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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
2章 騎士と魔法もどきと秘密の白い部屋
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12 ナイト候補者

 2人が氷の柱が乱立している部屋の中を、どんどん奥へ進むと、おそらく部屋の中心だと思われる場所に出た。そこだけ、ぽっかり柱がなく、何もない空間ができていた。

 キリュウが持つビンの中にある星形12面体が反応し、ゆるやかに点滅している。

 しばらくして、床に魔法陣が現れ、半透明のローブを着た男が現れた。どこかで見た覚えがある。


「……はじまりのパトロナスっ!?」


 トアリーはじっと凝視し、『ホワイトレイク建国記』に載ってた人物であることに気づいた。


「そうだ。君たちに呼び出されたのだが、あいにく調子が悪く、この通り体が透けてしまっている。用件によっては、何もできないだろう」


「いえ、私達は確認に来ただけです。中央塔の魔法陣の事故による影響がないかどうかだけ、知りたかったので」


 トアリーが、慌てて否定した。


「影響はあったが、どうすることもできない」


 はじまりのパトロナスは厳しい表情になった。キリュウは、はじまりのパトロナスに静かに近づき、ひざまづいた。


「はじまりのパトロナス、白い部屋のナイト、マスター ライズォーンにご依頼いただいたものを持ってきました」


 キリュウは、そう言うと、ビンの蓋を外し、はじまりのパトロナスの足元に置いた。

 ビンの中からゆるやかに点滅する七色の星形12面体が浮かびあがり、はじまりのパトロナスのローブの中に入っていった。


「確かに受け取った……ありがとう」


 はじまりのパトロナスの言葉を聞き、キリュウは空になったビンに蓋をし、制服の内側にしまうと、立ち上がった。


「たぶん、不具合はメインのコアを交換すれば治ると思います。今は予備で動いてるんですよね?」


 キリュウの質問に、はじまりのパトロナスが頷く。


「でしたら、メインに切り替えたあと、予備の方も確認していただけますか?しばらくボクらは、ここにいますので」


「わかった。すぐに取りかかろう」


 はじまりのパトロナスが、そう言うと、スッと足下の魔法陣と共に消えた。


「やはり、あの事故で不具合が生じていたのですね……」


「そうですね。でも間に合って良かったです!」


 キリュウは、嬉しそうに表情を和らげ、背伸びした。


「とりあえず、ここに来た目的は達成できたので、あとは白い部屋に行ければ、完璧だなぁ」


 キリュウは呟きながら、部屋の周りの様子を眺め、ゆっくりとグルグル歩いていた。



*****



 しばらくして再び床に魔法陣が出現し、今度は半透明ではなく、クッキリとした、はじまりのパトロナスが現れた。


「どうでした?」


 キリュウが、はじまりのパトロナスの元に駆け寄りながら聞いた。


「問題ない。全て元通りだ。……実はマスター ライズォーンに不具合の連絡はしたが、コアをこちらに持って来れるはずない、と諦めてたのだ。マスター ライズォーンは、あの部屋から出られないのだからね。まさか、こんな方法で持って来るとは予想外だ。ありがとう、改めて感謝する」


 はじまりのパトロナスが胸に手をあて、目礼した。


「ところで、ここを出るのは問題ないと思うが、白い部屋に行くのに、どうするつもりか?」


「そうなんですよねぇ、とりあえず、どこかにスペアの鍵があると思うので、それをこれから探します。はじまりのパトロナスは、何かその件でご存知ですか?」


 それを聞いたはじまりのパトロナスは、呆れた。


「信じられぬ……白い部屋に入る方法を知ってから、こちらの国に来たのではないのか?……まぁ良い、白い部屋の鍵については、魔法陣のパトロナスが代々伝承することになっている。知ることができるのは、魔法陣のパトロナスと、そのナイトだけだ」


