後編
後編なり。
ここから飛んだら死ぬかなあ。
フェンス際から地面を眺める。思ったより高いな。空を見上げる。僕の気持ちとは裏腹に、空は皮肉なほど晴れている。僕らは生まれてから死ぬまでずっとそんな空の下。人間とは本当にちっぽけだなと空を見上げる度に思わされる。
「おーい、大典!ギターやろうぜ!」
懐かしい声がする。
当時中二だった僕の人生を変えた涼太の言葉だ。
振り返るとそこにはギター片手に無垢な笑顔をした涼太の姿があった。思い起こせば涼太のそんな性格がいつも僕を助けてくれていた。困っている時何度助けられたことか。つまらない時に面白いことを提案するのはいつも涼太だった。今回も僕は涼太に助けられた。何やってんだ僕は。
僕が2、3度うなずくと涼太は「部室で待ってるからな。」と言い残し去っていった。
誰もいない屋上で僕は1人涙を流した。
どんなに変わっても変わらないものはある。そう思った。
例え話すことができなくても、親友がいることに変わりはない。僕がギターを好きなことに変わりはない。じゃあ僕はいつも通りに生きよう。今日も。
部室に顔を出すのは久しぶりだった。
「ただいま」と書いた紙を持って苦笑いを浮かべながら僕が部室へ入ると、「おかえり」とみんなの言う声がした。泣きそうなのを必死にこらえていたのは秘密だ。
今、僕はギタリストをしている。楽曲提供をしたり、バックバンドとして演奏したり、活動は様々だ。高校のときのバンドメンバーとは今でも時々会っている。涼太、俊、雅彦はともに一般企業に就職した。それでも会うたびに「お前は変わんねえな~」なんて言いあっている。そう変わらない。人はそれを退屈と呼ぶのかもしれないけど、僕はそんな退屈が大好きだ。
声が出ないことに不便なことは多い。でも慣れれば意外とたいしたことないものだなと思った。ペンとノートはいまだに肌身離さず持っている。それにまだ治らないと決まった訳じゃない。日本の技術に期待。
今日も青い空の下、僕はギターを弾く。
今日も青い空の下、僕たちは変わらず生きている。
終わりです。