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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
4章 選ばれし騎士と魔術師の子孫
29/60

29 トアリーの実家

 裏道を通り、2人はトアリーの実家についた。トアリーが鍵を出して、裏口の扉の前に立った。


「鍵、ずっと持ち歩いてたんだ」


「うん、なんとなく……私にとってお守り、かな?」


 トアリーが、懐かしそうに微笑みながら、鍵を静かに扉にかざした。


「はじまりのパトロナス……家を守りしクラヴィス、我が名において命ずる、アペリーレ!」


 小声で唱えると魔法陣がフッと一瞬現れ、カチっと開錠の音がした。


「こっち」


 トアリーが無声音でキリュウに合図し、自分の部屋へと向かう。トアリーは、部屋の扉をそっと開けて、部屋の中に誰もいないことを確認すると、すばやくキリュウを中に入れ、ドアを閉めた。


「「はぁ……」」


 2人で、緊張を解き放ち、深呼吸した。


「えっと、確かここにあるはず」


 トアリーがウォークインクローゼットに入って行った。部屋の中が静かになる。キリュウは、何もやることがないため、部屋の中を見回した。ベッドの横にあるサイドテーブルにはスズランの形のランプシェード、ドレッサーなど、シンプルであまり物が置いていないが、所々ポイントで置いてある小物はかわいらしい。まさに女の子の部屋だ。



 ―――そういえば、なんとなく部屋に入っちゃったけど、オレ、今、好きな子の部屋にいるんじゃねっ?ヤバイ、緊張してきた……



 キリュウは、改めて気がつき、嬉しそうに口元を押さえた。しばらくすると、静かな部屋に、シュッ、シュルッという服の摩擦音が聞こえてきた。


「?」


 キリュウは、疑問に思い、音がする方を見ると、トアリーがいるウォークインクローゼットの中からだった。



 ―――!!!



 思わず息を飲み込む。



 ―――もしかして、着替えてるのか!?オレがここに居るのに?



 頭を抱えたくなる状況だった。いくらなんでも無防備すぎだ、と思いながらその場にしゃがみこむ。



 ―――ヤメテクレ。何の試練だよっ!? ……だからと言って、部屋の外に出て、家族とバッタリなんてなったらシャレになんないし……これって行き場なしの八方ふさがりじゃね?



******



「待たせた! あれ? キリュウ……? 何してるの?」


 レイトーリア魔法学院の白い制服に着替えたトアリーが、キリュウの姿を見て首を傾げた。


「……ヒマだったから座禅して邪念を払ってた」


 大きなため息をつきながら答えたキリュウを横目に、トアリーは、そうなんだ、と言いながら、部屋のドアに手をかけた。


「キリュウの服は、兄の服を借りる。取ってくるからこの部屋にいてくれ」


 そう言い残してトアリーは、部屋から出て行った。そして、キリュウは、再度、頭を振り、深いため息をつくのだった。

 トアリーがキリュウの服を調達してくる間、キリュウは時間を持て余した。ベッドにゆっくり腰掛けたところで、片耳のサークルピアスが振動した。


「えっ!? なんで!?」



 ―――通信防御システムまで破壊されてるのか!?



 キリュウは、戸惑いながら、サークルピアスをスライドさせた。


『霧生君? 永久ちゃん、そこにいる!? いつもならとっくに帰宅してるのに、いないのよ。』


 堀田の焦った声が聞こえた。堀田が焦る状況とは、とても珍しい。


「あぁ、いるけど、今はここにいないよ。」


『どういうこと?』


「うーん、今、オレの服を調達しに行ってるんだ。まさか、この場所で連絡できるとは思ってなかったから、今まで堀田さんに連絡しなかったんだけどね。心配させてゴメン」


『ん?話が全然見えないんだけど、通信できなさそうって思う場所にいるってことかしら?』


 堀田が戸惑った様子で聞いてきた。キリュウは、信じて貰えるかわからないが、事実だけを簡潔に伝えようと心に決めた。


「そう、オレ達、今『ホワイトレイク』にいる」


『……ウソでしょ? 何の冗談?』


 堀田の愕然とした声が聞こえてきた。


「たぶん、この状況から……『ホワイトレイク』のメインシステムの国境関係がクラッキングされたんだと思う。オレ達、白い部屋には入らずに直接こっちに来れたから。通信防御システムは完全に破壊されてる。インフラ方面は大丈夫そう。それと、そっちのクラッキング現場の補完ができなかった。マスター トアリーの学校のサークル棟の2階にある『前人未到地域研究会』の部屋なんだけど、残りの状況証拠の補完をした方が……、あの様子だと、部屋の中の電源も改造されてる」


