日本出身の勇者様を見かけたこと
召喚術、と聞いてふと思った事がある
異世界から呼び出せる物に生き物は、人間は含まれているのか
異世界の中に地球出身日本の物はあるのだろうかと
基本的に文明崩壊前と比べて暴れたりする意欲は失せた現在、容姿でごたごたが起きないように基本的認識阻害、あるいは隠蔽の術を常時周囲にかけている。自分自身には術が聞かないので自分の周りに術を展開を、という事だがおかげで周りにとって私はいるかいないか分からない影の薄い存在、というのが大半の認識だろう。レンネベルンの名前を聞いて酷く動揺して術が解けたこともあったが基本感情が大して揺れ動かない今は術をうっかりミスで解いてしまうという事は無い。つまり破壊神を探せ!と騒いでいる今の世の中でも基本見つからることはない。ただ俺自身に欠点が無いわけでもない。自分自身が借り物とはいえ強大な力を持っているので他の生き物の気配が弱くて良く読めないのだ。つまり戦闘は基本相手が襲ってきてから初めて、ああこいつ敵だったのかということに気付くのだ。鈍い。鈍すぎる。攻撃を一切通さないので全くそれでも問題ないというのが鈍さに拍車をかけたのかもしれない。
……レンネベルンは俺に発信器か呪いでもつけている変態の例外だ。あれには見つかっても仕方ない。最近ここ100年は女ばかり来ているが今回の文明ではレンネンベルクは女が戦う役目なのか、と初めて出会った騎士団の女を思い出しながら考える。人の大群を率いる手もあるだろうに初代のあの男から出会ってから万単位に行こうかという今にいたるまで何故か毎回一人なのは何か家訓でもあるのか。正直あの家は良くわからない。
まあ影の薄い誰か、になって世界を歩いているところだがある時ある噂を聞いた。
「カルパッタ皇国で異世界の勇者の召喚に成功したらしいぜ」
「ついにあの邪神が討たれるときが来たのかね。100年前復活した邪神を倒して魔物凶暴化も止めてほしいものだ」
魔物凶暴化は私が原因ではないし、そもそも倒されてもいないので100年前に突如復活したなんてこともない。と覚えのない罪にいくらか言いたい気持ちはあったが騒ぎをわざわざ起こす意味もないのでやめておいた。夜中に人がいないのを確認して宿の井戸に愚痴を叫んでおいた。
「勇者クレナイ様がこの街にお越しになられたぞー!」
という叫びが響き渡ったのは文明崩壊前は大昔に魔人の森、と呼ばれていた森の近くにある街でのことだった。神に飛ばされて初めて降り立った場所という事で朧げには覚えているが村しかなかった場所が今は大都市のひとつなのをみると感慨深いものだ。崩壊前は妙に瘴気があたりを覆っていて人が寄り付かなくて村の類も無かったのは覚えている。勇者クレナイ、か。クレナイクレナイ、ああ赤、って意味だったか。翻訳魔術の力を借りてようやく漢字というものがあったなということを思い出す。そうそう赤色の一種だったか。名前の一部にクレナイが使われているのだろう。まあ帰るか。変に関わっても仕方ない。来たことを分かりやすく伝えてくれた男に感謝だ。ん? クレナイ?
「日本人じゃないか」
ようやくその可能性に思い至った俺は正直頭の具合は鈍いだろう。妙に覚えがあるなと思ったらそうだ日本語の漢字じゃないか。使っていなかったからすっかり忘れていた。使うことも無いだろうと覚えなおすこともしなかった。まさかこんな所で関わってくるか。
ふと魔が差した。懐かしの同郷の顔を拝みだけはするか、と思ったのだ。
何が悪かったといえばこの街に『破壊神の部下』がいた事だろう。勇者クレナイはそいつを見つけにこの街にやってきたらしい。そして何がそれでまずかったのかというと
この街が火の海になりかけたという事だろう。破壊神ガリナータの八の部下の一人トンソクだかトンカツだか名乗った巨大な二足歩行の豚はいきなり出てきて街を火の海に変えようとしたのだ。
誰だ、お前は。部下を持った覚えは当たり前だが全くない。人望皆無であると自信を持つ私がそんなものもつわけがない。今も昔もいつだって一人で動いているのが私だ。極偶に人と一緒に生活したことが何度かあるくらいだ。
まあ自分の名前を使われて妙な行動をされても不快なので行動に移す前に呪いで息の根を止めておいた。この街の魔物は全て死滅する、という呪いをついでにかけて部下も道連れに。もしかしたらいたかもしれない善良な魔物も道連れに。多分問題ない。
「こ、これは」
「誰か強大な力を持った魔術師がいます!」
「ん、もしかしてあいつか! あいつだけ何か気配がおかしい!」
ふと気づいたら近くに黒髪の懐かしの日本人らしき美少年がいて、こっちを強く睨みつけていた。
勇者補正か何だか知らないが勇者にばれた。人の力を見抜く能力を自前か神に与えられたのかもしれない。
2、3話勇者との旅が続くかもしれません。
<万力>トンゾーク
破壊神八将の一人。強大な腕力で人を殺しまわっていた魔族。属性魔術をほぼ無効化する物魔双方に非常に高い防御を誇っていたが呪いには勝てなかった。