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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
1章 魔法の国へ行く方法
6/60

6 対となる絵本

 ロイとキリュウは寮の廊下を歩いていた。その間、ロイが一方的に自分のことをキリュウに話しているので、キリュウは聞き役に徹していた。

 話を聞いていると、ロイの家庭環境は、キリュウの家ととても似ていた。


「えーっと……ここだ。確かもう荷物は運び込まれてるはず」


 ロイが自分の部屋の前で立ち止まった。


「荷ほどき、手伝おうか?」


 キリュウが聞くと、ロイが笑顔で言った。


「ありがとう! 1人だとなかなか片付かないんだ……頼む!」



*****



 キリュウが本をジャンル毎に分け、手際よく本棚に片っ端から入れていく。雷造の家の蔵書と比較すれば、かなり少ない。雷造の家で本棚の掃除のときに手伝っていたキリュウは、慣れたものだった。

 ふとキリュウは、1冊のアルバムを手にし、動きを止めた。

 便箋と思われる紙の裏に柔らかい色合いで絵が描かれており、アルバムの表紙として写真の代わりに貼ってある。キリュウがよく知っているタッチのイラストだ。


「『魔法の国と7人の魔術師』?」


 思わずキリュウがよく読んでいた絵本の題名を言ってしまった。


「え!? ……何か言った?」


 ロイが服を両手に持った状態で、ウォークインクローゼットから顔を出した。


「あ、いや、この絵本だけど」


「あぁ……それは私のばあ様の姉さんが作った絵本だよ。遠い所に行って会えないからって、私のために絵本を作ってくれたんだって聞いた。『魔法の国とはじまりのパトロナス』という絵本だよ。『ホワイトレイク建国記』という本の内容を、子供向けの内容にしたものになってる」


「読んでいい?」


「あぁ、いいよ」


 ロイは、そう返事をすると服を持って再びウォークインクローゼットの奥に引っ込んだ。

 キリュウは自分が読んでいた絵本とどう違うのか気になり、アルバム式の絵本を丁寧にめくってじっくり読みはじめた。



*****



 絵本の内容は、キリュウが持っている本の内容と違った。だが、あの話の続きとなる内容の絵本だった。

 まさかあの絵本に続きがあるとは思わなかった。そして、こっちで読むことができるなんてことも思わなかった。

 ますますキリュウは混乱した。


 なぜ、ツナ婆さんは、自分に古代文字を教えてくれて、あの手作りの絵本をくれたのか――


 アルバム式の絵本を閉じて、ツナ婆さんのサインをキリュウはジッと見つめた。


「キリュウ?」


 いつの間にかロイが側にいた。


「あぁ、片付けの最中にごめん……。絵本、読み終わった。ありがとう。」


 キリュウは絵本から顔を上げ、ロイにお礼を言い、本棚にその本を入れた。


「いや、こっちこそ、読んでくれてありがとう。身内贔屓になっちゃうけど、その絵本、よく出来てるだろ? オレ、好きなんだ……その話。マスター トゥナが作ったんだけど、その人が作った絵本は、この世で2冊しかないって話だ」


「へぇ……そうなんだ」


「もう一冊の絵本は、オレに似た同じ年の子供にあげたんだってさ。……そういやぁ、オレに似てるってどんなヤツなんだろう?」


「……」


 目の前にいます、とは言えず、キリュウは黙っていた。ロイは疑問を口にしたが、そんなに気にとめる様子もなく、話題をすぐに変え、自分の趣味の酒瓶コレクションについて話し始めた。



*****



 しばらくロイと談笑していたら、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえた。ロイがドアを開けると、受付の男が立っていた。


「ロイ、ありがとう。キリュウ、随分待たせてしまって悪かった……。とりあえず空き部屋を確保したが、急だったのでロイの部屋とかなり離れている。それについては勘弁してもらいたい。」


