邪神ガリナータの勇者同行記
妙なことになった、と思う。
邪神殺しに呼ばれた勇者にとうの邪神が同行する。正直意味が分からない。
ただし、一つ利点もありはするのだ。
勇者たちについていけば分かるかもしれないのだ。
自分の名を名乗っているのが誰なのか。
八魔将なんて訳のわからないものを作るんじゃない。私の名前になんて使わず自分の本当の名前を名乗って世界征服くらいしろ、と言いたい。
「ええ、旅の魔術師をしていますガレズ、と申します」
「俺はクレナイ。本名は違うけどこっちの世界では俺の名前呼びにくいからクレナイで通してる」
「クレナイ様、ですね。了解です。それで私としてはもうそろそろ旅に戻りたいのですが」
「ガレズ、あの時見ていたがあの八魔将の一人を簡単に倒したのを見てもあんたが強いという事は分かる。邪神を倒すのに力を貸してくれないか」
「あ、その……」
どうにも断りづらい状況で、結局断れなかった。いや、というより知りたいことがある、というのが正しい。誰だ八魔将って。ガリナータ八の部下とか部下なんて持った覚えが無いのにいることにされているのはどういうことか。いつの間にか私は誰かに破壊神の地位を譲り渡していたとでもいうのか。いや、良く考えたらそれでいい気がしないでもない。
……いや、後世にやった覚えもない行為を付け足されるのも妙に不快だ。やはり個人的には彼らには土に還ってもらいたいという気がしてきた。だから同行はしてみることにしたのだ。
「私はミネス、カルパッタ皇国の第三継承権を持つ一応王族という事になるわ。攻撃魔術師にね」
「私はナーラ、カルパッタでアルガータ教の大神官の娘で治癒術師をしています」
「ロネだ。この国で傭兵をやってた」
「さっきもいったけどクレナイだ。異世界から呼び出されて一応勇者ってことになってる」
美少女美女を侍らせた黒髪の美少年。小説か何かに出てきそうな奴らだな。いや、後で英雄譚として小説として残ることになるのか。
しいて言うなら少年も背が低く女顔で美少女集団に見えるのが玉に瑕だろう。それに混じる自分の姿を想像して場違いさを覚えて仕方がない。まあ影の薄い同行者その1で終わるだろうが。そういえばこういうのを背の低い幼い少年と姉めいた少女たちの組み合わせを地球の言葉でなんといったか。まあ思い出せなくてもたぶん問題ない。
「ガレズです。呪術師をやっています」
門外不出の独自の呪術を扱う魔術師、ということになった。自分でも正直怪しいことこの上ないが魔物を倒したことで一応魔族よりこちらよりである、という判断を下したらしい。というより記憶を少しいじった。ガレズは人間に害のない人物である、という印象に操作しただけだ。クレナイにも効くのは正直驚いたがまあ効く、というだけで普通の人間よりはかなり耐性は高い。短期間で解ける可能性は高いだろう。まあ人間に害を及ぼさなければ人間にとって危険ではない、という認識を持ってくれるだろう。
旅は特に問題なかった。というよりクレナイは大の女好きで男嫌いで男相手には基本無視だ。何でも男に言い寄られたとかで男に嫌悪感を持っているとか。正直関わらなくて済むのでありがたい性格だ。
14の街を巡って道中山の街と海辺の街で町長がいない時に限って八魔将と名乗るサンサイ、スイキという巨大な木で出来た魔物や巨大な亀らしき魔物が町中から現れた。
が、呪いで能力を大幅に下げて勇者が撃破、その後何故か残りの八魔将がサルサ平野で全員で一斉に襲いかかってきたがこれまた簡単に撃破で特に何事もなく八魔将全員は土に還った。ガリナータ様はお前など足下に及ばない力を持っているぞ、と言い残して竜の姿をした最後の八魔将は息絶えたが。肝心の偽ガリナータの場所が分からない。さてどうしたものか、と思ったが今のところ解決策は無い。八魔将を倒したあとすぐ近くに運よくあった街に到着し、クレナイは新たに増えた三人の美少女美女美幼女の合計6人を連れて女といちゃいちゃしながら街で聞き込み中だ。探す手段か。正直会った事も無い相手を探し出すのは無理だ。私にはどうしようもない。
ん? そういえば最後の一斉攻撃以外八魔将皆街の中から普通に現れてなかったか? ははは、人間側にも内通者がいて、中に入るのを手引きしていたりしていた、ということもあるだろうか。
……まあ正直そういうのを考えるのは苦手だから私は目の前に現れた敵を倒すことを役目としよう。そういう考えたり情報を集めるはあいつらの仕事だ。
結局情報は見つからず、ひとまず報告に首都に帰ろうか、という事になった。
「ん? この進路だと街を一つも通らず突っ切ることになりますよ? 補給とか体力とか大丈夫なんですか?」
「ん、うーん俺も街で身体洗いたいしベッドで寝たいんだけどなあ」
「クレナイ。八魔将は倒したけど肝心の親玉が残っているの。正直邪神ガリナータがこのままでいるとは思えない、だから一端首都に戻って世界中に情報を提供するように呼びかけるの。ぐずぐずしているとガリナータはまた新たに手下を作り出すかもしれない。時間との勝負、最短距離で行きましょう?」
ん? それなら首都を出る前から情報募集すれば良かったんじゃないか? どうして今更そんなことをやり始めるのか。
「あれ? 俺が出発するときにそれし始めてなかったの?」
「あ、うん。ごめん出発することに気を取られてて忘れてた。ごめんね」
表情がおかしい。悪意がどうも透けて見えた。人を見る目は無い。今までも特にそんな気配は無かった気がする。が、今のはこう悪意があったような。というより、ふと思った事がある。
八魔将全員この国でしか出没していない。隣接する皇国と確か冷戦状態のはずのこの国にしか八魔将は害を及ぼしていない。あともう一つ……いや、気のせいか。
妙に嫌な予感がした。
「クレナイさん、嫌な予感がします。彼女達を、信じきるのは何かまずい気がするんです」
「は? 何言ってんだ? そんなわけないだろ。というより怪しさならお前のほうが圧倒的に上だよ」
夜に一人になる僅かな時間を狙って一応警告しておいたがもちろん聞き入れられることは無かった。