけどちゃんと…」
「ショーマ、大丈夫カ?」
「ええ?いやちょっと今取り込み中だから待って…これ、大丈夫じゃないしマジでほんと…」
聞きなれた可愛らしい声に返事しながら、前髪をガシャッと掴み項垂れる翔馬は、ハッとして顔を上げた。
「クローム!?」
「そ、ダヨ。」
喜んで振り返った翔馬は、そのまま口を開けて愕然とした。
クロームの口調と声色そのままに、喋っているのはいきなり現れたさっきの子供だったからである。
「え…と、」翔馬が言葉に詰まっていると、背の高い方が呟いた。
「よもやこんな事態に陥るとは思うとらんかった……。」
「いや、想定内だったぞ」
それに対して小さい方が勝ち誇った様に含み笑いで言った。
「現代の若者は我々に対し畏怖の心持など無いに等しいと、言ったで有ろうに」
「しかして」
「翔馬、と言う名だったな。クロームの変化は本人たっての願望である。
その健やかさと信心深さ、切なる思いに我等は応えたに過ぎぬのだ。」
尚も微動だにしない翔馬を鎮めるように、小さい方は翔馬の前に浮きながら進み出ると心臓に向けて手の平を掲げた。
そのおかげか、少し落ち着きを取り戻した翔馬はクロームだと自称する子供に向き直って尋ねる。
「きょ、今日の…晩御飯の予定は?」
「冷蔵庫にアル豚のコマ切れ肉をツカッタ丼ブリ」
「さっき行った場所で俺が頼んだ飲み物、は?」
「自販機カラ、ウルトラサイダー」
「誰に」
「タチバナサン。」
「明日の予定」
「フリーカメラマン古狩サンのロケハン手伝イ」
「………昔、クロームが座ってた椅子に貼られてたシールは」
「ポケモンのロゴ」
「俺の部屋のトップシークレット」
「勉強机引き出シノ裏カベ」
「じゃあ、じゃあ……香木っクロエの、好物は」
「オレンジとバニラ、ケドホントはイカと海苔。」
翔馬は幾つかプライベートな質問を繰り返し、それに間違うことなく秒速で答えるクロームに脱帽、とばかりに謎の二人組を見返した。
「……すみませんでした。」