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人との触れ合いを求めたこと

 人との会話の仕方をすっかり忘れていた。

 これは駄目だ。

 リハビリに人と話すことを覚えよう。

「破壊と暴虐の神よ! 覚悟!」

 こういう殺し合いではなく、少しは知人、くらいの関係が偶には欲しい。



 20年程世界を放浪した後、旅した中で人がおそらく滅多に来ないだろうと判断した大瀑布に引きこもった。大体数十年に一度、妙に強いオーラを放つ奴が何故かやってきて返り討ちにする、ということが何回も繰り返された。時間感覚はさっぱりだったのでそれを時間の経過の目安にしておよそ20度ほど繰り返した頃、ふと気づいたことがあった。

「こんばんは」

「何言ってたんだい、まだ昼じゃないか」

 引きこもりすぎて話し方、言葉の使い方をすっかり忘れていたのだ。


 だから何百年と引きこもっていた大瀑布から出て最寄りの街へとやってきたのだ。昔のように暴れることはしばらくはやめよう。まず人と話すことを思い出そう。



 街をざっと見れふと違和感を覚えた。あれ? 文明が退化してないか? というのが感想だった。鉄で出来た建築物も狙ってきた人間達との戦闘で万単位で破壊したとはいえあったはずなのになぜか土……ああ煉瓦ってものだったな、というものや、あるいは簡素な木で作られた建築物しか無かったのだ。しかも人の多さ、冒険者組合の看板に書かれたミランド王国首都リラータ本部という文字。つまりこの退化したとしか思えないこれが仮にも一国の首都の文化レベルなのだ。

「おかしいなー」

 そう小声で呟きながらこの数百年で何があったのか調べてみようと、冒険者組合に依頼として尋ねてみたのだ。情報料程度にはなるだろうと貯めていた極小さな宝石を差し出して。

「こ、ここれは!」


「いやはや、まさか金属資源が枯渇したこの世界でまさかそれほどの大きさのフィビーを見かけるとは思いませんでしたよ。遺跡で発見でも」

「あ、はい。そうですね。そうです。遺跡で落ちていたんです」

 どう返していいのかわからないのでおうむ返し状態の俺。

 少々お待ちください、という話の後通された部屋にいた中年親父はまあまあおかけください、といったあと話を切り出してきたのだ。どうしてこんなに大事になっているのか正直分からない。

「どちらの遺跡ですかな」

「あー大瀑布に近い場所にある遺跡というより岩だらけの場所で」

 大瀑布最奥出身です、とは流石にいうわけがない。

「大瀑布! あの破壊と暴虐の魔神ガリナータの住むとされるあの大瀑布に!」

 ガリナータ、他人からそう呼ばれるのは偶にくる妙に強い冒険者達以外では久しぶりだ。正直借り物の力で神、と言われると恥ずかしい。まあ一億殺せば神様さ、なんて言葉もあったかなかったか。

「あ、いえ、運よく魔物に出くわさなかったもので。あそこは非常に強い魔物はいますが数は少ないそうで」

「確かに、ですがガリナータを筆頭に<金色兜>ゲズや積怨竜アドロモス、『亡霊村』など最上位魔物の闊歩する危険地帯。遭遇する確率は確かに低いですがあんな出会ったら即死が見える場所に好んで行く方はいませ…いえ偶にいますね。2,3度行ったら帰ってこないですが、それかあのレンネベルンの挑戦英雄の方達ぐらいですか」

「レンネベルンの挑戦英雄?」

 首をかしげる俺に俺の反応がおかしかったのか向こうの親父も首を傾げ

「おや、ご存じない? 強さでは冒険者最高峰と呼ばれる人材を何度も輩出した非常に有名な方々ですが」

 冒険者最高峰、偶にくる妙に強いオーラを放つ人間……あいつらか。

「はい、正直情報に疎い方なので」

「そうですか。まあ縁の地であるここでの知名度は非常に高いのですが遠方では一般の方にはあまりなじみが無いですからな。遠くから来られたので?」

「南の小さな農村からですね。大瀑布にはここを通りすぎて行き過ぎたようで」

「あぁ、なるほど……レンネベルンの挑戦英雄の話でしたな、説明いりますか?」

「はい。お願いします」

 そうだ、こういう話し方だったはずだ、たぶん致命的な問題は無いはず。

「レンネベルンの挑戦英雄とはあの古に有名な亡霊街キスティア出身だった初代英雄ベルガ・ボロが亡霊街と言われるきっかけとなったキスティアの惨劇の元凶である魔神ガリナータを打倒そうとしたことから始まります」

