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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
3章 迷い人の探し方
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「サフィルス……今の状況では、会って話すのは難しいかも。トダガワさん、遠目からドクターな様子を見るぐらいなら大丈夫?」


 キリュウが2人に妥協策を提案した。


「そうだな、それぐらいなら。でも万が一見つかったら、ドクターを置き去りにして引き返してもらえないか?」


「サフィルスは、それでいい?」


 キリュウが妖精サフィルスに確認した。妖精サフィルスは、嬉しそうに、はい、と頷いた。


「ドクターは、さっきまで右側奥のテーブルに座ってるから、ガラス扉の左側に寄れば見られる」


 トダガワがドクターの位置を妖精サフィルスに伝えながら、木製の扉に手をかけ、ゆっくり開いた。



「「あっ!!」」



 キリュウとトアリーが同時に声をあげた。そこに30代ぐらいの色白の背の高い男が立っていたからだ。身体は若干細いが、いわゆる爽やかなイケメン風だった。


「トダガワくん、ボクにはサボるなとか言っておいてそりゃないんじゃないか?」


 腕を組んで不機嫌そうにトダガワに抗議した。後ろで声を聞き、驚いたトダガワが動揺したが、すぐに何でもないようにさりげなく妖精サフィルスを背中に隠した。


「ドクター、サボりではなく、定期連絡です。な?」


 トダガワがキリュウに振る。勝手に振るな、と内心思いつつ、はい、と答えておいた。

 トアリーは、驚きで声が出ないようだ。ドクターを凝視している。150年生きてるヒトが、どう見ても30代の容姿をしていれば無理もない。


「ふーん、そうか。……で、トダガワくんの後ろにいるのは、誰?」


 ドクターの言葉に、全員固まる。グンと周りの空気の温度が冷えたようだ。

 ドクターは、そんな空気を無視してトダガワの肩ごしから覗き込んだ。


「サフィルス……」


 ドクターが目を丸くし、呟いた。トダガワが片手で目を覆い、ため息をついた。


 「……誰がサフィルスをあそこから出したんだ?」


 ドクターがボソリと静かに言った。なぜかさっきまでと雰囲気が異なり、言葉の端々に怒りが滲み出ている。


「出したのは……君かっ!?」


 ユラリと身体をキリュウに向けると、突然、キリュウの胸ぐらをつかみ殴りかかった。


 が、


 キリュウはガッチリ防御し、素早く足払いで転ばせたところに、トアリーがドクターの鼻先に抜刀したレイピアを突きつけた。


「なっ!? ……」


 一瞬だったため、ドクターは茫然としている。


「……君達、ドクターは一般人なんだから。『手加減』って言葉、知ってるか? ……ドクターもダメですよ。この2人は普通の調査官じゃないから」


 一連の流れを見ていたトダガワが、呆れた口調で言った。トアリーが無言でレイピアを退け、鞘に戻した。


「……2人はホワイトレイクのナイトなので、一通り武芸と剣術はできるんです」


 トダガワが説明しながら、ドクターを助け起こした。身体を起こしたドクターがガックリと項垂れて頭を抱える。そこに静かに妖精サフィルスが歩み寄り、ドクターの横にしゃがみこんだ。


「……ドクター、キリュウ達を責めるのはおかしいです。キリュウ達が起こしてくれましたが、その時、再びあの機械で眠ることを私は選ぶことができました。でも、そうしなかった。私は自分の意思でここに来たのです」


 優しく言い含めるように妖精サフィルスが言った。ドクターは、顔をあげ驚いた様子で妖精サフィルスを見つめた。


「サフィルス……変わったね」


「はい、キリュウ達のおかげです。今まで……70年ドクターと一緒にいましたが、ずっと遠慮して……嫌われたくなくて、言えなかっただけです。でも、伝えたいことを伝えずに……このまま死ぬのはイヤです」


 妖精サフィルスは、瞳に涙を溜めながら微笑んだ。

 キリュウが横にいるトアリーを見ると、ドクターのときと同じように驚いた様子で妖精サフィルスを凝視している。キリュウは、だよな……、と苦笑いした。



 ―――70年も一緒に居たのに遠慮してたって……あぁ、でも時間の問題じゃないってことか。結局、相手とどうなりたいかっていうことを明確に認識して行動することが大事なんだ。


「サフィルス……今の自分の身体の状態は知ってるのか?」


 ドクターが妖精サフィルスの瞳に浮かぶ涙を指ですくいながら聞いた。


「はい……羽根に浮遊石を処理するのにだいぶ時間がかかるようになった頃からドクターは辛そうでしたから。私は、あともう少ししか生きられないんですよね?」


 妖精サフィルスが淡々と話す言葉にキリュウとトアリーとトダガワが顔を見合わせた。

 ドクターは、知ってたのか……、と辛そうに笑った。妖精サフィルスが目を伏せ、頷いた。


「……それでも私はドクターと一緒にお話ししたりして側に居たいのです」


 ドクターは、深いため息をついて、妖精サフィルスの髪をなでた。


「ボクは……弱いから、君より先に死にたいんだ。君が先に死ぬのは耐えられない。だから、ボクが老衰で死ぬまで、あの機械に入っていて欲しかった」


「ドクターは、ひどいヒトです」


 ドクターを涙声で妖精サフィルスが責めた。


「……嫌われたかな?」


「嫌いになんて……愛してます」


 妖精サフィルスは涙を浮かべたまま、俯くドクターの頬を両手で優しく包んだ。見つめ合っている2人を切ない思いで眺めていたキリュウが、妖精サフィルスの羽根に異変を感じた。


 ―――羽根の浮遊石が剥がれて……空中を浮遊してる?


 青白い光がポツポツと妖精サフィルスを包み込んだ。


「……3人とも、すまないが」


 ドクターが呟くように言った言葉にキリュウ達は静かに頷き、ドクターと妖精サフィルスを置いてガラス扉に入ったのだった。

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