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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
6章 リアルと仮想の曖昧な境界線
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51 研究用VR

 キリュウの特区業務再開の案内を終えたと同時に、凪の同僚であるブルーロックチームの伊能がストレッチャーを運んできた。


「じゃあ、確定試験後にコールドスリープ処理しますね?」


「えぇ、お願い」


 影時をストレッチャーにのせ、凪が影時の身体の扱いについて、堀田と確認した。


「霧生君と永久ちゃんは3人をSVR室に案内して」


 堀田の言葉にトアリーは素直に頷いたが、キリュウは怪訝な表情を浮かべた。


「普通のじゃなくて、あれを使うのっ!?」


「時間勝負なんだから、ハイスペックで処理が早い方がいいでしょ? 私も暇じゃないから、この案件は今日か明日中に終わらせたいの」


「げっ! 今日か明日中(・・・・・・)? まじか……」


 堀田の要望にキリュウが青ざめた。


「じゃあ私は事務手続きがあるから、2人ともちゃんと案内するのよ?」


 堀田はキリュウとトアリーに指示を出すと、軽く手を振りながら凪達と一緒に部屋から出ていってしまった。

 キリュウは溜め息をつくと、「案内します」と、スイ達に告げ、堀田達とは異なる方向へ歩き出した。



*****


 ―――あれ? ここってさっき来た場所……だよな? 扉の数がさっきより多い気がするが、建物内が変化してるのか?


 疑問に思いながら、スイが施設内の周りの様子を確認していると、「ここです」と、前を歩いていたキリュウが立ち止まった。


「なぁ、ここってさっきまで確か『資料保管室』って言ってなかったか?」


「……いえ? あそこの扉が(・・・・・・)『資料保管室』の出入口と案内しましたけど? あとは察してください」


 スイの疑問に3つ先の扉を指しながら、キリュウがそう答えた。


「えぇ! もしかして、さっきと全然建物の中が違ってる!?」


 諷の言葉に莉朶の目が見開き、キラキラと輝かせている。『影の組織、キター!』と思っていることが丸わかりである。


「あぁ、そういうことか……確かにウソは言ってないな」


 スイは莉朶の様子に苦笑いした。

 キリュウがセキュリティを外し、扉を開いた。スイ、諷、莉朶を部屋の中に入れると、最後に部屋に入ったトアリーが扉を閉める。

 部屋に入った途端、諷と莉朶の落ち着きがなくなった。


「まさか世界最高性能のスパコンに研究用VRを繋いでるのっ!? ナニコノ贅沢ナ仕様……」


「夢のようです……いつかやってみたいとは思っていましたが」


「ホントに、これ使っていいのっ? アタシ、業務用じゃないのを使うのって初めてかも……」


「ちょっと待て、2人とも落ち着け!」


 諷と莉朶が次々に思ったことを口に出すため、キリュウが説明できない状態に陥っていたところ、スイが止めに入った。

 やっと静かになったところで、「乃木君、どうぞ」と、スイがキリュウを促した。


「あ、はい。許可は取れてるので、使ってください。あと、皆さんのダイブ中、サポーターとしてウチのチームリーダーがVR機の外で待機します。連絡役も兼ねているので頻繁にやりとりすることになると思いますが、よろしくお願いします」