 キスティア……ふと思い出した顔があった。水をかけられた少年。生き残っただろう少年。そういえばそんなこともあった。あの事は妙に覚えていたのだ。ああ、あいつか。

 つながるように思い出す。大瀑布に籠って数十年訪ねてきた老人を、俺を殺しに来た老人を。母を殺した報いを、と杖をついてそれでも強く杖を突きだした老人の事を思い出した。神の反則能力にその一撃は通らず、神の反則能力に俺の一撃は防ぐことは出来ず、倒れ伏した老人を思い出す。ああ、そうか。そういうことか。老人は何かを悟った様子で妙に笑っていたことを思い出す。

『強い加護を受けし男よ。強き呪いを受けし男よ。お前は永劫を一人でさまようことになるだろう。お前を打ち倒すものは皆無だろう。お前を殺しうるものは皆無だろう。ゆえに死の安らぎを得ることは無いだろう』

 呪いじみた言葉を聞いて、与えられた3つの能力の不明だった3つ目がなんなのか朧げに理解したものだ。ああ、そうか。お前の子孫か。

「キスティアの惨劇、街の住人全員亡くなった酷いものだったらしいですね」

「いえ、生き残ってしまった少年達がいたのですよ。後にキスティアの八悪霊と呼ばれる憎悪を抱いた哀れな少年たちが、まあ二代目英雄マルゴ・ボロにその哀れな物語に終止符を打たれましたがね。初代の思いが、魔神を討とうという思いが子孫まで受け継がれ、後継ぎが出来ると魔神を討ちに行く、そういう習わしになったそうですよ。交わった相手の力を受け継ぎ、その力を増しながらその時々の冒険者最高峰の力を持つ彼らはレンネベルンの挑戦英雄、と呼ばれるようになったそうです」

「そういうことですか……説明ありがとうございます」

 そういうと目の前の親父はいえ、と首を振って

「少しでも多くの人に彼らの事を知ってほしい、という気持ちがあるのですよ。この街で生まれ、育って、冒険者であった私にとってまぎれもなく彼らは英雄なのですから」

 そうか。憧れの、か。

「機会があれば南の方でも彼らの事を話しますよ」

「ありがとうございます」

「話を戻しますがこんな小さな宝石ひとつでどうしてこんな大事に?」

「? 何を言っているんですか?」



 金属資源の枯渇、最初に言っていたようにこの世界では金属資源が枯渇しているらしい。魔神ガリナータとの戦いに神鉄、聖鉄、アドモン鋼などの希少な鉱物を、鉄などの資源を惜しげもなく使い


 その甲斐なく負けたのだ。使った資源は魔神の強大な術に飲まれ消え去り、鉄を使った建造物も8割方消し飛び、資源が各地を放浪する魔神との戦いでこの世界およそ半分は消し飛んだ、とのことだった。

 だましだまし使っていた資材も三百年前に尽き、金属というものが恐ろしく希少になった、という話だった。つまり小銭程度だと思っていたこの程度の大きさの宝石でも恐ろしく貴重だ、とだから冒険者ギルドの幹部クラスが来た、そう言う事だった。



 文明衰退の原因は俺と人間との戦いだったよ。どう反応していいか正直分からない。ああ、数が多くて素手はめんどうだという事で遠慮なく装備ごと魔術で消し飛ばしたからなぁ。


「なんというか……正直貴重だといってもこの程度の大きさでは、という気持ちがありました。やっぱり人との付き合いは大切ですね。正直顔が酷いのであまり人に好かれない性質で話すことも無いので相場などの情報が入らなくて」

「あぁ。いえいえそこまで悪くは無いですよ。卑屈にならずに自信を持ってください」

 フォローだろうというのにそこまでという言葉を使っている時点で察してしまうが……まあ別に敵対しているわけでもないし暴れる必要はないだろう。


「まあ、そういうことなら分かりました。ありがとうございました」

「いえいえ。しかし冒険者になられうつもりはないので? 旅をしているというのなら組合に入られたほうが何かと便利ですよ?」

「いえ、冒険者、という柄ではないと思うのでお誘いは嬉しいのですが」

「いえいえ、ではこの宝石は買取ということで」

「はい、お願いします」

 また拾っていただければ良い値で買い取りますよ、という言葉を最後に俺は冒険者組合から外に出た。



 尾行していた冒険者らしき一味はもちろんお帰り願った。

 街ごと眠りにつかせなかったのはあの少年の、いや老人の血筋がここに残っているからか。

 それは分からないが俺はこの街を灰燼に帰することは無かった。

 まあ後数百年籠れば手配も解けるだろう。人との触れ合いを求めてきたがまあ今回はこんな所で良いか。




エターナルぼっちヒストリーと改題したほうが良いのか。

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