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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
2章 騎士と魔法もどきと秘密の白い部屋
14/60

14 白い部屋への扉の鍵

 フレイリア達3人は研究部屋に戻ってきた。ソファに座り、誰も言葉を発しない。


「私が中央塔の魔法陣の担当になったばかりに……、私のナイトはこの国を自由に歩けなくなってしまうということですね」


 しばらくして、フレイリアが静かに呟いた。


「いえ、フレイリア様のせいではないです。この国を運営していくうえで、必要ということです。手紙でやり取りはできるので、まったく孤立しているワケではありませんし……。今のところ、私とキリュウのどちらがその部屋に行くことになるかわかりませんが、フレイリア様が、この国のことや家族や友人のことを手紙に書いていただければ、それが楽しみになりますし……」


 トアリーが落ち込むフレイリアにフォローを入れる。

 トアリーはキリュウと中央広場の地底湖で、はじまりのパトロナスと会ったとき、白い部屋にいるナイトのことを聞いてたので、ある程度はこうなることを覚悟していた。むしろ、はじまりのパトロナスとだけでなく、フレイリアとも手紙でやり取りができるということを聞き、思ったよりマシだと思ったぐらいだ。


「……いっぱい手紙、書きます。たくさんのことをできるだけ……」


 フレイリアは俯いたまま、震えた涙声で小さく呟いた。


「ありがとうございます」


 トアリーが微笑む。


「……ところで白い部屋へ入るのは、だいたいいつになるのか今のところ不明なので、私物の整理などは前倒しにやっておいた方が良さそうですね。ボクの場合、日によっては、間に合うかどうかギリギリってところでしょうね。間に合えば、おそらくナイト就任式と同時に行くことになりそうです」


 キリュウの言葉に、フレイリアとトアリーの2人が頷いた。



*****



 中央塔の魔法陣の担当就任式のため、フレイリア達3人は魔法陣の部屋で待機していた。

 フレイリアは正式にパトロナスとして担当部門を受け持つため、魔法学院の白い制服から、パトロナスの白いローブを着用している。トアリーも、新たに中央塔の刻印の入ったレイピアと蒼いマントが支給され、着用している。

 しばらく経つと、年長のパトロナスのカエルムと、この部屋の前任者であるカルラが静かに入ってきた。


「では、これから、パトロナス フレイリアの就任式を行う。パトロナス フレイリア、こちらに」


 カエルムが、祭壇へとフレイリアを呼び寄せる。フレイリアは祭壇へ行き、カエルムの前に膝まずいた。

 カエルムは、隣に立っているカルラの持つ銀の飾り皿の中から杖を手に取った。


「全てを知りうる、はじまりのパトロナス……今、このときより……パトロナス フレイリアに、ホワイトレイクの礎である、この魔法陣を守護することを命ずる」


 カエルムが高々とそう宣言すると、カエルムが手にしている杖の上に魔法陣が現れ、一瞬にして消えた。


「パトロナス フレイリア」


「はい」


 カエルムに名を呼ばれ、フレイリアは立ち上がり、杖を受けとると、後ろに一歩下がった。今度は、カルラがフレイリアの前に立った。


「魔法陣を守護するパトロナス フレイリア……よく聞くように。国をまもる白き部屋、50のときに鍵、あらわる。選ばれしナイトの名を刻み、白き部屋の扉を開けよ。鍵あらわれぬそのときは、誓いの言葉で扉は開く」


 カルラの言葉を聞き、フレイリアが復唱する。


「……それでは、パトロナス フレイリア、ナイト トアリー、ナイト候補者 キリュウ、これから尽力し、任を勤めあげるように。あと、不明なことがあった場合は、私かパトロナス カルラに聞きなさい」


「「「はい」」」


 カエルムの言葉に、フレイリア達3人が頷いた。


*****


 フレイリアの就任式が終わり、3人は廊下を歩いていた。


「『国をまもる白き部屋、50のときに鍵、あらわる。選ばれしナイトの名を刻み、白き部屋の扉を開けよ。鍵あらわれぬそのときは、誓いの言葉で扉は開く』……か」


 キリュウは考え込むように呟いた。それを聞いたフレイリアが、珍しくキリュウを睨む。


「キリュウ……また良からぬことを考えてますね?」


「いいえ。ただ、誓いの言葉って何だろうって思っただけです。ナイトの就任式に使う言葉とかなのかなぁ、とか」


「ダメですよ! どうせキリュウのことですから、鍵を使わずに裏技を使ってこじ開けて入ろうと考えてるってことぐらい、お見通しです!」


 キリュウはこれまで色々とやらかしているため、そういうことでの信用は地に落ちていた。


「……」


「やるつもりだったのですね……」


「まぁ、キリュウだったらやろうと考えますよね……」


 キリュウが黙り、フレイリアは呆れ、トアリーは当然そうだろう、と言わんばかりの反応であった。



*****



 トアリーは、いつでも白い部屋に入ってもいいように、私物を整理したり、家族や友人達とできるだけ話したり、研究のサンプル整理したり、着々と準備をしていた。

 一方、キリュウはナイトの授業を受けつつ、中央塔の魔法陣の部屋に勝手に入っては、フレイリアを困らせていた。

 キリュウは魔法学院の所属とはいえ、フレイリアのナイト候補者であるため、魔法陣の部屋に勝手に入っても、他の人から咎められない。何かあった場合は、フレイリアの責任となり、キリュウのそうした行動を注意するのはフレイリアとトアリーだけだ。