 キリュウの説明に2人が頷いたが、すぐさま諷がVR筐体(きょうたい)に身体を向ける。


「じゃあ、早速研究用VR機、はいけーんっ!!」


 そわそわした様子で諷と莉朶は中の状態を一通り確認した。


「……これだと、前もってプログラム組まなくてもいけますね。脳波の読み取り感度が良すぎなぐらいだから、ダイブしながらプログラムが組めるかも」 


「センパイ、最高だねっ! アタシ達、ダイブ中は魔法使い気分が味わえるんだよ?」


 諷と莉朶のテンションがマックスに近い。


 ―――まいったな、この2人について行けるのか?……オレ


 諷と莉朶の早口な会話を聞きながら、スイは遠い目をした。


「スイ兄? 早く! 行くよ?」


「あぁ」


 既に研究用VR筐体に入った諷に呼ばれ、スイも筐体に入ろうとしたところ、「そういえば……」と呟きながら立ち止まった。


「乃木君、あの人工知能の人間にソックリな奴を駅前通りで見たんだ。たまたまぶつかったんだが、ソイツも目の中に文字が見えたから人工知能だと思う」


「! ソイツ、どっちに向かった?」


「街道方面だ」


「ありがとう!」


 キリュウのお礼の言葉に笑顔で頷くと、スイは筐体の中に入った。


*****


 筐体の中は3ヶ所のブースに別れていた。既に2ヶ所のブースに諷と莉朶が入り込み、スタンバイしていた。


「スイさん、こちらにどうぞ」


 莉朶が指し示したブースにスイが入った。

 シューンという機械音とともに透明な板に囲まれた。そして、スイの目の前にある板に、身体データが順に表示されていく。


「……脈拍、正常……呼吸、正常……脳波、異常なし……」


 VR筐体内に人工音声のアナウンスが流れた。


「……ダイブモードに移行」


 引き続きアナウンスが流れる。


 ―――研究用VR機って、こんなにアクセスに時間がかかるもんなのか? 2人は『世界最高性能』って言ってたけど……なんとなく古くさい感じがするのは気のせいか?


 次々と自分の身体データが目の前の透明板に表示される中、スイは変化する波形を眺めながらそう思っていると、一瞬意識がフラッシュバックした。

 スイが気がついた時には、いつの間にか白い部屋に立っていた。周りに金色の文字が雪のように降っている。見上げると、頭上に沢山の金色の文字が円形に渦巻いている。


 ―――VRにアクセスできたのか……?


 不思議な光景に戸惑っていると、諷と莉朶がスイの隣にシュンッと現れた。


「……なんで2人は運営用ツナギを着てるんだ?」


 スイが自分の着ている服と2人の格好を見比べた。スイの服は、そのままスキャンされたらしく、リアルで着ている服と同じだ。


「テストだよ? ちゃんとダイブ中に脳波を読み取ってプログラムが組めることが出来てるか実践で確かめてみたんだ!」


「どうやら大丈夫みたいですね……通常の業務用VR機だと読み取りエラーが多少起こるので、事前に修正が必要だけど、このVR機はさすがですね! エラーがないです」


 莉朶が、諷のオレンジ色のド派手なツナギと自分の青色のツナギをチェックしながら感心した。


「ほら、センパイ! きんぎょーっ!!」


 なぜか諷が片手から水に包まれた金魚を出す。完璧な水の中で泳ぐ生きている金魚で、エラーは見られない。その様子を半眼で見ていたスイが呟いた。


「……不安だ。いや、むしろ不安しかない。ホントにこのメンバーで良かったのか?」


 テンションの高い2人とは対照的に、こんなとき一人だけ冷静な自分が恨めしいと、スイはヒシヒシと感じていた。


「スイ兄! 何、ブツブツ言ってるの?」


「いや、なんでもないよ」


 スイを下から覗きこんだ諷の肩を莉朶がトントンと軽く叩いた。


「ねぇ、さっきから降ってるこのプログラム言語……50年以上前に使われていたものみたい」


 莉朶が降りしきる金色の文字を見つめながら言った。


「え? あ……ホントだ。今は使われてないコードだねー、化石を発見した気分」


「性能は間違いなく世界トップレベルなのに……なんか変?」


「だねー。だけど、とりあえず先に追跡調査しよ? ダイブ中にプログラムが組めることは確認できたし! それに、アタシ達が使ってるプログラム言語でもバッチリ対応してるみたいだし!」


 諷が進む方向を指で指し、先に歩き出した。


「莉朶さん、行こうか」


 じっと頭上の渦巻く金色の文字を名残惜しそうに見つめている莉朶にスイが声をかけると、莉朶は無言で頷き、歩き出した。

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