十数度森の中で邂逅しただけなのに通報されたこと
考えていた物語が(脳内で)行き詰まったので何も考えずに軽い設定すら殆ど無しで書いた作品です。いつ終わっても良いように一話完結で。エタってもこちらはどこで終わっても問題ないです。
自慢でも何でもなく女とまともに話した覚えが無い。
地球でもこの世界でも歩くだけで女は走って逃げたし、良い目で見られた覚えもない。仕事も地球では継続的に同じ所で働く、という事は無かったし、人様に自慢できることでもない。こちらでは山で動物を狩って山菜を採って喰う原始人ライフだ。
つまり全くの屑の俺なわけだが、人間嫌いな自分なので正直な話大してそれらの評価を気にした覚えは無かった。
だが、そんな酷い容貌の俺だが、迷い込んだ異世界において本当に感謝しているのだ。
「女を襲った? 自慢じゃないが半径5メルトルまで近づけるような容姿に見えるか? そして全く自慢じゃないが生まれてきて30年。今まで女を抱けたことなんて一度もないな。 神に誓って言おう。俺は童貞だ。神が降臨されたなら証明してくださるだろう。童貞だ、と」
逆の意味での説得力で俺は魔女狩りめいたそれを回避することが出来た。異端審問官の奴は俺の肩をぽんぽんと叩き大丈夫、一生のうちに一度くらいは女を抱けるときが来るさ、と慰めめいた言葉をかけて去って行った。人に好かれる気がしないから人と関わらず森に籠って生涯を終えるつもりだから女を襲うことも無い、というとお、おうとドン引きした様子で会話が途切れたのも覚えている。
この世界、いや現在俺が住んでいるバルクロア大陸はバハム教の人間が強い、という特徴がある。正確にいうなら神官以上の人間の権力が強い、だ。デブったお偉いさんの爺さんがげへへと言いながら若い女を侍らせている絵面を想像すれば早い。つまりバハム教の上位層が国々の上に立ちこの大陸を支配しているのだ。
異端狩り、という言葉がある。地球の魔女狩りと違い魔女を選別などするわけじゃない。名目はバハム教以外の神を信仰する異教徒を排除する、などという名目があったがそんなもの十数年前に形骸化し、公的には認められてはいないが暗黙の了解で他宗教も認められてはいるのだ。
異端狩りの現在の役割は何か。
それは見目麗しい女を確保、あるいはそれと関係を持った男を処分するバハム教高官のための制度になっている。
「ちょっ、やめて、私被害者だから。あいつに私襲われて」
「お前のいう事よりあいつの言う事に説得力が圧倒的にあった。悲しい意味で同じ男としてあいつの言う事はこれ以上ないほどの説得力を持っていたよ。それにお前は自分で触込んだように見目麗しい。その容姿できっと何人もの男を堕落させただろう。バハム教がお前を責任を持って正しい道へと導いてやろう」
というやり取りの後どこかへと俺を訴えた割と美人だった女は連れて行かれた。おそらく神官共の性奴隷にされたんだろう。俺は彼らが帰った後女に同調して俺を排除しようとしただろう村人達に森に入ることを禁ずると物理的に説得した後森に引きこもった。まあもう俺に害のあることは無いだろう。旅人が村に誰もいないことを不思議に思わないことを祈るしかない。立札に旧フラメ村跡地、と書いておいたのが功を奏することを期待したい。