表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シロ×クロ2  作者: あらた
3/5

第1章② 王子と純正団

前話の少し前のおはなしです。

あの意地悪王子の登場です!

この国の名前は「ウェンダブル」。

現国王ウェンダブル17世が統治する、城を中心に栄える一つの王国である。

その近くには、ジャスパーたちが暮らす人間界と人ならざる者が暮らす天上界、堕ちたものが存在する地下世界とをつなぐ「世界大樹」が大きな根を張っていた。


天上界から堕ちてしまった者や、地下から這い上がってきてしまう者が人間界へ召喚されてしまうと稀に、意思を失いただ破壊だけを目的とし、己の存在すらも忘れ去ってしまう「妖魔」へと変わってしまうことがある。

「妖魔」が一番最初にたどり着く国こそが、ウェンダブルなのだ。


そのため、国の周りには微弱なれども結界が張られ妖魔の侵入を察知し、国の内側には地下通路やシェルターが設置され、そして巡察隊と呼ばれる魔導や剣術にたけているものたちがそこらじゅうに配置され、いつ妖魔の攻撃を受けても避難と対応ができるようになっている。

しかし、妖魔の力はそれぞれで、たまにとてつもない力を持つものが侵入してくることがある。


国のピンチを必死に乗り越えてきた過去を払拭する集団が現れた。


現王子直属の、人ならざるものが含まれる最強の部隊。

それが『純正団』である。



「たった今、アズライトから妖魔の結界突破があったと連絡が入りました」

忍び装束をまとったアイリスが城内で従者を連れ歩くとある青年の前に姿を現し、頭を下げながら静かに発言した。

「そうか」

その人物は、慌てる様子もなくアイリスの報告を聴く。

「只今第一斑として、翡翠・アズライト・オニキスの三名が足止めに向かっております。団長ももう着く頃かと」

「では、僕はクロさんを呼んでまいります!」

従者の一人であるペリドットが青年に軽く頭を下げ、城内の長い廊下をさっさと走り去っていった。

「対象は一体。クロ殿だけでも十分せん滅は可能かと」

アイリスは頭を一切上げず立ち上がると、青年に道を開けた。


「オリーブ、この後の予定は?」

「施設調整対策会議が入っております」

「そうか」

青年は、ニヤリと口元を引き上げると窓へと視線をやり、城外をちらりと見る。


「どうなさいますか?シロ様」

オリーブはすでに返答が分っていながら、シロと呼ばれた青年に意思を確認した。


さらさらとなびく真っ白な髪に、透き通るようなブルーの瞳。

そして、真っ白なマントを羽織り、微かにバラの香りを漂わせた品のある佇まいの青年はやれやれとでも言いたげな表情を浮かべ、歩き始めた。


「会議は代理がいけばいい。オリーブ、頼んだぞ」

「シロ様!王子としての立場もお考えください!」

予測済みの答えに、呆れながらも側近としての小言を放つオリーブだったが、この国の治安維持、純正団の立ち上げに深く関わってきたシロには、王子と言うよりも自ら戦地へ立つことの方が遥かに重要だった。


