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自分を殺しうる存在を見つけたこと

前話より長いです。

後グダグダ屁理屈をこねています。

 三十を過ぎた勇者が剣を携えやって来てから三百年。

 この文明のレンネベルンで男が来たのは彼だけだった。

 もう万を超える付き合いな気がするが後継ぎを産んだら遅くとも数年もしないうちにやってくるというのはやめるべきだと思う。

 やはり物心つくまでは母親はいるべきだと個人的には思うのだ。

 腑抜けたこと言いやがってと地球時代の自分は言うだろうが気力が無いのだから仕方ない。



「旧き破壊の神よ、レンネベルン家、メリクリアが」

「待て。その前にお前の腰にしがみついている娘を引きはがしてから口上は述べるべきではないか?」

「……これは」

「そもそもここにまだ5つにもならない子を連れてくるのは感心しないな」

「怨敵の癖に正論を述べよって」

 気になるものは仕方ない。

 大湿地を挟んで奥にある現在の人類はまだ踏み入れない、『大災害』の中心地に当たり前のように入ってきたレンネベルンに一人おまけがくっついていた。



「そもそもどうしてここまで連れて来たのか」

「引き離しはしたのだ。だが、撒いても撒いてもいつの間にかくっついているのだ」

 ほう、と短くつぶやきながらくっつく子供を見る。勇者と交じった後時々混じるようになった艶のある黒髪に母親の目を受け継いだのか紅色の瞳。目鼻立ちはどちらかというと日本人を思い出させる、というより朧げな記憶だが目の色以外はあの勇者を幼くしたような容姿だった。


 後特筆すべきことと言えば魔力量が非常に多いことだろう。すぐ傍で立っている母親より一回り多い。おそらく転移術を使っているのだろう。撒かれるたびに母親の元に転移していると思われる。

 まだ見た目だけは5歳にもならないのにこれは凄い。

 ……予想がついた。転移者である私。召喚者であるクレナイ、ならばいてもおかしくはない。



 転生者が。

 目が、幼子のそれではなかった。この世界の神はあの復讐の神ただ一人。私を見るのも飽きて、お役目交代か。

 と、思ったのだが。


 思ったより強くは無かった。幼子は身体がか弱いのでデコピン一発お見舞いして終わりにしておいた。

「その子は私の跡を継ぎレンネベルンとなるもの! いなくなれば本家の血が絶えてしまう!」

「レンネベルンは多くいるのではないか?」

「本家は一子相伝だ! 一人に必ず子は一人だけ。レンネベルン本家となったグリゴナ一族を他の一族に本家の座を奪われてはならぬのだ」


 長い付き合いだった気がするが、そういえば戦いはすれども長く話した、という事は勇者と前文明の初代以外無かった気がする。

 今になって初めてレンネベルンの事を聞いたというのは遅かったのか。


 とりあえず親子ともども大まかに治療した後、話をこの機会だからと聞いてみる。

 纏めると、本家というのは数多いるレンネベルン一族の中でレンネベルンに与えられる巨大な力を引き継ぐ一族のことをいうらしい。本家本家といっているから分家もいるのだろうな、くらいの認識しか持っていなかったが今はじめて意味を理解したのだ。

 何らかの事故で血筋が絶えた場合別の一族、その一人に力は引き継がれるらしい。不思議なことに力を引き継ぎ本家となると決まって同じ一族の他の者は子が成せなくなり、必ず本家には後継ぎは常に一人、という状態になるのだとか。あの神の戯れの一つだろうか、それとも私の知らない何者かか。


 それともあの初代のある意味狂人じみた意思のたまものか。


 本家となることはレンネベルンにとってこれ以上ない栄誉なことで、破壊の神を打倒したときそれは一族の悲願の達成、あるいはレンネベルンがこの世で最も強いということを世界に示す証になるのだ、とも言っていた。初代の目的はどこにも見当たらない。初代の意思は関係ないかもしれない。


