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シロ×クロ2  作者: あらた
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第1章③ 少年の罪

ジャスパーは、気付くとあの場所の前にいた。

そこである人物と出会い、話をすることに。


「足りないもの、か……」

短く髪を切り落としてしまったジャスパーは、後頭部のギザギザしている部分を触りながら、一人街を歩いていた。


まだ真っ暗というには少し早い時間帯だったが、街灯がぼんやりと辺りを灯し始める。


特にどこかへ向かおうという気持ちはなかったのだが、気が付くと城下街の中心部にある広場に着いた。

そして、ジャスパーが立っているのはこの場所にはあまりにも不釣り合いな、崩壊してしまった壁の残された一面。

その壁を見上げ、そっと触れた。


「ここが終わりの場所」


ほんの一年前。

ジャスパーがこの国を訪れ、悪に手を貸し、この世界を破壊へと導くとてつもない力を持った「創られた神」を目覚めさせてしまった。

その力は強大で、真実に気付き「創られた神」を討伐すべく刀を抜いたジャスパーは全く足元にも及ばず自らも腕や胸部に大怪我を負う事態になっていた。

純正団さえも太刀打ちできず、この国も終わりかと諦めかけていたのだ。


しかし、スミレの左目に宿る神の力、この国の王子シロが自らの命を対価として身に落としていた神の力が共鳴し、クロがスミレの生み出した槍で「創られた神」をこの壁に刺し止め、真の神の力をもってこの街を救ったのだ。


大きな怪我を負って意識を失っていたジャスパーには、人づてで聴いた話だったのだが。

最後まで見届けることもできなかった自分にさらに悔しい想いが募る。



「こんなところで何をしている」

感傷に浸るジャスパーに声をかけるものがあった。

振り向くとそこにはこの場所とジャスパーの罪の意識にもっとも結びつく者が立っている。


「イキシアさん」

まさかこんなところで声をかけられると思いもしなかったので、戸惑いと驚きが表情に出てしまった。


「なんだその顔は。私とこんなところで会うなんて信じられないといった顔だな」

ジャスパーの心が字に書いたかのように的確に読まれていた事で、さらに言葉を失った。


イキシアは『純正団』団長である。

すらっとしたスタイルのいい体格に、金色に輝く肩まで伸びた髪をさらさらと揺らしながらジャスパーの方へゆっくりと歩いてくる。

キリッと吊り上った大きな目に、尖った耳。

元は天上界で暮らしていたエルフ族である。


しかし、クロとの勝負に敗れシロのスカウトを渋々受けることとなったのだ。


天上界とは神の世界。

つまりイキシアは神の領域の住人である。


「こんなところに居るなんてと思ったのは私の方なのだがな」

イキシアはジャスパーの目の前に立ち、顔を向けることなく目だけで見下ろした。


「あ、あの、そうですよね……」

イキシアに圧をかけられるように睨まれたジャスパーは小さくなり目を下へ逸らす。


突然イキシアがジャスパーの髪に触れた。


「!?」

思わず顔を上げイキシアの表情を窺うジャスパーの目には、表情一つ変えないイキシアの読めない瞳が映る。


「最初は違和感しかなかったが、なかなか似合っているじゃないか。うまく整えたもんだな」

本心こそは読めないが、乱雑に切り落とした髪型からきちんと整えたところを初めて見たイキシアには感心すべきところがあると言いたげな表現がうかがえた。


「あ、ありがとうございます。クロさんが切ってくれました」

ジャスパーがそう言うとイキシアの表情が少しだけ柔らかくなる。

「あの堅物にそんなことができるのか。あいつも変わったものだな」

鼻で笑ってはいるものの、まったくバカにする様子は感じられない。

クロについては勝負に負けた悔しさという物は全くなく、この国を護るためにシロと共に戦ってきた仲間の意識の方が強いようだ。



「もう、終わったことだ」

イキシアは今度はボロボロでも崩れない創られた神の最後の壁に視線を移した。

ジャスパーも静かに口を開いたイキシアの言葉をかみしめながら、壁の方を見る。


自分の髪の一部が創られた神の生成に関わっていた。

ジャスパーは、創られた神の最後の力の源として神の力の宿るものを手に入れるため城へ潜り込んでいたのだ。

始めは、スミレの瞳を奪うために近づいたはずだった。

しかし、献身的なスミレの人柄にふれ目的を果たせないと思っていたところに、神の国の住人であるイキシアと出会いその一部、髪の毛を城内清掃を行う中で集め、最終手段として創られた神へ差し出したのだ。


