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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
4章 選ばれし騎士と魔術師の子孫
37/60

37 それぞれの報告

 ブルーロックの研究所に入ったキリュウは、トダガワとドクターに試験結果について報告しようとしたところ、既に知っていた。堀田から連絡がいったのかもしれない。


「やっぱり、ねじ込まれたな。堀田さんならいつかやると思ってたが、こんなに早くとは思わなかった」


 キリュウと会ったトダガワの第一声がそれだった。キリュウは、苦笑いしながら、お礼を言った。


「今後もよろしくお願いします。ただ、まだ当分、特別臨時職員で、正式な調査官になるには学校卒業後になりますが……」


「あぁ、そうだね。たぶん、今の学校を卒業したら、業務命令で指定の学校に進学することになるはずだ」


「それが、既に専攻については、手続きが終わり次第、受講することに……」


 キリュウの話を聞き、トダガワが唖然とする。


「堀田さん、さすがだな……じゃあ、学校2ヵ所と研究所をしばらく往き来するんだ。ハードな生活だね」


「そうですね……」


 トダガワに言われ、キリュウは、遠い目をしながら相づちをうった。そこへドクターがやってきた。


「霧生君、試験、パスしたらしいね。おめでとう。ボクとしては、君に受かってほしくなかったんだけどね」


 ドクターは、まるで悪気がないようだ。


「ドクター……、お祝いの言葉と併せて言う台詞じゃないですよ」


 トダガワがたしなめる。


「そう? でも、本心だからさ。君が、この仕事を始めたら余計なことをしそうだと思って、気が気じゃないんだ」


「余計なこと……ですか?」


 キリュウの言葉にドクターが頷いた。


「君は思いもよらない、予想外な行動をすることが多いから。このままがいいと思ってるボクの生活が、いつか壊されるんじゃないかってね」


「壊すなんて、言いがかりですよ」


 キリュウがムッとしながら反論した。しかし、ドクターは表情を変えず淡々とさらに言葉を続けた。


「じゃあ君は、調査官の仕事について、どう考えてる? ボクの基礎研究の成果を利用して、ボクの名前は一切出さずに、科学技術特区研究所での成果として発表するっていうこと」


「……正直、納得できないです。本当なら基礎研究をした人達の名前も含めて公表すべきだと……」


 キリュウが気まずそうに小声で本心を呟いた。


「……だろ? だけど、ボクとしては、自分の名前は出してもらいたくないんだ。正直、研究成果も本当なら記録に残したくなかった。世間一般では……ボクみたいな人間は変人としか見ないから、とても生きづらいんだ。間違いなくボクの研究も世間的には非難されるシロモノだしね。できるだけボクはこの世界にいない存在として生きていたい。だから、君みたいな考え方を持っていて、やたら行動力があるヤツは、ボクにとっては危険なんだよ」


 ドクターの言葉に、キリュウは衝撃を受けた。そういう考えの人もいるのか、と。やはり、ドクターの考え方は、世間一般的な考え方とは違う。


「ドクターが……そう望むなら、そういうことはしないです。自分の価値観だけで判断することは危険だということを知ってます」


「そう、ならいいけど。少し安心した」


 ドクターは、アッサリそう言うと、サッサとその場を去っていった。トダガワは、ドクターがいなくなったのを確認すると、キリュウに優しく、気遣うように語りかけた。


「ドクターは……ああ言ったけど、そういう気持ちは調査官にとって大事なことだよ。自分の研究として、他人の研究成果を当たり前のように世間に発表するのに何も感じなくなったら終わりだと俺は思ってる」


 トダガワの言葉にハッとし、俯いていたキリュウは、顔をあげた。トダガワは、だから今の気持ちを絶対忘れるなよ、とキリュウの頭をワシャワシャと片手で撫でた。


*****


 何日かして、科学技術特区研究所指定の学校における専攻を受講するための手続きで確認したいことがある、と堀田から言われた。たまたま雷造にも用事があるということで、久しぶりに堀田が雷造の家の訪問することになり、そのタイミングに合わせて、キリュウも行った。


「そう言えば、中央塔の制服のことだけど……」


 キリュウがリビングのテーブルで手続きの書類に書き込みながら、堀田に言うと、


「あぁ、あれね。霧生君のは、処分したわよ?あの服を着ると目立ち過ぎるから。霧生君は、現場に切り込んで行くタイプだから、ああいう服はダメね。使えない」


 堀田があっけらかんと答えた。キリュウがホッとした様子でいると、ニヤリと堀田が笑った。


「もしかして……永久ちゃんから『お願い』でもされたかしら?」


 堀田の意味深な言葉に対し、


「……いや? 別に」


キリュウは表情を変えずに否定した。


 しばらくすると、トアリーが外から帰ってきた。学校帰りに食材を買ってきたようで、両手に荷物を持っている。


「堀田さん、こんにちは」


「こんにちは」


「キリュウ、雷造さんは?」


「奥の部屋にいるよ。新しい素材が手に入ったから、たぶんしばらく出て来ない。」


 トアリーは頷くと、手早く買ってきたものをしまう。


「……永久ちゃん、そういえば、あの『おまじない』効いたみたいね?」


 堀田がトアリーに微笑むと、トアリーが顔を赤らめて、恥ずかしそうに俯いた。


「……堀田さんのアドバイスのおかげです。ありがとうございます。……あの、私はこれで。ごゆっくり」


 トアリーは、早口でそう言うと、慌ただしくリビングから出て行った。



 ―――なんなんだ?