 キリュウは、その言葉に頷いた後、ロイにお礼を言って部屋を出た。

 ロイの部屋と随分離れた部屋を案内されたが、ロイの部屋より広々としていた。支給された制服等の荷物が床に置いてあったので、キリュウは早速荷ほどきに取りかかる。荷物を所定の場所にしまいながら、先ほどのロイの言葉を思い出した。


 ――確かにロイとオレは似ているかもしれない。

 だから、ツナ婆さんは、一生願っても会えない姪であるロイの母親や、ロイのことを思って、オレに古代文字を教えてくれたのか……


 ツナ婆さんの気持ちを考えると、キリュウは切なくなったのだった。


*****


 キリュウの部屋は私物が全くなく、物が少ない上、広々としているため、なんとなく淋しい感じの部屋になってしまった。

 一方、ロイの部屋は私物を大量に持ち込んでおり、部屋の広さはキリュウの部屋より狭いにも関わらず、妙に居心地が良い。

 魔法学院の入学日は、まだ1週間も先で時間があり、その間に新入生は入学準備をすることになっていた。自然とキリュウはロイの部屋に入り浸るようになり、いつの間にかロイの部屋で入学前に出された課題を一緒にやることが日課となっていた。


「うぅ……やっぱ、古代文字って苦手だ」


 ロイが自分の課題ノートを前に頭を抱えていた。キリュウがロイが読んでいる教本を覗いた。


「あぁ、持続型の火の魔法陣か……」


 キリュウがメモ紙を一枚とり、サラサラと魔法陣を描いていく。


「中心円の中のこの文字が微妙に違ってる」


 キリュウが自分で描いたメモ紙を見せて、ロイの間違っている箇所を指摘した。


「キリュウ、ありがとう!そうか……なるほどね。しかし、面倒だなぁ。少し前まではこの世に存在するのは詠唱魔法だけだったのになぁ……」


「そうなのか?」


「……キリュウ、おまえ変わってるな。古代文字とか魔法陣は完璧に描けるのに、つい最近の常識は知らないなんて……いったい……」


 ロイの言葉にキリュウが目を丸くして、動きを止めた。誰に魔法陣の描き方を教わったのか聞かれるのでは……と緊張感が高まる。


「どこに住んでたんだ? 相当、情報が遮断された僻地の出身? タイムラグありすぎだろ」


「……まぁ、うん。かなり僻地に住んでた」


「そうだと思ったよ! なんせ学院の入学者リストから漏れるぐらいだもんな!」


 キリュウは、そのことについてあまり触れて欲しくないので、

情報があまり伝わらない僻地出身ということでサラリと流し、話題を変えた。


「……そういえば、古代文字を一覧表にしたのがあるよ? いる?」


「え!? そんなのあるの?」


「うん、作った」


 本当はキリュウではなく、ツナ婆さんが作ったものだ。キリュウが古代文字を習ったときに使ったツナ婆さん特製の一覧表で、暇なときにもそれを眺めてキリュウは覚えたのだった。

 火・水・風・土などの各種エレメント、目的別用途、規模を表す古代文字があり、その組み合わせで魔法陣は成り立っている。それが1枚の紙にまとまっている優れものだ。

 おそらくツナ婆さんがロイに教えてあげたかったのだと思う。ただ、先ほどのロイの話だと、つい最近まで古代文字を覚えたり描いたりはしていないようだ。だからツナ婆さんは自分が作った古代文字の一覧表をロイ宛ての手紙に同封できなかったのだろうと、キリュウは思った。

