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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
5章 閑話休題 とあるVRMMOプレイヤーの話 ―オレがやりたかったVRMMOとなんか違う―
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44 はじめてのオフ会

 ひどい目にあった。その一言に尽きる。

 オレはログアウトしたあと、寝込んだ。こうなってしまうとひたすら寝るしかない。当然食欲もない。



 ――疲れた……



 グルグルと身体が回る感覚のまま意識が遠のいていった。そして、気がつくと朝になっていた。



*****



尾河(おがわ)


 仕事を終え、帰宅準備をし始めたオレは、同僚に呼び止められた。


松尾(まつお)さん、今日は飲みに行かないですよ?」


「当たり前だ! そう毎日飲んでられるかよ……昨日、諷のやけ酒につき合ったのに」


「……それは、大変ですね」


 諷ちゃんは、かなり酒に強いらしく、「気を抜くと潰される」と兄である松尾さんがしょっちゅうぼやいていた。


「バイト先で何かあったらしくってさ、仕事が上手くいかなかったみたいなんだ。……で、尾河(おがわ)に会って相談したいって言ってたんだが」


「オレに相談って……役立ちますかね? 確か諷ちゃんの専攻って情報工学ですよね?」


 どこまで松尾さんが知っているかわからないため、ボロが出ないようにそれとなく相談内容を探った。


「うーん……そうだよな? 諷のヤツ、何を相談しようとしてるんだろうか」


「オレが知るわけないでしょう」


「ハハハッ……そりゃそーだ! まぁ、とにかく相談したいらしいから頼むよ。今度の水曜日は定時上がりの日だろ?」


「はぁ、そうですけど……」


「じゃあ、頼むな!」


 さすが似た者兄妹だ。押しきられた。



*****



 水曜日――


 仕事場を定時に上がり、オレはそのまま待ち合わせ場所であるオープンカフェへと向かった。西日が眩しい。


「あ! スイ兄、こっちだよー」


 諷ちゃんが手を振った。隣には莉朶さんがいる。


「あー、えーっと……はじめまして、でいいのかな?」


 挨拶をすると、莉朶さんも慌てて立ち上がり、「はじめまして」とお辞儀をした。ツナギ姿じゃないためか、少し違和感を感じる。


「スイ兄、あのあと大丈夫だった?」


 椅子に座ろうとしたところ、諷ちゃんが聞いてきた。


「ダメだったよ、死んでた」


「だよねー、ゴメンね! あの時は、あれしか方法なかったから。ところで、スイ兄に見てもらいたいのがあるんだけど……」


 軽く謝罪し、諷ちゃんはテーブルに置いてある電子端末をオレの方に向け、動画を再生させた。


「実は事例研究として解析するために、念のためAIノースと接触した際の一部始終をキャプチャーしていたんです。」


 莉朶さんの説明を聞きながら、動画を見た。


「オレは専門家じゃないから、よくわからないが……これを見る限りでは『バグ修正』が成功しているように見える……」


 オレの言葉に2人が頷いた。


「そうなんだよね! ちゃんと莉朶センパイ、撃ち込んでいたし……ここをよく見るとわかるんだけど、AIノースとバックアップ部分も一瞬再構築するような兆候があるんだ」


 諷ちゃんが、再構築の兆候を示した部分で動画を止めた。


「……だけど、何らかの原因で覆されたのか」



…………



 オレの言葉を最後に、3人とも黙り込んで深い溜め息をついた。


「……原因として考えられることは?」


「わかんなーい」


 諷ちゃんが投げやりに答える。


「……他に相談できるヤツはいないのか?」


「それが、勧誘してるのですが逃げられてしまって……」


 莉朶さんがそう言うと、


「そうなの! アイツ、逃げ足、速すぎだよね!?」


 諷ちゃんが不満げに頬杖をついた。

 この2人のことだ、勧誘方法に問題がありそうな気がする。


「スイ兄、勧誘するの手伝ってくれない?」


 そういうことか……、それで今日オレが呼ばれたのか。


「……で、その勧誘の相手は?」

 巻き込まれていることに半分諦め、聞いた。


「「乃木(のぎ) 霧生(きりゅう)」」


 諷ちゃんと莉朶さんが同時に答えた。


「……誰?」 


 いきなり名前を言われてもわからない。有名人か?


