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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
1章 魔法の国へ行く方法
3/60

3 魔法の国がなくなる

「特訓って? ……っていうか、そもそも何でコアをあっちに持って行かなきゃいけないのかもオレ、聞いてないんだけど……」


 どんどん堀田の思惑通りに巻き込まれていくので、この流れを止めたい、とキリュウは焦っていた。


「そう言えば、忘れてたわ」


 堀田がポンッと手を打った。


「ざっと説明すると……あっちの国――つまりホワイトレイクは、見かけは魔法が使えるように見えるんだけど、実際は音声によるコマンド入力をメインシステムが認識し、作動するっていう仕組みになってるのよ。音声が認識すると魔法陣がホログラムで現れるという手の込んだ作り、すごいわよね! ……ほら、霧生君も見てみたくなってきたんじゃない?」


 堀田がキリュウに同意を求めようとしたが、キリュウが冷めた目で見返したため、諦めて説明を続けた。


「……で、重要な大型魔法陣は、音声によるコマンド入力の仕方を訓練した魔法使いが管理するんだけど、どうやらその魔法使いがコマンド入力ミスしたうえに、コマンド入力の補助となる触媒物質の使用分量を間違えたらしくて、ドッカーンっと事故ったらしいのよねぇ。それで、現在、メインシステムがエラー中でサブシステムが動いてる状態ってところ」


「サブシステムが動いてるなら、問題ないんじゃ?」 


 キリュウが雷造に入れてもらった緑茶に口をつけながら聞いた。


「いや、サブシステムはあくまでサブだから、根本的な問題解決になってないのだよ。」


 雷造がキリュウの隣りに座りながら、そう言った。


「そうなのよ……サブシステムだと様々な機能が制限されるから、やっぱりメインシステムを修理しないとダメ。今のところ、サブに切り替わる直前に受信したメインシステムからの報告と魔法使いのカルラさんからの報告からこれだけ機能が制限されてるわ」


 堀田がキリュウの前に一覧表の書類の束を差し出す。


「こんなに機能が制限されてんの!? あっちの国の人はパニックになってるんじゃ……」


 軽く2センチは越える書類の厚さを目の前に、キリュウが驚く。


「パニックにはなってないようよ? 違うか、正確に言うと一般市民に限り……かな。魔法使い達はパニックになってる。目に見えて激変はしてないから一般人は気がつかないけど、所々おかしくなってる。

例えば、ここ」


 堀田が制限されてる機能の一覧表の束をめくって、再びキリュウの目の前に置き、指でトンッと1ヶ所指し示した。


「中央広場の噴水の下には、メインシステムとサブシステムがあるんだけど、万が一、集中豪雨とかになっても大丈夫なように水一滴入らないような構造になってるのよ。システムの部屋の出入り口も別の所にあって、中央塔と呼ばれる内部にあるの。中央広場と中央塔は、通常1万5千メートル上空まである、水と水蒸気を一定量以上通さないシールドを展開してるんだけど、最近、中央塔の上に雲が流れるようになったらしいのよ。」


「中央塔がこうなると、中央広場も同様な現象が今後起こる可能性があって、予期しないことが起きて水が入り込むことが起きれば完全にシステムが停止するってこと?」


 堀田の説明を聞き、キリュウが言葉を続けると、2人が頷いた。



 ――ツナ婆さんからもらった絵本の魔法の国がなくなる……



 そう考えると、大好きな話なだけに、『そうさせてはいけない』という想いがキリュウの中で生まれた。


「……で、オレがあっちに持って行くのは、コアだけでいいの? 爆発で触媒物質もなくなったんじゃないの?」


 キリュウの発言を聞き、キリュウが行く気になったことを感じた堀田は、何か企んでいるような笑みを浮かべた。


「触媒物質は、あっちの国で魔法使い候補者が研究中だ。あと1年以内に完成するところまでになってる、という魔法使いのカルラから報告があった。おそらく、その触媒物質の研究をしている魔法使いが次の大型魔法陣を管理する魔法使いになるだろう。コアについては、向こうで作るには知識も材料も足りない。なので、こっちで作って完成させた」


「雷造さんが作ったの?」


「そうだ。ホワイトレイクを建国した技術者達が残した本があって、大抵、建国に必要だった技術に関する情報は、その本に書いてある。霧生君にも向こうに行く前に、一通り読んでおいてもらおうと思っている。それと、コアをシステムがある部屋に届けるのに、いくつかコマンド入力の文言を覚えないといけない。あと、向こうの人に不審者かと怪しまれずに中央塔に入ったり、こっちに戻るには、ナイトになる必要がある」


「ナイトにならないと、不審者扱いになるって……一体どういう国だよっ!?」


 雷造の説明に霧生が抗議する。


「そりゃそうでしょ。普通、見知らぬ人が国の中枢である中央塔に入ったら、不審者扱いで任意同行されて、さらに得体のしれない材質でできた物質を持っていれば、幽閉されるわね」


 堀田が「当たり前」とでもいうように言った。


「いやいや、向こうに話を通そうよっ!? メインシステムのコアを届けに行きますって!」


 さらに、不審者扱いや幽閉されたくないキリュウの抗議が続く。


「霧生君、それはムリなんだ」


 雷造が首を横に振り、否定した。


「魔法の国では言論統制されてて、科学技術に関する発言はできない。向こうとの手紙のやり取りもシステムの検閲があって、一切の真実について、向こうの国の人間に知らせることはできないのだよ」