 キリュウは不思議そうに、堀田とのやり取りを見ていた。


「おまじない?」


「フフッ……口約束を絶対に反故させないための『おまじない』を、研究所で会った時にちょっと教えてあげたのよ」


「ふーん……そうなんだ」


 何気なく、相槌を打ったが、堀田の裏がありそうな、いつもの綺麗な満面の笑顔を見て、キリュウは何故か寒気を感じた。


「そんなことより、書き終わった?」


「終わった」


 キリュウは返事をして、堀田にテーブルの上にある書類を手渡した。堀田が書類をチェックしていく。


「……当分、先だと思うけど、堀田さんは、オレに調査官の仕事を引き継いだら、その後どうするの?」


「たぶん、後方支援になるわね」


「それって、研究員になるってこと?」


「えぇ、今までの慣習からだと、そうなる可能性が高いわ」


「……」


 堀田は、キリュウが無言になったのを不思議に思い、書類から視線をキリュウに移した。


「それが、どうかしたの?」


「いや……研究員になるなら、堀田さんは科学技術特区の研究発表について、どう考えるのかと思ってさ」


 キリュウは、おもむろに、ブルーロックでのドクターとトダガワの一連のやり取りの話や自分の考えを話した。


「……そうねぇ。ただ、そのときの判断基準や価値観なんて、国どころか、利権や政治がらみで、その時代ごとで違うんだし、何が正しいかなんて分からないわよね。結局は、何を私達が選んだかというのが重要であって、正誤については、せいぜい後世の人達が批評して、今後の行動の判断基準にするぐらいなんじゃない? そういうことを悩むのは、時間とエネルギーのムダね」


 堀田の言葉に、唖然とした。



 ―――ムダって言われたっ! ショックだ……



 キリュウはガックリと項垂れた。そんなキリュウを尻目にクスリと堀田は笑って、引き続き書類チェックを再開した。


*****


「ただいまー」


 キリュウが自宅に帰ると、おかえりー、という母親の声が聞こえてきた。そのまま2階の自室に向かおうとしたところ、母親に呼び止められた。


「霧生! ちょっとこっちに来て」


「はーい」


 返事をしながら、疑問に思っていると、母親が椅子に座るよう促された。


「なに?」


 座りながら聞くと、母親が緊張した感じで口を開いた。


「あのね……私が思っているよりも、霧生がいろいろと自分で将来のことを考えて行動しているから、正直驚いた。とても偉いと思ってるわ」


「……そう?」


 母親がこういう前置きで話し始めるときは、大抵次に来る話題が本題だ。キリュウは、素っ気なく相づちを打ちながら、警戒した。


「ただね、いろいろと決まって安心して、ハメをはずさないようにしなさいね?」


「わかってるよ」


 キリュウは面倒そうに答えたが、次の母親の思いもよらない言葉に固まった。


「あんたの場合、本当にわかってるかどうか心配だわ。ご近所の佐藤さんから聞いたけど、永久ちゃんとお付き合いしてるんでしょ?」



 ―――!! ……佐藤さんがなんで知ってんだ!?



 トアリーとは、最近、試験やら学校やらですれ違っていて、ほとんど会ってない。今度の週末にやっとゆっくり会えるのだ。キリュウやトアリーは誰にも言ってないから、近所の佐藤さんが知るはずないのだが、何故か知っている。キリュウは眉間にシワを刻んだ。

 母親は、キリュウの返事を待たずに話を続けた。


「とにかく、きちんとしたお付き合いをしてね?」


「……」


「わかったら、部屋に行っていいわよ」


 キリュウは無言で頷くと、2階の自室に入り、そのままベッドに倒れこんだ。

 母親にトアリーとの付き合いに関し、おもいっきり釘を刺された状況だ。


「なんで? 佐藤さんってナニモノ!?」


 独り言を呟いた瞬間にあることに気がつき、ガバッとベッドから身体を起こした。



 ―――もしかして、あの時か!?



 自分の行動を思い出したキリュウには、心当たりがあった。ホワイトレイクから帰ってきた日、研究所からトアリーを自宅に送る途中で、手を繋いだり、キスしたりしたのを見られていたとしか考えられない。誰もいないと油断していた。


「はぁ……」


 どんなに雰囲気が良くても路上では、今後そういうことはしないでおこう、と新たに決意した。

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