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人が良かった彼女のこと

 もう3000年ほどこの世界にいるような気がするがその間知人がいなかった訳ではない

 知り合いの一人や二人、いたこともある

 彼らはいつだって善良で

 だからこそ関係を持ちたくなってしまうのだった

 彼らの事で神の呪いを呪わなかったことは無い



「えっと……旅人さんですか?」

「そうですが……えっと、何か御用ですか?」

 一人目は見た目は平凡そうな少女だった。今いる地方では良くある金髪、碧眼、顔立ちも彫りが深いものの特に美少女だとそういうわけでもない、不細工というわけでもない平凡そうな、垂れ下がった目尻がどことなく優しげな雰囲気を持ったそんな少女だった。


 ただ、その身に恐ろしいほどの呪いを蓄えていなければ。


「珍しいです、こんな森の中に人が来られるなんて」

 人なんて滅多に来ないんですけどね、と僅かに顔を歪ませて言いながら少女はすぐにまた優しげな表情になって

「近くに小屋があるんです。よろしければお茶でも飲んでいきませんか?」

 と私を誘ってきたのだった。

 誘われてついて行った先にぽつんと森を切り開いて建っていた木で出来た小屋は小さく狭そうで、しかし主の性格なのだろう、こまめに掃除されているのか不潔な印象はまるでなかった。

「森の香草を何種類か混ぜて作ったお茶なんです。お口に合えば良いんですけど」

 差し出された木で出来たカップに注がれた薄い紫色をしたお茶とやらを飲んでみる。どことなく気分が落ち着く気がするお茶だった。味も想像していた苦さは無くほのかに甘い。

「美味しいです。何だか落ち着く感じですね」

「そうですか! 良かった! 私以外に飲む方がいなかったのでちゃんと飲めるものなのか心配していたんです」

 気になって気になって仕方がないので身体に蓄えられた呪いをさくっと排除する。ああ、呪いの受け皿か、偶にあるんだよな、と思いながら目の前の彼女に何か身体の不調が無いか確かめてみた。

「あら? 何だか身体が凄く軽くなってきた気がしました」

「いえいえ、悪い気が溜まっているようでしたので浄化したんですよ。魔術も使えなくもないので。何か具合が悪くなったりしていませんか? 急激に浄化すると偶に身体の変化に気分が悪くなる方もいるので」

 いや、そんなことしたことないから知らないがたぶんそういうこともあるに違いない。

「そうなんですか!? ありがとうございます! もう随分悪い気、ですか? 体の調子が少し悪かったので困っていたんです」

 少し、じゃないだろう。おそらくだいぶ、だったはずだ。歩けていたのが幸運だし、顔色が悪くなかったのも……いや、化粧もどき、か。

 とりあえずこちらもさくっと悪性破壊で身体を新生する。これで問題ないはずだ。使い道が無くても魔術を暇つぶしに練習した甲斐があったな。

「何だかまた身体の具合が……不思議、まるで儀式のま、あ、村を出る前の頃のようです」

「そうですか、まあ健康面に関してはこれで大丈夫でしょう。あとは村に帰らないようにすれば大丈夫です」

「え? あ、あの?」

「また、妙な儀式で悪い気が送られては困りますから、ね」

「あ……」

 彼女は俯いて口を閉ざした。


「私の家、すごく貧乏でお金が無かったんです。お父さんとお母さんも畑仕事していたんですけど急にある日二人とも倒れてしまって」

「お金の代わりに儀式を受けると、そういう約束をしたんですね」

「はい。私が村に幸せをもたらす儀式を受ければ、お母さん達の薬のお金、妹達の生活のお金を出してくれるって言ってくれたんですよ? 心配するな、後は大丈夫だって」

 死んでるだろうなと思った。そんな口約束こんな少女に人の負の感情押し付ける儀式やるような奴らが守るわけがない。両親はそのままろくに看病されずに死亡、妹たちは奴隷行きだろう。

 なんて暗いことこの少女に言えるわけがない。自分の犠牲で助かってくれれば、そんな健気な少女に言えるはずが無い。


「お父さんお母さん、ニミエル達に会いたいなあ」

「まだ身体の調子が安定していません。それにこの森にいるという事は村に行くのは歓迎されない可能性が非常に高いでしょう。やめておいたほうが無難です」

「そう、ですね。そうですよね。もう私は穢れたを受けた身ですから、行かないほうがいいんでしょうね」

 寂しそうに彼女は言った。

 泊まっていきませんか? お礼になりませんけど、この森は夜は危ないですから今日はここで一泊。そう言う彼女の言葉に甘えて一泊することになった。

 木と荒い布で出来たベッドだが野宿よりは格段に寝心地が良い。まあ偶にはこんな人助けをする日もあっても良いか、と思いながら眠った。すすり泣く声は聞こえないことにした。