『わかった、そのサークルの件はこちらで調べる。まぁ、その状況での咄嗟の判断としては、ベストじゃないけど……。まずまずね』


 おそらく誰か連絡役として1人は現場に残すべきだ、と言外に言ってることはよく判った。が、及第点は貰えたようだ。


『それと、これからのことだけど、ホワイトレイクのメインシステムをできるだけ使わないようにね。ウチの研究所のシステムを使って行動するように』


「それって……白い部屋で、システムエラーでフリーズしたときだけ使用可能って言ってた緊急用コマンドを使うってこと? 前に、ホワイトレイクに来るとき、『システムに負荷がかかるから、もし使ったらコロス☆』とか言ってなかった?」


 キリュウは、そう言い放ったときの堀田の裏のある笑顔を思い出し、青ざめた。


『……白い部屋のシステムは、問題なかったでしょ?そ れに今は、緊急事態だから、多少の負荷は仕方ないわ。許可は、事後承諾で私が取っておくから。とりあえず、見つからないように服は、さっさとこっちに転送してね』


「了解」


『あと、クラッキングしてくれた奴は、見つけ次第捕獲ね?たっぷり話を聞きたいから。今から楽しみっ♪』



 ―――あぁ……今、堀田さんがどういう顔してるか分かる……


 間違いなく、黒い不敵な笑みを浮かべてるに違いない。


『じゃあ、こっちのことは気にせずに。あと、必ず定期連絡してね?』


 キリュウが返事をすると同時に、堀田との通信を終えた。

 堀田とのやりとりを終えた数分後に、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「キリュウ? 服、持って来た。あと、私の家族……紹介するから、着替えたら、あそこの部屋に来てくれる?」


 トアリーがキリュウに服を渡すと、部屋を指し示した。キリュウも部屋のドアから顔を出し、行き先を確認して、わかった、と頷きかけ、ふと気がついた。


「ちょっと待って、家族に紹介って……オレ達がなんでここにいるのか既に話したってこと!?」


「うん、どうせここを歩き回るんだから、いずれ家族の耳にも私たちがここにいるという情報が入るし」


 あっさりとトアリーが答えた。なんて大胆な……、とキリュウは唖然としつつ、確認する。


「具体的には、なんて家族に?」


「仕事のために戻ってきた、と。仕事内容は極秘事項だから一切言えないと言ってある」


 確かにその通りで、嘘は言ってない。が、『白い部屋の騎士』が『ホワイトレイク』に戻ってくるなんて、今まで一度もない。相当マズイ事故が起きてると誰もが思ったに違いない。


「あと……紹介したいヒトがいるって言った……」


 トアリーが、恥ずかしそうに俯きながらポソリと呟いた。


「え?」


 思わず聞き返したキリュウを、トアリーは部屋に押し込め、とにかく着替えて、と言ってドアを閉めて、その場からさっさといなくなってしまった。



 ―――えええぇぇぇっ! ……その言い方は、確実に誤解されるんじゃ?



 既に一度、自分の早とちりで失敗しているキリュウは、慎重にトアリーの態度について判断するようになっていた。



 ―――でも……これって、もしかして順調に進んでる!?