「わかってる!」

「お早くお戻りください」

それ以上は何を言っても足止めにすらならないことをよくわかっているオリーブは、ため息を吐きながらもシロのなびくマントを見送った。



「『純正団』出動だって!?」

いち早く情報を聴きつけたジャスパーは堅苦しい城の使用人服を脱ぎ棄て、自身の出身国「和の国」の服を着はじめる。

肩を超す紅くて長めの髪をひとつにまとめ、頭の頂上でギュッと結んだ。


創られた神の事件以来、ジャスパーは城の使用人としてウェンダブルにその身を置いていた。

昼間は若い体を城内の掃除など雑務で使い、夜になると剣の稽古に励んでいる。


『純正団』とは自らが悪の側に身を置いてしまっているときに、行動を共にした。

そして誤解が解けたジャスパーは共闘し、創られた神の力から国を救うことができた。


自身が犯してしまった罪を償うためには、『純正団』の力となり、この国の為に命を使うしかない。

ジャスパーなりに考え出した、答えだった。


慌てて身支度を済ませると故郷から形見として持ってきている刀を握り部屋を飛び出す。

城内の深い所へ入ると地下へ通じるトンネルの様な通用路に行きつく。

それは途中いくつもの分岐がありそれぞれが城外の至る場所にと繋がっている。

どこで妖魔が出現して、『純正団』がどこで戦っているのかはわからないが、城の外へ出ればそこからは自分で探すことは容易だと知っていた。


ひとつの出口にたどり着いたジャスパーはその重い扉をこじ開けた。


「あぶない!!」

扉を開けた瞬間に視界が明るくなり、目が眩んだジャスパーめがけて巨大な物体が飛んできていた。

戦いのど真ん中に出てしまったようだ。

先に戦闘を始めていた、翡翠がジャスパーに気付き声を上げた。


「アイツ」

すでにその場についていたシロが呆れ顔を向ける。

ジャスパーの危機をあまり心配していない様だった。

「全く、相変わらずだな。あのガキ」

シロの横で、金色の髪をなびかせながら『純正団』の団長であるイキシアが同じく慌てる様子もなく、状況を静観していた。 


ジャスパーは剣を構えたが、こんな巨体を果たして斬れるのか、不安と恐怖が一緒に襲ってくる。


巨大な物体は妖魔だった。

オニキスの斧が足を破壊し、翡翠の魔術でその体が地面から吹き飛んだところだった。


この位置は完全にその下敷きになってしまう。

緊張で身体が動かなくなったジャスパーだが、光りの中に真っ黒な妖魔とその間にもう一つの影を見た。



「大丈夫だ」


その背中は幾度もジャスパーの危機を救ってきた。

過去の記憶の中にも鮮明に刻まれた姿。


飛んでくる妖魔に怯むこともなく向けられた一本の細長い刀。

その刀は、衝撃ごと妖魔を真っ二つに引き裂いた。


次にはもう妖魔の影はなくジャスパーの視界にはウェンダブル城下街の荒らされた景色が広がっていた。


「クロさん!」

ジャスパーの目の前には黒い着物を着た真っ黒い髪を後ろで少しだけまとめている青年の凛々しい後姿がある。

クロと呼ばれた青年の持つ刀によって妖魔は消滅してしまったのだ。


「お前は相変わらずドンピシャなタイミングで来るな」

クロによってジャスパーが救われることはシロにはわかっていたことのようだ。

「申し訳ありません。遅くなりました」

シロに向かって堅苦しく頭を下げたクロの持つ長い太刀をシロが指差した。

「どうだ新しい武器は。そのせいでギリギリになったようだが」

「はい、刀身の割に軽いですが、完全に使いこなすにはまだまだかかりそうです」

柔らかい笑顔をシロに向けたクロが、今度はジャスパーの目の前まで歩いてくる。


「無事か」

「……はい、ごめんなさい」

妖魔はせん滅したとはいえ、余計な邪魔をしてしまい申し訳ない気持ちでいぱいになるジャスパー。

何を言われてもしょうがないと顔を下に向けた。


「良かった」

そう言うとクロはジャスパーの頭に一度ポンと手をやり、少しだけ微笑んだ。


「クロさん!!!!」

ジャスパーがその前から去ろうとしているクロに向かって急に大きな声を出し呼びとめる。


「なんだ?」

突然の事に驚き、思わず目が点になるクロ。


結界を張っていた街の一帯が元に戻ってゆく様子を見ていたシロたちも、ジャスパーの方を見た。


「僕は!あなたに守られないと命が守れない子どもなんかじゃない!!!!」

人がいない静まり返った街の一部にジャスパーの叫びが響いた。


「シロ様!!!僕を正式に『純正団』にいれて下さい!!!」

あの事件以来ずっと思っていた事だった。

正式に戦いに参加できれば、少しでもこの国の役に立つ事が出来る。


じっとジャスパーを見つめるシロ。


「ダメだ」


その場の誰もが、その言葉しかないと知っていた。

当たり前の返答が、止まっていた時間を動かし、シロ、クロ、イキシア、翡翠以外のメンバーは持ち場に帰ろうと動きだした。


「僕の命なんてこの国の為なら捨てたってかまわないんだ、もう、前の僕とは違う」

あっさりと申し出を断わられ、ジャスパーはうつむき威勢を失った声で呟いた。


「失っていい命など!」

クロが、ジャスパーの言葉に怒りをあらわにする。

しかし、その言葉はシロの腕によって止められた。


「そうか!!!」

何か企みの含まれた怪しげな微笑みをシロはジャスパーへと向ける。

「シロ様?」

「では、その証明をしてみろ。昔のお前とは何が違うのか?」

面白いものが見られる期待を持っているように、シロはジャスパーを見ていた。

成り行きを不安なまなざしで見守るクロとは正反対だった。


「くそぉ!!」

証明などと難しいことを突然言われどうしていいのか分らないジャスパーは、それでも、今、何かをここで示さなければ何も変わらない、と自分の衝動に身を任せる。

手に握っていた刀を鞘から抜きさり、そのまま頭の方へ刃を向けた。


「ジャスパー!何を!!」

クロが慌てて止めようと身を乗り出すが、ジャスパーは素早く自分の髪を掴み、束になっていた部分を削ぎ落としたのだ。

束ねられていた髪が地面に落ちる。


「僕には……これしか……」

こんなことしかできない、と悔しさでうつむき、地にばら撒かれた自分の髪の毛を見つめた。


「命を無駄にするやつは要らん」

シロが先ほどとは打って変わり、真剣なまなざしでジャスパーの元へ近づいた。


「今のお前にはこれしかないのだ。お前には足りないものが多すぎる」

下に落ちたジャスパーの髪を拾い上げ、優しい声でシロは呟く。

「翡翠先生」

後ろで事態を見ていた長身の男の名をシロは呼んだ。

「わかっています」

翡翠は何を言われるのか、すでに察しはついていた。


「まずは『魔導』を習得して来い、これは王子である俺様の命令だ」

ジャスパーは、驚きで目を大きく見開いたがすぐにシロを見つめる。


「はい!」

シロの想いを受け取ったジャスパーは力強い眼差しをシロに返した。

何もなかったジャスパーの前にぼんやりと進むべき道が見えた気がした。


お読みいただきありがとうございました!

シロ王子と、クロ。純正団のメンバーも登場してきました!

そして、ジャスパーが短髪になった理由も判明しました!

次話は、入学前に少しお出かけをします。更新をお持ちください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