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第二話

「あー、ありがと。なんとなくわかった」



 景子から説明を受け、彼女が言う「鬼」の定義を理解した真里谷初音は、ほっと胸をなでおろした。



「鬼ってのは、あくまで異能者の類であって、妖怪とか怖いのじゃないんだね? 貴方自身、ちゃんと此岸こっちの人だと」


「まあ、怖いかどうかは見る人次第ですし、私自身、相当数の方から畏れられてる人外だって自覚があるので、単純にうなずけはしませんけど、まあ、貴方に害意を持っていないことは確かです……すみません。怖がらせてしまって」


「いや、こっちが勘違いしただけだし」


「でも、下着が濡れ――」


「いいからっ触れないでっ! これ以上成人としての誇りを奪わないでぷりーずっ!」



 霧の立ち込める河原に、少女の叫び声がこだまする。

 ちなみに、初音が尻もちをついた辺りは、特に濡れていたわけではない。つまりそういうことだった。



「……ごめん。テンパってて自己紹介が遅れた」



 いまさらながら気づいて、エルフの少女は頭を下げ、名乗る。



「――私は真里谷初音。相模守護代、三浦義意の正室」



 同時代であれば、それなりに押し出しのきく身分である。

 しかし、鬼を名乗る少女に動じた様子はない。笑顔のまま口を開いた。



「相模の方でしたか。私は羽柴景子。羽柴筑前守秀吉の娘です。よろしくお願いしますね、初音様」


「ふばっ!!」



 意外すぎる名のりに、エルフの少女は噴き出した。



「ちょ、初音様!?」


「え? ええ? 羽柴秀吉!? なんで? どういうこと? この時代じゃ生まれても居ないはずなのに!?」



 驚き動顛する初音の言葉に、今度は景子が首をかしげた。



「……この時代? ちょっと待ってください。初音様。ひょっとして、違う時代からこちらへ? いや、その容姿からして、よく似た別の世界の方なのですか?」


「ええと、いや、どうだろう。きみは、えーと、秀吉の娘? 養子? とにかく戦国時代の人だったら、世界としては外れてないと思うんだけど……きみはいつの時代から?」


「私ですか? 私が居るのは……ええと、天正11年です。大殿さまが亡くなられたのが、いち(1)ご(5)ぱん(8)つ(2)だから……1583年ですね!」


「私がいたのは永正12年……1515年だから……うわー、70年くらい違うのか」


「68年ですね」


「計算早いねー。いいなあ。電卓に慣れ過ぎててこっちに来てから苦労し通しなんだよねー」


「そうですか? 私は歴史の勉強をしておけばよかったと思うので、さらっと年代が出てくる初音様のほうがすごいと思うんですけど……」



 そこまで話して、二人ははっと気づいたように目を見開く。



「景子さんっ! あなた、ひょっとして、平成とか知ってる人!?」


「はいっ! 厳密には違いますけど、知識だけはっ! そういう初音さんも、サトーの切り餅とか知ってる人なんですねっ!!」



 ふたりはたがいの手を取りながら、軽く跳ねて感動し合う。



「すごい! 似たような境遇の人、居たんだ!」


「本当です! 私と同じ知識がある人がいるとしたら、同じ“鬼門”を持つ人くらいだろうって思ってました! まさか私よりへんてこな境遇の人がいるなんて!」


「……いやいや、鬼も変だよね」


「エルフに比べたらマシだと思いますけど」


「いやいや、そんなことないって」



 たがいに譲れないものを守りつつ、二人は情報を交換していく。

 初音の実年齢が十七歳だと聞いて、二十一歳未婚の景子が凹んだり、“羽柴の鬼姫”として軍神上杉謙信や柴田勝家と戦い武名をあげる景子を初音が羨ましがったり、加藤清正や三浦荒次郎の自慢を展開したりしつつ、しばし。



「いやー、面白い話聞かせてもらったなあ」


「こっちこそ。まさかこんなところで醤油の製法が聞けるとは思いもしませんでした!」



 羽柴景子は興奮を隠せない様子だ。

 なにせ十年来の夢だった餅に醤油を合わせることが可能になるのだ。からみ餅もできちゃうのだ。



「……ところで、ここ、賽の河原、だったよね? ってことは、ひょっとして私、死んでる?」


「はい。たぶん」



 ふと思い至って、初音は景子に問いかける。

 死に慣れ過ぎたこの幼げな少女は、事も無げに同意した。



「え? ちょっと? なんで? 死ぬような要因あったっけ……荒次郎? ひょっとして私荒次郎に押しつぶされて死亡なの!?」



 うわー、と頭をかきむしるエルフの少女に、羽柴景子は苦笑を浮かべる。

 河原に悲鳴が響く。その、悲鳴に呼び寄せられたように、その男は、霧をかき分けてやってきた。



「おおォ。ここはァ、どこだァ?」



 六尺豊かな巨体の主。

 不敵な笑いを浮かべる男。

 白い長ランその身にまとい、髪は天突くリーゼント。



「おっさんの不良だ」



 山田正道の登場は、エルフの少女のそんな暴言で迎えられた。






・山田正道……出典作品「戦国リーゼント」




番外・もし信長たちが出会ったら


マルティスト信長「別のワシらは今どこで何してんの?」

鬼姫信長「無間地獄でモノホンの鬼と戦ってる」

マルティスト信長「!?」

リーゼント信長「アメリカ西海岸で開拓中」

マルティスト信長「!!?」


結論……未登場のマルティスト信長は不憫。



さらに番外・猪牙ノ助と全国道路地図が出会ったら


猪牙ノ助「知ってる。全部。一切合財細部に至るまで。むしろ足りん」

全国道路地図「」


結論……地図が負けた!?





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