 しかし、古代文字を覚えることが常識となった今なら、ツナ婆さんが作った古代文字の一覧表をロイも知っていて欲しい。おそらくそれはツナ婆さんの望みでもあるはずだから。

 キリュウがボロボロになった使い古しの小さく折り畳まれた一覧表を制服の内側から取り出し、ロイに渡した。


「すげぇ! 便利だな、これ。本当にもらっていいのか?」


 ロイが感激した様子でキリュウに確認した。


「いいよ、ボクはもう覚えたから必要ない」


 キリュウは、アッサリと何でもないように言い、自分がさっきまでやっていた課題を再びやりはじめたのだった。


*****


 入学式の日


 キリュウはロイと一緒に寮から学院へ向かい、新入生の教室で待機していた。早く来てしまったため、2人だけだ。


「……ロイ、あの黒い制服を着てる人ってどういう人?」


 窓から外を眺めていたキリュウが指を指した。


「どれ? ……あぁ、あれはマギだよ。魔法使い候補者」


「へぇ、そっかぁ……」


 なるほど、黒い制服を目印に人探しをすれば良いんだな、とキリュウが考えていたのだが、


「ちなみに黒い制服は、儀礼用だから普段は白い制服を着てるマギもいるんだ。自分の魔法の研究テーマに合わせて黒い制服を着るか白い制服を着るか決めてるみたい」


 というロイの説明を聞き、ガックリと肩を落とした。


「白い制服ってナイトだけが着てるワケじゃないのか?」


 事前に聞いた話と違うため、キリュウはロイに確認を取る。


「うん、それがさ……何年か前に色素の研究をしているマギが、黒い制服だと実験しにくいって理由で学院に申し入れしたらしいんだ。それでマギも正式な行事以外は白い制服を着ても良いことになったみたいだよ?」


 自分の研究のために学院の制服規定を変更させるとは、かなりの行動力があるようだ。

 それに今のホワイトレイクにとって、魔法陣用の色素の開発は最も優先されるべき重要事項のひとつだ。そのぐらいの規定の変更はなんてことはないのだろう。 そして、色素の研究をしている魔法使い候補者と言えば、雷造がキリュウに接触するよう言ってた人に違いない。


「へぇ……すごい人だね。そのマギに会ってみたいなぁ」


「すぐ会えるよ。フレイリア様は、有名人だからね。きっとオリエンテーションで会うことになるんじゃないかな……」


 ロイが色素の研究をしているマギの名前を教えてくれたところで、同期生の女の子が教室に入ってきた。すると、ロイはキリュウから離れ、その女の子と話し始めた。しばらくすると、話題が尽きたせいなのか、ロイとその女の子が窓の外を眺めてたキリュウのところにやってきた。キリュウは、その会話に加わり、オリエンテーションが始まるまで談笑した。



*****



 オリエンテーションが始まった。

 魔法学院の学院生代表として、黒い制服を着た黒髪の少女フレイリアが教室の前に出て挨拶をした。しかし、フレイリアの顔色は悪く、声も小さくて聞こえづらい。フレイリアの挨拶が終わったようなので、内容は分からなかったが、とりあえずキリュウも周りの学生と同じように拍手をしておいた。

 挨拶が終わったフレイリアは、教室の入口で背筋を伸ばして立っている白い制服の栗毛色のポニーテールの少女のところに駆け寄った。2人は、2、3言話した後、教室から出ていった。


「……ロイ」


 キリュウが隣にいるロイを小声で呼んだ。


「なに?」


「さっき、フレイリア様と話していた白い制服の人は誰?」


「あぁ、フレイリア様のナイトのマスター トアリーだよ」


「フレイリア様のナイト!?」


 キリュウの問い返しに、ロイがそうだ、と頷く。

 キリュウはため息をつき、座ってた椅子にもたれた。

 もう既にフレイリアにナイトがいるとは思っていなかった。キリュウは、事前にもっと情報収集しておくべきだったと今さらながら悔やんだ。ナイトである白い制服の彼女が、白い部屋行きの第一候補者であることは確実である。白い部屋を開く扉の鍵は、キリュウが知る限りにおいて、ひとつしかない。キリュウはこれからナイトを目指すので、状況としてはまずい。


――魔法使い候補者1人につき、ナイト1人……とかじゃないだろうな?その辺を確認しとかないとな。

どんな状況であれ、まずはフレイリア様かマスター トアリーと会おう


 キリュウは、混乱する思考を奥に押しやった。

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