 この機会だったのでふと疑問に思っていたことを聞いてみる。

「どうして群れを率いてやってこない? お前達は必ず一人でしか来ないのがいつも不思議に思っていたのだ」

「単純な理由が二つだ。力を継承したレンネベルン以外の者を連れてきてもお前相手では一振りで薙ぎ払われる雑魚にすぎんというのが一つ」

 正直な話、能力が会うごとに上がっていく、と言ってもレンネベルンでも一振りで大抵片がつくのだが、とは今言うべきではないのだろう。

「お前が考え付くのだ。何代か前にもう実行したものも何人かはいた。結果お前の元に行く前に力は別の一族に移動してしまった。レンネベルンの力は一人で相対するための力。そう悟った後は一人で向かうことが絶対となったのだ」

 偶に力を移そうと本家になろうとわざと旅立ちの後に連れとして割り込む愚か者もいたようだがな、口を釣り上げて嘲笑するレンネベルンの女にそうか、と短く答えた。


 正直意味が分からない。この力は孤独と引き換えにこの世界の誰が相手でも負けることは無い。ただでさえ借り物とは最強に近い自分にわざわざ一人でのこのこ挑めとはレンネベルンの力とやらが何を考えているのかわからない。頭の出来が左右する情報採取の魔術は使えない私にとってレンネベルンの力の仕組みは解明するのは難しい。見た感じ宿っている力に意思はなさそうだが……ためしに力を奪ってみる。


「っ!?」

 特に問題は無い。奪った力が反発している様子もなく、ただただ自分の物になっただけだ。力に何か意思などが宿っている様子は無い。というよりそんなものがあったら今の今まで気づかないわけがない。

「何をした!」

「その力とやらがどういうものか興味がわいたのでな。奪ってみたのだ」

「は!?」

「力自体に何か意思か何かが宿っている様子は無い。つまり誰かが、おそらくはこの世界の神がレンネベルン一族にある一定の法則に基づいて力を与えている、というのが正しいな」

「私の、力」

「私が言えたことではないが所詮借り物にすぎんよ。それはお前自身の力ではない。レンネベルンの継承される力とやらが無くなってお前に残る物。 それがお前自身の力だ」

 正直な話。本当に私が言えたことではない。言った後でもう遅いがだいぶ恥ずかしい。

「そんなものなどない。私は、母様がお前に挑み、死んで、力を受け継いだ時からずっと力とともにあったのだ。力を以って剣を振り、弱者を救い、男を見つけ、子を産み、そしてここに来たのだ。レンネベルンの力は、私の誇りでもあったのだ」

 地に手をつき俯きながら、少し震えて小さな声でそう言った。大人の目をしていたはずの傍に立つ幼児はそれでも血のつながった親の姿が響いたのか、じっとただ母親を見つめていた。

「お前は今自分の力を一つ挙げたな。剣を振ったといったではないか。その剣の腕はレンネベルンによって与えられた技なのか?」

「……そんなわけはない。剣の腕は力に関係なく私が磨き上げた私だけの力だ。だがレンネベルンの力に比べれば取るに足らない力でしかない……力を受け継いだ時、そう悟ったよ」

「だが、力は盗めても、剣の腕は盗めんさ。お前が磨き上げた剣の腕は、お前を裏切らずにお前の中に残った」


「かかってこい。お前の今持つ力を見せてみろ」



 自暴自棄も多分に含まれていたのは間違いない。だが、どこかすっきりした様子でレンネベルンの女は立ち上がった。

「言われなくてももう私には剣しか残っていない」

 合図などなかった。ただ早く、それでも力を持っていた先代よりは遅く、本人の気性を表すように一直線にこちらに駆けて来た。

「遅い!」

 全く誇れたことではないがそれでもわざと速度を合わせるなんてレンネベルンを侮辱するようなことなど出来るわけがない。自分の持つ最大限の身体能力で突き進む女を全力を以って左に避ける。少し刃が掠ったがあらゆるものは私を傷つけることは出来ないから問題ない。通りすぎようとした女の腹の前に右拳を置いた。

 攻撃を防ぐことが出来ず、成す術なく女は倒れた。


「お前は資格を失った。故に殺す道理も無い。帰ってそこの時代を育て、娘に全てを託せ」

「ふざけるな」

「子の前で親を殺すのも後味が悪い。最近は私もそう思うまでに腑抜けただけだ。去れ。去らねば殺すがそれはただ無意味に命を落とすという結果になるがな」

「っ!」

 歯ぎしりが聞こえてきそうなほどだった。だが、女はこちらに向かってもう刃を向けようとはしなかった。帰るぞ、と幼児に告げたあと

「私は負けただろう。だが、レンネベルンの力は世代を重ねるごとにその力を増しているのだ。この子が負けてもそのまた娘が、その娘が負けてもまたその子が……続いたその先で必ずお前を超える力を持つことになるだろう」

