第一話
※自作戦国モノ三作品のクロスオーバーです。
さらさらと、川の音。
視界は、霧で白く染められている。
足元は、ごろごろとした石ばかり。そんな場所に、真里谷初音は、いつのまにか立っていた。
金髪碧眼。アーモンドのような瞳に長い耳。
いわゆるエルフの容姿を持つ少女は、小袖に打掛をまとい、きょろきょろとあたりを見回す。
「ここ、どこだろ……河原? でもたしか、昨日は鎌倉から帰ってきた荒次郎と一緒に寝てて……おーい」
少女の声がこだまする。
「なんか、声の広がり方……とんでもなく広い場所っぽいけど」
並はずれた視力を持つ少女だが、霧の先を見通すことはできない。
だが、彼女の耳は、ひとつの足音を素早く拾っていた。
「だれ、だろ?」
初音は身を震わせた。
体の線の細い彼女は、その見かけどおり、腕力も戦闘力も皆無だ。
身を守るものといえば、“三浦家当主、荒次郎義意の妻”という身分だけ。それも、この状況では心もとない。
――足音が軽い。たぶん子供、かな?
そう思いつつも、頭の中で餓鬼のようなものを連想してしまい、初音は遮二無二頭を振るった。胸は揺れなかった。
「いいいややや、おちつけ、おちつけ私。常識的に考えてお化けとか存在するわけないじゃないかはははは」
自分の存在自体がわりと常識から外れた存在であり、そうなった発端からして不可思議な現象であることを、、この残念娘は記憶から放逐してしまっていた。
初音にとって非常に幸せなことに、彼女がそのお粗末な記憶力を発揮してさまざまなホラー映画を脳内に展開する前に、足音の主はその姿を現した。
「んぐ」
初音は声をのみこんだ。
彼女の眼前に姿を現したのは、黒髪の少女だった。
女と呼ぶにはまだ幼さの残る顔立ち。
身に纏う打掛は、まばゆいまでの白だが、肌はそれ以上に白い。
面差しは整っており、どこか貴風が感じられる。艶づやとした髪は黒く長く、唇は血を塗りつけたように赤かった。
その面に淡い困惑を浮かべながら、少女は口を開いた。
「あなたは誰? こんなところに居てはダメですよ」
「……え、と。きみは? こんなとこって?」
鈴を転がすような声に、エルフの少女は当惑に眉をひそめながら、逆に問い返した。
「私は景子。まあ、たぶんあなたにとって意味のない名前だと思いますけど」
ずいぶんと落ち着いた少女だ。
初音は先ほどの醜態を思い返し、軽く凹んだ。
そんな初音を尻目に、幼い少女――景子は言葉を続ける。
「――ここは、え、と、貴女にはどんな言い方をすれば通じるんでしょう? 三途の川? 黄泉? ステュクス川? で、通じてます?」
初音の長い耳が、少女の言葉を聞いて、ぴこんと跳ねあがった。
「さんっ!? すてゅっ? って、あの!? 死んだら来るとこ!? え? え? 私死んでるのっ!? 死因ナニっ!?」
と、手足をバタバタさせながらひとしきりパニックになって、それから初音は気づく。
「っていうか、きみ! 景子さんっ! 私の姿がちゃんとエルフに見えるのっ!?」
「え、ええ。特徴的な御姿ですし……和服姿なのが死ぬほど不可解ですが」
「おおっ。この姿に違和感覚える人、荒次郎や爺さん以外に初めて出会った――と」
ふと気づいたように、エルフの少女は顔を蒼ざめさせる。
「それがわかる上に、ここが三途の川だって知ってるんだよね……きみ、いったい何者?」
幼い少女はにっこりと笑って言った。
「鬼ですけど?」
鬼。地獄の獄卒であり、また、人を喰らう化物でもある。
景子の言うそれが、地獄より現世に黄泉返った者を指す言葉だと、初音は知らない。
鬼と三途の川。この二つから連想される恐ろしい想像に、真里谷初音は、悲鳴も上げられず、腰を抜かした。
◆
・真里谷初音……出典作品「影武者/エルフ/マルティスト」
・景子……出典作品「鬼姫戦国行」
番外・もし濃姫とエルフさんが出会ったら
濃姫「?」
初音「?」
濃姫「(サッサッ」
初音「(サササッ」
濃姫「(バババッ」
初音「(ババババッ」
濃姫「(ドヤァ」
大軍師初音さま「(ドヤァ」
結論……珍獣系同士気が合う。