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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
1章 魔法の国へ行く方法
7/60

「まいった……まじでヤバい。八方塞がりだ」


 キリュウはそう呟いてベッドに倒れ込んだ。

 レイトーリア魔法学院に入学して3週間経つが、未だにフレイリアやトアリーと接触できていない。まず新入生がいる教室と、フレイリア達の研究部屋は離れており、接点が全くない。

 そして、自分が知っている魔法学院に関する情報もかなり古いということが分かった。50年前の雷造が受けた授業と今の授業が同じままではないとは思っていたが、変わりすぎだ。レイトーリア魔法学院の授業自体、最先端の研究内容をドンドン導入し、新しい教育方法も試していく方針をとっている。雷造から授業は魔法学の座学だけだと聞いてたのだが、来月からは実習がスタートするらしい。どうやら雷造がこっちにいた時にはなかった魔法を使っても被害がでない施設を建てたようだ。

 新しい研究内容を世間に普及させるには学院で学生に教えるのが一番である。その知識をそれぞれ暮らす地域に持ち帰れば、その地に知識が根付いていくからだ。レイトーリア魔法学院はかなり理想的な学校と言える。

 それは良いとして、キリュウはナイトについても情報収集しようとした。なんせ魔法学院に関する情報がこんなに事前に得た情報と違っていたら不安である。

 しかし、先生方や同期生にそれとなくナイトの情報を得ようと探りを入れても、怪訝な顔をして、なぜか「まずは魔法学をきちんと勉強してからそういうことを考えるべきでは?」と言われ、全くナイトの情報が得られなかった。

 ホワイトレイクに来て約1ヶ月、キリュウは空回り状態から脱出できず、行き詰まった。



*****



 キリュウは、一晩悶々と考えた結果、焦っても仕方がないという極シンプルな結論に達した。とにかく、早く魔法学を修得し、ナイトになれば自ずとフレイリア達にも会える機会が訪れる。そう思うことにして、キリュウはより一層、魔法学の授業を真剣に受けた。


「……ここまでは、エレメントの種類についての基本的な考えるとなる。次に、詠唱形式だが……既にみんなも知っていると思うが、口頭によるものと、儀式形式のものとある。どちらも詠唱することにはなるのだが、必ず詠唱は、冒頭に『全てを知りうる、はじまりのパトロナス』とつける。この文言で魔法陣の中心円が形成、および発光する。で……」


 キリュウは、先生が言った詠唱の冒頭部分である「全てを知りうる、はじまりのパトロナス」という文言をノートに書いている途中、あることに気づき、手を止めた。


 ――確かオレが覚えた詠唱は、ホワイトレイクのシステム開発時に使われた「裏コード」で、今授業で習っているこの文言は、正式な「コード」だ。

 そして、コマンド入力によって動くシステムは、現在、メインが故障中のため、予備であるサブシステムが動いている。

 必ずこの国に使われている科学技術は、対になっているようだ。だとしたら、白い部屋の扉を開く鍵は2つある……?

 もしあるとしたらメインシステムにその情報があるはずだ。直せば、鍵についても情報が得られる。


 キリュウはそう確信した。

 キリュウは授業が終わったあと、学院内を歩き回ることにした。藍色の制服で研究部屋のエリアに立ち入ると目立つため、それ以外のエリアをうろつく。

 学院内を歩き回って2週間、ようやくマギやナイトと接触しやすい場所を割り出した。

 問題は、どのタイミングで、フレイリアとトアリーのどちらに会うかだ。オリエンテーションでのフレイリアのあの様子では、話しかけた途端に逃げられてしまいそうだ。そうでなくてもあの小さい声では、聞き取れず、会話がなかなかスムーズにできそうにない。