「今年、アタシ達の学校に飛び級で入ってきた新入生なんだけど……話してみると、やたら機械工学や情報システムや応用化学の専門科目を網羅しているらしいんだよね。最近は生命工学系もいけるらしいって。だから、噂になってる」


「……そいつ、何者?」


「さぁ? でも、ヒントとなる事例を知っている可能性があるから、引き入れたいんだ。だから、スイ兄、平日で休みをとれる日ない?」


 諷ちゃんの説明は、雲を掴むような話だ。その人物が本当に知識を噂の通りに有しているのかわからないし、オレ達が知りたい情報を知っているかどうかも不明だ。「そういった知識があれば」という仮定のうえで成り立っていて、かつ知っている可能性が高いという推測でしかない。

 だが、現状、このメンバーで解決案が出せないので仕方ない。VRMMOの開発でかなり先行投資した分、莉朶さんも諷ちゃんも必死だ。噂話でもその人物と接触する価値はありそうだ。ただ、2人の必死さに、相談相手として名前があがった人物がドン引きしている可能性がある。


「うーん……急だなぁ。平日かぁ……昼休みの時間をずらして、その時間内だったら可能かもしれない」


「スイ兄! ありがとう!!」


「ありがとうございます!」



 ――こうしてドンドンといつの間にか巻き込まれていくのか……


 莉朶さんや諷ちゃんと別れて、自宅への帰り道を歩きながら、そう思った。



*****



 それから2日後――


 昼休みを早くとり、オレは諷ちゃん達の学校へ行った。時間が限られているので、できる限り早くすませたいところだ。


「スイ兄! 来てくれて、ありがとう」


 諷ちゃんが建物の入口のところで待っていた。莉朶さんも一緒だ。


「……で、乃木(のぎ)くんだっけ? どこにいるんだ?」


「今、講義中ですから、教室のドアの前で待機すれば会えると思います」


「そうか、じゃあ行こう! 時間がそんなにない」


 莉朶さんの案内で、オレ達は建物の中に入った。



*****



 教室の扉と反対側の壁のところで待っていると、教室内が急に騒がしくなった。講義が終わったらしい。

 やがて教室の扉が開き、学生が出てきた。どいつも同じように見える。


「2人とも……オレは顔を知らないから、出てきたら教えてくれ」


 見過ごさないよう、それらしき人物を探すが、不安だ。オレは小声で莉朶さんと諷ちゃんに頼んだ。


「大丈夫だよ! 片耳に青いのとメタリックサークルのピアスをつけてるヤツを探せばいいから。目立ってるから、わかりやすいハズ!」


「空気みたいに存在感がないですけどね……」


 諷ちゃんと莉朶さんの話を聞き、余計混乱した。目立つのに存在感がないって、矛盾していないか?



…………



 ひたすら教室の扉を凝視し、目で追って当てはまるヒトを探す。


「……あっ!」


 諷ちゃんが声を出した瞬間、それらしき人物が反応し、こっちを見た。



 ――片耳に蒼の涙型のピアスとメタリックサークルピアス!



 オレ達と目が合うと、ダッと走り出した。


「スイ兄! アイツ捕まえて!!」


 諷ちゃんが追いかける。莉朶さんは反対側に走り出した。挟み撃ちにするらしい。

 オレは諷ちゃんに言われるがまま、走った。


 が、廊下を曲がったときにはいなかった。



 ――消えた!?



 オレは唖然としながら、辺りを確認する。


「まさか……窓か!」


 開け放された窓ガラスから外を見れば、ガサガサと木が揺れている。そして、ザッと木から飛び降りて、平然と歩く姿を確認した。


「スイ兄! 乃木霧生は?」


「あそこだ……」


 追いついた諷ちゃんに聞かれ、オレは窓の外を指した。


「ああ……また逃げられたぁ」


 諷ちゃんがガックリうなだれた。


「またって……そもそもやり方が間違っているだろ。これじゃあまるで『襲撃』だ」


「うぅ……」


「まったく……反省しろ」


 そこに莉朶さんが反対側の廊下からやってきた。


「乃木くんは?」


「あそこー」


 莉朶さんの質問に、窓にもたれた諷ちゃんが外を指した。莉朶さんが溜め息をつく。


「違う接触方法じゃないとダメだな……2人の今までの勧誘方法が裏目に出てる」


「何かいい方法、ありますか?」


 あの逃げっぷりは、どう考えてもかなり身体を鍛えている。とすると……


「周りから攻めるしかないな。乃木くんと親しいヒトは?」


 諷ちゃんと莉朶さんが顔を見合わせたあと、ニッコリ笑って頷いた。


*****


 オレ達は、食堂の方に向かっていた。昼休みになったので、かなり混雑している。天気が良く、外のカフェテリアで過ごすのもいい。


「……いた」


 小声で諷ちゃんが囁いた。


「誰?」


「応用化学専攻の留学生……確か『永久(とわ)』って呼ばれてる。乃木(のぎ) 霧生(きりゅう)と話しているところをよく見かけるから、かなり親しいんじゃないかなぁ」


 諷ちゃんの説明を聞きながら視線を木陰のベンチに座っている人物へと向けた。

 栗毛色のサラサラのポニーテールの毛先を緩やかに風が揺らして通り抜けていく。課題をやっているらしく、電子端末でひたすら打ち込んでいた。ふと顔を上げ、周りを見回し、人を探すがいなかったらしく、また電子端末の画面に視線を戻した。そのとき、太陽の光を受け、片耳にある何かがキラリと光った。


 ――何だ? ああ、ピアスか……


 納得して視線を外したが、妙な既視感を感じて、もう一度ピアスを見た。


 ――あのピアス……乃木くんがしていたのと同じ?


