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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
6章 リアルと仮想の曖昧な境界線
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52 仕掛けられた罠

 VR筐体にスイ達が入り、ダイブ中であることを表示したパネルを確認したキリュウは、片耳にしている通信用のサークルピアスをカチッとスライドさせた。


「堀田さん?」


『霧生君、3人ともVR室に案内した?』


「今、ダイブ中。 もうバックアップ先と転送先の拠点の追跡調査、開始したはず」


『了解。事務手続きは終わったから、あとは私の方で引き継ぐ。行っていいわよ?』


「あぁ、ただその前に確認したいことが……」


『何?』


「特区のホワイトレイクにおける都市設計が、あの学校と似てるんだけど、あそこにも地下道はある?」


『調べたことはないわ……だいたいド田舎じゃない限り、インフラ全部、セットで地下にあるもんじゃない? あそこの学校だけ特別ってワケじゃないから、そういう意味では、地下道はあるはずよ?』


「わかった」


 キリュウは堀田との通信を終わらせると、部屋の扉を開けた。


「トア、行くよ?」


「え……私も、いいの?」


 一緒に行きたいとは思っていたが、今回はダメだろうと諦めていたらしく、まさかキリュウに誘われるとは思っていなかったため、トアリーは嬉しそうに遠慮がちに聞き返した。


「今さら、だよ」


 キリュウは笑いながらトアリーの手をとり、部屋の外に出た。


「さっきの尾河さんの話だと、アノ人は学校?」


 トアリーは早足で歩くキリュウの真横に歩くよう、ピタリと歩調を合わせながら、行き先について確認するため聞いた。


「その可能性は高い」


「でも、建物内はセキュリティがあるから、知り合いがいないと入れないはずだけど……」


「地下にある共同溝への出入り口が何ヵ所かある」


「! ……それって、確か『そこに入ると学位剥奪になる』とか、『取得できなくなる』とか、学生の間で噂になってた場所!?」


 トアリーが言ったのは、なぜかどの学校にも必ず存在する『噂の七不思議』と言われるものの1つだ。最高学府の学校にまで、そんな噂が存在することに、初めてそれを聞いたキリュウは半眼で「はぁ?」と耳を疑った。


「あぁ、その噂かぁ……たぶん半分正解で半分間違ってるかな。共同溝は、ホワイトレイクの地下道と同じ構造なんだ」


「じゃあ、外からしか開けられないってこと?」


「うん。内側から開けられないから、入ると出られなくなる。で、万が一発見が遅くなった場合は衰弱して入院……時期が悪いと卒論の締め切りに間に合わず学位がとれなくなる」