「――だとしたら……マスター トアリーか」


 キリュウは、まずトアリーとの接触を試みることに決めた。



*****



 ところが、本格的に実習が始まり、キリュウは学院内にいるときに、なかなか自由な時間が作れなくなってきた。


「キリュウ、早く!……今日は第1実習場だ」


 ロイがキリュウを呼び、早く来いと急かす。


「わかってる!」


 バタバタとロイの後ろを追って、慌ただしくキリュウが実習場に入った。

 実習は、在籍年数など関係なく、熟練度に合わせ、合同で行われる。新入生も実習が始まって初めの1週間は見学のみだったが、今は全員参加している。


「皆さん、全員いますね?……では、今日は儀式法の実習を行います」


 実習の先生が授業を受ける学院生1人1人確認すると、授業を開始した。


「儀式法は、持続性を持たせることが重要ですので、きちんとした魔法陣を描いてください。いい加減な描き方をすると持続しません。では、一番よく使う火の魔法陣を描きます。まず、直径10センチの中心円を描きます。その中心円の外側20センチのところににもうひとつ円を描き、直径30センチになるようにしてください」


 先生の指示通り、学院生たちが魔法陣用の円を地面に描く。先生は、学院生の描いたものをひとつひとつ見回り、チェックした。


「皆さん、できたようですね? では、火のエレメンタルの古代文字を中心円に書き込みます」


 持続型の火の魔法陣は、座学の授業でかなり描かされた。物作りや、料理には持続型の火の魔法陣は重要だ。この儀式法が見つかる前までは、いわゆる「かまど」を使っていたらしい。科学技術に関することが一切タブーな国なので、そうなることは仕方がないが、木材を乾燥させたり火をつけ、風をかまどにいちいち送るという作業はかなり重労働だ。


「では、詠唱します。皆さん、魔法陣から離れてください。いいですね?『全てを知りうる、はじまりのパトロナス……我に答えよ。火への道よ、開け!イグニス!』と詠唱します」