 一日で礼を行ってここを発つ予定だったが、妙に彼女が気になったのでついうっかりとひと月ここにいてしまった。理由は簡単だ。呪いが消えたからだ。ある種の膨大な呪いは身体を蝕んではいたが同時にそれは森の危険な動物を近づけさせないという利点もあったのだ。彼女が一人でこんな所で暮らしてこれたのはこれが大きい。初めは持っていた短刀を渡してこれで身を守りなさい、と言ったが問題があった。

 初日の夕飯で気づくべきだったが彼女は臆病で動物を狩ることが出来なかったのだ。ならば、と動物除けの魔術を入れ込んだ呪詛石を渡したのだが、彼女にそれを維持できる魔力が足りなかった。見捨てる、というのも気が進まないのでどうしたものか、と悩んでいたらひと月が経っていた、というわけだ。

「ガレズさん、今日のお昼はどうします?」

「何でもいい」

「もう、またそんなこと言って。何でもいいはむしろ困るっていったじゃないですかー」

 全く好かれた覚えもないこんな私に呪いを消した恩があるからか彼女、フィエルは妙に懐いたらしくいつもにこにこ笑いながらよく話しかけてくるのがここ最近の日課だった。私のどこがいいのか、と言えばそんなの分かりません、でも好きなんです! あ、まだ友達としてですよ? と言っていてああ、こういう優しいタイプが駄目男に引っかかるとどこかで読んだ覚えがあるな、と思ったものだ。

「悪い悪い、とはいってもなぁ。まあ今日はシウ肉の煮込みでいい」

「昨日の晩もタブ肉ですけど煮込みは食べましたっ!」

「そうだったか」

 こういうのはそのうち対人能力皆無の私がぼろを出しそうで良い印象のままお別れしたい所だがどうにも危険生物除けの方法が思いつかなくて困る。有り余る魔力で強引に魔術を発動させてきたつけが来た。魔力効率が恐ろしく悪くて彼女には使えないのだ。かと言って効率の良い術を生み出そうにも正直頭の良さは凡人以下の私では時間のかかるのは明白だった。

「どうしたものか」

「ガレズさん、机燃えてますよよ!」

「おっと」



「家族に、会いたいです」

 結局うんうん唸りながらも新しい呪詛石は生み出せる気配はないまま、これは人間の町で魔術資料をあさったほうが早いか、と思い始めた二月ほど経った頃に彼女はぽつりと言った。

「やめておけ。ろくなことにならん」

「分かっています。たぶんお金を出すなんて嘘なんだって。もしかしたらもう家族皆……」

「それ以上はやめておけ」

「ごめんなさい。あ、ガレズさん。おかわりいります?」

「ああ」

 その時はそれで話は終わった。が、だんだんそれを話題に出す頻度は高くなり、我慢が出来なかったのだろう。


 ある日肉確保のために猟から帰った時には置き手紙だけが私を待っていた。

「馬鹿!」


 私の失敗はまず彼女の希望を否定せず叶えるべきだった。肯定して、彼女の連れとして彼女についていくべきだったのだ。そして、もう一つは


 あるいはさっさと村を跡地にしておけば良かった、という遅すぎる判断だった。

 まず、村ぐるみでそれは行われていたと薄々気づいてはいたのだ。重労働だったとはいえ両親二人ともが同時に倒れるなんておかしな話だ。村の連中が毒か何かを盛っていた。そう考えるべきだった。つまり、彼女が贄にされたのは仕組まれていたことで、そんな事をやらかす連中が馬鹿正直に身体が弱って役立たずになった両親を看病、あるいは妹達を養うわけがない。だがどうしてそれなりの数がいる村人たちの中で彼女が贄に選ばれたのか。まあ予想はつく。

優しい彼女はあの仕打ちを受けても奴らを憎めないからに決まっている。呪いが返ってこないように優しい彼女に白羽の矢を立てたのだ。



 森のあの家の傍に埋めた遺体は一人分だが墓は5つ立てた。彼女の分、彼女の両親の分、彼女の妹二人の分。

 無駄に作った王家並の巨大な墓。私が彼女にしてやれるのはもうそれしかない。気づいたことがある。

 自分に死者蘇生の魔術は使えなかったということだ。有り余る魔力を生かして街一つ覆う呪い、結界、治癒術、攻撃魔術なんでもござれだというのにこれだけは使えなかったのだ。いや、死者と生者の境はそれだけ絶対的なものだった、そう言う事なのだろう。

 それとも、彼女が死んだのは私にかかった3つ目の呪いのせいなのだろうか。私が傍にいることで運命が捻じ曲げられて死に至ったというのなら。


 まあ人とは関わらないのが無難か、と思ったものだ。


 だが数百年経つごとにすっかりその事を忘れ、優しさに負け、考えうる限りの防御策を練っても短期間で死に至ることを繰り返した時、初めて俺はこの呪いがどうしようもないものだと気付いた。


 つまるところ俺は永遠にぼっちなのが確定したらしい。


別に霊として降臨して慰めたり生まれ変わって巡り合ったりなどはしません。ここで彼女とはお別れです。

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