「やっぱり、そっかぁ。正規に白い部屋に入るためには、ナイトになるしかないってワケだね。ありがとうございます」


 キリュウがお礼を言うと、


「いや、問題ない。2人とも帰るのなら、途中まで送ろう。私はここから出られないので、地上までは送れないのが申し訳ないが……」


 はじまりのパトロナスが、そう告げると、トアリーとキリュウの足下に移動型魔法陣が現れ、一気に中央広場の噴水の真下まで上昇した。



*****



 ロサ・カエルレアのピアスが、光り、フレイリアの声が聞こえた。


『トアリー! キリュウ! 中央広場に着きましたよ』


「わかりました。では、そちらで、中央広場の魔法陣の解除をしてもらっていいですか?」


『か、解除ですかっ!?』


 サラリとキリュウがとんでもないことを言うので、フレイリアが動揺している。


『……あの、キリュウ、本気ですか?あれだけ色々やって、さらにですかっ!?』


「すみません、フレイリア様、そうしないと、ここから出られないようです。お願いします」


 トアリーが申し訳なさそうに言った。


『わかりました。でも、キリュウが責任持って詠唱してください。魔法陣は、私が描きますので』


 フレイリアは諦めた感じで、ため息をついた。


「はーい、わかりましたぁ!」


「ありがとうございます! フレイリア様!!」


 キリュウの軽い返事と、トアリーの感謝がこもったお礼とのギャップがヒドイ。



*****



「よしっ、これで全部元通り♪」


 フレイリアが描いた魔法陣の側で、キリュウが詠唱をし、封印した。


「フレイリア様、報告会は……すみませんでした」


 キリュウがフレイリアの方を向いて、そう言うと、トアリーも、


「フレイリア様、助けていただき、ありがとうございました。あと、最終成果報告会は、申し訳ない」


 と、謝った。

 しかし、フレイリアは首を振って否定した。


「私も実は……魔法陣の上書きをするのが悔しくて、2人がやってくれたことで、気分はスッキリしてます!」


 フレイリアが、フフッと笑った。


「でも、処分はあるみたいなので、2人とも覚悟した方が良いですよ」


「はい、それは覚悟できてます。ところで、最終成果報告会の結果は……?」


「そちらは、保留のようです。処分終了後に結果を伝える、と言われましたが、たぶん大丈夫そうです。バッチリ成功してたので!」


 トアリーはフレイリアの言葉を聞き、ホッとした。


「では、寮に帰りましょう!」


 フレイリアが歩き出した。そして、トアリーとキリュウの2人もフレイリアの横に駆け寄って、並んで歩き出す。

 トアリーはフレイリアの隣で、ふと、はじまりのパトロナスとキリュウとのやり取りを思い出し、考えたところ、1つの事が思い浮かんだ。


「魔法陣のパトロナスのナイトは、白い部屋に入ったら、二度とそこから出られなくなる……? まさか、そんなことがあり得るのだろうか?」



*****


 3人は2週間の謹慎処分を受け、久しぶりにフレイリアの研究部屋に集まっていた。


「謹慎処分、2週間で済むとは思わなかったなぁ。2ヶ月ぐらいかと覚悟したんですが……」


 キリュウがクッキーをつまみながら、ハーブティーのカップに口をつける。


「そうですね、あんなに色々とやってしまったんだから、キリュウはもっと長期間の謹慎を受けても良かったかもしれないです。」


 トアリーが無表情でポットを持ち、フレイリアのカップにハーブティーを注ぐ。


「フフッ、でも、これでキリュウもあともう少しで魔法学を修了になりますから、マギになれますね」


 フレイリアが微笑みながら、ハーブティーを飲む。

 フレイリアは謹慎処分後、無事に最終成果報告の審査が通り、魔法学院卒業後、パトロナスになる予定となった。トアリーもフレイリアのナイトとして、卒業後は一緒に中央塔に入る予定だ。


「えっ!? ボクは、マギにはなりませんよ? 先生にもそう言ってます」


 キリュウはフレイリアの言葉にキョトンとした。


「そうなんですか?せっかくマギの素質があるのに、残念です。キリュウは、卒業後、どうするか決まってるのですね?」


「……いえ、そうではなく、できればナイトになりたいのですが」


「ナイトですか? ……そうですねぇ、今度、先生方に私から聞いてみますね?」


 こうしてフレイリアがキリュウをナイトの候補者として、推薦することとなった。



*****



 そんな出来事があった1ヶ月後の夕方、


「フレイリア様! マスター トアリー!」


 フレイリアとトアリーが魔法学院から寮に向かって、街路樹の並ぶ小路を歩いていたところ、キリュウの声に引き止められた。


「どうしましたか?」


 走ってきたキリュウにトアリーが聞いた。


「……あの、ナイトへの推薦、ありがとうございました」


 息を切らしながら、キリュウが2人にお礼を言った。


「あぁ……、そのことですか。では、魔法学を修了したのですね、おめでとうございます」


 ここレイトーリア魔法学院では、魔法学の修了時に、マギまたはナイトになるか、それとも卒業するのかを担当の先生から学院生に一人一人通達される。


「ありがとうございます!」


「ナイトの修練は、魔法学とは違う厳しさがありますので、頑張ってください。とりあえず、希望が叶って良かったです」


「はい! では、これから今後のことについてオリエンテーリングがあるらしいので、失礼します」


 キリュウは2人にそう告げると、来た道を戻って行った。

 フレイリアはキリュウの後ろ姿を見送りながら、ホッとしたように、


「キリュウの推薦が通って、良かったです」


 と、呟いた。


「そうですね……、フレイリア様と私の2名の推薦があるとはいえ、あれだけ色々やって、よく通りました。そう言えば、キリュウがナイト候補者になった理由、聞いてませんが、フレイリア様はご存知ですか?」


「……」


「フレイリア様?」


「それが……、キリュウから聞かれるまで言わないで頂きたいのですが、キリュウがマギになると、自分の研究部屋で、先生方の預かり知らぬことをやりそうということで、マギ候補から外れ、だからと言って、魔法学院を卒業し、野に放つのも……、あれだけチカラがあるということで、問題になったそうです。それでナイト候補者に……。それとつい先日、ナイト育成担当の先生に面倒を見るよう頼まれました」


「……先生方も随分合理的かつ柔軟な考え方をするようになられたんですね」


 経緯はともあれ、キリュウの当初の希望通り、フレイリアのナイトに収まりそうなので、トアリーは、やるな、と感心した。

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