「はっ、借り物の力頼みか。哀れなものだな」

「だが、お前に薄くだが一太刀与えたぞ? 案外早く、お前はその傲慢に終止符をうつかもしれないな。ははっ!」

「なっ!?」

 腕に傷が、ある? そんな馬鹿な。これは、まさか本当に……レンネベルンが…いや。それなら最初に、力を奪う前にもっと傷を負っていないとおかしい。最初は全く問題なかった。ではどうしてだ? 幼児を見る。嫌味な笑みは浮かべているがこちらが何かした様子は無い。何が原因だ? レンネベルンの力とやらを失う前と後で何かあの女に違いが……ん?



 ふと思った事があった。力を失う前と後で変化と言ったがあるじゃないか変化が。そのままずばり言っている。レンネベルンの力の有無だと。


 外れている可能性がある。もしかしたらレンネベルンの力を取り込んだことで能力が弱体化した、という可能性もある。だが、私はあの意地の悪そうな復讐の神の不快な笑いが見えた気がした。

 あの神はそんな意地の悪い仕掛けをしても全くおかしくない。


 レンネベルンの力を継承したものがその継承した力を捨て、おのれの力だけを持って私に刃を突き立てたときのみ攻撃が通る仕組みではないか、と。


「そうかもしれないな。レンネベルンの女よ。一つ言っておこう。その神様頼りの力より人間の力を見せろ、と」

「怖気づいたか、与えられた物だろうとお前にいずれ届くと分かっているのに力を捨てるなどありえん」

 そう言って、女は去って行った。幼児もこちらをちらりと見た後去って行った。





 不思議な事にあの後きた次の代の女は母親についてきた幼児の成長した姿ではなかった。あいつはどうした、と聞いたらあの女は力に選ばれなかったのだ、という答えが返ってきた。本家でありながら力を受け継げなかったあの幼児はレンネベルンに居場所がなくなり出奔したらしい。

 そうか、と聞きたいことは聞けたので後はいつも通りだった。


 いつも通り何の問題も無かった。




 そうか。そういうことか。確かに長い因縁を持つレンネベルンは私をただ一人滅ぼしうる存在だ。

 資格を持つ者が与えられた大きな力を捨て、おのれ自身の力でもって私に刃を突き立てればその攻撃は私に届くのだ。

 ふん……意地の悪いことを。

 死ぬのが怖いわけでも無いし生きるのが飽きた、というわけもない。自殺願望はないので、わざわざ私の弱点はこれですよ、と答えを教えてやる道理はない。だが自分で気づいたなら戦いの末に負けたのなら、死ぬのもありか、とも思う。

 レンネベルン。力を増そうが私の魔力に追いつこうが、それに意味はない。

 だがきっと世代を経るごとに増える力。力を増すそれをわざわざ捨てようなんて考えすらしないだろう。


 破壊神の私を倒すといったな。

 お前達のいるこの世界の神はお前達が思っている以上に意地が悪いぞ。

 気づくのに何年かかるのか、見物だな。



 この文明のレンネベルンは最後までそれに気づくことなく、2000年で人類ほぼ滅亡による文明崩壊という形で終わりを迎えた。最後は山を割り、空を舞う、そんな人外に成り果てていたのに殆どがただの一撃で終わったのだ。能力を破ろうとしたものはいた。だが神様の与えたこの力は人間如きには破れなかった。たぶん破れることは無いのだろう。手順を踏まなければ。


召喚文明時代は幕を下ろす。彼らの遺産の極一部が残り、取り寄せられた金属など多くの資源をこの世界に残したのがこの召喚文明の今にまで残る痕跡だ。

最強とあらすじに書いてあるのに弱点があるという。とはいえエピローグまでたぶん無双です。

簡単に弱点を表現した場合

進化する力なんて捨てて素手でかかって来いよ!

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