プロローグ「少年の過去と夢」
前作『シロ×クロ』の続編となります。
前作では悪に手を貸すことになってしまったジャスパーが今回は主人公。
これから新たなシロ×クロの世界が始まります。
なぜ忘れていたのだろう。
そして、なぜ思い出したのだろう。
あまりにも衝撃的なことが起こると、それまで確かにあったはずの記憶というものがガラガラッと自分の中から抜け落ちてしまうことがある。
少年の身に起こったことはまさにソレだった。
はっきりとは思いだせない情景の中で確かなものは真っ赤に染まった村。
家々は燃え、そこらじゅうに真っ赤に染まった人間や人ではない者たちの亡骸が転がっていた。
感情はひとつ。
彼の心を支配しているのは恐怖。
真っ赤に燃え盛る視界に最後に映ったのは、紅く煌めく刀を携えた額に角を持つ『鬼』の背中。
自分にはもう未来など存在しないと幼いながらも覚悟を決めた。
しかし彼は形見の刀を携えて、とある国へ辿り着く。
月日が経つにつれ増す、憎しみの感情だけが彼を支配していた。
それが彼の全てとなってしまっていたのだ。
ジャスパーと言う少年は「あの日」まで、それ以外の記憶はほとんど持たなかった。
そして「あの日」以降、ジャスパーに新しい記憶が刻まれる。
過去の惨劇のショックによりすり替わってしまった過去の真実と、自分が犯してきた過ちの日々。
それから、少しの安堵感。
真実を知り、後悔の念に駆られながらも現実と向き合ったジャスパーはその過去を背負いながら生きていくことを決めこの場所に残った。
終わったはずだった。
いや、終わったからこそなのかもしれない。
抜け落ちたはずの記憶が突然ひとつ、ジャスパーの元へ還ってきたのだ。
真っ赤な血の匂いしかしない村の記憶ではなく、満天の星空の下、静かな時間を過ごした記憶だった。
そして、ジャスパーの横には確かに同じ年くらいの少年が並んで座っている。
何か話していたわけではなさそうだが、ぼんやりとした儚げなその影は夜空を見上げながらたしかにこう告げた。
「君も僕と同じだね」
その言葉の意味は思い出せないのか、知らないままなのかはわからないが、ジャスパーにとって大切な思い出だったのは間違いがなさそうだ。
穏やかな気持ちでその少年と肩を並べていたのだから。
そして、現実に引き戻されるベルがなる。
お読みいただきありがとうございました。
今回は新主人公ジャスパーの心情をプロローグとして描かせていただきました。
新たな物語、これからもお気にかけて頂けたら幸いです。