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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
1章 魔法の国へ行く方法
1/60

1 魔法陣と古代文字

 少年が大好きな物語の本を開く。


 その本のはじまりは、このように綴られている。



 「このはじまりの白き部屋にて別れる2つの国


 同じ時を刻み、異なる未来を目指す…… 


 魔法に満ち溢れる世界を創り、護ることをここに誓う


 我、求む……白き湖へとつながる奇跡への道



 まっ白な部屋に7人の魔法使いが集まり、奇跡の花に誓う


 誓いの言葉で白い部屋から魔法の国につながる道が開く


 これは魔法の国をつくった7人の魔法使いのはなし」

「霧生!……霧生?……いないのー?」


「いるよー! なに?」


 母親に呼ばれ、今年14歳の少年が面倒そうに返事をしながら2階から階段でドタドタと降りてきた。


「悪いけど、お隣さんに回覧板を持って行ってー」


「はーい」


 キリュウと呼ばれた少年は、母親から回覧板を受け取ると、靴を履き、外に出た。

 すぐ隣りのはずだが、隣りの家の庭は植栽がたくさんあり、外から家が見えない。

 しだれ桜に楢の木、もみの木など、まるで森のようだ。


「お隣さんって言っても、まだ一度も会ったことないんだよねー」


 キリュウは回覧板をバシバシ叩きながら歩いて隣りの門の前まで来た。

 門から玄関までレンガが敷き詰められており、隙間には短い草が生えている。そうして出来た道の両脇は、草が生え放題だ。ただ、空が所々しか見えないほど木の枝が空を覆っているため、両脇の草が生えている場所は日陰になって、あまり草は上にそんなに伸びてない。


「こんにちは〜、乃木で―す。回覧板、持ってきましたぁ―」


「……」


 声をかけても返事がない。因みに、この家にはチャイムがない。それどころかレトロな作りの家らしく、自動的に来客がわかるシステムや、留守番対応機能とかもない。


「……不便だ」


 便利でシステム化された住宅に慣れきったキリュウは、ぼそりと呟いた。


「何が不便なんですか?」


 突然、キリュウの背後から声をかけられた。

 キリュウが振り向くと、セミロングの黒髪で、スーツを着た女性が立っていた。ジャケットには、金色の桜のピンバッチをつけている。すごく真面目そうだ。


「あ!こんにちは。回覧板、届けに来たんだけど……雷造さん、留守みたいですよ?」


 キリュウは家の方を指して言った。


「……お留守ではないようですよ? ここからだと呼んでも聞こえないので、行きましょう。」


 そう言って、女性は門を開けて中に入ってしまう。

 キリュウは「なぜ留守じゃないって言えるのか」と、疑問に思いつつも、慌て入って門を締め、その人の後ろをついていった。

 緑のアイビーが絡まった古びた石造りの玄関ポーチに着くと、女性がいきなり玄関のドアをガチャッと開けた。

 キリュウは内心、「えええぇぇぇ――――!?」と驚いた。


「雷造さーん! こんにちは、堀田でーす。お客さんが来てますよー?」


 堀田と名乗った女性が、廊下の奥まで聞こえるように大声を出した。

 しばらくして、部屋のドアが開き、白い口ヒゲを生やした年寄りの男が出てきた。


「おぉ!堀田さん、よく来たね。今、コアを組み立てているところなんだが、なかなか上手くいかなくてなぁ……それにコアができたとして、向こうにどうやって送ればいいかも検討がつかない……そちらは?」


 雷造は堀田の顔を見るなり、愚痴を言ったあと、堀田の後ろにいたキリュウに気がついた。


「雷造さんのお客さんですよ?」


「こんにちは、隣りの家の乃木です。あの……回覧板を届けに来たんです。」


「おぉ、そうか。ありがとう。……そうだな、せっかくだから君もウチにあがっていったらどうかね」


「……このあと用事があるので、すみません。また今度、お願いします。」


「おぉ、そうか……残念だ、また今度な。回覧板、ありがとう。」


 とても雷造の家に興味を持っていたが、結局キリュウは遠慮し、回覧板を渡して家に帰ってしまった。


「……惜しかったなぁ、あの家どうなってるか見たかったけど……いきなり初対面で、菓子も持って行かずにお邪魔するのもマズイしなぁ」


 キリュウは2階の自分の部屋にあるベッドに座り、部屋の窓越しに見える雷造の家を眺めながら後悔していた。

 だが、そう間が開かずに、雷造の家を訪問することになる機会が再び訪れることを、キリュウはこの時知らない。


*****


 キリュウの住んでいるエリアでは、祭りの時期になると、町内会の会議が頻繁に開かれる。

 たいてい休日に行われており、その会議の間、出席した家庭の子供達の子守りを当番の家庭の大人1人と14歳以上の子供でやっている。


「明日、来る子達は10人だから……昼食とおやつはこれでオッケーね」


 リビングでは、キリュウの母親が明日の準備をしていた。


 「え? ……もしかして、明日ウチの当番?」


 夕飯を食べ終わり、カフェオレを飲みながら電子端末で雑誌を見ていたキリュウが、母親の独り言を聞き、顔をあげた。


「そうよ。あんたも明日、手伝ってね」


「えぇー! イヤだよー!」


「文句言わない。あんたも小さい頃、面倒みてもらったじゃない?」


 確かにキリュウが小さい頃、10歳離れている近所のお姉さん、お兄さんにはかなり面倒をみてもらった。今や子供がいる親となっていて、明日預かる子達に、昔遊んでもらった人達の子供も含まれている。


