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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
4章 選ばれし騎士と魔術師の子孫
27/60

27 それぞれの生活

 長期休暇が終わり、キリュウは再び今まで行っていた学校に復学することとなった。

 トアリーも、科学技術特区調査官の堀田がやってくれている手続きが終わり次第、キリュウが通っている学校とは異なる科学技術特区研究所の指定の学校に通うことになった。

 学校の授業が始まると、キリュウもトアリーも忙しく、「科学技術特区 魔法の国ホワイトレイク」にいた頃や、長期休暇中の頃と比べて格段に会う機会が減った。しかし、減ったと言っても、「ホワイトレイク」への手紙での定期連絡のため、1週間ごとにローテーションで回ってくるので、申し送り事項の打ち合わせで、キリュウは雷造の家に行く機会はあり、トアリーとは度々会っている。 ただ、トアリーと会うのは嬉しいが、キリュウとしては、トアリーの態度が腑に落ちない。「科学技術特区 妖精の国ブルーロック」から研究所に戻る際、思いもよらずに自分の気持ちをトアリーに告げてしまったのだが、こちらに戻ってから、いつも通りに会話し、自分のことをトアリーが意識してるように感じられない。



 ―――オレのこと、意識してくれたのは、あの時だけなのか?



 キリュウの自宅の隣の家である雷蔵の家に向かいながら、そんなことを考えていたが、考えれば考えるほどドツボにはまりそうなので、キリュウは考えることをやめた。


「雷造さーん! こんにちはー」


 いつものように雷蔵の家の玄関のドアを勝手に開け、奥の部屋まで聞こえるような声でしっかり挨拶しながら入った。リビングに入ると、誰もいなかった。


「……あれ? 書斎かな?」


 キリュウがリビングの横にある扉をノックすると、「おぉ」という雷蔵の声が聞こえた。扉を開けてキリュウが中に入ると、雷蔵が机に向かって手紙を書いていた。


「霧生、来たか」


「報告用の手紙?」


「あぁ、そうだ。今週分は、そこのノートを見てくれ……あぁ、そういえば、トアリーが君に用事があると言っていた。学校から帰ってくるまでリビングで待っててくれ」


 雷蔵が手紙を書く手を止め、キリュウを見てそう言った。


「用事? 何かあったかな……? わかった」


 キリュウは、そう言い残してノートを手にし、リビングへ向かった。リビングのソファに座るとノートをパラパラめくり、引継ぎページを読み始めた。



*****



「ただいまー」


 玄関からトアリーの声が聞こえた。


「おかえりー」


「キリュウ? 来てたんだ」


 トアリーが、ニッコリ笑顔でリビングを覗いた。


「うん、来週オレの当番だから。それより、雷蔵さんから聞いたけど、用事って?」


「ちょっと待ってて、今、荷物置いてくる」


 トアりーがパタパタと自分の部屋へとキリュウを残して行ってしまった。


「キリュウ、何か飲む?」


 自分の部屋に荷物を置いて、リビングに戻ってきたトアリーがキリュウに声をかけた。


 「うん」


 返事とともにキリュウがソファを立つと、


 「キリュウ! ……手伝わなくていいよ?」


 慌ててトアリーが声を上げて、ぎこちない笑顔を向けた。


 「そう? ありがとう」



  ―――いつもと様子が違う?



 首を傾げつつ、またソファに座って、キリュウは、ノートに書き込みをしていく。


 「そういえば、3ヶ月経つけど、学校どう?」


 キリュウは、さりげなくトアリーに様子を聞いた。

 もし、魔法の国からこちらに来たばかりのトアリーに困ったことが起きれば、トアリー本人か、その保護者となっている雷蔵、もしくはキリュウより、「ホワイトレイク」担当の調査官である堀田に報告することになっている。しかし、そうなる前にキリュウが定期的にヒアリングし、その兆候があるかどうかの確認をしている。

 本当は、堀田がそうしたいところのようだが、「ホワイトレイク」担当チームに、「妖精の国 ブルーロック」チームから協力要請があり、現在も、そちらの仕事の一部を兼任している。というのも、「ブルーロック」担当チームのほとんどのメンバーが、事件後もそのまま現場に入っており、研究所内の仕事を松尾と伊能の2人で引き続きやることになった。通常業務の他に、次々現場から送られてくるデータ処理に追いつかず、すぐに堀田に助けを求めた。そのため、トアリーのフォローは、ほぼキリュウに任された。


「えっ!? 学校……?」


 突然ビクッと体を揺らし、トアリーが思いつめた表情をした。明らかに動揺している。


 ―――何かあったのか?


