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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
6章 リアルと仮想の曖昧な境界線
53/60

53 謎を紐解く手紙

 キリュウとトアリーは、学校の建物の真裏にあり、建物から少し離れたところにある共同溝の出入り口の前にいた。


「キリュウ、ホントに入るの?」


 キリュウについてきたはいいが、トアリーは今さら不安に思ったのか再度確認する。


「入るよ? 念のため、オレ達の位置情報は堀田さんに知らせてあるし、一応これから共同溝の入口のセキュリティをメンテナンス中に切り替えるから大丈夫。……不安?」


 共同溝の扉の横にあるパネルを操作しながらキリュウが答えた。


「うん……ホワイトレイクと同じ構造でも、知らない場所だと不安になる」


「そう」


 ホワイトレイクは、トアリーの故郷だ。同じシステムだと言われても、中世ヨーロッパ風の建造物の雰囲気と、今いる近未来的な雰囲気をもつ建造物とでは、そこから与えられる安心感が異なるらしく、落ち着かない様子だ。そんなトアリーの様子を横目でチラッと確認したキリュウは、あっさりとした相づちを打つと同時に構わず扉が開けた。


「……キリュウ、少しどいてくれる?」


「えっ?」


 扉の中に入ろうとしたキリュウの腕を掴み、トアリーはキリュウを共同溝の入口から距離をとらせると、ポケットからちょうど片手に収まる大きさのメタリックな長方形のブロックを取り出した。

 何回かブロックをスライドさせながら組み立てると、あっという間にレイピアの柄の形に似た金具になった。最後にカチッと取っ手をスライドさせると取っ手から剣先らしきものがヒュンと飛び出る。リーチがレイピアと同じだ。


「……ナニソレ?」


「マスター ライズォーンが『護身用に』ってくれたの」


「……あのじいさん、何考えてんだ!?」


 ―――トアにレイピア持たせたら、護身じゃなくて、確実に返り討ちだろ?


 キリュウは片手で目元を覆った。が、トアリーは気にせず、ガンと扉の隙間にレイピア状の剣を突き刺し、「これでよし」とでもいうように頷いた。完全に物理的に扉が閉まらないようになってしまった。


 ―――前だったら、こんなこと絶対しなかったのに……、なんか……だんだん行動がオレに似てきてる?


 キリュウと一緒に行動し続けた影響をもろに受けており、キリュウが気がついたときには既に手遅れだった。


*****


 キリュウ達は、共同溝から入り、しばらく歩いた先の突き当たりの壁の前にいた。

 キリュウは、壁を適当に軽く叩きながら音を確認し、壁の一部を押し込んだ。壁がカチッと凹み、横にスライドすると、中からパネルが現れた。


「本当にホワイトレイクと同じシステムなんだ……」


 その様子を見ていたトアリーの言葉にキリュウが「あぁ」と頷いた。


「たぶんこの学校自体、『ホワイトレイク』のプロトタイプなんだ。だから、基本は同じ。でも何らかの理由で採用されていないシステムがあったり新しく追加したシステムもあるから、全く同じとは言えないな」


 キリュウは説明しながらパネル操作すると、突き当たりの壁が移動し、目の前の視界が開けた。

 さらにキリュウ達は奥に進むと、明るい空間が見えた。頭上にはガラスの天井が広がり、光が眩しいほど降り注いでいた。その景色は、ホワイトレイクほどではないが、近未来的な幻想風景だった。

 キリュウ達が光の天井を見ながら通路からその空間に入った瞬間、横から殴りかかる人の気配がした。キリュウは低姿勢をとって避け、トアリーは咄嗟に身を引いた。続いてキリュウは殴りかかった人物の腹部にタックルすると、その人物がかけていた眼鏡が勢いよく吹き飛んだ。トアリーがポケットから長方形のブロックを取り出すと、通路から空間に入り、キリュウ達から距離を取りながら手早くブロックからレイピアへと変形させた。そしてレイピアを片手に反対から回り込み、助走をつけて壁を駆け上がった。



―――げっ! フリーランニング!?



 キリュウの知らぬ間に習得した技を使い、トアリーが壁を一気にかけ上がって、壁を蹴り飛ばし、襲ってきた人物の背後に着地した。そして、すかさずトアリーは、背後からレイピアの剣先をその人物の首につきつけた。


「影時っ!?」


 その人物の顔を確認したキリュウに、ニヤリと笑いかけたのだが、次の瞬間、スゥッと影時は消えてしまった。


 ―――ホログラムか! ということは、ダミー!?