真実を話し、罪を認めたジャスパーを皆は受け入れてくれたが、イキシアは感情が読み取れない分いまだにジャスパーの中にはわだかまりが残っている。


事あるごとに気にしているジャスパーには毎度そう言って、本心を濁しているように思えた。



「お前の様子がおかしい、とスミレが心配していたぞ」

「え?」

突然長かった髪を切り、物憂げな表情で『もう朝は起こしに行けない』などと言われれば気にはなるか。とジャスパーは自分の行動を反省した。


「スミレの様子がおかしいと、うるさいやつもいるということを忘れるな」

「はい、シロ様ですね」

イキシアとの緊張の出会いからこんなに話が続くとは思わず、ジャスパーは心が緩んだ気がした。


「僕は何をしてもイキシアさんに迷惑をかけてしまいますね」

またしても、イキシアへの申し訳なさが前面に出てしまいうかない表情になってしまう。


「気にするな、と言っている」

いつまでもうじうじしているジャスパーに呆れたようにため息を吐く。

しかし、その言葉の中にはどこかまだトゲあるような気がしてしまう。



「何かを成す為には何かを失うのは当然の事だ」

イキシアはジャスパーの肩に手を置き、壁の下を指さした。


いくつかの花束が添えられている。

その前には名前が刻まれた石碑もたっていた。

それはもちろん創られた神へのものではない。


「国を護るために、亡くなったものもいる」

ジャスパーの目の前が真っ暗になった。

そして、つきつけられた現実に自然と涙が出る。


ジャスパーを苦しめていた真実。


もちろん犠牲があったことは知っていた。

それは間違いなく自分のせいだとジャスパーは自分を責めてきた。


「彼らのおかげで、国は護られたのだ。本望だろう」

石碑に視線を投げるイキシアの横で、ジャスパーは血が滲みそうなほど拳を強く握った。


「違う……僕がかかわらなかったら、この人たちは……」

うつむき辛い思いの中やっとのことで声を出す。


「お前、自分がそんなに大したことをしたと思っているのか?」

「それは……僕がイキシアさんの……」

思わぬイキシアの言葉に、ジャスパーは戸惑いの表情となった。


「お前も聞いたはずだ。あのできそこないの言葉『不完全な神の一部』だと。認めたくはないがスミレの瞳が取り込まれていたらと思うともうこの国、いやこの世界の存在なんてないだろう」

イキシアの冷たい瞳からはいつの間にかほんの少しだけ、ジャスパーを育ててくれていたクロの瞳と同じ温かいものを感じた。

「ですが……」

引き金は自分であることは変わりない、自分がいなかったらと何度も何度も考えてきた。


「尊い犠牲者の為にお前は『純正団』に入りたいといった。だがお前には足りないものが多すぎる。これはシロ殿だけの想いではなく全員一致の想いだ」

ジャスパーの目をしっかりと見ながらイキシアは想いを伝える。


「足りない物を補い、強くなって見せろ、お前にはその素質はある」

「イキシアさん……」

悲しみの涙がいつの間にか温かい涙に代わっていた。


「それが償いになるのなら実現して見せるんだな」

イキシアの力強い眼差しを受け、ジャスパーの瞳にも光が射しこんだ。



「お前にはまだ足りていないものがある。一つは自分の事だ」

「僕自身のこと?」

確かにジャスパーには、村での恐怖以外の記憶はほとんどなかった。


『和の国』で暮らしていたジャスパーだったが、近くに共存していたはずの鬼たちとの抗争が始まり巻き込まれ自身も斬られてしまうところをクロが救ってくれたのだ。

しかし、記憶の勘違いから、クロによって集落は滅ぼされ自身も命の危機にさらされたと思い込み、敵を探し旅をしてきたのだ。

ウェンダブルへ入ると、そんなジャスパーの想いを利用した創られた神の生成者は敵のクロの居場所である城内へとジャスパーを向かわせたのだ。


記憶の間違いも解けてはいるものの、ジャスパーは自分についての記憶が曖昧であったことに気付いていたのだ。



「お前に足りない物を取り戻す、という選択もあるんだろ?」

「え?どういう事ですか?」

イキシアの話の展開の速さにジャスパーの頭が混乱してくる。


「学校への入学までまだ少し時間がある、行ってくればいい。と、シロ殿が……」

どうやらイキシアは、その事を伝える為にジャスパーを探していたようだ。


「イキシアさん!!」

感情はイキシアへの感謝の気持ちとまとまり、感極まってイキシアに抱き着いた。


「貴様!」

すぐに引きはがされジャスパーはまたイキシアに冷たい眼差しを送られてしまう。

またしばらくは、冷たい態度をとられることになりそうだ。


お読みいただきありがとうございました。

ジャスパーの心の闇は深いですね。次回はとうとうお出かけ編です。

そこでも何か起こります。次話更新をお持ちください。

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