因縁のある相手をみつけたこと
5000年前に文明がいったん滅びて新しく文明が出来た今、都合大体1万年生きた私だが、特に頭が良くなったとも魅力が増したとも思わない。恐ろしい策略で人を操る自分も、高い仁徳で人に慕われる自分もそんなもの想像すらできない。年月が頭脳を順調に成長させるなんて甘い話は無い。まあそれはともかく。
破壊の神ガリナータ。もうその名前は古代文明、錆付いた歴史に出てくる対なる主神の一人でしかない。
おかしいな。
自分の対になる存在なんていた覚えが無い。誰だ? 創造の神アルガータって。
「で、あるからして創造神アルガータは破壊神ガリナータを激しい戦いの末、封印したのです」
「……お、おう」
戦った覚えもない神に封印されたことになっていた事に愕然とした冒険者組合主催の歴史講習。千年籠っていたがそろそろ人の作ったご飯を食べるついでに軽く世界を回ってみるかな、と思って最寄りの街に寄ってみたら、冒険者ギルドがまた出来ていて驚いた。昔と比べて妙に豪華に、具体的にいえば金属を使った建物に金属って貴重じゃなかったかと不思議に思いながら歴史を調べようとしたらこの講習が分かりやすいから、と勧められたのだ。
戦った覚えもない創造神様はともかく、ざっと聞いた話ではどうやらこの文明は召喚術による異世界からの資源を取り寄せる技術が発達したらしい。金属もその成果だとか。古代文明の終焉、新しい今の文明の始まり、召喚術の誕生、召喚術の発展云々と長々と話していたが、今、それもようやく終わったところだ。気づいたがこれ、どう見ても宗教が金銭援助か何かやってるような。話しているのがどう見ても神父
で、話し方が説法に近い、しかも随所で創造神アルガータの素晴らしさを説いており、妙に安いのはこれが原因かと理解させられた。まあこの国の国教らしいし俺がこの世界に来た初めの頃あたりのように宗教が強い時代なのだろう。まあこの文明になってから暴れた覚えもないので封印された扱いされてもどうでも良いが一体アルガータの元になった人物は誰だと思わなくもない。案外恐ろしいことに文明崩壊までの付き合いになったレンネンベルク家の誰かだったりしてな、という考えも浮かんだ。まあ、普通にこの文明が始まってからの見知らぬ他人だろうが。
本当に久しぶりの他人の作った飯を食べて、さあ満足したから次に行くか、と思ったら
「王国女神騎士団の方々が来たぞー!」
という声が聞こえた。有名人か、と人ごみを避けて街の外に出ようとしたらちょうど入口あたりに白く輝く鎧を着た集団が見えた。いずれも見目麗しい美女美少女美幼女美少年が6人。騎士団、というには少ないが騎士団の一般的な人数など分からないが少数精鋭を売りにでもしてるのだろうと納得しておいた。通りすぎるまで待つかなと興味もなくぼーっとしていたのだが。
「レンネベルン家のシディ様はいつ見てもお美しい」
……1万年生きても吹き出してしまうことだってある。全く違う言語。だが神に与えられた翻訳能力で翻訳された単語が因縁のある名前だったのだ。個人ではなく一族全体としておそろしく長い付き合いである意味最も私に近かったといえる人物達、あの文明崩壊で死に絶えたはずの彼らの名前が何故か出てきたのだ。驚きで吹き出しても仕方ない。
「今、そこの男は私達を見て笑っていなかったか?」
隠蔽魔術がうっかり解けた。
「いやいや、まさか生まれ変わって違う文明になったというのにまた存在するとはな。あの一族は輪廻転生の術でも習得したのか」
とりあえず大暴れする気も起きなかったので街の外に逃げたわけだが。
「輪廻転生の術など我が一族は覚えた覚えが無いがな」
……本当に優秀な一族だよ。この内に秘めた力の強さはあの一族を思い出させる。いや、そうなのだろう。きっと。因縁、か。
「まあ我が一族はあのガルナータを封印した創造神アルガータ様の血を引くという話もある、先祖が輪廻転生の術も使えていてもおかしくはない」
アルガータはレンネベルン一族のの誰かだった説が掠っていたらしい。いや、封印された覚えは全くないし文明崩壊後彼らと戦った覚えもないが。
「名前を聞こうか」
レンネベルンの女が言った。後ろにいる残り5人は正直どうでも良い。だがレンネベルンには
「……まあ偽ることも出来るがその名前には長い長い因縁があるからな。名乗ろう、レンネンベルクの者よ。私の名は」
ガレズ、ではなくレンネベルン家に対して名乗る名は
「ガリナータだ」
特に苦戦することも無くお帰り願ったわけだが、思った事がある。
弱い。文明崩壊の少し前は正直効かないとわかっていても恐ろしさすら覚えるほどの腕力と速さ、魔力を誇っていたはずだが弱くなっている。新たな文明に新たな肉体で生まれたからか。それとも彼らが名前だけのレンネンベルクの者でないのか。まるで積み重ねてきた力が初期化されたような、そんな印象を受けていた。あるいは平和ボケして劣化したか、という可能性もあるが。
まあたぶんこの文明でもこの一族は来るのだろうな、と多くの諦念と少しの歓喜の混ざった気分を私は覚えた。
生かして返した覚えが無いのに神敵という名と封印から蘇った破壊神の名前が世界に流れたのはそれから数か月してからだ。
予想通りレンネベルンは十年に一度くらいに何故か私の前に立ちはだかることになった。私の魂に発信器でもつけられているのか、どうしてあいつらは場所を転々としているときでも私の前に立ちはだかるのか調べたり考えたりしたが謎が解ける気配はない。