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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
6章 リアルと仮想の曖昧な境界線
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55 合流地点の割り出しと隠された想い

 ホワイトレイクからの選ばれし騎士宛の手紙で、『レイ』に関係する内容のものだけを手にしたトアリーは、科学技術特区研究所の堀田のもとへ向かった。

 所内で、たまたますれ違った数人のホワイトレイクチームメンバーに堀田の居場所を聞くと、やつれて疲れきったメンバーの一人が「堀田さんなら、出来立てのデータチップを持ってSVR室に行ったよ……」と、力なく教えてくれた。

 チームメンバーの様子を気にしつつも、トアリーがその場所へ行ってみると、VR機を利用していたスイ達に、何かあったらしく、移動型簡易ベッドをSVR室から出したり、他の医療機材を運び出したり、まだ慌ただしかった。しかし、トアリーは構わず室内に入り、堀田を探した。


「強化パーツの装備、確認。エラーなしです。堀田さん、再チェックをお願いします」 


 移動するスタッフ達の中から堀田を見つけ出した。堀田は、他のスタッフと共に、壁面に投影されたVR内のスイ達をモニタリングしているところだった。


「……大丈夫そうね」


「はい」


「じゃあ、私は戻るので、また何かあったら連絡をお願い」


 堀田がそう言って、こちらに振り返ったところで、「堀田さん」と、トアリーが声をかけた。


「永久ちゃん、何かわかった?」


「はい」


 トアリーは頷くと、袋からホワイトレイクの中央塔のマークが刻印された手紙の束を取り出した。


「ありがとう。ここだと落ち着いて話せないから、ミーティングルームに行きましょう」


 堀田と共にミーティングルームに向かった。



*****


 選ばれし騎士宛の手紙をテーブルの上に広げ、トアリーは一通りの手紙の概要と所感を伝えた。


「なるほどね、マスター トゥナが初代選ばれし騎士ではなく、一時的になんらかの理由で影時澪が選ばれし騎士の役割をやっていたっていう仮説は、辻褄が合うわね。だとすると……ホワイトレイク建国以前に、SVR室にあるVR機を使って、ホワイトレイクのメインシステムを稼働させたときのシュミレーションをしていたってことかしらね」


「あの……ホワイトレイク建国前の記録は、ないんですか?」


「ないわね。なぜか突拍子もないことを思いつく人達って記録を残したがらないのよ。ホント、困るわ……」


「そうなんですか……」


 トアリーは相槌を打ちながら、以前に出会った天才生物学者であるブルーロックのドクターを思い浮かべた。


「いわゆる『天才』と言われる人種の特徴ね。わざわざ記録に残すなんて手間かけなくても、頭の中に全部入ってるから必要ないのよ。それに、そういう人達って、後世に残そうとか、誰かに伝ようとか、そんな気が全くないわね。VR機とスパコンを発見したときは、もう既にホワイトレイクの建国が最終段階に入った頃だったらしいわ。当時、担当した調査官は、おそらくホワイトレイクを研究所の管理下に置くのに精一杯だったみたいね」


 堀田は溜め息をついた。過去のことが明らかになっても、状況としては全く進んでおらず、停滞している。


「ただ永久ちゃんのおかげで、あのスパコンがどういう代物かわかりそうね」


「え? ただのコンピューターじゃないんですか?」


「ついこの間まで私達もそう思ってたけど、違うみたいよ?」


 堀田がニッコリと含みのある笑顔を見せた。トアリーが理解できずに首を傾げると、「たぶん、影時のために作られたものなのよ……」と、堀田が苦笑いを浮かべたあと、伏し目がちにそう呟いた。


「それより! 気になる記述があるわ。……えーっと、そう、これ!」


 堀田は、テーブルに広げた手紙のうち1枚の紙を手にした。



『レイ へ

建国時、そちらとこちらの雑務に追われ、伝えた忘れたことがある。そちらには君が生きやすくするために必要なものを、各地に拠点を設けたが、もし拠点が全て使えなくなった場合は、≪はじまりの場所≫へ戻るといい。最後に、体調はどうだ? 何か身体に異変があった場合はすぐにこちらに連絡をくれ』



「さっき、学校関係者から連絡があって、あの共同溝の空間を確認したら、色々と派手に破壊されたあとだったって連絡があったわ」


「キリュウは?」


「いなかったようよ? 破壊したのは、たぶん霧生君でしょうね。未だにこちらに連絡がなく、戻ってもいないってことも踏まえると、この手紙の内容から、『はじまりの場所』に行ったんじゃないかしら?」


「『はじまりの場所』?」


「そうねぇ……影時澪の遺伝子配列から親族と判断するホワイトレイクの魔術師は……このヒトね。出身地はここ。永久ちゃん、パスポートは……持ってないわよね。いいわ、すぐに用意させるから」


「……パスポート? もしかして国外ですかっ!?」


「そうよ?」


「……どうしよう」


 アッサリと当然とでも言うような堀田の言葉にトアリーが顎に手をあて考え込んだ。


「不安がらなくても大丈夫よ。たぶんすぐに霧生君とも合流できるわよ」


 堀田は笑いながら、ワザとキリュウの名前を出し、トアリーを安心させた。一番安心させる方法を見抜いているところが、さすが堀田である。トアリーが頷くと、堀田は「手続きするから、あとでね」と言って、ミーティングルームを出て行った。


