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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
2章 騎士と魔法もどきと秘密の白い部屋
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 雷造の家でレイトーリア魔法学院の制服から私服に着替え、キリュウは雷造の家を出た。


「霧生君、お疲れ様!」


 雷造の家の前で、営業スマイルの堀田が立っていた。


 ――こういう時の堀田は要注意だ。


 キリュウは警戒しつつ、「お久しぶりです」と挨拶した。


「では、報告会に行きますか」


「……報告会? どこに?」


「どこって……科学技術特区研究所よ」


「なんで? なんのために? メンテナンスは無事終わったって、メインシステムから直接連絡がそっちにあったはずじゃあ?」


 堀田の言葉にキリュウは警戒しながら疑問に思ったことを次々と確認していく。


「霧生君は、今回国費留学で行ったでしょ!? ……ということで、留学期間中に何をやったか、詳細な説明を求めます!」


 堀田はキリュウをズルズルと引きずり、キリュウの自宅の前を通りすぎ、科学技術特区研究所に連れて行った。



*****


 ――キリュウが帰国した4日後


 キリュウが研究所の指定電子端末を使って必死に何が何でも短時間で終わらせようとレポートを作成していた。

 帰国したその日は、ミーティングルームにて口頭による報告会を行った。そこで、だいたい大まかな流れをキリュウが話し、堀田とその上司と思われる男や同僚の人たちが質問したことに対してキリュウが答えた。そのうえ、今のホワイトレイクの状況を科学的観点からレポートにまとめろ、という指示が出た。ある程度科学知識のある15歳の少年のレポートの方が、こちらに来たばかりのナイトからの聞き取り調査より使えると判断しているようだった。



「それにしても、ちゃっかり可愛い女の子を連れて帰って来ちゃって、ズルいわね……」


 トアリーの様子を見に行っていた堀田が、雷造の家から研究所に戻って、キリュウのデスクに来るなり、そう言った。


「『連れて帰る』っていうのは、だいぶ語弊があると思うけど? オレが無理やり帰って来ただけであって、マスター トアリーがこっちに来ることは、オレがホワイトレイクに行った時点で既にナイトだったんだから、初めから予定に入ってたはずだよ。」


 キリュウは電子端末から目を離さずに、冷静に自分の言いたいことを主張した。ここでキッチリ言い返さないと、あることないこと、色々堀田に言われ続けられそうだからだ。


「……2人いっぺんに転送なんて、ホワイトレイクのシステムにそんなに負担をかけなくても、帰ってくるのは50年後で良かったんじゃない?」


「絶対、い・や・だ! ……ていうか、なんで堀田さん、今日はそんなに絡んでくるんですかっ!?」


「それは……霧生君が雷造さんの家を出たときの浮かれた態度の原因が、今日、雷造さんの家に行ったらわかったからよ!」


「……えっ!?」


 思ってもいない堀田の言葉にキリュウは動揺する。


「……っていうか、君はかなり珍しいパターン。この職種は単独で行動することがほとんどだし、相手や担当の国の習慣に合わせるから、かなり自由が利かないのよ。それで出会いが極端に少ないから恋愛なんて皆無。学校にいるときに相手を見つけないと厳しいのよね……」


 キリュウは、堀田のその言葉を聞き、「片思いであることは置いといて、この職場は色んな意味でハードワーク過ぎでヤバい!  絶対、将来の夢は考え直そう」と決心したのだった。



*****



「終わりました!」


 キリュウがレポートを書き終えて、データチップと科学技術特区研究所に出入りするためのIDを堀田に渡した。

 帰国したその日に事後処理ということで、キリュウはずっとここ1週間ほど研究所に缶詰めにされていた。


「報告書は、こんなに早く提出しなくても良かったのよ?」


「いや、早く提出しないと、学校が終わった後に、ここに通いで来ないといけなくなるから!」


 ウンザリした表情でキリュウが不満げに言った。魔法の国ホワイトレイクの情報は、厳重に管理しているため、指定の電子端末機を使うことになっていた。


「それもそうね。お疲れ様、これで今回の件は終了ね。」


「じゃあ、これで。さよなら!」


 これでもう巻き込まれなくて済む! ……とキリュウは嬉しそうに堀田に別れの挨拶をした。


「あ! ……霧生君、言い忘れたけど、君はここの特別臨時職員アルバイトになってるから。

今、トラブルになってる他のエリアがあって、近々そこに行ってもらうかもしれないのでヨロシクね!」


「……は?」


 堀田の別れ際の一言で、巻き込まれフラグを回避できなかったことを悟ったキリュウであった。



*****



 一方、その頃トアリーは―――


 とりあえず、白い部屋ではじまりのパトロナスに言われた通りに、「はじまりの魔術師のレポート」を読み続けていた。

 1冊がかなりのボリュームで、トアリーにとって初めて聞く単語ばかりである。辞書を引きながら読み進めていくため、かなり苦戦していた。

 7冊読み終えるまで、この家から出ないでおこうと考えて引きこもっていたが、レポートを読み進めるうちに、このままの状況では読破はかなり厳しいことがわかってきた。

 やはり外に出た方が知識を増やすうえでは効率がいいのではないだろうか……と思い始めた頃、1年半留学扱いで休みをとっていたキリュウが復学などの手続きを終えて、1週間ぶりにこの家に顔を出した。