「……わかったよ」


 しぶしぶキリュウは返事をして、2階の自室へと向かった。

 いつまでもリビングに居たら、他の用事も頼まれかねない。

 学校では学年が上がるにつれて勉強する量が多くなり、最近は屋内で過ごすことが大半だ。長時間外に出ることも少なくなった。


「久々に明日は公園で過ごすか……」


 キリュウはベッドの上に寝転んで呟いた。



*****



 キリュウとキリュウの母親、そして10人の子供達は、町内にある児童館にいた。子供が10人しかいないとはいえ、集まるとかなり賑やかだ。当然、児童館でしばらく遊んでいても飽きてしまう子供が出てきたので、キリュウが子供達を連れて児童館の隣りの公園に行くことになった。

 公園は出入り自由だが、どんな天候でも遊べるよう、透明な特殊な素材でできたドーム型の屋根が設置されている。公園のまん中には細い人工の小川があり、気温が高い時期には子供達がそこで水遊びをする場所となっている。

 子供達が公園に着いた途端、思い思いの遊具へと一直線に向かって行った。


「おーい! あんまり遠くに行くなよ! それと、絶対この公園の外に出ないことぉー、いいな?」


 キリュウが走って行く子供達の背中に声を投げた。


「はーい」


 1人の子供だけ返事があった。


「……聞いちゃいないかぁ」


 キリュウは、ぼやきながら人工の小川の脇にある石に腰かけた。

 しばらく子供達の様子を眺めていたが、やることがなく暇だ。


「……そういえばオレも昔、この公園で魔法陣描いてよく遊んだなぁ。」


 ふと6歳の頃の記憶がよみがえった。

 その当時、世間では数十年かに一度訪れる魔法ブームで、キリュウも例外なくハマっていた。

 そして、ここの公園に来ては、幼なじみと一緒に魔法使いごっこをし、めちゃくちゃで歪みまくりの魔法陣らしきものを地面に描いていた。その頃のキリュウ達は、なぜか「誰が一番カッコいい魔法陣を描けるか?」という競争をしていて、カッコいい魔法陣が描けると一目置かれるという、よくわからない競争をしていた。


「……久しぶりに描いてみるかぁ」


 キリュウがその辺に落ちていた木の棒で魔法陣を描き始めた。魔法陣の中の文字も書いていく。 


「……そういえば、この文字、あの人に教えてもらったんだっけ」


 カッコいい魔法陣を描きたかったが、中に書く文字がいまいち決まらなかったため、秘密の特訓と称して密かにキリュウはここでカッコよく見える文字の練習をしていた。

 その後、急にキリュウが上手く、カッコよく見える文字が書けるようになったのは、今でも好きな童話の本をくれた老齢の品の良いお婆さんが、ぐにゃぐにゃのキリュウの魔法陣と文字を見て同情したのか、この場所で魔法陣の描き方を教えてもらうことになってからだ。


「……確か……ここに、この文字を書けばいいんだっけ……?」


 キリュウが、一番複雑な文字を魔法陣の中に書いていると、急に影ができた。

 見上げると、この間、雷造の家の前で会った女の人だった。


「……こんにちは。えーっと、確か……堀田さん、でしたっけ?」


 キリュウが1週間前の記憶を掘り出して、挨拶した。


「えぇ……こんにちは」


 堀田がおざなりに挨拶しながらジーッと地面に描かれたキリュウの魔法陣を見つめている。

 もしかして、イタイヒトとか思われてるかもしれない……、とキリュウは背中がヒンヤリするのを感じた。


「この古代文字、誰に習ったの?」


「え……?この文字ですか?」


「そうよ」


「近所のお婆さんに教えてもらったんだけど……何か?」


 キリュウは、堀田が自分のことをイタイヒトと思って引いていたのではないことを知り、ホッとして答えた。


「……その文字は、他の人に教えないで。」


「なんで?」


「科学技術特区ホワイトレイクというエリアだけで使われている古代文字……と言われてるけど、実際はシステムを動かす裏コードなのよね。まぁ、こっちでは使えない代物だから、君に教えたんだろうけど……」


 キリュウはポカーンとする。

 もしかして、オレよりイタイヒトだったりする?……と密かに思いながら、キリュウは座ったまま横にスライドした。


「なんで逃げようとするのよっ!?」


「いや、なんとなく……」


「信じてないわね! とりあえず、マスター ライズォーンの家に来なさい。」


「ますたー らいずぉーん?……って誰?」


 真面目な年上お姉さん系美人だけど、やべぇ、マジでイタイヒトかも!……と思いながらも、キリュウは聞いてしまう。


「あぁ、そうね。こっちでは、雷造さんって呼ばれてるんだっけ……。君の家のお隣りさんよ!」


「いや、今は子供達を見なきゃいけないんでムリ」


 出来るだけ断る方向で返事をするキリュウだが、


「じゃあ、それが終わったら来なさいね。君が古代文字を知ってたことは、所長に報告しとかなきゃいけないのよ。今の話だけじゃダメだから、さらに詳細に聞いておかなきゃね。」


「所長に報告……?」


「そうよ、政府の科学技術特区研究所の所長にね。」


 話がデカくなっている。科学技術特区研究所は、世界でも3本の指に入る有名な研究所だ。

 よく見ると、堀田のスーツにも調査官のピンバッチがついている。

 この話、実はホント……なのか?、とキリュウは思い始めた。


「じゃあ、君の家の人にも話を通しておくから、雷造さんの家に来なさいね! 絶対よっ!」


 堀田は、そう言いながらキリュウを置いて、公園の出入り口の向かい側にある雷造の家に颯爽と歩いて行ったのだった。

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