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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
6章 リアルと仮想の曖昧な境界線
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57 思うがままに生きる価値

 スイ達はメッセージが刻まれたエンブレムの場所から、その下の空間へと移動した。

 七色に光る巨大なキューブが宙に浮かび、ゆったりと回転している。


「ここからバックアップデータを吸い上げれば、任務終了だね! センパイ!」


 諷が嬉しそうに巨大なキューブの周りを歩きながら言った。


「どのくらいかかりそうだ?」


「スパコンから転送させますし、そんなにデータ量はないと思うので、2、3時間ぐらいで終わるんじゃないでしょうか」


 スイの質問に少し考え込んだ莉朶は、屈みながらそう答えると、キューブの真下を覗いた。

 莉朶が人差し指でキューブの表面をツゥッとなぞると、七色に光模様が現れる。


「とりあえず、キューブのロックを解除しないと」


 莉朶がキューブの表面に浮かぶ模様を見つめながら立ち上がると、側にいたスイの着ていた服についていたカフスが淡い光を放ち始めた。


「な、なんだ?」


 戸惑うスイの袖口のカフスに刻まれた模様が、銀色の輝きを帯び、その輝いた模様が、キューブの模様を補うかのように写し出され、1つの模様を形成した。


「うそっ! もうパス解除しちゃった?」


「私たちの出番なしですね……」


「じゃあ、さっそくデータの吸い出し!」


 ちゃっちゃと終わらせるべく、諷が解除したばかりのキューブに触れると、無数のコードを現れ、キューブに繋がった。


「しばらく待つしかないですね」


「暇だな……」


 莉朶の言葉を聞き、スイがぼやいた。が、気を抜いたその瞬間、円になっている部屋の壁一面にサァっと映像が流れ出した。


「!?」


 スイが360度ぐるりと周りを見て、自分達の安全を急いで確認した。



 ―――吸い上げているデータを映してるだけなのか?



 スイは、緊張を解き、かなりの早さで次々と写し出された映像を眺めた。しかし、子供の映像が写し出されると、息を飲んだ。



 ―――アオイちゃん!? いや、似ているが違う……?



「莉朶センパイ?」


 諷の呼び掛けの声に引き戻されたスイが隣りを見ると、呆然としながら映像を目を見開いて見つめている莉朶がいた。そして、一筋の涙が莉朶の頬をつたった。



******



 「はじまりの場所」で影時と睨み合っていたキリュウは、影時に煽られたが、溜め息をつくフリをして深呼吸した。バカにされた怒りを鎮め、影時から距離を取りながら、視線だけをすばやく動かし、状況と影時以外のヒトがいないことを確認した。



 ―――今回は単独なのか?



 ホワイトレイクでキリュウが捕まえてから、ずっと科学技術特区研究所内にいた影時が、外部と接触できるはずがなかった。だとしたら、ホワイトレイクに浸入する前に既に何かあったときのための下準備をしていて、今回の外部からの見学者来所のタイミングを見計らって、その脱出方法を使ったと考えると辻褄が合う。ここは、おそらく影時の拠点となる場所だ。調査官としては、影時にここのシステムを使わせないようにしておけばいい。



 ―――とにかく研究所から応援がくるまで、影時を監視しないとな



 冷静になったキリュウは、影時に気づかれないように、培養装置に繋がっている転送装置の位置を確認した。

 トアリーをあの地下空間から脱出させたので、既に堀田には連絡がいっているはずだ。ここへ応援を寄越すのも時間のウチだ。だが、応援が来る前に逃げられる可能性もあるため、できるだけ時間を稼ぐための言葉を選んで口にした。


「もうホワイトレイクのことは諦めろよ! システムと切り離せば……」


「お前達の真似だけの劣った技術じゃ無理だ。いろいろ調べて、それしか方法がないことがわかったんだよ。お前達だって、俺のようなヤツが存在してるのはマズイって考えてるんだろう? あの国を壊せば、このシステムは壊れる。そして、俺もやっと140年目にして目覚めることのない眠りにつくことができる」


「そんなの……今ある技術だけで考えるからそういう結論になるんだろ? 確かに、こっちの国で一般的に使われてる技術は、オリジナルなんて一つもないし、単なる真似しただけの技術しか持ってないかもしれない。それでも、少しずつだけど、必ず技術を進歩させてる。それに、いつかきっと魔術師を越える誰かが……」


「不確かだな。お前達の技術の進歩なんてたかが知れてる。オリジナルの技術なんて一つもないお前達に何ができるんだ!? 次に7人の魔術師を越える天才が現れるのを待てとでも? お前達凡人は、いつも解決できない問題を先送りしている。話にならない」


 影時が転送装置へと身体を向けたところで、キリュウがそれ以上行動させまいと、転送装置を背に影時の前に出た。


「どういうつもりだ? 何を考えてる」


「それはオレのセリフだよ。どうせ、空いてる身体に移動して背後からオレをやろうとしてんだろう?」


 キリュウの読みがあってるのか、影時は無言のまま笑っている。

 すると、突然、影時がしゃがみこみ、足元に散らばっているガラス片ごと紙を手にしてキリュウに投げた。すかさずキリュウは、魔法陣を頭の中で描いて透明な防御壁を自分の前に築き、払いのける。姿勢を低くし、次の動きに備え、影時の出方を待った。


