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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
1章 魔法の国へ行く方法
4/60

4 開く扉

 今日は町内会の祭りの日だ。


 町内会の祭りが行われる日は前日の夜から既に大忙しで、祭りの当日も始まるまでにいかに時間を有効に使って準備するかで、その後の段取りが変わってくる。


 町内会主催だが、小規模な屋台を出すことになっており、キリュウも町内会の法被(はっぴ)とTシャツにジーンズという格好で手伝っていた。


「この頃テスト勉強づけだったし、たまには息抜きしないと、やってらんないよなぁ……」


「あれ? 霧生の学校、テスト期間中?」


 キリュウのぼやきに、屋台を一緒に手伝っていた幼馴染みが聞いた。


「あ……いや、違うんだ。小テストを毎回授業の度にやる先生がいるってだけで……」


「あぁ、それは面倒だよなぁ」


 幼馴染みは同意し、納得したようだった。同じ学校ではなかったのが幸いだ。


「そう言えば、留学するんだって?」


 幼馴染みが割り箸に水飴を巻き、モナカにのせながらキリュウに聞いた。


「うん」


「やっぱ、ホントなのか……。しかも異例の国費留学って聞いたけど?」


「うん」


「お前、すげぇーな!」


「……ありがとう」


 近所で広がる噂は止められない。その話題になると途端にキリュウは言葉が少なくなる。

 期間が無期限なんて、片道切符しか渡されないのと同じだ。こっちに帰って来れるかどうかも不明で、おまけに魔法の国の根幹に関わる科学技術については言論統制されており、気を緩めるとすぐにボロが出そうだ。