 以前に会ったときの影時の動きとだいぶ違うことに違和感を感じていたキリュウは、光が降り注ぐ空間を見渡し、その空間の真ん中にある半透明の七色に光るキューブの向こうに倒れた状態の人影を見つけた。急いで駆け寄り、確認すると、こっちが本体だと確信した。眼鏡はしていないが、顔は影時だった。ベッドフォンをし、パーカーのフードを深めに被った状態で倒れている。


 ―――こっちの身体も転送された後か……転送先は……


 キリュウが、半透明のキューブに触れた途端、地面に見覚えのある金色の特殊な文字が描かれた魔法陣が現れ、足元と頭上から透明な壁がサァッと音もなく作られていく。


 ―――やられた! トラップか!? 


 キリュウは舌打ちしながら、状況を素早く確認した。まだ、無事でいるトアリーが視界に入ると、巻き返しできると確信した。


「トア、逃げろっ!!」


 キリュウが片耳からシルバーのサークルピアスを外し、完全に囲まれる寸前に隙間からトアリーにピアスを投げた。弧を描き、トアリーの手のひらに落ちたのを確認し、ホッと表情を緩める。


「スライドさせて『コード003』と言えばいいからっ!」


「キリュウっ!!」


 トアリーが駆け寄ろうとするが、「トア!」と、キリュウがトアリーの行動を咎めるように名前を呼んでトアリーの動きを止めた。


「……好きだよ?」


 キリュウの予想外の言葉にトアリーが目を丸くしたが、すぐに悲しそうな笑顔を浮かべて「……バカ」と、呟いたのが聞こえた。

 その情景を最後に、透明な壁から黒い壁に反転し、キリュウの視界が暗闇に覆われた。



 ―――やばっ! これって死亡フラグのシチュエーションじゃねっ? 自分でフラグ立ててどうするんだよっ! まぁ、いっか……あのときなんで言わなかったんだって、後悔するのはイヤだし



 暗闇の中で、そんなことが考えられるほど、キリュウはまだ余裕であった。



*****


 トアリーは、キリュウの言われたとおりに行動し、調査官の緊急脱出システムを使い、科学技術特区研究所に戻った。


「まぁ、よくやったほうじゃない? ホワイトレイクは、こっちのテリトリーだけど、その地下設備は、今の状況だと完全に相手側に有利みたいだから」


 トアリーから事情を静かに黙って聞いていた堀田が、冷静に所感を口にした。


「堀田さん……私、キリュウを助けに行きます!」


「うーん、たぶん行ってもそこにはいないわよ? 霧生君って、じっと助けを待ってるタイプじゃないでしょ」


 堀田のあっけらかんとした指摘に、トアリーが頷いた。


「……ですね。どんなことがあっても自分で道を切り開こうとします」


「でしょ? それに、今は突っ走ってる最中だから、糸の切れた凧のような感じよね。霧生君って、たいてい大胆に突っ込んで行くから、そのピアスを身に付けさせてたんだけど、まさか捕まる寸前に咄嗟の判断で永久ちゃんに渡すとはねぇ……やっぱり、愛する彼女をいち早く安全な場所に移動させたかったとしか思えないわね、まったく」


 堀田は溜め息をつきながら、予想外の行動を起こすキリュウに手を焼いていると言いたげにぼやいた。

 そんな堀田の愚痴を聞き流し、トアリーは手のひらにあるキリュウのシルバーのサークルピアスを見つめた。

 こんなことは初めてで、トアリーは不安で仕方がなかった。今までは、だいたい一緒にいたし、一緒ではないときだってお互いの日程は把握していた。

 キリュウは、まだ延び白のある成長途中で、すごい勢いで駆け抜けていっている。今、こうして離れている間にも、いろいろキリュウは経験して、自分は置いていかれるんじゃないかと焦る気持ちで一杯だった。


 ―――自分で考えないと! キリュウなら……きっと情報を待つんじゃなくて、自ら取りにくいハズ


 トアリーは、目を伏せて深呼吸すると、堀田をまっすぐに見て言った。


「私、家に戻って、選ばれし騎士がやりとりした昔の手紙を調べてみます。何か情報があるかもしれない」


「そうして貰えるとこちらも助かるわ。影時が、妙にホワイトレイクに執着していたことも気になるし」


 堀田の言葉に頷き、トアリーは研究所から自宅へと向かった。



******



「さて……もうそろそろ、いい頃合いだな」


 キリュウは暗闇の中、トアリーが地下空間から脱出する時間を推し測っていた。


「ホント、真っ暗だ。何にも見えないや」


 キリュウは、その場で365度ぐるりと見回した。

 暗闇にしばらく居たせいか、目が慣れてきたおかげで、床に含まれる微粒子がぼんやりと微かに光っていることがわかった。この光り方に見覚えがあり、どうやら浮遊石が含まれているということに気がついた。そして、キリュウは少し前の状況を次々と思い浮かべる。