「こんにちは、お邪魔しまーす。あれ? 雷造さんは?」


「買い物です」


「そっかぁー。あ! 『はじまりの魔術師のレポート』のそのページ読んでんだ……、オレそのページ読んだとき感動したんだ。懐かしぃ〜」


 キリュウが開いた本を覗き込み昔を懐かしんでいた。


「……オレ? …………キリュウ、言葉が乱れている」


 今まで聞いたことのない口調で話すキリュウを、トアリーが訝しげに見た。


「あぁ、こっちの話し方が素だから」


「素?」


「そうそう、今のオレの話し方の方が本来の話し方ってこと」



「本来の話し方がどうであれ、戻す必要はないでしょう?」


「いや、それはムリ。ところで、科学技術特区担当の調査官から外出の際の注意点は聞いた?」


 キリュウは無理矢理話題を変えた。


「いえ……まだです」


「あれ? そうなの? ……おかしいな、家の外に出る前に必ず説明があるはずなのに」


「そのことでしから、外にしばらく出ないので、断ったのです」


「……つまり、引きこもり? もしかして、この1週間、一度もこの家の外に出てないってこと?」


「そうです」


「えーっ! なんでっ!?」


「いきなりこの家の外に出る前に、ある程度知識を入れてから……と思ったのと、とりあえず『はじまりの魔術師のレポート』7冊を読み終わってから……と思っていたので」


 トアリーが真面目に答えるが、キリュウは頭を振り、


「それはやめた方がいい。実際に外に出て、見た方が効率がいいし。例えば、このページのシステムってさ、こっちでは別のに使われてたりするんだ。たぶん、それを見たら驚くと思う。……で、一番こういうシステムを学ぶのに効率が良いのは、学校か博物館か科学技術館ってところかな? まぁ、学校は手続きが必要だから、すぐには行けないけど、博物館か科学技術館なら今からでもすぐに行けるよ?」


「歴史館なら聞いたことがあるが……」


「うん、それと似てるかも。展示物が歴史に因むものか、科学技術に因むものかの違いなだけで……。原理が分かりやすく説明されてて、体験もできるからね。どう?」


「行きたい! 外出の準備をするので待ってくれますか?」


 トアリーは即答すると、外出の準備を始めた。こうして、トアリーは初めて家の外に出ることになった。



****



 トアリーの外出の準備が終わった頃、ライズォーンが買い物から戻ってきた。


「おぉ、霧生、来てたのか」


「雷造さん! こんにちは。テーブルのうえにオレンジ置いてあるよ。うちの母さんがお裾分けだって」


 キリュウがリビングの方を指した。


「あぁ、ありがとう。いつも悪いのぅ」


 ライズォーンがそう言って、靴を脱いだ。


「あの、マスター ライズォーン……私、外出したいのですが、許可ををいただけますか?」


「おぉ! 行っておいで。……で、初めての外出先はどこだね?」


「科学技術館ってところです。キリュウが案内してくれるそうです」


「あそこなら、『はじまりの魔術師のレポート』を読むための基礎が分かりやすく展示してあるから良い。辞書や解説本に書かれた文字や絵だけでは限界があるからの」


 ライズォーンが頷く。


「ありがとうございます。では、いってきます!」


 トアリーは玄関のドアを開けるのに、緊張していた。

 家の中は、ホワイトレイクの延長であるかのように感じていたので、初めてトラニーヒルに行く気分だ。


「ドア、そんなに重たい? 押せば開くよ?」


 トアリーの高まる鼓動に関係なく、あっさりキリュウが玄関のドアを開けた。


「……いや、ドアが重たかったワケでは……。いえ、何でもないです。行きましょう」


 トアリーは気を取り直して、ドアの外に一歩踏み出した。そして、トアリーとキリュウの2人は、緑の木々に囲まれた玄関から門へと、話しながら歩いて行ったのだった。



*****


 キリュウに外へ連れ出されたトアリーは、門の外を出たところで初めて近所の人とあった。


「あら、こんにちは、霧生くん! そちらは……雷造さんのお孫さん?」


「こんにちは、佐藤さん」


 近所の佐藤さんに声をかけられ、顔見知りのキリュウが挨拶をした。

 トアリーも慌て挨拶した。


「こんにちは、トアリーと言います。よろしくお願いします。」


「……たりぃ……ちゃん?」


 名前を聞き取れなかった佐藤さんの様子を見て、トアリーは最初にこちらに来たときのキリュウの忠告を思い出した。

 このままでは、某コーヒーショップと同じ名前になってしまう。そこで、慌てて自分の名前の最初の2文字だけにしようと、訂正した。


「いえ、違います。ト・アです。」


 今度は、ハッキリと区切って言った。これで、マスター ライズォーンのようにはならないはず……、とトアリーは安心した。


 が、


「あぁ、ごめんなさいね! 永久とわちゃんね♪ またね!」


 佐藤さんはそのまま2人を置いて、去ってしまった。しかも、微妙に間違えた状態でトアリーの名を覚えたまま……。


「まったく訂正できなかった……」


 ガックリとトアリーが肩を落とした。


「……明日から永久ちゃんって近所の人から呼ばれるかも」


 キリュウが追い討ちをかけた。



 ……数日後



 キリュウの予想通り、佐藤さんのクチコミパワーによって、トアリーはご近所から≪永久ちゃん≫の愛称で呼ばれることとなったのだった。



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