一人の少年が苛められていたこと
主人公は屑です。しっぺ返しもありません。
森から出てとりあえずは十年程道なき道を歩いていた。数十年に渡る生活は与えられた成長かもしれないが人買いの体力と脚力を俺に与え、何でも中毒を気にせず食べられる悪食は旅する場所を選ばなかった。
ただ、ある時ふと思ったのだ。
「料理が食いたい」
料理の腕を上げようとは思ったのだ。が、レシピも教えを仰ぐ師もいないのに上達するはずもない。戦闘チートは与えられたが生活チートは無かった。つまり本来の才能のみで何とかしないといけないがそんな才能無かった。焼く、焦がす、炙る、煮る。向上しない料理の質。炭もいけるかな、と錯乱した事を思ってしまったとき我に返ったのだ。料理が食べたい。何でも食べられてもやはり地球時代はきちんとしたレトルト料理は食べていたのだ。きちんとした料理だって欲しいに決まっている。人間はいらないが人間が生み出した
文化は欲しい。
森の樹液が結晶化したものを少し売ったら人間の貨幣には詳しくないが足元を見られていてもたぶんそこそこの金にはなったので場末の食堂で質より量と言わんばかりに食べた。緑色の野菜のサラダ。野菜のスープ。ライス。赤色の野菜のサラダ。野菜の炒めもの。
「肉は食べられないのかね? ひょっとしてバハム教の神官さんかね」
「いえ、肉は飽き飽きしていたので。野菜が不足しがちだったんですよ」
「へー」
フードを被った怪しい客など珍しくはないのだろう。ただ野菜ばかり取っていたのがほんの少し興味を引いた、そして食べた量にだいぶ引いた。質問した理由はそんなところだろう。
「ごちそうさまでした」
「はいよ」
気のない返事に見送られながら俺は久しぶりの料理を味わさせてくれた食堂を出た。
「夏に冷たい水浴びれて涼しくていいだろ!」
「レンス君優しい~」
真冬も近いのに夏とか頭は大丈夫か? とか夏場に冷たい水はこの世界でどれだけ高価なのかわかってその戯言なのか、というのがまず裏道を歩いていてその場面に遭遇して思った事だった。いかにも悪ガキそうな少年がいかにも腹は黒そうなそこそこの容姿の少年に水をかけられていた。良く見れば悪ガキの方は生傷が多いように見えた。身分が低いのだろう、と思う。あるいは貧乏か。少年の服は正直ぼろきれと大差ない、いや、襤褸切れにされたのか。
まあ、よくあることか、と通りすぎようとしたのだが腹黒少年の取り巻きだろう7名の少年少女のうち二人の少女がこちらを見て顔を歪めたのだ。
「うわ、きたな。こっち来ないでよ」
小さな声でこちらに向かって言ったのでは無く、独り言のつもりで吐いたのだろうが耳は良いので聞こえてしまったのだ。割と堪え性のないこちらがうっかり言葉を返してしまったのだ。
「雑魚が口を開くなよ」
どうみてもチンピラ、あるいは屑。
うん、まあ数十年生きていようが時間で人格が成長するようなら地球でも人とやっていけていたよな。復讐の神に見初められることも無く一生を終えていただろう。
「は?」
腹黒少年にも聞こえてしまったようだ。こちらを見て不快そうな顔で見た後笑顔を浮かべた。
「あなたは旅の人ですか?」
「お前と同じ猿山の大将はやっていたな。今は旅人で間違ってはいない」
「うわ、気持ち悪い」
いかん、ちょっと物理的に黙らせたくなってきた。この町の自警団が来そうな雰囲気。まあ自警団には今ご退場願おう。
遠距離呪術で特に何事もなく憂いを断った後、この空間を切り取って隔離。もうこの街に生者はこの10人しかいないわけだがどうしたものか。
「お兄さん。友達いなそうだね。気持ち悪い雰囲気溢れ出してるもん。顔隠してるのは気持ち悪さを少しでも減らそうって悲しい努力してるんだね?」
「お、おう。まあこの街には飯を食いに来たわけだしな。そりゃ入口で追い返されたら困るからフード被ったわけだしな。間違っちゃいないな、一応」
ただ、まあ飯を食いたいから一時的にでも入れるようにしたってだけで用が済んだ今はもうこの街はどうでもいいわけだが。だから自警団との戦いとか面倒なので呪術で範囲問わず沈めたわけだが。偶には子供相手に発声練習も良いだろう。正直言葉忘れかけてたしな。
「へぇじゃあもう用が無いんだったら出て行ったら? お呼びじゃないよ? というより空気汚れるから」
まああれだな。割と言葉選ばないよな、こういう時子供って。まあ言われた通り出ていくから問題ないが。
「まあ人間嫌いの俺が長く街に滞在する事も無いし、言う通り出ていくさ。だが、お前ら八人はこの街の中で、これから頑張れよ。まあお互い協力し合わないとな」
「は?」
ふと水をかけられた悪ガキ風の少年を見る。
「なあ、そこの寒そうな少年」
「え、あ?」
「こいつらそんなに強そうに見えるのか? お前が暴れたら蹴散らせる雑魚にしか見えないんだが、どうしてお前はここで黙って水を浴びてるのか正直分からん」
「え、いや」
「こいつ、何言ってんの?」
「やだ、頭おかしいんじゃ」
「力が全てって勘違いしちゃってる頭がかわいそうなおじさんなんでしょ」
「あと、悪いな。とばっちりお前にもいったわ。でもお前は外に出れるから大丈夫だ。これから一人で頑張れ」
「え、えと、おじさん?」
「おう」
「何言ってるか分からねえんだけど」
「少ししたらわかるだろ。悪い! どうも堪え性がさらに無くなってなぁ、反省はそのうちする」
「え、と」
「まあ復讐もありだよ。お前ならな」
街に出た後悲鳴が聞こえた気がするが。正直どうでも良い。