 幼馴染みはそう言ってくれてるが、あまり嬉しくない。キリュウは淡々と感情もなく返事をするだけだった。


「いつ行くんだ?」


「1ヶ月後かな……」


「もうすぐなんだ。帰国したら、また遊ぼうぜ」


「あぁ、そうだな」


 キリュウは嬉しいような困ったような複雑な想いで愛想笑いをした。


「霧生君! ちょっと、何でそんなヤル気なさそうな態度なのよ! お祭りなんだからシャキッとしてよ、気分が乗らないじゃない」


 腕を組んだ堀田さんがいつの間にか目の前に立ち、文句を言った。


「……」


 キリュウの動きが止まった。

 目の前の堀田の姿を凝視し、動かない。


「ちょっと、霧生君?」


「……なんで、浴衣? 寒くない?」


「祭りと言えば、浴衣でしょ!?」


 今日は少し肌寒いのだが、堀田は無理して着ているようだ。


「そうですよね! キレイなお姉さんの浴衣姿、最高っス!!」


 キリュウの幼馴染みが、サムアップして堀田の機嫌をとる。

 「コイツ、裏切りやがった!」と、キリュウは横目で幼馴染みを睨み、内心毒づいた。


「フフッ……ありがとう」


 堀田は営業スマイルでサラッと流し、本題に入る。


「ところで、霧生君は雷造さん見かけなかった?」


「いや、見てないよ?」


「そう……じゃあ見かけたら引き止めといてね!」


 堀田は、そう言い残して、サッサと歩いて行ってしまった。

 相変わらず人使いが荒い。こっちの予定を聞かずに頼みごとをしていく。それとも……予定が屋台の番しかないことを最初から把握済みなのか。

 堀田の場合、後者の可能性が十分考えられる。


「……雷造さんも祭りに来てるのかぁ。あんまり外に出ないのに、珍しいな」


 幼馴染みは、浴衣姿の堀田の後ろ姿を見送ったあと、フルーツを水飴の上にのせる作業を再開しながら、言った。


「ところで、さっきのキレイなお姉さん、霧生の知り合いなのか?」


 幼馴染みが興味津々でキリュウに質問をし始めた。


「うん。昔、通ってた科学教室の先生とこの娘さんらしい」


「へぇー、なんか社会人っぽいけど……」


「社会人だよ。科学技術特区担当の調査官だって」


「えっ!? それって……お前がなりたがってた職業じゃ……?」


「……前はそうだったけど、この頃は考え直そうかと思ってる」


「えーっ!? なんで? あんな美人なお姉さんがいる職場、いいんじゃね?」


 キリュウの言葉を幼馴染みは理解できない、とでもいうように頭を振った。

 キリュウが将来の進路を考え直すキッカケは、紛れもなく堀田のせいだ。万が一堀田と同じ職場になったらどう考えても苦労しかしなさそうだ。



*****



祭りが始まると、キリュウ達は対応に追われ、目の回る忙しさだ。


「おい、霧生! あそこにいるヒト、雷造さんじゃね?」


 幼馴染みが気づき、キリュウに顎で雷造がいる方向を示した。


「ホントだ! らいぞぉーさぁぁぁーーーん!!!」


 キリュウが雷造を呼び止める。


「おぉ! 霧生君!」


 雷造がキリュウ達の屋台にフラフラと寄ってきた。

 なんかいつもの様子と違う。


「雷造……さん?」


 片手にビールを持っており、完全に酔っぱらいだった。


「いやぁ……霧生君、このビールっていうのはいいね! このピリピリがなければ、ホワイト……「わぁぁぁーー! 雷造さん、飲みすぎぃぃー!!!」


 キリュウが雷造の言葉を慌てて遮った。雷造を保護し、屋台の奥の椅子に座らせた。


「……少し違うが……懐かしい味だ」


 雷造が嬉しそうに言った。キリュウは、そんな雷造を見てクスッと笑い、堀田を呼び出したのだった。


*****


 キリュウは、世間的に国費留学ということになっていたため、パスポートが必要だ。そして、その手続きについても堀田がやってくれた。

 ただ、手続きしてくれたパスポートは特殊で、一般的なものとはかなり形態が変わっていた。任務用パスポートというのがこの世にあることをキリュウは初めて知った。


「これがパスポート?」


 キリュウがチップ入りのビー玉状のものをつまんで凝視した。


「そうよ。国費で行く場合は、そのパスポートを使うことになってるの。任務用だから常に携帯できるようにそういう形なのよ。」


「ふーん、でも……これさ、落としそうだよ?」


 キリュウが手のひらで転がしながら堀田に聞いた。


「落とさないわよ、飲み込むんだから」


「げっ! これ、飲み込むの!? このパスポート、そういう携帯方法なワケ?」


「ウソよ」


「……」


 堀田にからかわれ、キリュウは脱力した。


「……で、実際の携帯方法は?」


「電子端末に組み込むのよ。腕時計とかスマホとか、自分がよく身につける携帯しやすいのに入れておけるの」


「ふーん、じゃあ今回は携帯できないね」


「いいえ、できるようにしたわ! 私を誰だと思ってるのよ!? 科学技術特区担当の調査官よ? 科学技術特区研究所に作らせたわ!」


「……脅して作らせた?」


「……なんでよ、私はそんなことしないわよ?」


 堀田はあっさり流しつつ、青色の細かい文字でコマンドが刻まれ、まだら模様に見える特殊コーティングされたサークルピアスをキリュウに渡した。


「ピアス?」


「そう、自分でパスポートを組み込ませて。ピッタリハマるはずよ?」


「……オレ、穴開けてないからピアスできないよ?」


 キリュウが受け取ったサークルピアスを見て言った。


「じゃあ、開ければいいでしょ? あっちで君が違和感なく身につけられるのは、ピアスくらいしかないのよ。ということで、穴を開けに行くわよ?」


 キリュウは堀田に連れられて、病院に強制連行された。

 そして……1人で行けば良かった、とキリュウは後悔することとなった。堀田が同行して余計なことを言ったばかりに、会話の流れでおかしなことになった。人生で初めてにも関わらず、片耳に2つもピアスの穴を開けることになったのだ。


*****



 病院からの帰り道――


「なんか変な感じだ……」


 普通はピアスの穴を開けたばかりのときは、それ用のピアスをするのだが、キリュウは堀田から渡された科学技術特区研究所特製のサークルピアスをいきなりしていた。サークルピアスには、任務用パスポートが既に組み込まれた状態だ。

 そして……、案の定、外すことができない。


「そう? 慣れれば気にならないわよ? あぁ、それと言い忘れてたけど、そのパスポートを使って出国すると、任務が終わるまでの期間は帰国できないから。」


「……は? ……それ、冗談だよね?」


「……さぁ?」


 堀田の本気とも冗談とも取れる台詞に翻弄されるキリュウであった。



*****


 科学技術特区『魔法の国ホワイトレイク』にコアを持って行く日となった。



 キリュウは一通り知識を詰め込んだが、それでもまだ不安で、昨日は1日中、『はじまりの魔術師のレポート』を読み返し、堀田からもらったメインシステムの部屋へ行く方法や段取り等が書かれた資料を見ていた。