「なるほど、それでああいう噂が……」


 トアリーは納得したように頷き、すぐ怪訝な表情を浮かべた。


「そうだとすると、私達が入ったら閉じ込められちゃう!?」


「そうだな、オレはトアが一緒なら……「イヤだ、閉じ込められたくない」」


 キリュウの言葉を遮り、サッと青ざめたトアリーが呟いた。


 ―――即行で全否定かよ……


 キリュウは、やさぐれた。


******


 転送元の形跡を調べるためシーリングコンセントに繋がる配線に直結しているターミナルまで来たスイ達は、念入りに転送先が分かるヒントとなりそうな事象を探していた。


「あ! センパイ! これ、転送形跡の痕だよ?」


「うん、ここでブーストしてる……けど、やっぱり使われてない言語だね」


 諷と莉朶は、ブースト機能を有効にするために使われたと思われる文字をチェックした。


「使われてないって、一体どのくらい前に使われなくなったんだ?」


 ターミナルの壁面に、とめどもなく流れる金色の文字を調べている2人の後ろに立っていたスイが聞くと、諷が壁を眺めたまま口を開いた。


「うーん……だいたい使われていたのは、5、60年前ぐらいかなぁ」


「じゃあ、あの人工知能の人間や、このVR機は、そのぐらい前に作られたってことか」


「……まさか、五感直結型のVR機ができたのってここ数年だったハズだけど」


 スイの言葉に、諷が突然振り返り、否定した。莉朶も「そうです」と、頷いた。


「それに人工知能を生体に組み込む技術なんて、今まで聞いたことがないですよ? 大抵、生体が異物と認識して拒絶反応が出るというのが常識ですから」


「うん、だよねー。まぁ、技術どうこう以前に、倫理的にマズくない? 人の思考を潰して人工知能に入れ替えてるってことでしょ? つい最近、隠れて誰かがやったんじゃないかなぁ? そんな突拍子もない技術、昔からあるなら、とっくに噂になって世間に知られてそうだよー」


「いや、最近ではないのは確かだ。その人工知能のデータ転送形跡にあるブーストの痕は、60年前に使われなくなったプログラム言語なんだろ? 今使われている言語でも反応するのにワザワザ使われてない言語を使う意味はあるのか?」


 スイの鋭い指摘に2人が黙り、考え込む。


「だとしたら、今までの状況証拠から、そう推察する方がシックリくるけどな」


 スイが構わず、自分の考えを口にすると、莉朶が視線を壁面に浮かんだ金色の文字に移しながら、呟いた。


「つまり、あの人工知能の人間は、古いプログラム言語しか知らないってことですね?」


「おそらくな」


「じゃあ、転送先の情報は暗号化されてないハズだから、すぐ分かるかも!」


 諷がイキイキとした表情を浮かべ、先ほどまで見ていた壁面の向かいにある壁の前に移動する。


「えーっと転送先は……うっ!」


 突然、諷が腕を抑え、崩れるようにその場にうずくまった。一瞬、スイは何が起きたかわからなかった。何も攻撃された形跡がない。


「諷ちゃん!?」


「センパイ……トラップ、発動……した」


 スイの呼び掛けを無視し、苦しそうに言葉を紡ぐ。

 すると、壁面に文字の流れが反転し、頭上からガラスのような透明な煌めく粉が降ってきた。凄まじい勢いでドーム状の屋根ができていく。


 ―――オレ達を閉じ込めようとしてる?


 莉朶は素早く状況確認し、背負子(しょいこ)ジェットを背中に装着した状態で形成させると、助走をつけて地面を蹴りあげ飛んだ。軽くジェット音の爆発音をさせた。


「スイさん!」


 莉朶が放り投げたロープをキャッチすると、瞬間的にベルトでスイの身体が固定された。地面スレスレになるように飛んだまま、いまだしゃがみこみ動けない諷へ向かった。


「諷ちゃん!」


 スイが体重移動させ、拾い上げるように諷の腰に手を伸ばした。諷の身体を抱きしめ、スイは莉朶に合図を送ると、3人が通れるギリギリの隙間を通り抜け、完成しつつあったドーム状の檻から脱出した。

 莉朶はさらに飛行スピードを上げ、進行方向の壁面の手前に壁状にカモフラージュしたシェルターを作ると、そこに逃げ込んだ。


*****


「諷、大丈夫? 見せて?」


 莉朶がゆっくりと諷の手をどけ、損傷箇所を確認した。


「腕、ザックリやられた。しかも、このVR機、痛感のリミッターがないよ?」


 莉朶が諷の腕を手当てしていると、涙を浮かべて諷が弱々しく呟いた。


「リミッターなしっ!? よく、耐えられたね? 諷、えらい!」


 莉朶が諷を優しく抱き締めた。


「痛感のリミッターってなんだ?」


「VR機は、五感直結型なのですが、完全に直結してるわけではないんです。中毒性の高い感覚や、ショック死に繋がるような感覚は、上限値を設定してリミッターを設けることを義務付けてます」


「それが、このVR機にはないのか……」


「そうみたいですね」


 莉朶の説明を聞き、スイは溜め息をついた。


「まるでデスゲームだな」


「……こちらも本気を出さないとダメですね」


 スイの言葉に頷き、莉朶はギュッと諷を抱き締め、真剣な表情になった。

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