 雷造の言葉に衝撃を受けた。

 今まで科学技術なんてキリュウが生まれたときから当たり前に自分の回りにあった。

 それをホワイトレイクでは全否定されるのだ。


「……なんで? 科学技術者達が創った国なのに?」


「霧生君、君が持ってた絵本の冒頭の文、覚えてる?」


 唖然としてるキリュウに堀田が静かに問いかけた。キリュウは頷き、完全に暗記してしまうほど読んだ絵本の冒頭を呟いた。



 このはじまりの白き部屋にて別れる2つの国


 同じ時を刻み、異なる未来を目指す…… 


 魔法に満ち溢れる世界を創り、護ることをここに誓う


 我、求む……白き湖へとつながる奇跡への道



「……魔法の国を護るため、ホワイトレイクにいる人たちに、科学技術を認識させないっということになってるのか」


 キリュウの結論に、2人が頷いた。

 かくしてホワイトレイクに行く前に準備が必要と判断した雷造と堀田により、運び屋キリュウのナイトになるための特訓が始まった。

 まず、雷造がキリュウを連れて、リビングの奥にあるドアを開き、書斎兼作業部屋に招いた。

 壁一面の本棚から、古びた本を7冊、雷造が次々とキリュウに渡していく。


「雷造さん、この本は?」


「ホワイトレイクの建国メンバーである技術者達が書いた本だ。代々、この部屋のナイトは、『はじまりの魔術師のレポート』と呼んでいる」


 1冊がかなり分厚いし、重い。


「貴重な本だから丁寧に扱ってくれ。とりあえず、それをざっと読み、わからないことがあったら質問するという形式で進めようと思う。1冊読み終わる毎に、理解度を調べるため、面接形式で口頭によるテストをする」


「えぇ―っ! テストするの?」


「このままで行ったら、あっちの国で幽閉されるか、50年経ってからやっと戻ってくるレベルだ」


「よろしくお願いします! キッチリやらさせていただきます!」


 雷造の話を聞き、キリュウは青ざめながら言った。



*****



 「はじまりの魔術師のレポート」の内容は、多岐にわたっていた。

 インフラ設備各種の設計図やメンテナンス方法、システムの基礎論や設計・作動コマンド一覧およびメンテナンス方法、都市計画、国の運用方法、運用に携わる人材の選抜方法と育成について、等々である。

 それら全部を頭に入れるには時間がないため、ざっと流し読みし、メインシステムを修理するために必要なことと、ナイトになるために必要なことだけ、キリュウは覚えていった。効率重視でやっていかないと、行く日は決まってるので、間に合わない。


「今日から、コマンド入力――口頭による魔法詠唱のテストをする」


「お願いします」


 雷造の家のリビングにて、雷造とキリュウが向かい合わせでソファに座り、毎週恒例となりつつある面接テストを行っていた。


「では、本日は大型魔法陣の詠唱を……」


 大型魔法陣は、「はじまりの魔術師のレポート」を読む限り、3つしかない。

 つまり、中央塔、中央広場、白い部屋への扉だけだ。そのうち、白い部屋への扉の大型魔法陣はメインシステムが管理してる鍵で作動するため、他の2つの大型魔法陣の詠唱だけ覚えてれば、今回のテストはパスできる。

 キリュウは頷き、雷造の質問を待った。


「中央塔の大型魔法陣を作動させる詠唱を言いなさい」


「はい、……『∩∃∂∇∫∽』」


「……」


 キリュウが詠唱したところ、雷造が目を丸くした。正解とも不正解とも言わず、無言である。


「……雷造さん?」


「霧生君、今の詠唱は、確か……裏コードだと思うのだが……」


「そうですね」


「なぜ、裏コードの方を? そっちの方が覚えるのも発音も難しいと思うが……」


「うーん、オレは古代文字をツナ婆さんに教わって、そっちを先に覚えちゃったから、裏コードの詠唱の方が早く正解に覚えらるんだ。裏コードの方が短いし、両方試してみたけど、言い間違いのミスが少なかったし……」


 正解性を重視ということで、キリュウは裏コードによる詠唱を選んだ。が、雷造は黙りこみ、考えている様子だ。キリュウはだんだん不安になり、思わず雷造に聞いた。


「……まずかった?」


「いや、正規の詠唱を覚えさせなくてはと思っていたが、霧生君の話を聞き、考え方を変えたところだよ。どうも年を取ると頭が固くなってしまい、柔軟な発想かできなくなる……ハハハハッ」


 雷造は頷いたあと、豪快に笑った。


「そもそも今回事故は詠唱文言の間違いによるものだから、霧生君のいう通り、確実性が求められる。コアを届けて修理するつもりが、さらに事故を起こして悪化することになったら目も当てられん。正確に詠唱できることが一番だ」


 雷造が深く頷き、霧生に笑顔を向けたので、キリュウはホッとした。どうやら一から覚えなおしは逃れた。


「……では、続きを」


 面接テストを再開し、無事にキリュウは、この日のテストをパスした。

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