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英雄の原型

前話のエピローグ的なものです

 今なら分かる。

 あの男は俺をある意味では救い、ある意味ではどん底に叩き落としたのだと。

 魔王の上、今は破壊の神と呼ばれるその男はきっと深く考えずにあの大殺戮をやってのけたのだ。

 俺はあの大殺戮での死んだ住民なんて数人を除いてどうでもいい。家族を殺したことだけが、俺は心底許せない。



「何、これ?」

 レンス・リットにはそれが何だかさっぱり分からなかった。あの気持ち悪い男が去って、目の前の幼馴染を嬲るのを再開しようかと、どう嬲ろうか考えていた時に取り巻きの少女の一人が変なにおいがする、と言ったのだ。言われてみて、妙な臭いがするのに気が付いた。鉄臭い、妙な、あれ? これって血の臭いじゃね? 倒れこんだままの幼馴染を見る。生傷にほんの少し血を滲ませてはいるけどそれが臭いの元とは思えなかった。

「なんか、おかしくない? ここ、やばいんじゃ。さっきの奴が何かしたとか」

「に、逃げよう。この臭い変だよ」

「落ち着いて、これは血の臭いだよ。どこからしてるのかはわからな」

 怯える取り巻きの少女二人を諭そうとして、ふと気づいた。ここに血の臭いをさせるものは無い。じゃあ、どこから。どこからその臭いは来てるのか。

 まさか。光の射さない裏道の真ん中から日の射す表へと歩き出して


 臭いがきつくなっていることに気付いた。あれ?


 まさか、そんな馬鹿な。いやいや。ないない。


 あれ?


 血を吐いて皆が倒れていた。見渡す限り何十人、全員が。血を吐いて。ああ、これが原因か、分かってすっきりした。と場違いな安堵をした後に

「いやぁぁ!」

 後ろから女の悲鳴が聞こえた。

「な、な、何だこれぇ!」

「し、し、死んで!?」

「み、みんな!? みんな死んで!?」

「母さんと父さんとミーリャは!? そんなことない! 確かめなきゃ」

 騒ぎまくってはいてもまだこの時は最悪だ、とはレンスは思ってはいなかった。自分の家族は、あるいは友人は大丈夫だと、そう思っていた。



 ふと気づいたら8人集まっていた。幼馴染はここにはいない。街を出て行ったのか。一人で、のうのうと。ふざけるな! と思ったが口には出さなかった。

「出られない……」

「この街の門通ろうとすると、壁みたいなのに当たって出られないの。みんなみんな死んでるのに私たちだけしかいないのに出られないの。いやぁ! こんなところにいるのいやぁ!」

「うるさいだろ! 黙ってろよ! 俺だって泣きたいんだよ! 殴りたくなるから黙ってろ!」

「あんた女の子になんて、ひっ!」

 皆酷い顔をしていた。そりゃそうだ。家族全員死んでいて、しかもこの街から出られない魔法をかけられたんだから。

『この街で、頑張れよ』

 ああ、あれが呪いか。この街でっていうのを強調してて変だと思ったんだ。ああ、呪いか。幼馴染だけは呪い無しか。まああいつも家族は皆殺しにされたみたいだけど。どうせ区別できないで面倒くさがって纏めてみんな殺したんだろう。ふざけるな。

「うっうっ……私たちが何したっていうのよ」

「あいつの機嫌を損ねた。だから殺したんだろ」

「そんなことで……?」

「あいつにとって僕らなんて塵も同然なんだろ」

「ふざけるな! あいつ絶対殺してやる!」

「返り討ちにあってぼこぼこにされるだけさ」

「いつか必ずあいつを殺してやる」

 ああ、殺してやろう。レンス・リットと7人の少年少女は決意して。


 外に出られないまま40年の生涯を終えた。極稀に外から出入りしていた旅人達は憎悪に歪んだ彼らを見てすぐに街を出たという。

 その憎悪に満ちたその町は亡霊街キスティアと呼ばれることになる。その街に終わりを与えたのはただ一人街から出て英雄となった男。その息子だった。破壊の神に挑み、倒れた男の意思を継ぎ旅をし、かつての父の故郷の歪んだあり方に終わりを与えた息子。

 だが彼もまた同じ相手に倒れることになる。

 代々後継ぎが生まれたら破壊の神を探し挑む彼らはレンネベルンの挑戦英雄と呼ばれることになる。


敵は増えても友は無し

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