 ミーティングルームに一人残されたトアリーは、手紙を丁寧に取り扱いながら片付ける作業に移った。



 ―――やっぱり、キリュウは私をいろんな知らない世界へ連れて行ってくれる……たとえ離れていても



 ふと片付けの手を止め、クスリと笑った。



*****


「なぁ、いかにも頑丈そうだが……このセキュリティウォール、ホントに突破できるのか?」


 その頃、スイは、部屋の真ん中にある円筒状のセキュリティウォールから少し離れた場所より覗き込みながら小声で莉朶と諷に聞いた。


「大丈夫だって! アタシ達がセキュリティウォールに穴開ける間もずっとスイ兄が側に居てくるだけで安全に作業できるハズ」



 ―――どう考えても、なんかフラグを立ててるようにしか思えない



 諷の説明に不安しか感じないスイは、莉朶の方を見た。が、莉朶も頷いており、諷の意見に賛成らしい。


「ダメだ……そう言えば、2人ともこうと決めたら突っ走るタイプだったか」


 莉朶から視線を外し、2人と反対の方を向いてボソっと呟いた。ついさっき、自分が負傷した状況を思い出す。どう考えても、この2人は正攻法の正面突破で行こうとしているに違いない。間違いなく、さっきと同じ状況に陥りそうだ。


「はあぁぁ……どうするかなぁ」


 反対をするだけなら誰でもできるし、そんな子供がやるようなことはしたくない。この2人が納得するような、正面突破を越える代替案を提案する必要がある。そのため、入口がないどころか穴のひとつもなく、全く隙のないセキュリティウォールをじっと眺めた。



 ―――攻める場合、一極集中だと攻めやすいが、相手も守りやすい。それに失敗したときにリカバリーが難しい。ずっと前に『バーチャノーカ』をハッキングしたときにかかった時間を考慮に入れたら、それなりに時間稼ぎしないとダメだよな? だとしたら……



「2段階でやろう」


 スイがそう言うと、2人に説明し始めた。



*****



「スイ兄、いつでもいいよ?」


「こちらもオッケーです」


 スイ達は、先ほど居た場所から回り込み、ちょうど円筒状のセキュリティウォールを挟んで真向かいにいた。スイの両隣にいる諷と莉朶の2人は、既に背負子ジェット・改ゼロ式を装着している。

 スイは頷くと、深呼吸をして高鳴る鼓動を落ち着かせた。



「いくぞ? 構え!」



 スイの合図と共に、諷が助走をつけ地面を蹴飛ばし、キュイーンというジェット音とともにセキュリティウォールの周りをあっという間に1周した。諷が通った場所には無数のピッチフォークが宙に浮いた状態で、全ての尖端がセキュリティウォールに向かっている。



「射て!」



 スイの合図とともに、ピッチフォークが白銀の光を纏うと、一斉にセキュリティウォールの壁にまんべんなく針山の如く突き刺さった。

 すかさず、3人は背負子ジェットで飛び、針山となった円筒の上に降り立った。


「センパイ!」


 諷とともに莉朶が足元にあるセキュリティウォールの壁に両手をつき、集中する。

 2人の手元と接しているセキュリティウォールの壁に、銀色の文字でできたプログラムコードが何重かの円になって渦巻き状に描かれた。が、スイ達がいる場所から少し離れたところより、金色の幾何学模様が描かれ、こちらに迫ってくるのが見えた。



 ―――思ったより、早いっ!?



 スイの様子に気がつき、諷が焦った表情を浮かべた。


「2人とも、そのまま屈んでろよ?」


 スイがそう言うと、片膝をついた状態で、近くにあったピッチフォークに触れた。

 その瞬間、蒼白い光がスパークし、スイの触れたピッチフォークの刺さった場所から、迫りつつあった金色の幾何学模様を押し返すようにブルースクリーンが形成された。同じくピッチフォークの柄の先からもブルースクリーンが形成され、スイ達の頭上と足元の両方に保護シールドが展開された。


「な、なんかよくわかんないけど、スイ兄、そのままね!? ゼッタイ止めないでねっ!?」


 諷は動揺した様子だったが、すぐに切り替えて手元に集中する。莉朶は、そんな余裕が元からなく、何が起きようともひたすら手元を凝視し、プログラムコードを流し込み続けた。

 すると、諷と莉朶の手元が一瞬、一段と白く光ったあと、足元が全体が崩れた。


「うおぉっ!?」


 ガクンとバランスを崩したスイは、咄嗟に体勢を整え、着地した。

 気がつけば、円筒の中にいた。先ほどまでいた頭上にあるはずの天井部分は、なくなっている。


「ねぇ、これって何かなぁ?」


 諷が金色のエンブレムを指しながら、スイと莉朶に聞いた。


「うーん、見たことがありそうな文字だけど読めないですね?」


 莉朶が首を傾げながら考え込む。その後ろにスイが立ち、エンブレムに書かれた文字を眺めて、口を開いた。


「……これは、親からの子供へのメッセージだな」


「えっ!? スイ兄、読めるの?」


「これが読めなかったら、真の虫屋とは言えないからな? 読めて当たり前」


 諷の驚きの声に何を言ってるんだ?とでも言うようにスイが答えた。


「どういうことですか?」


「虫の学術名に使われている言語と同じなんだよ。学術名ってさ、ときどき変なのがあるんだ。……変なヤツが多いせいなのかは、ここでは置いとくが……」


 莉朶に説明し、スイが再びエンブレムに視線を戻して、書かれたメッセージを読み上げた。


「「えっ!?」」


 思いもよらないメッセージを聞いた諷と莉朶は、お互い顔を見合わた。



 ―――道具とは思っていなかったってことだな……



 スイは、エンブレムに刻まれたメッセージを見つめた。

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