「詠唱の文言、長いな……」


 先生の話を聞き、キリュウがぼやいた。


「マギになれば、魔道具の杖が貰えるから、杖を使うと詠唱が省略できるって聞いたよ?」


 ロイがキリュウのぼやきを聞き、小声でキリュウに話しかけてきた。


「そうなのか?」


「そこの2人! 無駄口をしないでください。授業に集中しないと、怪我しますよ?」


 キリュウが問い返したところで、先生に見つかり注意された。


「では、1人ずつ、詠唱をするように。ロイ、詠唱してください」


 一番端にいたロイから始めることになった。ということは、次はキリュウの番だ。



*****



 無事にキリュウとロイは、儀式法による持続型の火の魔法陣の作成に成功した。あとは、他の学院生がやっているのを見ていればいいだけだ。


「……君はもう少し魔法陣を描く練習が必要だね。では、次!」


 先生が簡潔に評価をし、ドンドン学院生に詠唱させていく。

 最後の上級生が詠唱した時――


「えっ?」


 すさまじい熱風がキリュウのところまで来た。何事かと見た先には、詠唱した上級生が青ざめて立っている。その瞬間、魔法陣から火柱が立った。


「皆さん、実習場から出なさい!」


 先生は杖を出しながら叫び、学院生たちに避難の指示をする。そして、指示を出した先生は、青ざめ、火柱の魔法陣の前でへたりこんでいる上級生を抱えて他の学院生に渡した。


 「すみません、わたし……魔法陣の古代文字を間違えた……」


 うわごとのように火柱を立てた上級生が呟く。


「そのことはいいから、早くあなたも実習場から出なさい。怪我がなくて良かったです」


 先生はそう言うと、火柱の魔法陣から少し離れた正面に立ち、消火作業に入る。


「はじまりのパトロナス……全てのエレメンタルを集め、この場に捧げる……」


 先生は、すさまじく燃え上がる火柱を消すための詠唱を行い、各エレメンタルを封じ込めた魔道具を火柱の周りに一つずつ置いていく。

 火柱は約10メートルある建物の屋根まで届き、このままではいつ屋根が崩れてくるか分からない。詠唱が長ければ、被害が拡大する。

 先生は、魔道具を置き終わったあと、さらに詠唱を続けた。

 これはかなりマズイ状況では?と新入生たちも焦り出す。同期生の女子達は、「先生!先生も逃げてください!」と叫び始めた。


「φΛγΠπ%」


 女子達の叫び声に紛れ、キリュウが裏コードで、詠唱のキャンセルと状態回復の詠唱をした。

 すると、火柱がスゥっと消え、火柱で黒く焦げた屋根も地面の魔法陣も風で流されたようにサァっと元に戻った。


 ――シーンとあたりが静寂に包まれる。


 一瞬、何が起きたのか分からない、と誰もが唖然とした。


「……キリュウ、今の詠唱って何?聞いたことない言葉だったけど」


 キリュウの隣にいたロイの問いかけが、静かな実習場に響く。


「えっ? ……ボク、なんか言ったっけ?」


 女子達の叫び声に紛れれば聞こえないと、キリュウは油断していたため、焦ってベタな返ししかできない。


 先生は汗だくになりながら、キリュウの前にやってきた。


「キリュウ、まぐれで詠唱したにしろ、助かった。ありがとう。とりあえず、今日の授業は中止だ。全員、寮に戻るように」


 先生は、キリュウにお礼を言い、授業の中止を宣言すると、実習場から学院生たちを出ていかせた。


「キリュウ!」


 キリュウとロイが最後に実習場から出ていこうとしたとき、先生に呼び止められた。


「さっきの詠唱だが……、まぐれだったから覚えてないかもしれないが、何て言ったのか教えてくれないか?」


「……すみません、たまたま発した叫び声だったので全く覚えてないです」


 キリュウは、誤魔化してなんとかその場を切り抜けた。

 しかし、キリュウはこのとき大いなる誤解をしていた。キリュウは、今回の原状回復の詠唱についてのみ、みんなが知らないだけだと思っていた。

 簡単な魔法で、単発の口頭による詠唱については、ロイの「魔道具である杖を使えば、詠唱の省略ができる」という情報から、裏コードによる詠唱が既に知られており、世間では常識になっていると思いこんでしまったのだ。そして、今、自分たちが裏コードである省略された詠唱を教えてもらってないのは、自分が新入生で、魔法学の基礎を習っているためだと思ったからだった。



*****


 キリュウは、学院の建物と図書館をつなぐ渡り廊下を歩いていた。第1実習場は安全が確認できるまで、使用中止となった。また、キリュウたちの実習についても、今回の事故に関する原因調査と対策が行われるまで休講となり、その時間は自習となった。

 図書館には、意外とマギやナイトが出入りしていることがわかった。そして、新入生が出入りしても怪しまれない。そこで、キリュウは、トアリーと偶然を装って接触するため、自習時間に図書館前で張ることにした。


「ここでマスター トアリーを待つか……」


 渡り廊下は中庭の中にある。中庭にはちょっとしたベンチがあり、そこでキリュウは本を読みながら時間を潰した。今の時間、フレイリアは魔法使い候補者だけが集まる演習に参加中で、大規模な実演に耐えることができる第2実習場にいる。もうそろそろトアリーは1人でここに来るはずだ。



*****



 キリュウの予想通りトアリーがやってきた。

 トアリーは、渡り廊下に出たところで何かに気づき、しゃがみこむ。


「マスター トアリー……?」


 キリュウが本を閉じてベンチから立ち上がり、しゃがみこんでいるトアリーの様子を声をかけずに見守った。

 しゃがみこんだトアリーは、渡り廊下のすみに咲いた青い小花をそっと手を添え、撫でながら優しく笑った。


「!!!」


 キリュウは口元を手で押さえ、ベンチに再び座り込んだ。マズイのを見た気がした。


 ―――笑顔が、かわいすぎる!


 まさにキリュウの好みのど真ん中だった。普段の凛とした姿からは想像できない優しい笑顔だ。


 ――いやいや、落ち着けオレ!! 堀田さんを思い出すんだ! あんなに美人だけど、腹黒……もとい、策略家でめちゃめちゃ色々と巻き込まれていることを忘れるな!


 キリュウは、堀田が知ったら、間違いなく容赦なく叩き潰されるようなことを考え、冷静さを取り戻した。


「よし! 頑張れ、自分!!」


 キリュウは勇気を奮って、ベンチを立ち、声をかけるため、トアリーのもとへ歩いていったのだった。

そして、自覚がないまま、留学先で片思いが始まった。

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