「キリュウは、どういうつもりなのでしょうか……」


 フレイリアが少しゲンナリしている。


「どうしても白い部屋に行きたい……というよりは、どういう仕組みになっているのか興味があるようですね」


 フレイリアの研究部屋のソファで、トアリーはフレイリアの愚痴を聞きながら、ハーブティーを飲んでいた。


「そう言えば、キリュウがこの間……魔法陣の部屋の祭壇のそばで、ナイトの誓いの言葉を言ってたような……」


「!! ……止めてくれましたっ!?」


「私が止めようとしたときは、既に言い終わっていたのですが、扉は現れず、何も起こらなかったですので、安心してください」


「……まったく安心できないです」


 フレイリアが深いため息をついた。


「大丈夫ですよ、キリュウはしばらくあの部屋には来ないと思います」


「それは、どうしてですか?」


「おそらく今までのキリュウの行動を見る限りでは、白い部屋の扉を探しだし、扉の開け方を探しているのでは……と」


「そのようですね、白い部屋への扉が出現する場所は見つけてしまったみたいですし、あとは鍵を見つけるつもりなのでしょう……」


「若干間違ってるかと思いますよ。鍵を使わず、言葉で開けようとしているのかと。既にキリュウのことですから、ホワイトレイクに伝わる誓いの言葉は、全部試したのではないでしょうか」


「そうですか……」


「はい、その証拠に今日は魔法陣の部屋に来た形跡がないです」


「このまま諦めてはくれないですよね……」


「キリュウの性格からして、それはないと思いますよ」


 フレイリアは、トアリーの言葉でガックリと肩を落とした。



*****



 フレイリアの就任式から3ヶ月経った。


 トアリーが研究部屋で実験していると、扉が開き、キリュウが元気良く入ってきた。


「フレイリア様! マスター トアリー!」


「フレイリア様は、いませんよ。どうしました? 何か良いことでも?」


 トアリーが作業している手を止めて、キリュウの方を見た。


「はい、ナイトの最終試験に合格しました。なので、来月はじめにボクのナイト就任式が行われて、正式に魔法学院から中央塔に移籍となります」


「それは素晴らしいです。魔法学と違い、ナイトの最終試験は何回か受けてようやく合格する人が多数ですが、一発で合格とは、さすがキリュウです。おめでとうございます」


「ありがとうございます。必死にやらないと間に合わなくなるので、心理的プレッシャー効果が抜群に効きました」


「……あぁー、今言った理由については、フレイリア様には言わないでおいてあげてください。白い部屋のことは、かなり気にしてますので」


「……やっぱりフレイリア様は、割りきれないって感じですよね。マスター トアリーは、大丈夫ですか?」


「大丈夫……とは?」


「白い部屋から出られなくなるという覚悟……ということです」


「時間はかなりあったので、心の整理もできてます」


 トアリーは、凛とした笑みを浮かべた。

 そこへバタンッと扉を開け、トアリーが慌てたように入ってきた。


「トアリー! 大変ですっ!! とうとう来てしまいました!」


 フレイリアがトアリーに抱きついた。


「フレイリア様?」


「トアリー……、白い部屋の鍵が……現れました。中央塔の魔法陣に色素定着の魔法をかけていたら、はじまりのパトロナスが、魔法陣の中心に突然現れて、『選ばれしナイトの名は?』と……」


「ナイトの名前は誰を?」


 キリュウが、まだトアリーに抱きついてるフレイリアに聞いた。


「トアリーと……答えました。キリュウは、まだナイトではないので」


「そうですか、わかりました」


 トアリーはフレイリアの肩にそっと手をおき、少し距離をとった。


「鍵はどちらに?」


 トアリーは、優しくフレイリアに諭すように聞いた。


「魔法陣の部屋の祭壇にあります。鍵には既に選ばれしナイトとして、トアリーの名がはじまりのパトロナスによって刻まれてしまいました」


「とりあえず、状況を確認しましょう」


 トアリーがそう言うと、3人は颯爽と早足で魔法陣の部屋に向かった。



*****



 魔法陣の部屋に3人が入り、フレイリアが祭壇に駆け寄った。

 祭壇の飾り皿に、鍵があった。鍵全体に魔法陣でよく使われている古代文字がびっしりと刻まれている。

 トアリーが引き寄せられるように鍵に触れようとしたところ、キリュウがトアリーの手をつかみ、止めた。 そして、キリュウはフレイリアの方を見て言った。


「フレイリア様、パトロナス カエルムと白い部屋のナイト――マスター ライズォーンにこのことを報告されました?」


「いえ、まだです……慌ててしまって。キリュウ、ありがとうございます、少し冷静になれました」


「では、ボクがパトロナス カエルムに連絡しますので、フレイリア様とマスター トアリーはこちらにいてください。あと、鍵には触らない方がいいでしょう」


 キリュウはそう言うと、部屋から出ていった。

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