 トアリーは大きく深呼吸すると、ある決意をしたように胸に手をあて、キリュウのほうに視線を向けた。


「キリュウ、そのことなんだけど……、今度、私の学校に来てくれる?」


「うん、いいけど…なんで?」


「よかった! キリュウは忙しそうだから断られると思った。その、私の友達がキリュウに会いたいって!」


 トアリーは肩の荷が下りたとでもいうように、スッキリした笑顔になった。


 ―――げっ! 理由を聞かずに「いいよ」なんて言わなきゃ良かった……。

トモダチってどっちだ?もし男だったら、オレ……泣きそう。


 トアリーがどういうつもりかわからないが、自分の好きな子から「彼氏です」なんて紹介された日には、立ち直れそうもない。すでにトアリーは自分の気持ちを知っているんだから、さすがにそれはないと信じたい。トアリーとは「たった2歳差」だが、それがもどかしい。「ホワイトレイク」にいた頃や長期休暇中には感じることはなかった。学校に通うことにより、2歳差がこんなに大きく感じるとは。


「キリュウ、はい、紅茶」


「……ありがとう」


 トアリーが向かい側のソファに座り、「その紹介したい友達と会う日をいつにするか」について話した。その結果、今度の試験休み中に会うことになった。 


「学校、楽しそうだね?」


「うん、友達ができたからね!」


「そっか……話し方も変わった」


「そうだね。変……かな?」


「いや、場所が変われば話し方も変わるから。今はそのほうが自然」


 休暇中はキリュウや雷蔵と過ごす時間が長いが、学校に通い始めたら友達と過ごす時間の方が圧倒的に長くなる。自然に話し方も友達と同じ話し方になるのは当たり前だ。それが、キリュウにとって、うまくやっているんだと思える安心材料でもあり、少し寂しく思うことでもあった。



*****


 雷蔵の家から自宅の部屋に戻ったキリュウは、明日の準備のため、カバンの中身をチェックしていた。そんなとき、キリュウの片耳にあるサークルピアスが振動した。片手でカチッとサークル部分をスライドさせた。


「はい」


「霧生君、突然悪いわね?」


 全然悪く思っていない堀田の声が聞こえてきた。


「なんですか、堀田さん……っていうか、もう『ブルーロック』から戻ったんだから、この通信用ピアスいらないですよね? いい加減返却したいんですけど!?」


「固いこと言わないでよ。便利だからいいじゃない? こっちは手が離せない仕事が一杯なのよ。こっちが落ち着くまでしてて!」


 有無を言わさずという感じで、相変わらず押しが強い。


「……で、用件は何ですか?」


 キリュウは諦め、さっさと用事を終わらせる方向に切り替えた。


「今度、永久(とわ)ちゃんの学校に行って、友達と会うでしょ?」


 堀田が知っているということは、あのあとすぐにトアリーが予定を申請したということだ。


「うん」


「そう、じゃあ、会ったら報告よろしくね! 実は気になってたのよねー、一応どういう子達かは把握しているけど、文書による報告だけじゃ分からない部分もあるから。たぶん、会うことになるのは……永久(とわ)ちゃんと仲の良い女の子、今のところ、この3人ね」


 瞬時に目の前に、女の子3人の人物データが映し出される。キリュウは、それぞれのデータを見て頭に入れた。


「了解」


「それと、ついでに見てきて欲しいんだけど」


 その言葉を聞いて、キリュウはギクリとした。今まで堀田の「ついで」の内容が「ついで」で終わるようなことであった試しがない。 


「イヤだ!」


「いいから! 『ホワイトレイク』の建国者の親戚が、その学校にいるのよ」


「!……そうなの? 建国者達の家族は、全員『ホワイトレイク』に移住したわけじゃないのか……」


「1人を除いてね。それで、つい最近、永久(とわ)ちゃんと接触したのよ。そんなに長い時間ではないけど。それで、その周辺をざっと一応チェックしてくれない?ルールで接触があった場合は、しばらく様子を見ることになってるのよ。えーっと、この子ね」


 先ほどと同じく、目の前に人物データが映し出された。



 影時(かけどき) (れい)



 トアリーと同じ年齢だ。

 メガネをかけ、黒髪に短髪の真面目そうな男だった。

 顔つきは彫が深く、おそらく美形といわれる類に分類される。



「わかった。チェックしとく」


「ありがとう! じゃあね!」


 キリュウの返事をすると、軽いお礼と挨拶で堀田からの通信が切れた。相変わらず慌しい緊急連絡だ。

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