 ―――確か、このトラップ発動時にホワイトレイクで使われているコードと同じ魔法陣が現れたけど……発動の仕方がホワイトレイクとは違っていた。音声認識でも光学文字認識でも動作認識でもないとすると……



「……脳波か!」


 キリュウは目を閉じ、試しに光系の魔法陣を正確に脳内で描いた。

 目を開くと、そこに光の文字が刻まれた魔法陣がキリュウと対面する形で現れた。


「アタリか……」


 閉じ込められた空間全体に光を照らし、暗闇を追い払った。あまりの眩しさに目を細めたあと、「じゃあ、本番」と、挑むような真剣な表情を浮かべて呟いた。

 深呼吸して、再び目を閉じ、自分の周りに対衝撃派用のシールドを張るための魔法陣を脳内で描く。足元の中心部から外側へと魔法陣が広がるように描かれていき、時計回りに風が巻き起こった。風で囲まれた状態で、キリュウは細かな七色に光る浮遊石の微粒子を、シールドの外側にある、白く大理石のように煌めく床から抽出した。さらに、空中に浮遊させた微粒子にトルネード級の風圧をかけ、自分を閉じ込めている壁面を凄まじい衝撃を加え、削っていった。


「うわっ! この音、嫌いなんだよなぁ」


 削り取っていく音に、しかめつつ、更に高速化させる追加のプログラムコードの魔法陣を描く。



パアアァァンッ!



 圧に耐えきれず、キリュウを閉じ込めていた壁が音と共に崩れた。

 続けて、半透明の七色に光るキューブが先ほどと同様、転送先を読み取ろうとすることで、「トラップが起動する」と予測したキリュウは、転送先を調べずに、思いきり駆け上がってキューブの上に立った。頭上に広がるガラスの天井へと、さらに床全体から抽出した浮遊石の微粒子を集め、1点に集中させた。


 ―――ホワイトレイクのシステムと同じなら、コアだけ壊せば、データは使える


 キリュウがキューブから飛び降りると同時に、キューブの中心部へ浮遊石の微粒子が加速しながら雷の如く、一瞬にして落ちた。キューブのコアがチリチリと放電し始め、七色に光っていたキューブは、スゥ……と、光を失った。

 キリュウが、ただのキューブになった物体に近づくと、すぐに異変が起きた。



『拠点014 エラー』



 ―――えっ!?



『緊急転送システム作動』



 驚き固まったキリュウは、そのまま為す術もなく、突然現れた移動型魔法陣により、地下空間から見知らぬ場所へと強制的に一瞬で移動させられることとなった。


******


 自宅に戻ったトアリーは、地下にある書庫にいた。

 魔法の国ホワイトレイクの白い部屋の魔法使いであるパトロナスと、こちらの国に来た選ばれし騎士との間でやりとりされた過去手紙は、全てここに保管されている。


「かなりの量……」


 トアリーは、保管された手紙の莫大な量に圧倒されていた。無造作に紐で結んで積んだ束が塊で並べてある状態だ。

 とりあえず、束になっている一番上の手紙を抜き取り、読んで戻すという作業をはじめることにした。

 読みはじめてみると、手紙の束が1年毎にまとめられていることがわかり、影時の親族についてどこかに書かれているのではないかと期待した。



*****



「これも違うか……これが最後の束ね」


 トアリーは呟きながら、だいぶ埃を被っている手紙を抜き取った。


『レイ へ』


 ―――れいっ!? アノヒトと同じ名前の騎士がいたんだ……


 ホワイトレイクで「レイ」という名前は珍しく、トアリーは、違和感を感じた。しかし、続きが気になり、一旦そのことについて考えることをやめた。


『その後、そちらはどうだ? お前を一人を残していくのは気がかりだが、お前も分かっている通り、こちらに来たらお前は生きることができない。それから、ホワイトレイクに何かあったらお前だけが頼りだ。宜しく頼む』


 ―――確かキリュウから聞いた話だと、ホワイトレイクを建国した7人の魔術師とその親戚が移住したけど、そののうちの1人の魔術師の親戚が1人だけこっちに残ったはず。それがアノヒトの祖先だって……


 しかし、実際に影時は身体は人間だが、人工知能が組み込まれた特殊な存在だった。その事実がひっかかる。


「もしかして……ホワイトレイクのために初代の選ばれし騎士として作られた?」


 トアリーは、怪訝な表情で、「レイ」という手紙の文字を見つめた。

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