『告白する』→『部屋に遊び(?)に行く』→『家族と会う(いまココ)』



「……」


 少し浮かれながら、服を着替えるキリュウであった。


 トアリーが持って来た服は、白いシャツ、黒のズボンにサッシュベルトという実にシンプルな服だった。


 キリュウは、着替え終わると、今まで着ていた服をどこに隠すか悩んだ。部屋を見回したが、あまり良さそうな隠し場所がない。仕方ないので、ウォークインクローゼットの中の一角に適当に放り込んだ。


 指定された部屋に行くと、そこはリビングだった。ソファがあり、トアリーが座っている。向かい側には中年の男女が座り、窓辺には、おそらくトアリーの兄と思われる美丈夫な青年が立っていた。家族団欒で盛り上がっている感じで、なんとなく入りづらい。


「……こんにちは」


 小さな声で気まずそうに挨拶をすると、トアリーの家族全員がキリュウに視線を集めた。トアリーが立ち上がり、嬉しそうにキリュウのそばに駆け寄って来た。


「キリュウ! こちらが、私の父と母だ。……それで、あちらが兄のジェクスだ」


 トアリーが家族を紹介すると、互いに挨拶を交わし、なぜか話の流れでトアリーの実家に泊まることになってしまった。しばらくして、トアリーが時計を見ながらキリュウのシャツの袖を引っ張った。


「キリュウ、そろそろ夕練の時間」


「えっ!? 朝練したから、今日は終わりじゃ?」


「こっちに居るときは、夕練もしていた」


「……わかった」


 騎士としての修練を欠かしたことがないトアリーが、こう言い出したら譲らないことを知っているので、キリュウは諦めて付き合うことにした。トアリーが、ソファから立ち上がり、壁に飾ってあったレイピアを2本とると、1本をキリュウに手渡した。


「キリュウも剣術をやるのか?」


 トアリーの兄ジェクスが、意外だとでも言うようにキリュウに聞いた。


「はい。一応、ボクも中央塔のナイトなんで……」


 キリュウが答えると、トアリーの親と兄ジェクスが、えっ!と思わず声を上げるほどの驚きようであった。


「本当に? ナイトにしては、身体が細すぎだろ。しかも、大人しいし、ナイトというより、どちらかというとパトロナスに見えるが……」


 ジェクスは、キリュウの言ったことが信じられないという様子で、ズバっとそう言った。キリュウは、苦笑いして、そうですか、と相槌を打つ。以前、ナイト候補者だったときも、周りの人達から同じことを散々言われていたので、もう慣れてしまった。


 庭先に出て、雷蔵から教え込まれたナイト特有の構えを取り、トアリーと打ち合いをする。打ち合いが終わって家に戻ると、トアリーの家族は、その様子を見ていたらしく、キリュウが『中央塔の騎士』であることが本当なのだと納得したようだった。


 キリュウとトアリーは、夕食までにまだ時間があるので、その間に堀田からの連絡事項の確認と、明日以降の計画をトアリーの部屋で話し合った。


「じゃあ、明日は中央塔に行ってフレイリア様と会うってことでいいよね?」


 キリュウが最終確認をすると、トアリーが頷いた。


「本当に『はじまりのパトロナス』からフレイリア様のところに連絡が来てればいいんだけど……」


 トアリーが不安げに呟いた。


「うん。まぁ、連絡がなかったら、そのときに別の方法を考えればいいよ。それより、着て来た服をあっちに転送したいんだけど。」


 キリュウがそう言いながら、先ほど自分の服を放り込んだウォークインクローゼットを指した。


「あぁ、持ってくる。キリュウのは?」


「ごめん、隠す場所がなかったから同じ場所に放り込んである」


 トアリーは、クスッと笑い、わかった、と言ってウォークインクローゼットに服を取りに行った。トアリーが、2人の服をベッドの上に置くと、キリュウが緊張した面持ちで服の前に立った。


「ムーセシステム 作動」


『……作動しました。アイディを入力してください』



 ―――よしっ!



 『白い部屋』以外の『ホワイトレイク』のエリアで、科学技術特別区研究所のシステムが作動したことを確認し、キリュウは安堵した。


「ノギ キリュウ」


『ノギ キリュウ…… 声紋照合中…… 一致しました』


 システムの応答を確認すると、キリュウは、手を広げ、服を囲み、右手を横にスライドさせた。すると、透明なキューブが服を包み込むように現れ、シュンッと微かな音をさせ、消えた。堀田の指示通りに科学技術特区研究所のシステムを使い、服を堀田の元へ転送した。


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