「まさか音声コードだけじゃなく、モノグラムコードも全部覚えてるのか? 見直したよ」


 影時が後ずさりし、キリュウから離れる。回り込もうとした影時からガードするように素早く動き、隙を見せない。


「させるかよっ!」


「しつこいヤツは嫌われるぜ?」


「知ってる! とっくにオレは天才と言われる人達全員からことごとく嫌われてるよっ!」


 影時が正面突発しようとキリュウの腹部にめがけてタックルを仕掛ける。が、キリュウはそれを受け流し、影時の体を床に転がした。しかしその時、影時がキリュウの足を思いっきり引っ張ったため、キリュウも一緒に床に倒れた。そこへ影時が殴りかかってくる。倒れた状態でキリュウは、体を捻って避け、影時の体の下から脱け出そうとしたが、阻止された。

 激しい殴り合いになり、さっきまで足元に散らばっていた紙が宙を舞う中、キリュウが身体を捻り、影時の拳を受け流したところで、


「そこまでだっ!」


 トアリーの空気を切り裂くような鋭い声が「はじまりの場所」に響いた。キリュウと影時の身体の間にヒュンッと嘶かせながらレイピアを割り込ませ、2人の動きを一瞬で止める。


「……なんで殴りあいになってるのよ。もう少しなんとかならなかったの?」


「それなら、もっと早く来てよ」


 呆れた様子で愚痴をこぼした堀田に、キリュウは、ふて腐れぎみに言った。

 トアリーと堀田が来たことで、一気に形勢が逆転した。トアリーが影時の首筋にレイピアを突き付け、キリュウから身体を離れさせた。キリュウは転送装置の前を陣取り、影時に一切触れさせないようにガードする。


「堀田です。座標位置確認。『コード175』にて、影時澪を転送します。電気系統のない部屋で保護してください」


 堀田が電子端末に向かってそう告げると、影時を囲むかのようにキューブが現れたが、スウッと消えた。


「ここでは無駄さ、とっくに対策済みだ。お前達が使っているのは、所詮このシステムを真似ただけ。それどころか劣化させたものなんだからな」


「そのシステムがなくなれば、関係ないけどね?」


 キリュウが被せた言葉に影時が顔色を変えた。


「やめろよ? 何を考えてんだっ!? お前達にとっても貴重な代物のハズだ!」


「貴重なデータを壊すなんて、そんなヘマしないさ」


 キリュウが転送装置の一部に手をかざし、コア交換の魔法陣を頭の中で描いた。



『システム休止……コア、イジェクション』



 部屋にシステムのアナウンスが流れた。


「やめろ! そのコアを壊したら二度とシステムは動かない!!」


「コアはこっちで作れるようになったんだよ。だから問題ない」


「作れるようになった……だと?」


「ああ」


 頷いたキリュウは、コアを握りつぶした。


「本当にコアを破壊するなんて、どうかしてるっ! コアを作れるようになったなんて、ハッタリではないのか……」


 さっきまで余裕だった影時が、声を荒げた。


「本当よ。既にホワイトレイクのコアは、この一年で2回交換してるわ。あなたも知ってる通り、きちんと動いてる」


 3人から離れた場所に立っている堀田が、口をはさむ。影時は、負け惜しみのような悔しさを滲ませながら、声をあげる。


「……だが、成功率が極めて低そうだな。昔から思ってたことだが、なぜ、天才ではないお前達が自分達のチカラだけで完全に制御できない技術に関わろうとするのか不思議で仕方ない。俺は全く理解できないよ。こういう技術は、閃きも重要だが、成功するという確信と根拠がないと普通は手を出さないだろ。見切り発車もいいとこだ」


「まぁ、確かに天才じゃないから、何回も失敗して、それに携わった人達もケガしたり死んだりもしてる。だけど、オレ達は、そうなっても一旦手を出した技術を決して手放すことはしないよ。自分達で制御して、携わった人達の想いと一緒に、しっかり自分達の生活に馴染むまで、何年かかっても諦めない。失敗しながら、少しずつ成功を積み重ねていく。今までだってそうだったし、これからだってそうだ」


 キリュウは、そう言いながら、握りつぶしたコアの破片をサラサラと床に落とし、両手を軽くはたいた。それを見た影時が怒りを爆発させる。


「……そういう風に未来に希望があるようなことが言えるヤツが俺は嫌いなんだよ! そう言えるのは、お前が恵まれているからだ。自由に思い通りに生きていってるからっ!」


「……なんか勘違いしてないか? 生きている限り、完全な『自由』なんてないんだよ。周りをよく見れば、みんな少しでも思い通りに生きていくように、諦めずに必死にもがいているってことぐらい分かるハズだよ」


 影時の怒りをぶつけられ、キリュウはかえって冷静になり、落ち着いた声で諭すように言った。


「視野が狭いと言いたいのか? まさか……お前に言われるとは思わなかった」


 キリュウに言われたくなかった言葉だったらしく、影時は衝撃を受け、静かになった。そして、深い溜め息をつき、寂しそうな弱々しい嘲笑を浮かべた。


「……そうかもしれないな。『もう眠りたい』と、誰かに言いたかった。だけど、誰に言ったらいいか分からず、声をあげることを初めから諦めたんだ」


「それが希望ですか?」


 影時の『眠りたい』という言葉に堀田が確認のため、聞き返した。


「あぁ、そうだ」


 その言葉を聞き、堀田は「わかりました」と、頷いた。


「……座標位置、再調整。『コード175』」


 堀田の通信が終わると同時に、影時を透明なキューブが覆い、シュンッとその場から消えた。

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