 雷造は、コアの最終調整をずっと行っていて、中を真空化できる特殊素材の小瓶にコアを封じ込めることに昨日成功した。

 今日は予定時間より早めに雷造の家で3人が集まり、最終確認を行う予定となっていた。


「ナニ、コノ衣装?」


 キリュウが棒読みで2人に聞いたあと、閉口した。


「君があっちで着る服、レイトーリア魔法学院の制服よ?」


「これが!?」


 驚いているキリュウに対し、堀田が答え、さらに雷造が説明を続けた。


「たぶん誰でも似合うようにデザインされている。ちなみにこの藍色の制服が嫌なら、早くナイトになればいい。ナイトと魔法使いは白い制服を着ている。」


「……ナイトは、これよりもっと派手な制服になるのか」


 キリュウはずっと私服で学校に通っているため、自分が違う国で制服を着るというのは変な感覚だった。


「まぁ、着る服は間に合ったからいいとして、問題は言葉遣いだな」


 雷造が顎に手を当てて考え込むように言う。


「……言葉遣い? オレ、そんなにヒドイ言葉遣いしてたかなぁ?」


「あっちの国にとっては、得体の知れないものを持ち込むんだから、あまり目立たない方がいいのよ。

レイトーリア魔法学院内では、品行方正なナイトらしい言葉遣いが好まれるから、今の霧生君の言葉遣いだとおそらく目立ってしまうわね」


 堀田も考え込んでしまう。そんな堀田を見て、キリュウが雷造の方に視線を移し、疑問をぶつけた。


「そんなにカッチリした言葉遣いで向こうの人達は会話してんの?」


「少なくとも魔法学院と中央塔にいる者たちはそうだ。まず、自分のことは、『わたし』または『わたくし』……だ」


「げっ! ……ぜってぇーボロ出る。ホントに『わたし』と『わたくし』以外の一人称はねぇの?」


「強いて言えば……きわめて稀に『ボク』と言ってた者もいたか」


 雷造は、遠い目で記憶を掘り返して答えた。


「……常に気が抜けない会話って、厳しいな。とりあえず、『ボク』でやってみる。随分昔だけど、使ってた言葉の方がボロが出にくそうな気がする。」


「まぁ、いいだろう。くれぐれも目立つなよ? そして、レイトーリア魔法学院内に入ったら、色素の研究をしている魔法使いの候補者と接触するように。おそらくそれが一番近道になる。」


「わかった」


「その魔法使いのナイトになれば、怪しまれずに中央塔に出入りが出来るし、こちらにも帰ってこれる。

もし接触できなかったり、ナイトになれなければ、次の機会は50年後だ。」


「うん」


 雷造の口から次々出る厳しい言葉にキリュウは頷いた。


「……霧生君、そろそろ時間だから制服に着替えて」


 堀田が制服をキリュウに渡した。



*****



 制服に着替えたが、なんかしっくりしない。


「……まぁ、そんなもんか」

「そんなもんよね……」


 キリュウの制服姿を見て2人が頷いた。


「じゃあ、コアを制服にしまって、こちらへ」


 堀田が無理矢理話題を変えて、壁の前にキリュウを立たせた。堀田は、キリュウの後ろに立ち、手に持っていたライトを使って、キリュウの耳のサークルピアスに青い光をあてた。

 サークルピアスに刻まれた文字が壁にうっすらと浮かびあがり、やがて真ん中から外側へと青色に文字が強力な光を放つ。


「ホワイトレイクへの扉が開くわ。開いたら中に入るのよ。わかった?」


「了解」


「霧生君……故郷をたのむ」


 雷造の願いにキリュウが笑顔で頷いた。


「じゃあ、行ってくる!」


 壁に扉が現れ、開いた。キリュウは、すぐに扉の中に入り、白い光に包まれた。

 扉がゆっくりしまり、2人を残し、キリュウは科学技術特区「魔法の国ホワイトレイク」に入国した。

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