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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
2章 騎士と魔法もどきと秘密の白い部屋
16/60

16 白い部屋の向こう側

「ただいまぁ〜!! いやぁ、久しぶりだなぁ……あれ? 雷造さん!?」


 白い部屋への扉が閉まったと同時に、キリュウが辺りを見回した。


「……らいぞうさん? ……って誰ですか?キリュウ」


「あぁ……そっか! 雷造さんは、マスター ライズォーンのことです。こっちではご近所さんにそう呼ばれてるんだ。あまりこちらの人達には、ライズォーンって発音に耳が慣れてなくて、雷造って聞き間違えた近所の人が広めちゃったらしいんですよ。で、そのままずっと今までそう呼ばれてるんです。マスター トアリーも近所の人に名乗るときは、気をつけて」


「……わかった」


 ライズォーンがいないので、トアリーは部屋を見回した。

 壁一面が本棚になっており、本がびっしり隙間なく埋まっている。窓際には木造アンティークの机があり、書きかけの手紙が置かれていた。

 突然ガチャっと部屋のドアが開き、白い口髭を生やしている年寄りの男が入ってきた。


「おぉ! 霧生、帰ってきたか! 『コアを無事に届けてくれた』、とあちらから連絡が来ていた。心配したが、無事に帰ってきて良かった……お疲れさん」


 キリュウを見るなり、近寄ってキリュウの背中をバシバシ叩く。


「おぉ!マ スター トアリーもよくこちらに来てくれた! とりあえず、あっちの部屋で茶でも飲もう」


「あの……もしかしてマスター ライズォーンですか?」


「そうだ。いかにも私がライズォーンだ。さぁこちらへ2人とも来なさい」


 ライズォーンはトアリーとキリュウを連れて、隣りの部屋のソファに2人を座らせた。既にテーブルには茶碗が茶托にセットされていた。ライズォーンが急須で熱い緑茶を注ぐ。トアリーは珍しい物を目にし、じーっと観察していた。


「雷造さん、これ、おみやげ」


 キリュウはレイトーリア魔法学院の白い制服の内側から、ロサ・カエルレアのアドホックピアスを取り出して、テーブルに置いた。

 トアリーはキリュウの耳を見たところ、テーブルに置いたピアスとは別に、ちゃんと身に付けている。唖然とするトアリーを尻目に得意気にキリュウが言った。


「これ、ロサ・カエルレアのアドホックピアスっていうんだって。あのホワイトレイク建国メンバーが身に付けてた物でさ、店の人がくれたんだ」


「霧生、こんな貴重な物をよく店の人がくれたなぁ……、よほどお前さんのことを優秀なナイトと思ったのだろう」


「たぶんね」


 キリュウが嬉しそうにソファに背をあずけて言った。ライズォーンは、ロサ・カエルレアのアドホックピアスを手に取り、熱心に眺めたり、そっと触れたりしている。

 その様子を見ていたトアリーが、耐えきれなくなり、小声でキリュウに話しかけた。


「キリュウ、一体なぜもうひとつ持っているのですかっ!? ナイトでないと給金は支給されないはずでは?つい先日までナイト候補者だったキリュウに、このピアスを買うような資金なんて……」


「えぇ、ですから買ってないです。ラドルさんからナイト就任祝いにいただいたのです」


「そうなんですか?」


 ラドルの太っ腹ぶりにトアリーは驚いた。だが、聞き返したトアリーの言葉に対し、説明したキリュウの返事がなく、黙ってしまった。


「何か?」


「うーん……正確に言うと、ナイト就任祝いではなく、卒業祝い……ですね。まぁ、お祝いにいただいたことには変わらないです。……実はナイトの就任式が終わって、魔法学院から中央塔に向かう途中、ラドルさんの店に寄って、別れの挨拶をしたんです。『今日付けで魔法学院を卒業しました。お世話なりました』って……で、ラドルさんが『そうか! おめでとう!! 卒業祝いに好きなピアスを1個やるぞ? 何でも言ってくれ』……て言ってくれたので……」


「……そう言われて陳列された店の商品ではなく、貴重な売り物でないロサ・カエルレアを選んだのですかっ!?」


「はい」


 トアリーはため息をついたあと、頭を抱えた。


「あっ! そう言えば、おみやげ、もう1つあった……はい、雷造さん」


 キリュウがまた制服の内側から琥珀色の液体の入った小瓶を取り出して、テーブルに置いた。


「おぉ! ありがとう、これは懐かしい! こちらと向こうでは、手紙だけしか送れない。物品のやり取りができないので、もうこれを飲むことはできないと思ってたのだよ……」


 ライズォーンが小瓶を感慨深げに手に取り、蓋を開けて香りを嗅ぐ。


「……それは?」


 またか……今度は何を持ってきたんだ、とでも言うようにトアリーがキリュウに尋ねる。


「これは……料理酒です」


「……今、妙な間があったが?」


 トアリーはじっと液体の入った小瓶を見て、キリュウに疑いの目を向けた。キリュウはトアリーと反対の方向に顔をそらした。


「……酒も買えないはずですが、どうやって手に入れたのですか?」


 再びトアリーが小声でキリュウに尋ねた。


「……この間、ナイトの最終試験合格者の集いというのがあって、料理をみんなで作ったのですが、料理の香り付けに使うためとか言って酒を持ち込んだヤツがいて……」


「その酒をもらって小瓶に入れて持って来たのですね……」


「はい」


 トアリーは深いため息をついて頭を振った。


「他にホワイトレイクから持ってきた物はありますか?」


 念のためトアリーが聞いた。

 すると、さらにキリュウが制服の内側から3本の小瓶を取り出し、テーブルに並べていったのだった。

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