「なぁ、もしかしてあの子……」


 オレが思ったことを口にしようとしたが、隣にいたはずの莉朶さんと諷ちゃんがいない。


 ――え? アイツらどこに……


「すみませーん、応用化学専攻の永久(とわ)さんですか?」


 オレを置いて、2人が『永久さん(ターゲット)』に話しかけていた。



 ――おいっ! 打ち合わせなしでイキナリ接触かよっ!?



 オレは頭を抱えた。


「アタシ達、情報工学専攻なんですけど……こういうのやっていて……」


 どうやら諷ちゃんがグイグイと自己紹介という名の「相談」をしているようだった。そして、いつの間にかちゃっかり莉朶さんが「永久さん(ターゲット)」の横に座っていて、学生である証明のIDカードと学校のベンチャー起業許可証のIDを見せて「怪しくないデスヨ」アピールをする。


「まったく、ガッツキ過ぎだ……」


 その様相を見て、オレはボソリと呟いた。


「本当に、そうですよ。あの2人どうにかしてください」


 オレの背後で、責める声が聞こえた。振り向くと、乃木くんがあからさまにムッとした表情で立っていた。


 「……ごめん、あの2人は、君が話を聞いてくれるまで諦めないと思う」


 あの2人は研究職タイプだ。結果が出るまで、まず諦めないだろう。


「はぁー……、どう考えても『面倒なこと』に巻き込まれそうな感じしかしないからイヤなんだけど」


 表情を曇らせた乃木くんが横を向いてボソッと呟いた。

 おぉ、素晴らしい危機察知能力!

 現に乃木くんの言う通り、オレは、あの2人に会ってから面倒なことにしか巻き込まれていない。


「……乃木(のぎ)くんだっけ? こちらとしては、できるだけ早めに相談したいんだが、気が向いたらでいいから、連絡もらえないか?」


 オレはポケットからケースを取り出し、名刺にプライベート情報を書き加え、手渡した。

 乃木くんは、受け取った名刺をジッと見つめ、オレを哀れむかのように見る。


「もしかして、あの2人とは全然関係ないんじゃ……、巻き込まれてる?」


 名刺に書かれている会社名を見て、莉朶さんや諷ちゃんがやっていることと全く関係ない業界であることがわかったらしい。


「まぁ、巻き込まれてるかなぁ……もともとオレは、あの2人が作ったゲームの単なる1プレイヤーだから。たぶんあの2人は、この問題が解決するまで解放してくれる気がなさそうだ」


「……わかりました、でも今日はムリです。これから行くところがあるんで」


「あぁ、こちらは気にしなくていい。乃木くんの都合に合わせるよ」


 オレが頷くと、乃木くんはオレの名刺を電子端末でスキャンした後、ポケットにしまった。


「たぶん、会うとしたら今度の休みに。時間はあとで連絡します。あと必ず今度会うとき、あの2人だけじゃなく、尾河さんも立ち会ってください」


「……わかった。でも、オレが立ち会っても、あの2人のストッパーの役割を果たせるかは自信ないぞ?」


「いないよりは、マシなハズです。あと、彼女を利用するのは……」


「あぁ、それは悪かった。申し訳ない。こういうことは二度としない」


 オレは素直に謝った。やっぱり彼にとって「永久さん」は地雷だったか……。


「ならいいです」


 乃木くんと和解し、なんとかアポイントがとれた。あとは……


「おーい! 諷ちゃん、莉朶さん、帰るぞー」


 2人に囲まれて困っている永久さんが、オレの言葉に気がつき、2人に「呼んでますよ?」と、オレに注意を向けるよう促した。


「えー? スイ兄、まだ……」


「相談は、今度の休みの日になった。時間はあとで連絡するから今日は解散!」


 諷ちゃんの言葉を遮り、オレが解散宣言をする。オレもそろそろ仕事場に戻らないとヤバい時間だ。


「スイさん、さすがです。いつの間に乃木くんとアポとるなんて……」 


「いや、オレから言わせてもらえれば、なぜここまで拗れるかわからないんだが……」


 普通に接触してれば、もっとスンナリ話を聞いて貰えるハズだろう。

 莉朶さんの言葉に軽くツッコミを入れつつ、莉朶さんと諷ちゃんの2人を回収し、乃木くん達と別れた。

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